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特集:MSC.Dytranによる流体─構造連成解析
鈴木健太郎(日本エムエスシー 株式会社 Dytranグループ)
1.MSC.Dytranの歴史
1950年代頃から主に軍事分野の解析のために、さまざまな衝撃現象解析のためのプログラムが作成されてきました。MSCでは有限差分法の流れを汲むMSC/PISCES、有限要素法の衝撃コードであるDYNA3Dの流れを汲むMSC/DYNAをリリースしてきましたが、1991年に両コードを1つに統合してMSC.Dytran をリリースしました。
2.MSC.Dytranの機能
MSC.Dytranの機能は大きく3つに分けることができます。構造解析機能、流体解析機能、そしてMSC.Dytranの最大の特徴でもある流体-構造連成解析機能です。
2.1 構造解析機能
MSC.Dytranは、構造物の挙動を解析するための機能としてラグランジェ手法の有限要素法を使用しています。また時間領域に対しては陽的手法を用いています。陽的手法を用いていますので、非線形性が強く、応力伝ぱが問題となる現象の解析に適しています。MSC.Dytranでは豊富な有限要素ライブラリと金属、複合材料、岩石、発泡材等のさまざまな材料の挙動を定義するための非線形材料モデルを用意しています。また、構造物間の接触現象を定義することも可能です。
MSC.Dytranの接触のアルゴリズムは衝突のような非常に激しい接触現象でも正しく解析が行なえるように、非常に安定したものとなっています。また衝撃や衝突の際に生じる破壊や破断といった挙動を解析することも可能です。これらの機能を用いて、プラスチック容器の落下衝撃、トップロード解析、インパクタによる衝突解析等が可能です。
2.2 流体解析機能
材料の流れを解析するために、オイラー法の有限体積法を使用しています。MSC.Dytranにおけるオイラー法のアプローチでは、流体および気体の挙動を解析することが可能なことはもちろん、鉄鋼のような構造材をシミュレートすることも可能になっています。オイラー手法はメッシュを空間に固定するというアプローチであるので、ラグランジェ法を用いた有限要素において問題となる材料の変形が大きくなった際にメッシュ形状がくずれ、計算が進まないという問題を避けることができるため、超高速の衝突で、金属材料に貫通が生じ、非常に大きな変形が発生するといった問題への適用も可能となります。
2.3 流体-構造連成解析機能
MSC.Dytranのもっとも特徴的な機能が流体─構造の連成解析機能になります。流体─構造の連成問題とは、たとえば燃料タンクが地震で揺れている状況を想像してください。この場合、タンク(構造)が地震によって振動することで中の燃料(流体)が流動し、さらに流動によりタンクが燃料から力を受け、変形するといった挙動をとるのですが、このように構造の挙動が流体に影響を与え、流体の挙動が構造に影響を与えるような問題が流体─構造の連成問題といえます。
MSC.Dytranでは流体─構造連成解析のために2つの手法を用意しています。ALEアルゴリズムを利用したALE Coupling機能と、非常にユニークなGeneral Couplingという手法です。図1にALE CouplingとGeneral Couplingのモデルを示します。ALE Couplingは流体のためのEuler部にALE手法を適用し、構造物の変形による流体-構造の境界面の移動をEulerメッシュを更新することで取り扱う手法です。
図1. 流体-構造連成解析モデル
一方、General Couplingでは流体と構造物のメッシュを完全に独立に定義します。そして構造物の表面を流体─構造境界面として取り扱い、これがEuler空間の中を移動し、この移動している境界で連成を解く手法になります。メッシュを独立に定義しするために3次元の複雑な形状に対しても簡単にモデリングを行えるという利点があります。
3.MSC.Dytranの特徴
3.1 MSC.Nastranデータとの親和性
MSC.Dytranの入力データは構造解析分野のデファクトスタンダードであるNastranのデータ形式と親和性の取れた形式になっています。これによりある解析対象をNastranで固有値解析を行い、その後、同じモデルを使用し、MSC.Dytranで時刻歴応答解析を行うというように、1つのモデルに対して、いくつもの解析を実行することが容易に行えます。
3.2 MSC.Patranとの統合
統合Pre/PostプロセッサーであるMSC.PatranがInterfaceをもっておりますので、グラフィカルで強力なPre/Postで解析の定義、そして結果の処理が行えます。
3.3 Dytran Explorer
最新バージョンのMSC.Dytran2000ではPCベースのDytran実行のためのGUIを用意しております。図2のGUI上でボタンクリックによりMSC.Dytranの解析等の作業が行えます。特筆すべきは、このGUI上で簡易的に解析結果を処理することが可能となっていることです。変形の様子をアニメーションで表示したり、時刻歴結果を表示するという作業がマウスのクリックで簡単に行えます。
4.構造解析事例
MSC.Dytranを用いた紙送りの構造解析例を紹介します。
身の回りにある紙送りの機能を持った機械としては、プリンター、両替機、自動検札機等が挙げられます。図3は、その機械の一機能(2つのローラーの回転により紙が送られる機能)を取り上げてMSC.Dytranで解析した例になります。ローラーと紙の間には摩擦を考慮した接触を定義しており、摩擦力により紙が送られていく解析です。
図2. MSC.Dytran Explorer
図3. 紙送り解析
5.構造-流体解析事例
MSC.Dytranの最大の特徴である流体─構造連成解析機能を用いた解析例を紹介します。
5.1 スロッシング解析
スロッシングとは液体が入ったタンクが移動する際に、液体の液面が揺動する現象です。最近では車の静粛性が向上したことにより、車のガソリンタンクの中のガソリンのスロッシング挙動が問題となってきました。これはスロッシングによって大きな音が発生し、静粛性の高い車では、この音が問題となるためです。図4にガソリンタンクのスロッシング解析例を示します。ここではGeneral Couplingの手法を用いています。ガソリンのためのEulerメッシュはTankを含む空間に格子状のメッシュを定義しています。
5.2 ハイドロプレーニング解析
タイヤが水溜りを通過する際に、速度が速くなってくると水の圧力によりタイヤが路面から浮き上がり制動を失うという現象をハイドロプレーニングと呼びます。図5はハイドロプレーニング解析例を示します。ここではタイヤを構造、水を流体としてGeneral Couplingの手法で解析を行っています。この手法を用いることによりタイヤの溝に沿ったメッシングは不要となり、非常に容易にモデリングが可能となりました。
図4. ガソリンタンクのスロッシング解析
図5. ハイドロプレーニング解析
(横浜ゴム株式会社ご提供)
5.3 MSC.SuperForge
MSC.Dytranのオイラー-ラグランジェ(流体─構造)連成解析機能を使用している特殊なプロダクト、鍛造解析専用プログラムMSC.SuperForgeを紹介します。3次元の鍛造解析はラグランジェのアプローチではメッシュが大きくゆがみ、解析を非常に難しいものとします。しかし、MSC.SuperForgeでは素材の変形をオイラー的なアプローチで解くことにより3次元の鍛造解析を実用的なものとしています。このアプローチにより非常に短時間で解析が行え、また、図6のような複雑な形状(クランクシャフト)に対して、正確に鍛造後の形状を求めることができます。
図6. MSC.SuperForgeのGUIおよび解析例
また、MSC.SuperForgeでは鍛造解析に特化したGUIを用意しております。このGUIはWindowsネイティブなもので、マウスクリックによってインタラクティブに鍛造解析の定義を行うことが可能です。これらの特徴により、MSC.SuperForgeは専門の解析者のためではなく、設計者のための鍛造解析ツールとなっています。
最後に今回ご紹介いたしましたMSCのプロダクトの詳細について弊社のホームページ:http://wwww.mscsoftware.co.jp
にもございますので、ご参照いただければ幸いです。