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特集:非線形衝撃解析ソフトLS-DYNAの最新機能および最近の解析事例
戸倉 直(株式会社 日本総合研究所 エンジニアリング事業本部)
1.はじめに
衝撃解析ソフトが研究目的のためだけでなく、製品開発のためのCAEツールのひとつとして本格的に用いられるようになってからすでに十数年が経過しているものと思われる。従がって、もはや単に製品開発に衝撃解析ソフトを適用したというだけでは新味に乏しく、話題性もないかもしれない。とはいいながらもコンピュータリソースの大規模化と高速化、そして何より低価格化により、衝撃解析の適用が困難だった業種、分野への浸透が着実に進んでいるのもまた事実であり、そこに新たな解決すべき問題が生まれ、応用上興味深い課題が提起されてきているように思われる。
ここに紹介するLS-DYNAは、1970年代に開発され、当初はDYNA3Dとして知られていたが、現在では衝撃解析にとどまらない極めて豊富な機能をもったソフトに成長している。本稿ではLS-DYNAの最新版であるV950の主な機能を紹介し、応用事例として、最近特に急速に衝撃解析の需要が増している電気製品関係の解析を取り上げ、このような分野における製品開発上の問題点と、その解決策として衝撃解析ソフトLS-DYNAを使用するメリットについて説明したい。
2.LS-DYNAの最新機能
LS-DYNAはすでに20年以上にわたり進化し続けており、構造解析の分野における基本的な機能はほぼ完全に網羅しているといってもいいだろう。そこで最近は構造解析にとどまらず、複合領域あるいは多領域問題への対応が図られている。そのためには各種の連成解析機能を強化する必要があり、LS-DYNAとしては、多領域にまたがる多様な機能をひとつのモジュールにすべて組み込むという戦略の上に開発が進められている。
もうひとつ特筆されるべきことは、ハードウェアアーキテクチャの発展の過程において並列コンピュータが登場したことに対応して、早くからプログラムアルゴリズムの並列化へのコンバージョンがなされてきたことである。現在ではシリアル版に加えてSMP(共有メモリ)版、MPP(分散メモリ)版が正式な製品版として用意されており、主要メーカーのハードウェアプラットフォーム上における実用モデルを用いたベンチマークテストにおいて、劇的なスケーラビリティを実証する報告が多数公表されている。
現在リリースされているLS-DYNA V950に追加された機能の幾つかを順不同で示す。これらの機能の詳細については紙数の関係でここでは詳述できないので別途お問い合わせ頂きたい。
・陰解法非線形ソルバー(静解析、固有値解析)
・陽解法と陰解法をシームレスに組み合わせたスプリングバック解析機能
・境界要素法による流体・構造連成機能
・アワーグラスコントロールをもつ高速なシェル要素
・応力の2次精度アップデート
・生体物性モデル
・粘塑性ひずみ速度依存オプション
・圧縮/引っ張り特性の異なる弾塑性体
・アルミ用弾塑性体
・任意位置における変形体スポット溶接
・機構解析用ジョイント(ギア、ラックアンドピニオン等)
・フォーム材の初期応力定義
・2次元接触ロジックの強化
・要素ベースコンタクト(ピンボールアルゴリズム)
・接触予測アダプティブ(板成形シミュレーション用)
・2次元r-アダプティブ
・ビルトインダミーモデル
・etc...
3.電気製品落下解析への応用
最近では電気製品の構造設計に関して、動的な荷重や衝撃荷重を考慮した設計が求められるようになっている。その背景としては以下のような要因が考えられる。
まず携帯型の電子機器、いわゆるモバイル機器が急速に普及し、製品の落下による破損の可能性が大幅に増加したことである。ノートPCや携帯電話、PDA等は、精密な電子機器としては極めて苛酷な使用環境にさらされており、メーカーは通常の使用において起こりうる落下衝撃に備えた構造上の対策を検討しておかなければならない。
このような電子機器の落下シミュレーションの最終目標は、落下したときに製品の機能が損なわれないかどうかを確認することである。そのためには製品落下時においてどのような障害の発生が予測されるかを検討し、それらの障害を予測可能な詳細な有限要素モデルを作成する必要がある。
Fig. 1 Drop simulation of a simple cellular phone model (von Mises stress distribution)
Fig.1に簡易的な携帯電話の落下シミュレーションの例を示す(ミーゼスの応力分布)。このシミュレーションにより背面から落下した場合、最初にアンテナ収納部が接地するため、筐体に大きなねじり変形が生じることがわかった。内部のプリント基板を保護するためには筐体のねじり剛性を大きくする必要があり、このための必要最小限のリブを取り付ける最適な位置bVミュレーションにより決定することができる。
落下シミュレーションのもうひとつの大きなテーマは梱包材の衝撃緩和性能の評価、あるいは製品が梱包された状態での落下挙動の把握ということである。緩衝材としては発泡スチロールが多用されてきたが、最近は環境問題の観点から段ボール、パルプモールドなど天然素材を使用したものが注目されている。これらの梱包材はそれぞれ固有の非線形特性を有しているため、解析ソフトとしては物性を正確にあらわす材料モデルが必要となる。Fig.2に典型的な発泡スチロールの応力─ひずみ曲線を示す。Fig.3は発泡スチロールで梱包されたモニターの落下シミュレーションである。落下時にモニターに発生する加速度が許容値以下に抑えられるよう、発泡スチロールの形状が変更された。Fig.4に変更前(Type A)と変更後(Type B)の製品の、正規化された加速度波形を示す。
Fig. 2 stress-strain curve for typical 40 % forming rate expanded polystyrene
Fig. 3 Monitor drop simulation packaged with expanded polystyrene
Fig. 4 Normalized acceleration in the monitor with different two types of polystyrene initial state deformation
段ボールに関しては、エネルギー吸収が顕著でない部分に関してはシェル要素でモデル化しても問題はないが、段ボール自体に緩衝効果をもたせる場合は、板厚方向の圧縮変形によるエネルギー吸収が重要となるのでシェル要素として取り扱うことはできない。このような部分に関してはソリッド要素を用いる必要がある。Fig.5は段ボールのトレイで梱包された製品の落下シミュレーションである。段ボールは全てソリッド要素でモデル化されており、段ボールの特性を表わすため、異方性材料が用いられている。このトレイは二重底になっており、落下時に底部の段ボール間にある隙間により、製品が完全に床面に接地するのを防いでいる(Fig.6)。このように緩衝効果を考慮した梱包容器が落下した際に、設計時に期待された効果を示すかどうかをシミュレーションにより予測することが可能となる。
Fig. 5 Drop simulation of the product packaged with corrugated cardboard tray. initial state deformation
Fig. 6 Deformation of cross section of the tray model in drop simulation
4.まとめ
電気製品の耐衝撃性能に関しては、今後ますます厳しい条件が課せられてくることが予想される。これに対処するためには、製品自体に衝撃緩和性能を付加することが考えられ、そのための様々なメカニズムが比較検討の対象になるものと思われる。そのようなときにLS-DYNAによるシミュレーションは設計者に、実験だけでは得られない多くの情報と有用な知見を与えてくれるものと期待される。