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特集:衝突解析ソフトウェアPAM-CRASH V2000 Crash Analysis Software PAM-CRASH V2000
新関 浩(日本イーエスアイ 株式会社)
1.はじめに
PAM-CRASHは、産業界、特に自動車業界における対衝突・タ全性の向上に対する飽くなき要求を背景に、コンピューターの大幅な計算性能向上にも支えられ、年々機能強化がなされるとともに、衝突解析ソフトウェアとして広く使用されるようになった。板成形解析ソフトウェアのPAM-STAMPを始め、タイヤシミュレーションやCVT(Continuous Variable Transmission)などの現象を動的応力解析として扱う新技術も、衝突解析の分野で培われたPAM-CRASHのソフトウェア・モデリング技術が基本となっている。そのPAM-CRASHは、20世紀最後の年にV2000がリリースされた。
ここでは、V2000で新たに加えられた機能の中から、主なものについて概要を紹介するとともに、21世紀に向けたPAM-CRASHの近未来像についても簡単に紹介する。
2.V2000の新機能
2-1.Stamping-Crashカップリング
通常、PAM-STAMPを用いた板成形解析では、成形後の板厚分布を始め、皺や割れの有無を予測することが計算の目的であるため、非常に小さな半径を持つフィレットを正確に表現することが求められる。そのため、PAM-STAMPの計算では、図1に示すような自動メッシュ細分化機能アダプティブメッシュを採用するのが一般的である。
Fig. 1. Adaptive Mesh
PAM-CRASHの新機能では、特定のフォーマットを持つバイナリー形式もしくはアスキー形式の専用中間ファイルに書き出された板成形解析ソフトウェアPAM-STAMPの計算結果を、板成形解析とは異なるメッシュを有する衝突解析モデルに対してマッピングすることにより、板厚分布などの情報を計算の初期条件とすることが可能である。同様の方法により、ワンステップ法の板成形解析ソフトウェアPAM-QUIKSTAMPとPAM-CRASHの連携を図ることも可能である。また、アスキー形式の中間ファイルを利用すれば、板成形解析の計算結果を衝突解析のみならず、振動解析などへも反映させることが可能となる。専用中間ファイル前後のデータの流れを図2に示した。
Fig. 2. Data Flow through Intermediate File
2-2.厚肉シェル
現在PAM-CRASHで使用できる要素は、スプリングやジョイントを含むビーム系要素、シェル要素およびソリッド要素の三種類に大別される。その中においてシェル要素は、最も高い頻度で使用されている要素と言える。特に、フルカーの衝突解析モデルにおいては、現時点でも20~30万のシェル要素が使用されている。一方、衝突解析の裾野が広がるとともに、トラックのシャシーや鉄道車両など、面外方向の応力が無視できない肉厚な構造物が増加している。また、精度向上を重点に置いたモデル化が行なわれているため、年々要素サイズが小さくなってきており、場合によっては薄肉シェル要素の適用が必ずしも適切ではないケースも増えてきている。このような問題を解決するため、PAM-CRASHに厚肉シェル要素を加えようという多年度プロジェクトが進行中である。その第1弾として、弾性材料モデルに限定されてはいるものの、二つの厚肉シェル要素(Brick Shell, Thick Shell)がPAM-CRASH V2000の要素ライブラリーに加えられた。この要素はTotal Lagrangian Formulationに基づいているため、全体回転をともなうような問題に対して適用することによって、従来に比べ高い精度の計算結果を得ることも期待されている。ソリッド要素と同じ要領で設定することができるBrick Shellと現存している薄肉シェル要素と同じ要領で設定することができるThick Shellの二種類の厚肉シェル要素を用意したことにより、ソリッド要素や板のような構造との自然な結合を表現することが可能となっている。図3にBrick Shellを使用したTwisted Beamモデルを示した。厚肉シェルに関する開発作業は現在も進行中であり、次期バージョンでは弾塑性材料モデルへの適用が予定されている。
Fig. 3. Twisted Beam Model with Brick Shell
2-3.メッシュに依存しない点接合手法PLINK
製品設計における大きなテーマの一つが、その期間短縮にあることは明白である。解析ツールに対しては、設計変更にともなうスポット位置の修正などが容易に行なえることが強く望まれている。このようなニーズに対応するためPAM-CRASHでは、V1998のリリース時に従来の節点を用いた接合とは異なり、任意に指定したスポット点から接合されるべき部品へ投影した位置を内部的に接合する方法が盛り込まれた。この節点位置に依存しない点接合手法は、V1998のリリース以来数多くの実績を重ねるとともに、ユーザー側から有益なフィードバックを得ることにも成功した。V2000に収められた点接合手法PLINKは、既存の点接合手法に対してユーザー側から寄せられたフィードバックを基に開発された新たな点接合手法である。
図4にPLINKを使用した車両モデルの一部を示した。
Fig. 4. PLINK spot model
PLINKの特徴をまとめると、次のようになる。
・サーチラディアスの導入により、部品の特定をすることなく接合することができる。
・レイヤー枚数に依存しない指定方法で接合が可能である。
・全ての必要なパラメーターを、一種類のカードのもとで設定することができる。
これらの特徴から、解析モデル作成における更なる効率化が期待される。
2-4.マルチボディーシステム(MBS)ソルバー
乗員挙動解析に関する新機能として、複数の剛体が結合したモデルを効率的に計算するマルチボディーシステムソルバーが新たに開発された。PAM-CRASHは、時間の離散化手法として動的陽解法を採用しているため、従来、車両前面衝突用の剛体ダミーモデルを計算対象とするような場合も、関節部に配置されたジョイント要素の振動周期から得られるタイムステップを使用しながら、各剛体の動きを個別に求めてきた。この場合の問題点としては、剛体モデルの計算としては比較的計算時間を要してしまうことと、力のかかり具合によっては、剛体間に配置されたジョイント要素が不安定な状態になる可能性があることなどが挙げられる。
今回、V2000に収められたマルチボディーシステムソルバーでは、結合した複数の剛体を一つのツリー構造として取り扱うようになっている。ツリー構造において結合されている剛体間には運動上の相関関係がもたらされ、剛体同士の接合拘束条件は、数学的に考慮されるようになっている。このため、マルチボディーシステムソルバーは、従来のタイムステップの値に比べ10倍以上のタイムステップ値を許容するとともに、振動の少ない安定した計算を実現することが可能となる。
Fig. 5. Occupant Safety Model
図5に示す乗員挙動解析モデルを使用し、従来の方法とマルチボディーシステムソルバーによる計算結果を比較した。ダミーモデル頭部における加速度履歴線図を図6として示した。振動のみられるカーブが従来の剛体ダミーモデルと通常のシートベルトモデルの組み合わせから得られた頭部加速度履歴で、振動が少ない滑らかなカーブがマルチボディーシステムソルバー仕様のダミーモデルとファストベルトシステムによるシートベルトモデルの組合せから得られた計算結果である。この計算結果の比較は、マルチボディーシステムソルバーとファストベルトの機能を組み合わせて実施した計算が、いかに安定したものであるかを示しているといえる。計算時間に関しては、従来の方法で計算したケースのCPU時間が769秒であったのに対し、マルチボディーシステムソルバー仕様のダミーモデルを使用したケースでは142秒のCPU時間で計算が終了した。なお、計算に使用されたワークステーションは、SGI R5000/200MHzである。
Fig. 6. Head Acceleration Time History
3.まとめ
ここまで、PAM-CRASH V2000の代表的な新機能を四点ほど紹介したが、その他にも材料モデルや計算アーキテクチャーの面において多くの機能強化がなされている。しかしながら、産業界における最重要テーマである試作品の削減・撤廃を実現するためには、さらなる計算精度の向上、大規模モデルへの対応という課題を克服しなければならない。
21世紀に向け必要最低限のスリムボディーに生まれ変わるPAM-CRASHにとっては、要素ライブラリーの強化と分散メモリー版の機能拡張が最初の大きな仕事となる。