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歴代部門長座談会
―まず,計算力学部門が設立されたいきさつを,ご紹介ください.
矢川(以下敬称略) 1986年に東京で国際計算力学会議(ICCM'86)が開かれ,計算力学に関わる日本の研究者の結束が高まったことや,当時,学会の中に本格的な部門制を発足させようという機運があったことなどがあげられます.また,個人的には,材料力学や流体力学といった伝統的な研究分野を横断的につなぐ研究組織が必要であると考えていました.
齋藤 当時,矢川先生の教科書を拝見し,構造の先生が熱流体のことを書いておられることに驚くと共に,分野が違ってもお互い理解することが重要であると感じました.私もICCM'86に参加したのですが,その頃から構造関係の方々とのお付き合いが始まりました。
松本 今や構造と流体を連成させて,両者を同時に解くシミュレーション技術が実用化されつつあります.そういう意味でも,部門を設立した最初のねらいが生きていますね.
白鳥 矢川先生や三好先生が学会の研究協力部会にたくさんの人を集めて,非線形構造解析などに関する産学共同研究を進めていました.このような活動が部門発足時の母体になった気がします.
尾田 現在の学会は部門中心に活動していますが,当時は材料力学部会などの委員会が中心でした.この部門の設立が非常にタイムリーだったと思います.
―その後の状況はいかがでしたか.
齋藤 私が部門長の頃は,矢川先生や三好先生が作られた路線も定着し,計算力学講演会を仙台で行った際も270件の発表,370人の参加者がありました.10年前の部門発足時には構造関係の発表が8割程度を占めていたのではないかと思いますが,私が部門長をしていた92,3年頃には流体と構造のバランスもとれてきていました.
この時,International Symposium on Highly-Advanced Computation(ISAC'93)を開きました.地球温暖化の研究など当時としてはかなり意欲的な内容であったために,残念ながら一般の参加者はやや少なかったのですが,このような少し先を見て活動するというのも計算力学部門では大切なことではないでしょうか.
白鳥 私は齋藤先生を引き継いだのですが,実質的には部門設立時から裏方の仕事をしておりました.三好先生が部門長の際に,部門の財政基盤を確立をするためにいろいろなセミナーを企画されましたが,そのお手伝いをしたことを覚えています.それから,ISACという国際会議の名称はアイザック・ニュートンを連想させる非常に良い名前だと思いまして,私も引き継がさせていただきました.私のときはエレクトロニクス・パッケージに関する国際会議を研究協力部会との共催として開きました.松本先生も継続されておりますが,10年目の節目にあたり,さらに発展させてもよいかもしれませんね.
松本 私が引き継いだ頃は部門の活動もすっかり成熟していたという気がします.ただ,少し前からMDのような分子論的な考え方,解析手法が注目されるようになりました.これは材料力学,流体力学,熱力学といった従来の分類にとらわれず,分子の動きを追いかければそのまま解釈できるというものです.計算機無しには科学の進歩がありえないという共通認識にいたる契機になったと思います.
ところで,分子動力学というのはポテンシャルをどう決めるかなど材料関係の研究者との協力が不可欠です.つまり,計算力学という立場で何かをやれば他の分野の方とのディスカッションが必要となり,それがまたフィードバックすることが大事なわけです.
矢川 せっかく機械学会というところに一緒にいるわけですから,他の部門と競争しつつ協力することが必要です.そのためには,計算科学に関する共通的な基盤を作ることと同時に少し先導的な冒険をする.失敗してもよいという意識でやった方がいいと思いますね.
―部門に登録されている方はどう考えているのでしょうか.
白鳥 前にニュースレターに書いたのですが,材料力学などの既存の分野は対応する講座が大学にあるのに対して,計算力学を第1に考えて研究しているという人はまだ少ないのではないでしょうか.大学の中に計算力学講座を設立し,専門的に研究する人を増やす必要があると思います.
それから,最先端の研究も必要ですが,パソコンでも3次元の解析ができつつある時代です.電卓やワープロ的な感覚で計算力学を使って設計する人が増えると思います.例えば,学会では敷居が高いといって参加しない人が市販のツールのユーザ会などにはものすごく集まります.ノウハウを知りたくて,熱気があります.このような人たちに部門としてどうアプローチするのか,モデリング技術やアプリケーション事例などを取り込む必要があるのではないでしょうか.
矢川 一方で,計算機が進歩して1億自由度の問題も近い将来解けるようになると期待しています.そうなったら何をしたらいいのか,1億自由度で計算したらどんなメリットがあるのか,きちんと説明する必要があります.
―最先端の研究と技術の大衆化が計算力学部門に期待されている2つの流れだということでしょうか.ところで,今年度の部門長である尾田先生は,どのようにお考えでしょうか.
尾田 今年は学会自体の100周年でしたので,関連行事を含めて着実にこなすことが必要でした.また,部門に興味を持つ人のすそ野を広げるために講習会を計画したのですが,ちょっとタイミングが合いませんでした.
学問的なことに関しては,連続体の解析に適した有限要素法が基本的な手法として存在するところに,MDに代表される離散的な手法が使われるようになり,これからは両者が互いに補完しあって進歩していくのだと思います.解析する側の欲望というのはどんどん広がっていますから.
それから,もっと人間活動や感性に関するもの,芸術やスポーツに関連した分野がこれから伸びていくと思います.今までの計算力学は見えるものを対象にしてきたのですが,例えば経済学のような,目にみえないものを対象にすることができるのではないでしょうか.
齋藤 統計関係の仕事をしている人で,向こう2ヶ月の牛乳の販売予測をシミュレーションしている人がいます.過去のデータをすべて入れて将来予測を行うわけですが,短期的な予測はよくあうようです.モデリングが確かであれば役に立つという実例だと思います.
白鳥 どうモデル化するかが計算力学にとって極めて重要なわけですね.現在,いろいろな分野の問題を集めて具体的な解析実例をまとめる委員会があります.計算力学の専門家でないエンジニアが,解析した結果のクオリティを客観的に評価する助けになるのではないかと考えています.
尾田 私は医学部の方のお手伝いもすることがあります.人間では生体実験ができませんから死んだ人の骨を使うことがありますが,どうしても条件が変わってしまいます.そこでシミュレーションで説明するわけですが,なかなか信用してもらえません.しかし境界条件をよく考えて,死体の骨の実験を説明できることを示せれば,医学部の人にも信用してもらえますし,これまで医学部ではできなかったことが計算でできるというメリットが出てくるわけです.つまり,シミュレーションというのはモデル化をちゃんと行えば非常に強力な武器になるわけです.
―計算力学は数学的に確立した方程式を用いているのですが,解くべき方程式としてどれを選ぶか,どのモデルを使うかということに関する物理的な直感の上に非常に信頼性の高いシミュレーションが成立するという不思議な面がありますね.
松本 計算する人は物理をちゃんと知っていなければいけないということです.一方で,計算力学が進歩するほど検証のための実験が大変になってきます.その時には,できるだけシンプルな素過程に立ち返り実験と計算を合わせる.そしてもう少し複雑な現象を解析し,統計量としては実験と合うという確認が必要になります.
白鳥 計算が進歩したおかげで今までは要らなかった材料データなどもきちんと測らなくてはいけなくなってきました.しっかりしたデータベースを作って下さいという要請だと思います.
尾田 シミュレーションが実験を育て,実験がまたいいシミュレーションを作らせるという,花と蝶の関係のような共生進化ですね.
齋藤 私は対象が実験室のスケールから大きくなっていった際に相似側が成り立つものか気になっていました.ヒートアイランド現象に関しては理学部に都市気象学という分野があり,モデリングなどもそちらを踏襲していましたが,なかなか良い答えが出ず,全部チェックしてみたわけです.従来のモデリングでは浮力の効果を表す際に定性的な係数を用いていましたが,もう一度実験をやり直して,浮力の効果を表すためにはこうモデリングすべきだということが分かり,計算がよく合うようになりました.計算力学を適用する際にはもっとチェックが必要だと思います.
矢川 実験と計算との関わりに関連して,遠からず90%が計算になるという論があります.物性値などもMDから求められるようになるのではないでしょうか.
齋藤 計算が進歩した結果として今わかっていること以外のわからないことが,また出てくる可能性もありますね.
松本 精度の問題もあります.みんなが精度を求める欲求が計算力学を発展させると思います.
―10年前は結果が出ることに満足していたのが,今は本当に使いたいという段階に来ていると言うこともできますね.
矢川 産業界,例えば自動車会社などでは,衝突実験を計算で代替するようになってきました.最近では乗っている人の指の関節までモデル化し,衝突の際の影響を調べています.
松本 そのうち乗り心地とか走行音がよいというような感性に関した設計も計算力学の対象になってくるかもしれません.
―感性までもモデル化する必要が出てくるわけですね.さて,計算力学に関連したプロジェクトなどについてお話していただけませんか.
矢川 科学技術庁が「情報と地球環境」をキーワードとして地球シミュレータというものを始めました.現在のスーパーコンピュータの100ないし1000倍の規模のスーパーコンピュータを5年間で作り,地球規模の現象の解明を図るものです.米欧では1990年頃から同様の計画が始まっていますが,日本もようやく始まったというところです.
尾田 私は生体シミュレータというものに関心を持っています.米国では人体の断面構造などのデータを蓄積し,内部構造を全てシミュレーションできるところまできています.いくつかの大学が共同でソフト開発を進めているのですが,日本にはないため,米国から買わざるをえません.当然,使いこなせる人もいません.生体シミュレータも国家プロジェクトにしてもらいたいのですが,医学系と協力して工学系も働きかける必要があるのではと考えています.
―ところで,部門の特徴と今後の方向付けについて御意見を伺えますか.
矢川 この部門の特徴として,大学よりも会社関係の方が多いのではないでしょうか.
白鳥 さっき言いましたように,大学に計算力学の専門家が少ないということと関係があると思います.企業の若い人にとって魅力的な企画を絶えず考える必要があります.
齋藤 伝熱のような伝統的な部門では,若い人の比率が減っていることが悩みの種です.将来のことを考えると,若い人や企業の人など多種多様な人が自分たちで企画して参加するという環境を作っていく必要があります.
―計算力学というのはシミュレーションが中心ですが,これから大きく展開するような新しいテーマはあるでしょうか.
白鳥 もの作りの現場に計算力学がどう関わるのか,議論する必要があると思います.
矢川 CADとCAEの連携,すなわち設計システム部門との連携を深めていく必要があります.
白鳥 部門間や部門と支部との共催行事も積極的に推進しましょう.
矢川 機械学会以外にも計算力学関係の部門を持つ学会はありますので,ジョイント・カンファレンス等も提案してよいのではないでしょうか.
―最後に,計算力学を発展させるために若い人に期待することをお話下さい.
矢川 従来の慣習にとらわれず提案型になってほしいですね.
尾田 現在は13の技術委員会がありますが,どんな委員会を作るべきか若い人に提案してもらって,「やりたい人はできますよ」というふうにしたらどうかなと思います.
白鳥 委員会の設立に関しては,今までは継続性が重視されていましたが,そろそろ自由に進めるいいタイミングだと思います.また,経験豊富な先生方からなるアドバイザリーグループを作ってほしいという意見もあります.部門長の責任で進めたらよいのではないでしょうか.
―本日はいろいろな御意見をありがとうございました.いただいた御意見を部門の今後に生かしていきたいと思います.これからも部門活動のご支援を宜しくお願いいたします.