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特集:非線形動的構造・流体解析コードRADIOSS [衝撃解析の最近の話題]
田井秀人(メカログ ジャパン 株式会社)
1.はじめに
RADIOSSはフランスMECALOG社で開発されている、時間積分に陽解法を用いた有限要素法(一部流体計算は有限体積法)構造・流体シミュレーションプログラムである。工業用としては1998年に最初のバージョンがリリースされ、その後、数々の機能拡張を行い、2000年9月現在の最新バージョンは4.1である。
最も多く使用されている分野の一つが自動車の衝突安全解析分野である。解析レベルとしても最上位にあると言え、数十のCPUを持つスーパーコンピュータからワークステーションまで、様々な形態で利用されている。RADIOSSは、アッセンブリーメーカーだけでも世界で十数社を超えるユーザーを有している。自動車以外では、原子力、化学、精密電子機器、スポーツ分野で、さまざまな衝撃問題に適用されている。
自動車における安全性能は、最も重要な設計案件の一つであり、実験の試作車台数を減らすこと、および設計期間を短縮すること、といった面で衝突安全解析は最も成功したCAE分野の一つと言われている。また、各国(欧州や米国など)でさまざま異なる衝突実験規格や各社独自の安全規格が存在するため、一台の車の設計で最終的に評価が必要な衝突条件は数十になり、そのすべてを実験で評価し設計改善していくことは設計リードタイムの面から言っても、事実上不可能に近く、コンピューターシミュレーションが必要不可欠な設計手法となっている。近年では、ユーザー層も、CAEの専門家から、設計者に急速に広がっている。そのような品質要件に従って、1999年には、フランス開発部門が品質保証に関してIS09001を取得している。
ここでは、最近の自動車衝突安全解析を中心とした衝撃解析の動向や事例と、それらに対応したRADIOSSの開発状況を紹介し、その後で、特に設計者を対象とした最新のデータ生成をサポートするグラフィックスツールを紹介する。
2.陽解法の特質とRADIOSSの特徴
陽解法は、本質的には対象物の中の衝撃波の伝播の問題(過渡応答)を解いている。時間ゼロから時間ステップを刻んで過渡応答解析を解いていくわけだが、その時間ステップはクーランの安定条件と呼ばれる、要素寸法をその材料の衝撃波伝播速度で割ったもの、が最大値となる。自動車の解析では、現在、最小要素寸法が6~8mmであり、材料が鉄の場合、時間ステップは、1.0μ秒前後となる。これを現象時間(0.1秒程度)に対して適用するため、総ステップ数は、10万を超えることになる。しかし、各ステップでの変動は、相対的に微小であり、材料塑性や接触といった強度の非線形問題を簡単に解くことが出来る、また個々のステップは、内力から節点加速度をベクトル演算で求めるだけなため計算量は少なく、大きなメモリー空間も必要としない(10万要素モデルで100~200MB)。そのような特徴から、最近では過渡応答問題に限らず、静的な問題でも座屈や塑性加工などの非線形問題に用いられている。
クーラントの安定条件はモデル全体に適用され、自動的に最小時間ステップは計算される。RADIOSSでは、この制御を接触問題などさまざまなオプションを合わせて、統一的に簡単に制御するための独自の“節点時間ステップ法”が実装されている。これは個々の節点に結合されている有限要素等から剛性項を計算し、あたかも一つのバネ剛性として、その節点質量から時間ステップを決める方法で、解析中の要素つぶれなどによる変化に対する制御(最小時間ステップを保持するための自動マススケーリング等)を行うことができ、ユーザーの負担を大幅に軽減している。接触問題が、最も難しいものの一つであるがこれもペナルティ法でペナルティバネ特性を動的に変化調整する機能を有しており、ほとんどのケースでユーザーは、条件を意識する必要がない。このように、入力レベルで、結果を得るための操作を極力無くすことを開発の最も重要点としている。
3.最近の自動車衝突安全解析と機能開発
最近の傾向を箇条書きにすると
・より詳細なモデル化
・精度の向上
・ロバスト性
・CADとの連携とデータハンドリングの革新
・使用の簡単化
など、が挙げられる。以下それらをいくつかの例とともに紹介する。
ハードウェアの性能向上と精度の要求から、重要部品は要素寸法で6~8mmで分割され、ほとんどの部品を省略せずに有限要素モデル化する(省略にするには、適切な簡略モデルが必要で技術的難易度はむしろ高い、もしくはそういったことが極めて困難)ため、一台で、150,000~200,000要素となっている。大きな車が小さな車と衝突した場合(極端な例がトラックと乗用車)に、小さな車に過度の損傷を与えない、といったコンパティビリティ要件も重要性を増してきていて、このような解析では総計400,000要素となる。このような大規模モデルでは、スーパーコンピュータを使用しても並列処理は不可欠である。RADIOSSでは、その並列性能の高さ・安定性とともにCPUの数に依らず解が一致する機能(共有メモリーおよび分散メモリータイプの両方)が高く評価されている。ハードウェアのトップエンドのピーク性能改善は若干停滞気味で、今後、大規模問題には並列計算は不可欠になると思われる。また、最適設計などパラメタースタディでは、解の信頼性は、ますます重要になると思われる。
要素分割が、今後、さらに細かくなっていくかどうか予測が難しいが、今日のモデルでも、数年前には難しかったさまざまな現象のモデル化が行われるようになってきている。例えばダミーや内装材などの、フォーム、プラスティック、ゴムといった粘弾性特性も持つ材料や亀裂破壊するものシミュレーションなどである。安全設計の最終目標は人体の保護であり、より高い精度を求めて、有限要素モデルダミーが開発されている。ダミーのセッティングやエアーバッグの折畳みプログラム等も最新の研究開発成果で提供されている。
図1 有限要素ダミーモデル
自動車はモノコックボディをスポット溶接で結合して全体が構成される。個々のパーツをCADデータから、自動的にメッシュ分割される技術も相当進んでいる。それら個別のパーツを結合するためにスポット溶接モデルが重要になってきている。スポット点の位置に囚われずメッシュ分割をし、それを定められたスポット位置結合していく方法である。これは、要素分割の自由度をあげるだけはなく、節点を直接結んだモデル化に比べて数値解析の安定性と精度を上げる効果も持っている。スポット点は数千点になるため、これらのデータの自動発生および修整プログラムも重要である。この手法は、精密機器などの各種接合をモデル化するためにも有効である。
図2 スポット溶接モデル
従来は、計算効率を追求して、低減積分要素のみが用いられてきたが、このシェルは弾性領域と捩じれ問題での精度が良好ではなく、またアワーグラスという数値解析上の問題もあることが知られている。エアーバッグセンサーや精密機器など、加速度レベルで、より精度の高い解析が求められてきているため、これらの欠点を解消した、QPPSシェルと呼ばれるものが開発され提供されている。下図は捩じれのベンチマーク問題で、
図3 捩じれ問題テスト
Q4γ24が4節点積分要素、Quad4が従来シェル要素である。この新しいシェル要素は弾性域での精度の向上とアワーグラスエネルギー(数値誤差)の除去で、今後の発展が期待されている。
CADの3次元サーフェースデータから作成されたメッシュの、部品の干渉接触の取り扱いも重要である。一般にサーフェースは板の表面(上下いずれか)でデータを持つため、そこで生成されたシェル要素は初期の段階で干渉接触することになり、中立面に移行させておくことが重要である。衝突解析では、非常に複雑な接触問題を解く必要があるが、板厚の異なるパーツの接触判定とエッジ接触と呼ばれる形態の接触も非常に重要になってきている。これらをすべて含めて、ほぼモデル全域を接触判定させて、その計算量の増加は50~100%程度に抑えることができるまで機能・性能は強化されている。
図4 接触問題
衝突条件の中で、側面やオフセット衝突では車体剛性を模擬したアルミハニカムなどで構成されるバリアに車体を衝突させ安全性を検証する。このバリアはいわゆるソリッド要素でモデル化されるが主として圧縮変形となるため、通常のアルゴリズムでは要素の圧縮変形に伴い時間ステップが無限小になってしまう、あるいは要素体積が瞬間的に負になり計算の続行が不可能になる。これを避けるために小ひずみオプションと呼ばれる手法が開発され、非常にロバスト性の高い解析が可能になっている。
図5 側面衝突用バリアの変形図
最適設計に関しては、まだ研究段階と言え、様々な手法が提案試行されている。問題は強度の非線形問題ゆえ、感度を正しく求めるのが困難という点にあり、極値の判断も困難である。また、微小な変更が大きな影響を持つ場合(分岐問題など)が少なからずあることにも留意する必要がある。RADIOSSでは、ソルバー内部に方程式微分の形で感度を求める機能がすでに開発されており、これと最適設計アルゴリズムプログラムとのリンクシステムが開発されている。
4.新入力データ作成サポートシステム
これは、10数年に渡るRADIOSSの開発サポートでの衝突解析ノウハウを組み込み、迅速にデータ作成すること、かつ、人的ミスを排除することを目的としたグラフィック・システムである。衝突解析の専門的な知識を有していなくても適切なデータを作成できることを主眼としている。主な機能は、
(1)CADデータとリンク
適切な材料、特性がデータベースより自動的に設定され、また確認・修整が簡単に出来る。
(2)データのチェックおよび修整機能
衝突形態にしたがって定められた領域毎に必要な要素分割が適切になされているか(例えば、正面衝突の場合、前面部は要素サイズが8mm以下かどうか)、要素形状ゆがみ等は規定値以下かどうか、を判定し表示、必要があれば修整する。
(3)初期交切と初期貫通の自動補正
所期状態での交切や貫通を修整することは、詳細なモデルあればあるほど、精度上、重要である。これらを感知し表示、自動および手動で修正する機能を有している。
(4)システムの組み合わせと重量分布チェック
パートのスポット溶接による結合や、エンジン、サスペンションといった機能システム品のFEMモデルをデータベースから抽出し組み合わせ、重量分布を確認し、最終的なデータを生成する。
このシステムにより、従来経験者が1?2週間かかっていた作業が数日に短縮することができる。