部門紹介
88期 部門長挨拶
第88期部門長 株式会社アルゴグラフィックス 辰岡 正樹 |
このたび、大林茂(東北大学)前部門長の後を継ぎ、第88 期計算力学部門長を仰せつかりました。この春より1年間、梶島岳夫(大阪大学)副部門長、寺本進(東京大学)幹事をはじめ、運営委員や総務、広報など多くの委員の皆様方のご協力をいただきながら、部門の運営に勤める所存です。
いままで部門長をされた先生方は、計算力学分野とそれぞれの専門分野で卓越した業績をあげられています。それらの先生方に比べますと、私自身は、東京大学(工学部船舶工学科)卒業後、製造業(川崎重工業船舶事業本部)での設計業務、IT企業(日本アイ・ビー・エム)での技術支援、営業活動という職歴で、大きく異なる道を進んできました。昨年の冬に、部門で初めて実施された副部門長選挙の結果の連絡をいただいたときは、まさに青天の霹靂の拝命でありました。昨年一年間は、大林部門長の下で副部門長として総務委員会の責務、役割を体得してきました。総務委員会には、第84 期と第85 期の2 年間広報委員として参画していました。広報委員の役割の重要性は言うまでもありませんが、部門長のそれは、意味あいが大きく違います。いまさらながら責任の重さを感じています。日本機械学会は、運営基盤が確立され、計算力学部門もその確固たる土台の上で、運営されています。そのような運営基盤の上に立ち、どのようなことができるのか、学会員の皆様の期待にどのような形で応えることができるのかを考えてみました。
私自身は、企業に在籍するなかで、外部団体活動として、大学の先生方、企業の技術者の皆さんとNPO法人CAE懇話会を立ち上げました。今年は,設立から10年目、NPO法人としての認証取得から8年目となります。CAE懇話会の活動の中で、企業でCAEに関わる皆さんの状況を見ることができ、企業の技術者が学会へ期待するところを知ることもできました。
また、広報委員の時に、ニュースレターの特集として“計算力学部門への期待、のぞむところ”というテーマを取り上げ、大学の教授、独立行政法人の研究者、企業の技術者、ベンダーの経営者、技術者のみなさんへ執筆していただいたことがあります。その内容は、今読み直しましても、大変示唆に富んでいます。常々考えていた内容と同じ意見や提案を述べられている方もおられましたが、意外な切り口から指摘されている方もおられました。
このような企業の技術者の要望と、様々な立場で計算力学に関わる人たちの声を真摯に受け止め、今年なにをすべきかをまとめてみました。
そのひとつは、計算力学部門における企業からの参加者を増やすための方策を考え、実行することです。計算力学部門の最も大きなイベントは、計算力学講演会ですが、現在企業からの参加者は決して多くはありません。計算力学講演会の多くはオーガナイズドセッション(OS)であり、発表形態はいくつかの方式がありますが、基本は論文発表の形式です。ただ、OS 以外にもフォーラム等の自由度の多い形態も許容されていますので、参画する価値があれば、企業からの参加者は増えるはずです。テーマについては、計算力学部門の特徴である学際領域という点からは、広範囲な選択肢があります。広い領域で産業への適用事例、成功事例等の発表の場を設けるようにする。それも単発ではなく、継続してゆけば、計算力学講演会では、面白い発表があるぞ、という評判が出てくる。それが企業からの参加者を増やしてゆくという流れにつなげることができます。参加者=発表者、すなわち発表者だけが参加する講演会ではなく、発表者以外の人も多く参加する講演会になってゆく。一般に、企業の人が参加する講演会・セミナー等の多くは、情報入手、情報共有を参加目的としますので、参加者数は、発表者の数十倍から百倍程度になることが珍しくありません。発表者以外の参加者を増やす努力も必要であろうと考えています。特に企業の中の若手技術者にとっては、スキル習得という目的であれば、参加しやすくなります。若手技術者のためのチュートリアル、技術講習会というコースがそれに該当します。
第20 回計算力学講演会では、NPO 法人CAE 懇話会が協賛し、フォーラムを企画しました。発表者は産業界でCAEを実践されている人たちと、日本でCAEソフトウェアを提供しているベンダーの人たちでした。このときは、企業からの参加者が、まだそれ程多くはありませんでした。このような活動は、継続することが重要ですが、次年度以降の継続が残念ながらありませんでした。今年の第23 回計算力学講演会では、再度企業からの参加者を増やすために、フォーラムを企画しています。今年だけの単発に終わらないように来年度以降も、企業から参加できるコースを、より広い範囲で検討、立案、開設するように、いろいろな方を巻き込んでゆくようにします。
2つ目は、人材育成です。計算力学技術者認定試験が2003年度に始まり、現在では、固体力学分野、熱流体分野について、技術レベルにあわせた複数のコースが用意されています。企業でCAEに関わる人にとっては、若手技術者にとっても、また経験豊富な技術者にとっても、合格することが明確な目標となっています。CAE に関する技術レベルを、企業のなかで上司や周囲の人たちに認めてもらうことは、今まで簡単なことではありませんでした。それが本認定試験を合格することで、自分自身のスキルが企業のなかで認められ、それがやりがいにもつながり、かつ企業の中で仕事をやりやすくすることを大いに手助けしています。さらに公的な資格ということで、社内に限らず、社外においても認められることから、CAE に関わる人全体の評価を高める役割をも担っています。計算力学部門としては、本認定試験のための技術講習会を毎年開催していますが、多くの技術者が積極的に本認定試験を受講しやすくなるように、また受講する気になるための取り組みを行いたいと考えています。
3つ目は、海外とくにアジア諸国との連携を進める動きを推進することです。ちょうど昨年の拡大運営委員会で、KSME( 韓国)部門講演会との間で2年おきに交互に派遣し、招待講演を行うことが決まりました。今後、アジア諸国との連携につながる動きを推進してゆくことが重要です。それは、計算力学部門講演会の価値を高め、企業からの参画も増えるという良い循環につながることが期待できます。
最後に事業仕分けで世間の注目を浴びた次世代スパコンについて触れておきたいと思います。昨年、日本機械学会は、会長名で「科学技術と人材育成関連施策についての声明」を発表しました。この発表に際して、スパコンに最も近い部門として、計算力学部門では、部門長の大林先生がリーダーシップを取られ、幹事の梅野先生と、理事会へのメッセージを“パブリックコメントへの提案”という形でまとめました。次世代スパコンプロジェクトについては、様々な意見があり、意見をまとめることは簡単ではありませんが、時機を逸することなく、“提案”をまとめたことは、日本機械学会としても、計算力学部門としても大きな意義があったと判断しています。今後も、常に世の中に対して、敏感な感性を持って、運営してゆくように努めたいと思います。
2012 年には部門25 周年行事である国際会議開催が予定されています。今年は、この国際会議をどのような形にするか、大枠を決める年となります。本国際会議を成功裡に終えるために、今年から準備を着実に行う必要があります。計算力学部門の皆様のより一層のご協力をお願い申し上げます。