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第4回「地球科学における数学及び計算科学上の諸問題」会議報告
SIAM(米国応用数理学会)主催
奥田洋司(横浜国立大学工学部生産工学科)
中島研吾(三菱総合研究所)
中村 寿(高度情報科学技術研究機構)
(1)概 要
SIAM Conference on Mathematical and Computational Issues in the Geosciencesに出席した。この会議はSIAM(Society for Industrial and Applied Mathematics、米国応用数理学会)のGeoscience Avtivity Groupが中心となって1991年からほぼ2年おきに開催されており、今回が4回目にあたる。アメリカを中心に300名程度の出席者があり、発表論文は招待講演も含めて200以上であった。
Geoscienceということで大気、海洋循環も含めて非常に広範囲にわたっているが基本的にはGeologyに関わる研究が中心である。中でもHeterogeneous(不均質)な媒体の特性をいかに現実的なレベルで計算モデルにのせるかというスケールアップに関する話題が中心となっている。放射性廃棄物地層処分に関わる発表も多い。海洋、大気シミュレーションの他、最適化、オブジェクト指向関連のセッションもあった。
出席者のバックグラウンドを聞いてみると数学専攻という人が多く、数学的、理論的なアプローチが目立つ。逆問題、統計的予測などの数学的手法は、Geologicalシミュレーションの分野で不確定な現象や物性を予測するために始まったものであることとも関係があるのであろう。理論的な説明が中心で意外に計算例などは少なく、特に大規模計算や並列計算に関連したものはほとんどなかった。
次回は1999年3月にテキサス州サンアントニオでSIAMのParallel Scientific Computationに関する会議と続けて開催されるということである。
(2)スケールアップに関する問題
Geologicalなシミュレーションを実施する場合、物性に関する不確定性が問題となる。したがって膨大なケース数のパラメータスタディを手軽にできる必要がある。
Heteroginityの問題も含めていかに短い時間で解くことができるかが当面の課題である。放射性廃棄物の核種移行計算なども、差分法で100万~1億年単位の計算を実施することは容易でなく、結局は流れ場から選択チャンネルを抽出して一次元モデルを作り、ラプラス変換など解析的な手法を使用する場合が多い。このような場合線形問題しか解くことができない。このような分野にこそ大規模、並列計算技術を応用するべきであると考えられるが・・・たとえばランダムウォークのような並列化が容易な手法を超並列計算機で力任せに解くなどという発表が一つもないというのもまた寂しいものがある。スケールアップの手法としては物性の変動幅の高次のモーメントを考慮した手法が中心となっているようである。またフラックスによってメッシュ幅を変える適応格子法も一般的に使用されているようである。
興味深い発表内容としてはMultigrid Homogenizationに関するものがある。この手法はボン大学で研究されているもので、不均質(Heterogeneous)な多孔質媒体の物性を均質化(Homogenization)する際に、線形/非線形ソルバーの収束加速手法あるいは前処理手法として広く使用されている多重格子(Multigrid)法の概念を使用するというものである。計算手法は非常にシンプルで、細分化された格子の剛性マトリクスを粗い格子に変換していくというものであり、この変換(Prolongation)をどのように実施するかが重要である。現在は剛性マトリクスの特性に基づき、グリーン関数を使用してProlongation(用のマトリクス)を求めている。現在の手法では剛性マトリクスの逆行列を求めるのが困難であり、基底の選び方などにまだまだ改善の余地があるとしているものの、従来広く使用されてきたRenormalizationなどよりは良好な結果を与えるということである。この手法は基本的に解析対象に依存しない(Multigridを設定しておく必要はあるが)ため、適用範囲も広く注目すべき手法である。この発表が行われている会場は満員で立ち見もでるほどであった。サンディア国立研究所(SNL)とコロラド大学の共同研究として発表された研究は亀裂性媒体中の実行分散係数の速度に対する依存性を実験結果を計算結果にFittingすることによって求めるものである。15cm程度の亀裂性媒体の亀裂をSNLにある装置で測定し、代表的な亀裂に関して、一次元移流拡散方程式の結果と合致するように分散係数を求める。さらに三次元ランダムウォーク法のコードを使用して亀裂幅の変化を考慮した計算を実施し、測定結果と比較する。計算によって求められた分散係数をそのまま使用すると測定結果とは良好な一致を得ることができず、10%から25%程度の補正が必要であった。これは速度のプロファイルを放物面と仮定していたことなども原因である。亀裂の表面粗さを考慮して速度分布を調整すると結果は改善された。今回は飽和流れのみであったが将来は不飽和流れに関する研究も実施していくということである。このような発表が非常に多いのではないかと期待していたのだが、理論~計算~実験という流れになっているものは非常に少なかった。
(3)有限要素法関連
空間の離散化手法としては速度と圧力で内挿関数の次数を変えたMixed Formulationあるいはスタガード格子が広く使用されている。これは基本的にはダルシー則(非圧縮/非回転/非粘性/低速ナヴィエストークス方程式)を質量保存則と連立させて分離解法として解く場合の手法に関するもので、非圧縮性流体計算に使用されるスタガード格子(速度成分を辺上、圧力成分をセル中心で定義する)をMixed FEMと称しているようである。ガウス積分点で「超収束性」(Superconvergence)が成立し、質量保存に関する精度がよいという観点から使用されているようである。
そのほか、局所的に格子の大きさを変化させるためにマルチブロックを使用しているという内容のものもあった。ブロック間のインタフェースにはモルタル要素を使用している。
Least Square FEMに関する発表も1件あった。有限要素法は重み関数に形状関数と同じ関数を使用するガラーキン法が一般的であるが、ここでは最小自乗法による重み付けを実施した手法が紹介されている。この手法はHughes、Tezduyarなどによって主に流体解析の分野で最近使用されている手法である。この手法の特徴はガラーキン法に比べて安定であることと全体マトリクスが対称行列となることである。反復法ソルバーを使用する場合後者は特に重要な点であり、今後検討の必要がある解法である。
(4)海洋/気象シミュレーション
海洋/気象シミュレーションについては招待講演の中から紹介する。
R.Luettich(ノースカロライナ大学海洋科学研究所)による「Modeling Coastal Ocean Hydrodynamics Using Finite Elements」では、近海の非定常流動シミュレーションを有限要素法を使用して実施する手法についての紹介があった。台風を含む風の影響を考慮した近海領域を対象としている。
支配方程式は深さ方向に平均化したナヴィアストークス方程式(3D Baroclinic Equationsと呼んでいるが実際は2D的な扱いである)であり、質量保存式に時間に関する二次の微分項を付加することによって安定化を図っている。ちょうど波動方程式のような形になっているので、GWCE(Generalized Wave Continuity Equations)と呼んでいる。空間の離散化にはデローニ法による三角形要素を使用しており、水位の相対的変動の大きい沿岸部の格子を局所的に細かく設定している。事例紹介のうちのもっとも細かいメッシュは一辺25m程度である。
96年7月にノースカロライナ沿岸を襲ったハリケーンBerthaによる水位変化予測(実測値と非常によく一致している)などアニメーションも交えて豊富な解析事例が紹介された。計算された流れ場を利用してDrift Trackingを実施した計算をトレーサーを使用した実測値と比較した事例も紹介された。
J.J.Tribbia(NCAR)の発表は気象シミュレーションに関するもので「Statiscal-Dynamical Methods in Atmospheric Prediction」であった。もともと数学畑の出身らしい。本人の言によると「出席者がどのような話に興味を持つか」考えた末、統計的な予測理論の詳細に関する説明が実施された。 気象予測はリアルタイムの観測値を取りいれながら計算を実施し統計的な処理が必要となる。計算機の制約もあり、25-50程度の非常に少ない母集団をもとに時間/空間的な平均すなわちアンサンブル平均を取らなくてはならない。現実的な解を得るためには少なくとも100は必要である。本講演ではこのような場合(Small Ensemble Large Problems)の手法として、線形予測モデルに基づくSingular Vector Methodの詳細が紹介された。線形モデルを使用するのでいわゆる「Sudden Change」のような非線形挙動に対応できないという(ごくあたりまえの)説が紹介されていた。