部門紹介
96期 部門長挨拶
第96期部門長 |
この度、青木尊之前部門長(東京工業大学)の後を引き継ぎ、第96期計算力学部門長を務めさせていただきます。松本敏郎副部門長(名古屋大学)、高橋昭如幹事(東京理科大学)、白崎実副幹事(横浜国立大学)、部門運営委員会委員、各種委員会や研究会の方々をはじめ、部門に関係する全ての皆様とともに、部門の円滑な運営とさらなる発展に努めてまいりたいと思います。
日本機械学会員の計算力学部門への部門登録者数は、2017年11月の時点で第1位~5位の合計で5,939名(正員)です。これは日本機械学会の23部門の中では第3位の規模になります。しかしながら、これまでは着実に人数が増えていたものが、ここ数年はわずかながら減少に転じております。
部門講演会である計算力学講演会では例年多くの研究発表があり、活発な活動が続いています。2017年は第30回計算力学講演会として、9月16~18日に近畿大学東大阪キャンパスにおいて開催されました。第30回記念座談会、2件の特別講演、3件のフォーラム、チュートリアル、25件のオーガナイズドセッション(OS)、一般セッション、ポスター発表といった充実した内容で、発表件数はフォーラム、OS、一般セッション、ポスター発表を合わせると350を超えています。OSには、継続的に研究が行われているテーマから、学術の新たな潮流として新しく立てられたテーマや、産業界のテーマなど多彩であり、計算力学の活力と広がりが感じられます。優秀と評価された講演には、優秀講演賞などの賞が授与されます。わが国における計算力学の急速な発展は、30年前に設立された計算力学部門とその部門講演会が大きく貢献しています。第30回記念座談会では計算力学部門の設立に関わられた先生方の貴重なお話をおうかがいすることができました(CMD Newsletter No.58参照)。実行委員会委員長を務められた近畿大学の和田義孝先生をはじめとする実行委員会の方々のご努力があってのことと思います。
第31回計算力学講演会は2018年11月23~25日に徳島大学常三島キャンパスで開催されます。実行委員会委員長は徳島大学の大石篤哉先生です。計算力学の研究に取り組んでいる日本機械学会の会員をはじめ多くの方々にご参加くださいますようお願いいたします。また、計算力学部門としては日本機械学会年次大会においても企画を出しており、本年度は9月9~12日に関西大学で開催されます。
現在、計算力学部門では5つの研究会(逆問題解析手法研究会、マルチスケール計算固体力学研究会、電磁流体解析関連技術研究会、設計情報駆動研究会、設計に活かすデータ同化研究会)が活動しております。今年度は昨年度に引き続き研究会活動の活性化を進めていきたいと考えております。
日本機械学会の学術誌の編集に対して計算力学部門からも委員を出しています。学術誌は現在4種類(英文レビュー誌(Mechanical Engineering Reviews)、和文誌(日本機械学会論文集/Transactions of the JSME)、英文誌(Mechanical Engineering Journal)、英文速報誌(Mechanical Engineering Letters))あり、これらの編集に貢献しています。学術誌では機械工学の全分野をカバーする12のカテゴリーが用意されていて、その中の1つに「計算力学」があります。論文の執筆者は投稿時にカテゴリーを選択すると、そのカテゴリーで査読が行われるという手順になっています。
計算力学部門の広報委員会ではニュースレターの編集をおこなっており、計算力学に関するトピックスや部門の情報を発信しています。表彰委員会では部門賞(功績賞、業績賞)だけでなく、日本機械学会の学会賞の推薦も行っています。そして、計算力学部門の運営全般は、多くの運営委員会委員および総務委員会委員の方々に支えていただいております。
私と日本機械学会計算力学部門との関わりとしては、最初のものが1992年11月に東京において開催された第5回計算力学講演会での発表です。「k-e モデルを用いた超臨界圧水の熱流動数値解析」の筆頭著者として口頭発表しております。超臨界圧水では気相と液相の明確な境界がありません。ただし、沸点のなごりとも言える擬臨界温度付近においては、特定の条件下で伝熱劣化現象が生じます。これを沸騰遷移現象のなごりと捉える説と、単相乱流として説明できるという説があります。この研究では低レイノルズ数型k-e モデルを用いて計算することによって伝熱劣化現象を再現できるという結果が得られ、単相乱流の説を支持するものです。超臨界圧水の伝熱は、超臨界圧水冷却原子炉の設計や超臨界圧火力に関わる熱流動として研究が続けられています。その後も計算力学講演会では粒子法などの計算力学に関する自らの研究を継続的に発表させていただきました。また、他の研究者の発表を聞いたり、議論したりすることで、常に刺激を受けてきました。
2005年に開催された第18回計算力学講演会では、コンピュータグラフィックス(CG)によるシミュレーション結果の可視化に関するコンテスト(ビジュアリゼーションコンテスト)の運営を担当しました。その当時、コンテストの応募が発表実績の1件となるようにすれば、応募者にとってコンテストに参加することも口頭発表と同様の実績となって、企画が継続しやすくなるかなと考えておりました。CGアートがご専門の河口洋一郎先生にも計算力学講演会にお招きしご講演いただきました。私自身は2004年に東京大学工学系研究科システム量子工学専攻の教授になり、新しい研究室を立ち上げるにあたって、シミュレーションとコンピュータグラフィックスを融合する物理ベースCGを研究室のアイデンティティにしようと頑張っている時でした。シミュレーションに基づいた物理的に正しい計算結果をもとにリアリスティックな映像を作ることで、映像製作、ゲーム、仮想外科手術などにシミュレーション技術の応用範囲を広げることを目指したものです。特に、1993年頃から研究していた粒子法は自由表面の激しい運動を計算することが得意であり、物理ベースCGに適したシミュレーション手法であることから、自分の研究の自然な発展であるとも考えておりました。計算力学講演会のビジュアリゼーションコンテストを担当することでは、他の研究者との交流が密になり、その研究分野を広くかつ深く知ることができるようになったと思います。研究者は自らの研究に集中するだけでは、よい研究者にはなれないと思います。他の研究者と交流し視野を広げることでよい研究者に育っていくものです。学会活動はそのような交流の中心です。
さて、日本機械学会計算力学部門の様々な活動は会員を中心に多くの方々のご努力によって運営されております。学会は研究者の最も身近で基本的な活動と交流の場であり、会員の皆様のニーズにこたえていくことが重要であるとともに、会員の皆様の自主的なご努力によって支えられております。どうぞこれからも計算力学部門の運営に対して忌憚のないご意見をいただくとともに、部門の活動に積極的にご協力くださいますようお願いいたします。