部門紹介
91期 部門長挨拶
第91期部門長 山本 誠 東京理科大学 工学部機械工学科 |
このたび、吉村忍前部門長(東京大学)の後を引き継いで、第91期計算力学部門長を仰せつかりました。小石正隆副部門長(横浜ゴム)、長谷川浩志幹事(芝浦工業大学)、岩本薫副幹事(東京農工大学)はじめ、多くの皆様のご協力をいただきながら、計算力学部門の円滑な運営・発展に貢献できればと考えておりますので、何卒よろしくお願い申し上げます。
昨年度、計算力学部門は設立25周年を迎えました。記念事業として第25回計算力学部門講演会およびInternational Computational Mechanics Symposium 2012 (ICMS2012)が神戸ポートアイランドにおいて成功裏に開催されましたことは、皆様の記憶に新しいことと思います。部門が設立された1988年当時はCAEソフトウェアの勃興期であり、様々な数値計算法に関する研究が盛んに行われていました。部門講演会でも様々な数値計算手法の提案があり、参加者同士の熱い議論が戦わされていたことを覚えています。その後の25年間は、CAEソフトウェアの実用化が進み、産業界へのCAEの普及が急速に図られました。2000年頃、私の専門とする流体工学分野の一部研究者からは「もはやCFD(Computational Fluid Dynamics)では研究することがなくなった」という声が上がったほどでした(そんなことは全くありませんでしたが、、、)。そして、今や、CAEソフトウェアなくしては設計や研究開発業務が成り立たなくなっていることは、皆様周知の事実でしょう。このような時期に計算力学の研究・教育・普及に携われたことは、私はもとより多くのCAE技術者・研究者にとって望外の慶びだったのではないでしょうか。
今年は、50周年に向けた次の25年のスタートの年です。浅学の身であり皆様からのご批判は覚悟の上ですが、CAEの進むべき道を少し考えてみたいと思います。
まず、ハードウェアの進歩に伴った課題が挙げられます。コンピュータの発達は留まるところを知りません。昨年から京が本格稼働を始めたばかりですが、ご存じのように、すでに米国、中国、日本では2020年を目途にエクサ級のコンピュータの開発がスタートしています。10年後にはペタ級のコンピュータがCAEユーザーの机上に置かれていることも有り得ない話ではありません。このようなコンピュータを生かすも殺すもCAEソフトウェア次第であることは自明でしょう。エクサ級あるいはそれ以上の処理速度を有するコンピュータに適した格子生成法、アルゴリズム、解法、可視化法など、あらゆるプロセスに新たな革新的な手法が必要となるでしょう。プロセスの概念そのものが変質する可能性もあります。このようなコンピュータおよびソフトウェアの出現は、機械の設計開発に革新をもたらすばかりでなく、建築、環境、電気、医療、製薬、防災、基礎科学等々、コンピュータ・シミュレーションの活躍の場を飛躍的に広げることが予想されます。したがって、超高速・大規模なコンピュータ・シミュレーションに向けての研究開発は、機械工学分野を越えて喫緊の最重要課題であると考えられます。
次に、マルチフィジックス・シミュレーションも重要な技術課題であると思われます。これまでの構造工学、流体工学、熱工学などでは、単一の物理を取り扱うことが主流でした。これはコンピュータの処理速度や記憶容量の制約によるところが大きかったと思いますが、現在のコンピュータを用いることにより、複数の物理を統合した取り扱いが可能になりつつあります。ペタ級・エクサ級のコンピュータを用いれば、可能性は一層広がることでしょう。流体・構造連成、構造・熱連成、流体・熱連成など複数の物理が相互干渉する問題は、機械に関連して生じる本質的な現象であり、設計上必ず解決しなければならない技術課題であると言えます。これまでは別々にまた簡易的に取り扱わざるを得なかった様々なマルチフィジックス現象を統合的に解析し、得られた知見を機械設計に活かすことは、今後の機械設計に新たな展開・進展をもたらすのではないでしょうか。また、これまでの技術では考えもしなかったような新しい機械の出現に貢献できるかもしれません。
以上2つの技術課題を挙げましたが、若手CAE技術者には是非これらの課題に果敢に挑戦していただきたいと思います。
さて、一方で、人材育成も注力しなくてはならない課題であると思います。計算力学部門では、2003年から計算力学技術者認定試験事業を展開し、CAEユーザーや技術者の能力アップと社会的地位向上に努めてきました。対象分野は、固体力学(2003年から開始)、熱流体力学(2005年)、振動(2012年)と広がりを見せ、これまでに4600名を越える多くの認定者を輩出しており、本事業は極めて順調に運営されています。しかしながら、主にCAEユーザーである認定者と大学・研究機関等のCAE研究者の間には、意識の上で大きな隔たりがあるように思われます。現在、我が国の電気業界が苦境に陥っていますが、その原因のひとつが顧客目線の軽視にあると言われています。韓国企業のように地域や国に適した製品開発を心掛けるべきでしょう。CAE業界が同じ轍を踏まないため、またCAEの更なる発展のためにも、CAEユーザーと研究者との密接なリンクを図り、双方向の活発な情報交換が必要です。現在の計算力学部門の活動はCAE研究者に支えられていますが、今後は、計算力学部門の活動にCAEユーザーがより積極的に関与できる仕組みを構築すべきであると思います。
ここで、計算力学部門の現状について若干紹介しておきたいと思います。まずは部門運営予算の問題です。部門長の就任挨拶としては異例な内容ですが、部門の皆様にも知っておいていただきたいと思い、敢えて説明させていただきます。計算力学部門の平成25年度の予算額は、繰越金が約260万円、部門交付金が約80万円、積立金が520万円の合計860万円だけです。この予算額は昨年度に比べると約200万円の減少です。昨年度は25周年記念事業があったとはいえ、計算力学部門が赤字体質になっていることは間違いありません。学会全体も赤字体質に陥っていますので、学会本部から支給される部門交付金の大幅な増額は望むべくもありません。このような状況において、計算力学部門の活動を維持・発展させるためには、何らかの収入源を新たに確保する必要があります。講習会や講演会が大きな収入源にならなくなった今、何ができるかを皆様とともに考えさせていただきたいと思っています。皆様から斬新なお知恵を拝借させていただければ幸いです。
また、今年度は論文集の統合が予定されています。日本機械学会では、これまで和文論文集(A、B、C編)、英文論文集がバラバラに発行されてきましたが、これらを統合し、多くの優れた論文が集まるような、またインパクトファクター(IF)が取得できるような新学術誌「日本機械学会学術誌(Bulletin of the JSME)」に生まれ変わります。新学術誌の構成は、英文レビュー誌、英文論文集、英文速報誌、和文論文集となっており、創刊は2014年1月が予定されています。計算力学部門に関して言えば、和文論文集にはこれまでカテゴリーがありませんでしたが、新学術誌内の和文論文集には「計算力学」というカテゴリーが新設されます。また、計算力学部門が独自に編集・発行してきた英文論文集「Journal of Computational Science and Technology」は、新学術誌内の英文論文集のカテゴリー「Computational Mechanics」に移行します。和英いずれの論文集においても計算力学をキーワードにしたカテゴリーが新設されることにより、計算力学部門の皆様には論文投稿がしやすくなるのではないでしょうか。新学術誌創刊に伴って、皆様からのこれまで以上に積極的な投稿を期待しています。
最後に、計算力学部門が全構成メンバーにとってより有益な情報交換の場となり、より多くの方々(特に企業の方々)が部門活動に気軽に参加できるように、計算力学部門を少しでも発展できればと考えておりますので、皆様から一層のご支援を賜りますよう心よりお願い申し上げます。