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業績賞をいただいて
姫野龍太郎
日産自動車株式会社総合研究所
この度は計算力学部門より業績賞を頂き、恐縮すると共に、大変嬉しく思っております。私は1988年に自動車周りの流れの数値解析(CFD)で機械学会・奨励賞を頂きました。同じ研究テーマで励まされた上、業績を認めていただいたということで、本当に感謝しております。
私は大学の時、電気・電子工学を学んでいました。修士を終えて日産に就職してから流体の数値計算を始めました。大学の時の専門を話すと良く驚かれます。実際には大学の時もMHD発電や核融合発電などの数値計算をしていたので、それ程違和感無く、流体の数値計算に取り組むことが出来ました。特に最初はポテンシャル流れの計算から始めたので、これは電磁気の方程式と全く同じです。今井先生の流体力学の教科書は電磁気の本と似通っていて、私には親しみ深く学ぶことが出来ました。と言っても、剥離や非定常の渦運動などは電気からは縁遠く、黎明期だったからこそ一から取り組むことが出来、私のような変わった経歴の人間が賞を受けるまでになれたのだと思います。
良き指導者に恵まれたことも受賞の要因だと感謝しています。取り組んで最初の10年間ほとんど使いものにならなかったCFDをこれまでやってこれたのは先輩であり上司であった高木通俊さん(日産自動車)のお陰です。そして、宇宙科学研究所の桑原助教授の元に研究員として派遣して貰ったのが今回の受賞につながっています。桑原先生にはCFDの基礎から教えて貰い、本当に感謝しています。私が派遣されていた当時の桑原研究室は今CFDで活躍されている東北大の井上先生や中橋先生、大林先生、それに宇宙研の藤井先生、その他たくさんの方が出入りされ、にぎやかで活気に溢れていました。その中で、私はCFDを自動車空力に応用することと、非定常な流れ場の可視化に取り組んでいました。
CFDの応用の面では格子生成が最大の問題でした。1980年代半ばには楕円型の方程式を解いて格子を作る方法が主流で、初期格子分布やソース項を調整する試行錯誤の連続で、2次元ならまだしも、3次元の複雑な形状ではとても使えるものではなかったのです。そこで、まずCADデータから段階的に格子を作るマルチブロック変換の格子生成システムを作りました。このシステムはマックからヒントを得たプル・ダウンメニューを採用し、ハードウェアとしてはまだ珍しかったSGIのグラフィックワークステーションを使い、3次元の描画をローカルに処理するものでした。更に可視化用のコマンド類もメニューに組み込み、静止画とともに動画も処理できるような凝ったものに仕上げました。このあたりは当時同僚だった藤谷克郎君と一緒に作りました。1988年までにはほとんど完成し、スーパーコンピュータの能力向上と合わせて、やっと実際の設計に使えるものになりました。自動車の空気抵抗の予測誤差も5%以内と実用範囲内になりました。なお、私の計算に使った格子はほとんど佐藤早苗さんという方の労作です。本当に感謝しています。
ところで、デザイナーやマネージャーなど、流体の専門外の人たちに流れの様子を説明するとき、流れの様子をビデオで見せると非常に効果的です。時々刻々変化する3次元的な渦の様子は、見ていて飽きないファンタジーのようなものです。作るのは大変でしたが、CFDを理解して貰い、効果を実感して貰うのに本当に役立ったと思います。
今回の受賞にあたり、もう一つ評価されたことにインターネットを通じた活動、CFDnetがあります。ひょんなことから現在四日市大学の城之内先生から誘われてCFDnetというメーリングリストに入りました。そこに計算機ベンチマーク用のプログラムを提供し、ネット参加者で手近なマシンを調べ、結果を持ち寄るということをやりました。このベンチマーク・プログラムは非圧縮性流体の解析で出てくる圧力のポアソン方程式のカーネルです。PCからワークステーション、スーパーコンピュータまで走らせることができ、その演算速度をMFLOPS単位で調べてくれます。これが姫野ベンチマークと呼ばれ、流布しました。これまで実際の演算速度をMFLOPS(一秒間の浮動小数点演算実行回数)で出したり、パソコンからスーパーコンピュータまでを一元的に比較でき、自分でソースコードまで見ることができるベンチマークテストって確かになかったですね。
最後に、お世話になりながらここに挙げていない数多くの方々にお礼を申し上げます。また、このような賞が今後も若い研究者やエンジニアの目標となるように期待しています。