部門紹介
83期 部門長挨拶
第83期部門長 神戸大学 冨田 佳宏 |
情報化技術の新展開のもと、グローバル化を伴った産業・社会構造の変革が急激に進展しており、コンピュータのハードウェア、ソフトウェアおよび通信などを基盤とした革新的技術の開発ならびに利用が、わが国の将来を支配するまでになっております。
このような環境の中で、わが国が持続して安定した繁栄を維持するために不可欠な生産活動に果たす情報化技術の役割は益々大きくなっております。工学問題の数値解析からスタートし、工学における広範な基礎理論と情報化技術が融合することにより、新しく計算力学分野が創生され、工学問題の数値シミュレーションに留まらず、情報化技術を援用した理工学からあらゆる分野にその裾野を広げつつあることは周知のことでありましょう。計算力学部門は、我が国の計算力学の発展に尽くして来られた多くの先生方により1988 年に設立され、今日まで、歴代部門長ならびに多くの方々の多大な御貢献により、機械工学を横断する学際的な分野を担う部門として、旧来の機械工学の枠を超えた領域へ、年と共にその活動範囲を拡大してまいりました。このような変革期に部門長を仰せつかることとなり、大変光栄に感じると共に重責で身の引き締まる思いが致します。計算力学部門のあり方を見極めつつ、部門の運営に微力ながら取り組む所存です。皆様方の温かいご支援を賜りますようお願い申し上げます。
ところで、計算力学の黎明期から現在までの発展過程をみますと、当初は、計算機のハードウェアとソフトウェア技術の進歩に負うところが極めて大きかったことを、計算機の演算速度・容量の変遷が如実に示しております。しかしながら、現在では計算力学の持つポテンシャルが広く認識され、それを極限まで利用することによって、他の手法では解決できない問題の解明への期待が、広範な計算機・情報化関連の技術の発展をも促す駆動力となっているといえましょう。個別の問題に特定した超高速計算機の出現ならびにそれを実現するための新技術の開発等が好個の例でありましょう。このように、計算力学は極めて広範な理工学の分野を包含し、かつ大きな影響を及ぼしていると言っても過言ではないでしょう。
材料と力学の分野を例と致しますと、現象を微分方程式として表現可能な問題の多くは解決された感があります。これに対して、材料のモデル化、自己組織化の問題、原子的なスケールから巨視的なスケールに至る所謂マルチスケールの構造と応答の問題などの解明に対して計算力学への期待が極めて大きいものがあります。新しいデバイスやアーキテクチャの開発によって、情報処理能力の今後の発展は、過去の予想を遥かに越えることが期待でき、それを最大限援用したシミュレーション結果から、従来とは全く異なる現象が明らかにされ、それらに基づく新たな産業の創生も現実味をおびてくるところであります。シミュレーションによって発見が出来るか? といったしばしば投げかけられておりました疑問が払拭されつつあると考えるのは早計でありましょうか。
グローバル化が急進致しております今日、良好な情報基盤環境を享受できる十分な技術・研究者の確保がわが国の将来を左右すると言っても過言ではないでしょう。従って、計算力学に新展開をもたらす技術・研究とそれを利用して新たな生産活動の可能性を追求し新製品の開発等に携わる技術・研究者の育成が急務であります。そのために、理工学分野の深い理解と最新の研究成果を認識し新しくそれを展開していく能力、分野を横断した多くの計算理工学に習熟し情報化技術の現状を遅延なく掌握する能力を有することが必須とされます。さらに、計算力学のプログラム等を利用して、新たな生産活動に関連したプロセスの開発や新製品の開発を担当する場合であっても、その効率をあげ、低コスト化を図るためには、プログラムのブラックボックス的な利用に留まらず、得られた結果の妥当性の自律的な判断能力が不可欠であります。 このような技術者の養成に対して、計算力学部門として、2001 年に発足した「計算力学技術者認定事業(委員長・吉村忍東大教授)」に貢献しております。昨年度の認定者は166 名に至っており、今年度は、固体力学分野の有限要素法解析技術者(2級)、同(1 級)ならびに熱流体分野の認定試験を行う予定であると伺っております。当部門として本事業の成功のために、皆様方の一層の御支援をお願い致します。
計算力学部門の現在の登録者数は約5300 名で、流体工学、材料力学、熱工学、機械力学・計測制御などの伝統的な諸分野の部門に続いて全21 部門中5位に位置しております。また、第1、2、3 位登録者数がほぼ拮抗していることも、計算力学部門の機械工学における横断的な性格を表しているといえましょう。日本機械学会ならびに関連他学協会、他部門の登録者数が減少傾向にあるなか、計算力学部門の登録者数はここ5 年間大幅な変化が無く推移しています。加えて、部門講演会は盛況を呈し、登録者数700名、講演数500 件を超すに至っており、カバーする分野も極めて広範で、旧来の計算力学の範疇では考えられないような、環境、生命、娯楽等の分野にまで及んでおり、的確に現在の社会の趨勢を掌握し、先導的な運営がなされていることの証であると存じます。さらに、他の多くの部門に比し、部門登録者の平均年齢が低く、その結果、部門講演会には大学院生から若手研究者、技術者の参加・講演が多くなっております。これは、当部門に所属される方々の日ごろの御努力により、計算力学の重要性が認識され、次世代を担う若手により認知されつつあることを示す結果と考えております。ただし、計算力学関係分野において専門家となるための努力とそれに対する待遇のバランスが必ずしも良好ではないと感じている若手も多いことは事実でありましょう。これは、計算力学に関連した分野の重要性についての共通認識があるにもかかわらず、個々の計算力学関連の技術・研究者が各自の立場に誇りをもてるような体制が必ずしも確立されているとは言えない状況にあることに起因していると考えております。計算力学部門としてこのような状況の改善に努める使命があると存じます。
今後とも計算力学部門を充実・発展させ、部門に登録頂きました方々に資するためには、これまで以上に、既存の機械工学の枠にとらわれない将来戦略、新領域開拓活動を行うことが不可欠であると思います。機械工学を超えて理工学の広い領域を横断する当部門の最大の特徴を生かし、国内では、計算力学部門講演会をはじめ他部門講演会、年次大会他の講演会におきまして新たなオーガナイズドセッション等を企画し、新規会員の発掘をも視野に入れた講演会としていく必要があると考えます。また、国際的には、全世界的な視野から、発展目覚しいアジア地域における連携、講演会の共同開催等をこれまで以上に意識して取り組むことが必要でありましょう。このような地道な取り組みが、新領域開拓ならびに会員増強につながると考えます。計算力学部門には多くの委員会がございます。これらの委員会個々の活発な活動を通じて、社会的なニーズの把握に努め、計算力学部門の今後のあり方、社会貢献等について検討して頂き、具体策を立案・実行して行くつもりでおります。皆様方の強いご支援を賜りますようお願い申し上げます。