部門紹介
97期 部門長挨拶
第97期部門長 |
この度、越塚誠一前部門長(東京大学)の後を引き継ぎ、第97期計算力学部門長を務めさせていただきます。高木周副部門長(東京大学)、白崎実幹事(横浜国立大学)、只野裕一副幹事(佐賀大学)、部門運営委員会委員、各種委員会や研究会の皆様をはじめ、関係する全ての皆様のお力添えのもとに、計算力学部門の円滑な運営とさらなる発展に努めて まいりたいと思います。
計算力学部門は、設立後30年を超えましたが、固体力学や流体力学などの基盤的分野を骨格として、工学から理学にまたがる他分野との横の連携が図られている理想的な活動部門として益々発展しております。計算というキーワードのもとに、多様な専門分野の人たちが集まり、新しい問題・計算法・技術を創出するメルティング・スポットとしての役割は今後も一層重要となるでしょう。電子計算機の発明を転機に高度な数値計算手法の発展が開始し、ハードウェアとしての計算機の高速化、大容量化、ソフトウェアとしてのオペレーティングシステムやプログラミング言語の高度化の相互作用が、計算技術の発展を加速してきました。最近は、比較的安価でGPUを搭載した高性能な計算機が大量に出回るようになり、私が大学院生の頃ブームとなっていたニューラルネットワークが最新のハードウェアと高度に発達したソフトウェア、高性能の周辺機器と組み合わされることにより、大量のデータを学習し、大量のデータから瞬時に回答を導き出す技術として実用の域に達しています。計算機の役割が益々人間の脳に近くなるのと同時に、データの処理速度とその量は人間がまったく太刀打ちできないレベルとなっています。計算機の役割がこのように高度なものになっていく状況の中で、計算力学が計算機関連技術の中で相対的に小さな領域とならないようにしたいものです。
私が計算力学と関わったのは、境界要素法という支配微分方程式から導出される境界積分方程式の数値解析法に取り組んでいたのがきっかけでした。当初はこの方法を破壊力学における応力拡大係数の計算などに用いていたのですが、次第に形状感度解析、不均質媒体、音響、熱伝導、異方性、圧電材料などの境界要素法による解析に対象を広げていきました。その後、境界要素法の高速化の研究の進展により、形状最適化やトポロジー最適化への有効性に着目し、特に境界要素法が得意とする波動に関連した問題のトポロジー最適化法の確立と応用に取り組んでいます。波動問題のトポロジー最適化の過程では、解析対象の形状の変化に合わせて連立方程式を繰り返し解く必要があります。連立方程式は、大抵は反復法で解くのですが、深層学習の最近の応用に触発されて、求解に必要な反復回数を解析対象の形状から学習させ、見積もってみたりしています。波動問題は弾性波動、音響、電磁波と物理現象は多岐にわたり、応用物理学、数学を専門とする方々との連携を必要としますので、私にとって計算力学部門はまさに最適な活動の舞台となっています。計算力学部門で活動していらっしゃる方は、大なり小なり他分野の方々との交流を通じて刺激を得て、ご自身の研究を発展させておられることと思います。そのためにも、例えば計算力学講演会では新しいOSをご提案いただいたり、ご専門の研究テーマから離れた内容のOSにも積極的にご参加いただくことなどを通して、本部門からの新たな技術的課題、研究テーマ、学問領域等の創出につなげていただければと思います。
さて、日本機械学会員の計算力学部門への部門登録者数は、2018年11月の時点で第1位〜5位の合計で5,939名(正員)です。これは日本機械学会の23部門の中では第3位の規模になります。この人数はこれまでは着実に増加していましたが、ここ数年はわずかながら減少に転じております。
部門講演会である計算力学講演会では例年多くの研究発表があり、活発な活動が続いています。2018年は第31回計算力学講演会として、実行委員長で徳島大学の大石篤哉先生をはじめとする多くの実行委員の方のお力により、11月23〜25日に徳島大学常三島キャンパスで開催されました。本公演会は特別講演2件、フォーラム3件、チュートリアル1件、オーガナイズドセッション(OS)26件、一般セッション、ポスター発表からなる充実した内容で、発表件数はフォーラム、OS、一般セッション、ポスター発表を合わせると330件、参加者は509名となりました。OSでは、従来から継続的に編成されている基盤的な研究テーマ、産業界との連携に加えて、深層学習、ペリダイナミクスなど新しい取り組みが紹介され、また応用物理学との連携など計算力学部門らしい横の広がりを持ったセッションなど多彩なテーマが議論されました。
2019年の第32回計算力学講演会は実行委員長として東洋大学の田村善昭先生をはじめとした実行委員会の方々のお力により、9月16〜18日に東洋大学川越キャンパス(埼玉県川越市)で開催されます。多くの方に奮ってご参加くださいますようお願いします。
算力学部門ではまた、現在5つの研究会(逆問題解析手法研究会、マルチスケール計算固体力学研究会、電磁流体解析関連技術研究会、設計情報駆動研究会、設計に活かすデータ同化研究会)が登録され、研究活動が行われています。
以上の研究活動の成果は、是非とも日本機械学会の英文誌Mechanical Engineering Journalの計算力学(CM)のカテゴリーで投稿していただき、本ジャーナルの地位の向上へのご協力をお願いしたいと思います。
計算力学部門ではさらに、部門賞(業績賞、功績賞)の表彰、日本機械学会フェロー、学会賞(論文)候補者、文部科学大臣表彰「若手科学者賞」の学会本部への推薦も行っています。これらの募集に関する情報は、日本機械学会のインフォメーションメールでもタイムリーに提供されますので、計算力学部門からのインフォメーションメルの受信を有効にしておいていただければと思います。
皆様にとりまして、計算力学部門での活動がより多様で深い情報交換に資するものとなるように努力したいと思いますので、ご支援を賜りますようよろしくお願い申し上げます。