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大学研究室紹介 実験と計算のはざま
河野俊一
山口大学工学部機械工学科振動研究室
私共の研究室は、斎藤先生、桜本先生と私を含め3人の研究スタッフと博士1名、修士8名および大学4年生8名で構成されています。主として私が衝撃、斎藤先生が振動を研究しています。最近では、衝撃解析の興味の対象も金属からプラスチックに移り、私どもの研究室では重要なテ-マの一つに成長していますので、プラスチック関係を主として、悪戦苦闘している様子を紹介させていただきます。
プラスチック研究の切っ掛けは、パソコンなどの筐体強度設計用の材料特性収集からです。企業間の差はあると思いますが、匡体を落下させたときに割れを生じてはならないという暗黙の了解があり、金属の延長で解決できるものと軽い気持ちで望んだのが泥沼化の始まりでした。ご存知のようにプラスチックのミクロな変形形態は金属と異なっており、また我々が日常経験する範囲内で速度および温度依存性が高い材料であるので、これを計算の俎上に乗せることは並大抵ではないと思いました。さらに、人工膝関節の強度を研究に加わえると、皿および関節間の緩衝材(スペ-サ-)として用いられている超高分子量ポリエチレンの摩耗、強度および経年変化等が問題となってきました。人によって異なりますが、いったん人工膝関節を装着すると、オ-バ-ホ-ルなしに10年間以上使用に耐えられなければなりませんが、これを現実の産業機械と比較すると、非常に過酷な条件下にあるといえましょう。歩行あるいは階段の昇降時には、絶えず摩擦を伴う変動荷重が作用しており、また、足の不自由な人は思いがけない動作をするので衝撃的な荷重が作用することも十分予測されます。事実、プラスチック製スペ-サ-の変形、破断が医学誌に報告されており、スペ-サ-に作用する荷重の分析および形状の最適化、プラスチック材の変形挙動の解析等は、高齢化に向かう我が国では社会に貢献する度合いが大きいと思われます。
この問題を解決するためには、実験と解析の両面から変形現象を解明していく必要があると思いますが、まず実験では機械的性質の基本である単軸引張・圧縮実験による応力-ひずみ特性を正確に把握しておく必要があります。しかし、プラスチックは粘弾性-粘塑性的性質を有しているので、応力-ひずみ曲線を正確に得ることは意外に困難であり、特にひずみの計測には苦慮しております。例えば、応力の立ち上がり部分を正確に計測しようとすると、高速では市販の変位計は振動を生じ、またひずみゲ-ジは接着剤との化学的材質変化によって使用できません。現在、小型のスライド抵抗を利用した変位計を自作し、何とか実用化にこぎつけました。応力解析にはFEMを用いていますが、そのためには構成式の構築が必要となり、分子動力学は難解なので従来のスプリング、剛塑性等を組み合わせたモデルを使用し、その有効性を検討中です。しかし、力及ばずで数値解析結果と実験結果とは何か感覚的に異なったものがあり、その原因を究明中です。今までは計算では現象を完全にフォロ-できず、80%程度合っていれば良しとしていましたが、差の20%の中に重要な定理が潜んでいるのではないかと思い、現象の観察⇒力学モデルの構築⇒FEMによる数値解析(現象の再現)が閉ル-プとなるよう努力しています。
他の研究テ-マとして、振動を利用したエネルギ-の蓄積、ハニカム構造板の振動および破壊、自転車の振動解析、ベルの振動解析等があり、いずれも実験と計算のはざまで揺れ、完全な閉ループ化は遥かかなたにありますが、研究の難しさと共に喜びを感じている今日この頃です。