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ス-パ-コンピュ-ティング96報告
矢川 元基(東京大学大学院工学系研究科システム量子工学専攻)
棚橋 隆彦(慶應義塾大学理工学部機械工学科)
大久保誠介(東京大学工学系研究科地球システム工学専攻)
西田 磯春(神奈川工科大学機械システム工学科)
奥田 洋司(横浜国立大学工学部生産工学科)
中村 寿(高度情報科学技術研究機構)
秦 万美子(高度情報科学技術研究機構)
スーパーコンピューティング会議は今回で9回目を迎え、米国ペンシルベニア州ピッツバーグで11月17日から22日にかけて開催された。会議参加者は約4700名との発表があった。昨年のカリフォルニア州サンディエゴでの会議の約5500名よりもやや少ない感じがある。今回の話題としては、これまでHPCCが改組されること、政府プロジェクトとして、DOEのASCIが進み概要が見えてきたこと、さらにDODのHPC近代化プログラムなど計算科学への重視が目立ったことが上げられる。また、本年も恒例のGordon Bell賞には3年連続で航技研の数値風洞、東大のGRAPE4が2年連続で受賞し、日本のHPCの実力を見せた。本報告では、会議を通じて見えてきたこと、印象等を参考として供したい。
1.HPCCプロジェクトの発展的改組
HPCC計画も1996年で5周年を迎え、1997年度からはHPCC計画をCIC(Computing, Information and Communications)R&Dプログラムに発展的に改組されるとのことである。1997年度のCICの主要な研究分野は以下の5つである。・High End Computing and Commmunication; HECC、・Large Scale Networking ; LSN ・High Confidence Systems; HCS、・Human Centered Systems ; HuCS、・ Education, Training and Human Resources; ETHRであるが、これらの枠組みは従来のHPCCと大きく変化するものではないらしい。しかし、新しいCICでは、HPCC計画の「グランドチャレンジ」として先端的な大規模、複雑系の計算科学の確立という指向を受け継ぎつつ、広範囲の情報処理技術を包括して汎用的で広範囲の利用を想定した技術にも目を向けるという姿勢が見られる。予算総額は約1040M$と前年とほぼ同額である。HPCC計画およびCICの責任者のJ.Tooleは今後の重要な点は、「長期にわたる継続的な予算投資」、「先端研究の推移、進展」、「政府-産業界-学会の新しいパートナーシップ」そして「ユーザー、管理者及び研究者の連携」等と述べ、さらなる計算科学の推進を呼びかけた。
2.政府プロジェクトの話題
パネルセッションは最新の話題を絞り、様々な角度から議論を進めるため、傾向と課題を把握する上で興味深いものである。今回は、ASCIプロジェクトとDODのHPC-Modernizationについてのパネルセッション概要を述べる。
1) ASCIプロジェクト
このプロジェクトは本来クリントン政権の政策である核実験の数値シミュレーションによる代替が目的ではあるが、他分野への技術応用伝播も重要な観点であるようだ。基本的な考えは、汎用の最高性能の並列計算機の技術開発を促しつつ、3D Full Physcis, Full-System Applicationを確立するものである。国立研究所のLLNL,LANL,SNLは、それぞれPacific-Blue (IBM), Mountain-Blue (Cray-SGI), Red(Intel)の並列計算機を開発導入するが、一つの目的でシームレスに研究する体制をとり、最大10GB/sの通信性能をもつネットワークで各研究所を結び最高性能の並列計算環境を共同で利用するとしている。また計算機性能として2004年までに100 Tera Flops, 50 Tera Byteを段階的に開発するとしている。アプリケーションの実行速度では10年間で約105倍の向上を目指しているが、計算処理速度では103倍に留まるため、あとの約100倍はアプリケーションソフトの性能等で稼ごうとしている。各研究所とも規模にして現在の100から1000倍の問題を扱おうとしている。計算対象の多くは不明だが、例えばLLNLでは5123格子での乱流の直接計算、SNLでの108格子での容器の衝突計算等が挙げられる。新傾向として有限要素法に分子動力学による金属疲労のマイクロメカニクスモデルを組み合わせた解析、流体-構造連成問題等の3次元解析等の実用化もある。今後とも、このHPCまたCICプロジェクトの大きな牽引になると思われる。
2) DODのHPC-Modernization
ACSIの様な明確な計画は示されなかったが、ポテンシャルの高いDODの研究機関の取組だけに興味深い。対象分野として、流体・構造などの計算力学、化学、物性科学、情報、通信、気象、環境、等広範囲の分野でのソフトウエア中心の開発を指向するものである。
3.その他の話題
1)並列計算機:
毎年大手の並列計算機各社が最新機を出展し、盛況であった展示会はやや勢いが薄れた感もあるが、僅かながらも新型機の登場もありこれでまでの雰囲気は何とか保てたようだ。こうした中で、日本のスーパーコンピュータの性能の高さが、出席者に改めて認識された様だ。これは、欧州中期気象予測センタ-(ECMWF)でのVPP700の性能を実測評価したもので、現行のC90に比較して高い性能であることを示した結果となり、発表後、当該機の展示ブースには多くの人で賑わった。
2)アプリケーション研究:
計算力学では、NASAを中心とした航空宇宙分野に加え、地球環境に関連し、気象・海洋・マントル対流等の研究成果の進展も目立った。一方、並列計算機を駆使した粒子法を用いた大規模スケールの分子動力学や分子シミュレーションによるマイクロメカニクス構造などの研究成果などが見られた。並列計算アルゴリズムの観点から、全体的な傾向、特徴は、・航空機、自動車等の分野では非構造格子が定着、・気象分野ではベクトルパラレル計算機が広く利用されている、・適応格子、動的負荷分散などはMPPではかなり一般化して来ていること等が見えてきた。
3)ツール、言語動向等:
MPI-2及びHPF2.0の規格が発表された。MPIではプロセスマネージメント、一方向通信、I/Oの円滑化、F90/C++との結合などが可能となる。時代の流れとともにPVMからMPIへの移行は広がりつつあるようだ。
4)その他:
SC'97は本年11月に米国カリフォルニア州サンノゼ市で開催される予定である。本会議は米国のみならず世界のスーパーコンピューティング技術の先端動向や米国の科学技術政策をも垣間見ることができるところから、専門家に限らず政策立案者や管理・経営層にも有意義なものと思われる。開かれた会議であり、多くの人が興味を持てる会議でもある。