部門紹介
94期 部門長挨拶
第94期部門長 |
この度,大島伸行前部門長(北海道大学)の後を引き継ぎ,第94期計算力学部門長を務めさせていただきます.青木尊之副部門長(東京工業大学),大山聖幹事(JAXA),奥村大副幹事(大阪大学),部門運営委員会委員,各種委員会や研究会の皆様をはじめ,部門に関係する全ての皆様と部門の円滑な運営とさらなる発展に努めてまいりたいと思います.
この4月に矢川元基初代委員長(東京大学名誉教授)(当時は委員長と言われていました)のご厚意により,ニューズレターNo.1からNo.15を部門WEBページにアップすることができました.これにより計算力学部門が設立されたころのことを振り返ることができます.1989年1月に発行されたNo.1巻頭(1)に掲載された「計算力学部門発足にあたり」(矢川先生)では,「来世紀初頭(とはいっても10年ちょっと先の話ですが)コンピュータの計算能力は現在の1000倍くらいのものに・・・」と書かれていますが,まさにその通りになりました.大雑把に言うと,順調に10年で1000倍ずつ計算能力が上がり続け,2020年には1989年当時に比較して10の9乗倍程度になると思われます.その間,計算力学,あるいは計算理工学と言われる分野は,機械関連分野の製品開発・設計に無くてはならないものになりました.また,「計算理工学」は「理論」・「実験」に並び,自然科学分野の第三のブランチとして位置付けられています.過去30年近くを振り返ってみるとコンピュータの計算能力の向上とともに,計算力学の重要性は増すばかりと言えます.
以上のような部門設立当初からの背景のもと,計算力学部門ではその活動ポリシーの一つに「大学・企業の連携」を掲げています.「連携」の前段階として「交流」があるのではないかと思いますが,その交流の場として,部門講演会や年次大会でのオーガナイズドセッションが大きな役割を担ってきました.例えば,本年度の計算力学講演会では「市販ソフトウェアによる難問題のモデリング・シミュレーション」,「企業におけるCAEおよび産学官連携の事例」などのオーガナイズドセッションが企画され,産学交流の場となることが期待されます.さらに,今年度の講演会は自動車産業,航空機産業をはじめとする,多くの機械関連分野産業が集積する名古屋で開催されることより,より多くの産学交流の場を提供できるのではないかと期待しています.さらに,「連携」へと繋がっていくことを願っています.
一方,日本の機械工学国際的事業の推進も部門として大きな役割のひとつです.昨年は,「日韓機械学会 計算力学・CAE合同シンポジウム」が当部門の主催として開催されました.これは,韓国機械学会 CAE&応用力学部門との共催行事として定期的に開催していくものです.その他に,計算力学の国際組織である国際計算力学連合(IACM;International Association for Computational Mechanics)の認定組織である日本計算力学連合(JACM;Japan Association for Computational Mechanics)に参加学会として運営委員を選出し,世界計算力学会議(WCCM; World Congress on Computational Mechanics)やアジア太平洋計算力学会議(APCOM; Asia-Pacific Congress on Computational Mechanics)への協力をしてきました.計算力学部門登録者の方々の多くもこれら国際会議に参加されてきたことと思います.2012年には部門の25周年を記念した国際会議(JSME-CMD ICMS 2012;International Computational Mechanics Symposium 2012)が開催され,大変な成功を収めることができましたし,また,部門講演会にて部門の英文ジャーナル(JCST; Journal of Computational Science and Technology)とタイアップしたJCST 国際フォーラム(JCST International Forum)の開催など様々な試みもなされてきました.今後更なる国際的活動の活性化のための試みについて議論を始めたく考えています.
さて,私自身の計算力学への想いについても触れてみたく思います.計算力学部門が設立された1989年というと私はまだ博士課程の学生でした.ジョージア工科大学・土木工学科の計算力学センター(Center for the Advancement of Computational Mechanics, School of Civil Engineering, Georgia Institute of Technology)で境界要素法による材料・幾何学的非線形問題解析に関する研究で学位取得を目指していました.行おうとする解析に計算機の計算速度,容量ともに不足がちで投げ出したくなったのを覚えています.指導教授からは,計算機はいくらでも速くなるから気にしないように言われていましたが,あまり信じる気になりませんでした.また,博士課程修了後ほんの少しですが産業界に身を置いたことがありますが,その時も行いたい・必要と思う解析に対して計算機の性能は不足していて,設計・開発のための計算力学解析ではなく,まだまだ研究者の研究のためのものという印象でした.しかし,その後の計算機のすさまじい進歩により,製品設計・開発に計算力学は無くてはならないものとなり,現在に至っています.今後もあらゆるレベルのコンピュータの計算速度と記憶容量の向上が続くことと思います.10年前にスーパーコンピュータで行っていた解析の一部はデスクトップワークステーションでも可能になるなど,様々な場面で実感しています.私の研究分野である計算固体力学は過去30年で大きく進歩し、特に各種材料・幾何学的非線形問題が設計開発の現場で実用的に使用できるようになりました.自動車の衝突解析はその成功例と言えるでしょう.さらに,均質化法に代表される材料の微視構造に立脚した巨視的機械的性質の予測手法,分子動力学法による微視的解析,X-FEMに代表される有限要素法解析技術の進歩がありました.また,CADと連携した有限要素法解析モデルの自動生成技術も大きく進歩し,多くの方々が日常的に利用されているのではないかと思います.
一方,未来に向けてはCPUのクロックスピードの頭打ちやムーアの法則の終焉など今まで通りではないかもしれませんが,計算機の能力が向上していくと思われます.今から約50年前には有限要素法に関する論文が出始めています(2)。しかし,当時の技術者・研究者が今日の有限要素法の発展を見通せてはいなかったと想像します.今日,私達も10年,20年後のことを簡単には見通せません.あまり遠くない未来,現在の常識では想像し得ないようなこと起きていることだろうと考えています.
計算力学部門は言うまでもなく,材料力学,流体力学,熱力学・・・を跨ぐ研究分野間,そして産業界と大学等研究機関の間の連携を推進する役割を担っています.それらは言い換えれば横と縦の糸になり,計算力学の世界を造るのだと思います.部門関係者の皆様一人一人が縦や横の糸を結び,今後も計算力学の発展に大きく寄与する部門であり続けるようご協力をお願い致します.私も部門発展のために努めてまいりますので,ご支援賜りますようお願い致します.
(1) http://www.jsme.or.jp/cmd/japanese/newsletter/01.html
(2) R. W. Claugh, The finite element method after twenty-five years: A personal view, Computers & Structures, Vol.12, (1980), pp. 361-370.