23. マイクロ・ナノ工学

23・1 マイクロ・ナノ工学概観

蒸気機関による工業化の第1次産業革命,電力による大量生産の第2次産業革命,電子・情報技術によるオートメーション化の第3次産業革命を経て,現在はIoT,ビッグデータ,AIなどを駆使した「つながる化」の第4次産業革命の真っただ中にいる.この第4次産業革命を推進するため,ドイツでは「Industrie 4.0」,フランスでは「Industrie du Futur(産業の未来)」,米国では「Industrial Internet」,中国では「中国製造2015」を掲げ各国とも積極的な推進を行っている.日本でも「第5期科学技術基本計画」の中で狩猟社会(Society1.0),農耕社会(Society2.0),工業社会(Society3.0),情報社会(Society4.0)に続く「Society5.0(超スマート社会)」の実現を目指すことを謳い,この「Society5.0」を実現するために,経済産業省が2017年3月に日本の産業が目指す姿として「Connected Industries」を発表した.「Connected Industries」は様々なつながりにより新たな付加価値が創出される産業社会であり,従来ともすると独立あるいは対立関係にあったモノとモノ(IoT),人と機械・システム,人と技術,国境を越えた企業と企業,世代を超えた人と人,生産者と消費者など様々なものがつながることで,新たな付加価値を創出し,社会課題を解決するような産業のあり方を目指すものである.特に,日本の強みを活かしたリアルデータの活用を目指している.リアルデータの取得のためにはセンサが重要な役割を果たすため,センサ製造に不可欠なマイクロ・ナノ工学は今後益々重要になってくるものと思われる.

先ずはマイクロ・ナノ工学が大きな役割を果たしているMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)産業について概観する.Yole Development [1]のMEMSデバイスの2016年売上げ及び2017年~2022年の売上予測を図1に示す.図1に示すように,2016年のMEMSデバイスの売上げは117億ドルであり,デバイスとしては,RF–MEMSデバイスの売上げが売上げ第1位の圧力センサに迫ってきている.図2に主要MEMS企業の売上げの推移を示す.Boschが継続首位ではあるが,売上げは4%減少し,ST Microelectronicsが売上げを17%減少させ,2位から4位に転落した.Texas InstrumentsはDMD(Digital Mirror Device)が堅調に推移して3位をキープしている.一方RF–MEMSであるモバイル向けBAW(Bulk Acoustic Wave)フィルタが急成長し,Broadcom(Avago)が40%増加し,2位に上がるとともに,QORVO(Triquint)が30%増加し,引き続き5位ではあるがST Microelectronicsに迫る勢いで伸びてきている.日本企業では8位のデンソーは増加傾向にあるが,11位のパナソニック及び14位のキャノンは減少傾向になっている.2017年~2022年の売上予測では,Society5.0で必須の4G(第4世代移動通信システム)のRF系の複雑化,4G/5G向けのRF(BAW)フィルタの市場ニーズの継続した高まりから,Yole Developmentでは図1に示すように,RF–MEMSは引き続き35%/年以上の成長を見込んでおり,MEMSデバイス全体でも14%/年の成長を見込んでいる.また,最近の注目分野のスマートスピーカー,自動運転,VR(Virtual Reality:仮想現実感),AR(Augmented Reality:拡張現実感)等でもMEMSデバイスは中心的な役割を担うことが期待されている.このように,MEMS分野は引き続き成長分野になっていると言える.

図1 MEMSデバイスの売上予測
図1 MEMSデバイスの売上予測
図2 主要MEMS企業の売上推移
図2 主要MEMS企業の売上推移

次に,マイクロ・ナノ工学の代表的な国際会議であるMEMS2017(The 30th IEEE International Conference on Micro Electro Mechanical Systems@米国,ラスベガス)とTransducers2017(The 19th International Conference on Solid-State Sensors, Actuators and Microsystems@台湾,高雄)の投稿状況から2017年のマイクロ・ナノ工学の学術的な傾向に関して概観する.MEMS2017の投稿件数は874件(2016年:835件)で,2016年より約5%増加した.採択件数は全体で347件(2016年:324件),採択率は40%(2016年:39%)で2016年とほぼ同程度であった.2017年の基礎研究と応用研究の比率も38:62であり,2016年の39:61とほぼ同程度であった.分類別でみると,件数が多かったのはFabrication Technologies(non-silicon)(69件),Fluidic(51件),Cells & Subcellular components(41件)であった.2016年より増加が目立ったのはFabrication Technology(non-silicon)(51件→69件)とCells & Subcellular components(25件→41件)であった.逆に,減少が目立ったのはDesign and Modeling(50件→30件)とMechanical Sensor(80件→44件)であった.分野別の増減は2年毎に変化する傾向にあるため,一概には言えないが,研究としてはシリコン系から流体,バイオを含む非シリコン系に2017年は重きが置かれているように思われる.一方,Transducers2017の投稿数は1 054件で前回(2015年)の1 254件より16%減少した.これは開催場所の影響も大きいと考えられる.採択件数は535件(2015年:573件)で,採択率は50.8%(2015年:45.7%)であった.2017年の基礎研究と応用研究の比率は19:81であり,2015年の21:79とほぼ同程度であった.MEMS2017と比較するとTransducers2017の方が基礎研究の投稿割合が半分程度になっている.Transducersでは最近は基礎より応用に重きが置かれる傾向にあることが分かる.分類別でみると,件数が多かったのはBio Sensor(40件),Mechanical Sensor(28件),Radiation/Material Substrate Sensor(23件)であった.2015年より増加が目立ったのは前回減少したBio Sensor(21件→40件,前々回:35件)とRadiation/Material Substrate Sensor(13件→23件,前々回19件)であった.逆に,減少が目立ったのは前回増大したFluidic,(28件→13件,前々回:21件)とMedical Systems(23件→8件,前々回:12件),Power-MEMS(27件→12件,前々回:5件)であった.2015年にホットであったMedical SystemsとPower-MEMSが2017年は少し沈静化しているように思われる.

国内においては,マイクロ・ナノ工学部門主催による日本機械学会マイクロ・ナノ工学シンポジウムがこの分野の新しい研究成果が一同に集まる機会であり,電気学会や応用物理学会などと学会を跨いで多数の研究者が参加し,活発な議論が引き続きなされている.MEMS産業が益々成長する中,産学連携の研究開発を推進し,この分野が新しいSociety5.0を支える基幹技術として益々活性化することを期待したい.

〔武田 宗久 マイクロマシンセンター

23・2 三次元の微細形状創製技術

日本機械学会の論文4誌(日本機械学会論文集,Mechanical Engineering Journal,Mechanical Engineering Letters,Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing),精密工学会誌,CIRP Annals, Precision Engineeringを中心に,三次元微細形状創製技術に関連する2017年度の論文について調べた.

マイクロ機械加工に代表される除去加工に関しては,機械加工プロセスにレーザや振動などを援用したハイブリッド加工に関する研究成果が目立った.例えば,選択的にレーザで材料を加熱しながらエンドミル加工でガラスを除去する手法[1],楕円振動を援用した切削によるマイクロストラクチャの創成手法[2],超音波援用研削による表面微細構造の創成手法[3]などに関する成果が報告された.加工対象はガラスやシリコンといった通常の機械加工ではクラックが生じてしまう硬脆材料が中心で,延性モード領域を増やし効率的に加工することが研究の主眼に置かれている.その他にはダイヤモンドを加工対象とする論文も目立った.FIBと遠紫外線レーザを併用したダイヤモンド表面のサブマイクロパターニング[4],純鉄の反応を応用したプレス転写による微細形状創成[5],など特殊加工の併用技術についても報告があった.また,微細加工を行うためのダイヤモンド工具の走査線加工技術[6],逃げ面に微細表面構造を有したCBN工具の開発[7]など微細加工用の工具や工具へ微細形状を施す研究も多く見られた.

微細構造を対象とした付加加工に関しては,加工現象の解析から新たな積層プロセスの開発まで多岐にわたる成果が報告されている.様々な造形方式がある中,電子ビームまたはレーザビームを用いたSelective Laser Melting(SLM)に関するものが多かった.解析的視点からは粉末床の積層厚さが造形物の品質に及ぼす影響[8],部品構造設計の観点からは,トポロジー最適化と積層造形を組み合わせたラティス構造の最適化[9]などが目を惹いた.また,金属材料の微細構造をターゲットにした新たな積層造形法として,フェムト秒レーザによるパラレルレーザマイクロミリングと電気化学デポジションを応用した造形法[10]が提案されている.サブミクロンの金属構造を造形可能である点は非常に興味深い.応用研究として,パウダージェット加工におけるハイドロキシアパタイト膜形成技術による歯科治療[11]などの研究成果も報告されている.

微細加工機械に関して,DUVレーザによる微細レーザ加工機[12]は技術的に面白い.レーザによるヘリカルドリリング加工法により最小直径10 μmでアスペクト比10の微細穴加工も可能である.この技術に対して2017年度日本機械学会学会賞(技術)を受賞している.

〔柿沼 康弘 慶應義塾大学

23・3 マイクロ・ナノマテリアル

1966年に上映された映画「ミクロの決死圏」は世界初のSF映画と称され,脳内出血を起こした科学者を救うために医療チームを乗せた潜航艇をミクロ化して体内に注入し,脳内部から治療していくという,当時としては斬新なストーリーの映画である.この映画に登場する潜航艇は元祖マイクロマシンして位置づけられるが,目覚ましい進化を遂げている現代の半導体製造技術を用いれば,これを実現できそうなところにきている.すなわち,今は,数ミクロンサイズの機械部品をもつMEMSやサブミクロン~ナノサイズの超微細形状をもつNEMSの量産が可能な時代にある.しかし,潜航艇を作ることはできても,実用に向けて“壊れない”ものとするには材料ならびに機械設計に関する豊富な知識と優れた技術が必要で,微小材料の基礎研究が重要な位置を占める.つまり,小型デバイスの性能・信頼性向上には構成材料の使用寸法下での材料物性計測が不可欠であり,得られた材料物性をできるだけ正確に設計に反映させることが“壊れない”潜航艇実現の第一歩となる.

2017年度の日本機械学会年次大会における「マイクロ・ナノ機械の信頼性」セッションでは,マイクロ・ナノマテリアルの“信頼性”に係るトピックスとして,神谷らによる「単結晶シリコンの疲労過程における結晶すべり変形の電子線誘起電流観察」[1],安藤による「単結晶シリコンのき裂治癒による破壊強度変化」[2],伊奈らによる「Al合金薄膜のSEM内疲労き裂進展試験」[3],米谷らによる「顕微ラマン分光法による薄膜シリコンメカニカル構造体のひずみ検出特性」[4],張らによる「プラズマCVDによりDLCを全面被膜した単結晶シリコンマイクロ構造体の引張特性に及ぼす成膜バイアスの影響」[5]等の発表があった.これらはいずれも小型デバイス構成材料の微小寸法下での物性解明を目指した研究であり,微小材料評価には高度な実験技術の確立が不可欠なことを示している.また,マイクロ・ナノマテリアルの“機能”に係るトピックスとして,土屋らによる「熱駆動SOI-MEMSを用いたへき開破壊によるナノギャップ創製」[6],太田らによる「巨大磁気抵抗効果を用いた歪みの検出」[7],金築らによる「瞬間はんだ接合部に及ぼすAlNi多層薄膜の自立化の効果」[8]等があった.これらはいずれも材料や構造をナノ化することで生じる新たな物理現象を使った応用技術に関する取り組みである.ナノ材料固有の現象は実に面白く,新現象発掘を目指すユニークな研究はこれからも十分期待できる.

MNC2017やSSDM2017をはじめとする国際会議でもこの分野の研究報告が活発になされた.例えば,A. Uesugiらによる「Effect of Ge Concentration on Poly SiGe Mechanical Properties」[9]やH. Suzukiらによる「Growth of Suspended Graphene Nanoribbons and its Optoelectronic Application」[10],T. Yamadaらによる「Domain Formation in Pb(Zr, Ti)O3 Nanorods Driven by Depolarizing Field」[11]等があった.MEMS技術を用いて薄膜やサブミクロン~ナノサイズの材料試験片を作製し,新たな物理現象を得ることは微小材料試験研究における最近のトレンドである.

一方,次世代のフレキシブルデバイスへの応用が期待されているカーボン材料では,A. Takakuraらによるカーボンナノチューブの機械物性のカイラリティ依存性を評価した発表は注目に値し,宇宙エレベーター建設実現に向けた第一歩となる大きな成果である[12].他にはグラフェンやシリセン等のシート状ナノ材料の物性とフレキシブルデバイス応用に関する研究も多く見られた.マイクロ・ナノマテリアル研究では材料を作る技術と計測・評価する技術に係る研究があり,これら双方の技術レベルの向上がこれからの同分野の基礎研究ならびに応用デバイス開発を支えることは言うまでもない.すなわち,材料,加工,計測,分析等の基礎技術のボトムアップとそれぞれの融合がマイクロ・ナノマテリアルの未知の物性解明と応用研究には大切であり,アクティブな研究者同士の研究領域の垣根を超えた密なコラボレーションとその先のイノベーション創発に期待する.

〔生津 資大 愛知工業大学

23・4 マイクロ・ナノ熱流体

マイクロ・ナノスケールにおける熱流体の振る舞いは,様々なスケールでのサイズ効果が発現することが知られており,また,多くの超小型の物理化学センサやバイオ・医療診断機器やデバイスの内外の熱・物質輸送を支配することから,盛んに研究開発が行われている.2017年は,熱伝導を司る原子・分子の振動であるフォノンの伝播をナノ結晶で制御できることが実験的に初めて観察され[1],これまでは理論や数値計算で予測されていたフォノン制御が実現されるという進歩があった.また,流体分野では,3Dプリンティング技術のマイクロ流体デバイス応用も進み,数十μmスケールの流路プリント技術に関する論文,[2]ペーパー分析マイクロ流体デバイス設計用のオープンソフトウェア[3]など,今後の急速な産業化への発展が望まれる時代が到来しているといえる.

日本機械学会発行の論文誌において,マイクロ・ナノ熱流体に関連した論文は,固体高分子型燃料電池の高分子膜内における電気浸透流[4],微小液滴噴霧[5],MEMS拡散センサー内部光学素子の伝熱[6],精子運動の周囲流体の影響[7],椎間板内での高分子拡散の計測[8],血管内での血球損傷の数値予測法[9],微細管でのメタノール水溶液の相変化[10],マイクロ流路内非ニュートン流体の気液二相圧力損失計測[11],精子選別用マイクロ流体デバイス[12],希薄気体流でのトポロジー最適化[13],マイクロ流体温度計測[14],磁性体薄膜形成過程のシミュレーション[15],マイクロ流体デバイスでのがん細胞捕捉[16]などが見られ,他にもナノ粒子懸濁液のマクロスコピックな熱流動に関する論文も何件か見られる.

国内での講演会としては,本部門主催の第8回マイクロ・ナノ工学シンポジウムが開催された他,9月に埼玉で開催された年次大会ではワークショップやOSが企画され,多くの講演が行われた.また,熱工学・流体工学部門においては,日本と韓国の機械学会の熱工学,流体工学部門の合同会議である,The 9th JSME-KSME Thermal and Fluids Engineering Conference(TFEC9,第9回日韓熱流体工学会議)が開催され,マイクロ・ナノ熱流体に関するセッションが企画された.

今後,マイクロ・ナノ熱流体分野について,微小デバイスとしての医療診断分野,ライフサイエンス応用はますます加速し,単一細胞分析や細胞内物質解析[17]などの高度化に加え,産業化がより進んでいくものと思われる一方で,原子間,相間など様々な界面現象を含んだ熱流体現象について,分子動力学などの数値計算と実験が比較的近いスケールで現象を議論できるようになってきており,応用を底から支えるような進展を見せることが期待され,産業的・科学的の双方からのアプローチにより発展していくことを期待したい.

〔元祐 昌廣 東京理科大学

23・5 バイオ・医療MEMS

2017度は,MicroTAS技術の分析機器への応用と産業化の世界的な流れ,およびペーパーフルイディクスや3Dプリンティングといった,時代の流れに沿った新しい潮流を紹介した.いずれも,バイオ・医療MEMS技術の応用範囲がますます広がる方向を後押ししているといえる.2018度もその流れに大きな変化はないため,本稿では特に国内の関連学会での発表に着目し,萌芽的な内容を紹介したい.

2017年10月に広島国際会議場で開催された第8回マイクロ・ナノ工学シンポジウムおよび第34回センサ・マイクロマシンと応用システムシンポジウムは,一般講演が全てポスターセッション形式で行われた.前者のシンポジウムでは130件超の発表があり,うち3~4割がバイオ・医療MEMS関連の発表であった.マイクロ流路等を用いた実用的な技術として,EWOD(Electrowetting on dielectric)による液滴操作技術[1],細胞の局所刺激デバイス[2],細菌細胞の単離と破砕のためのデバイス[3],ナノスリットによるDNAのオンチップ濃縮デバイス[4]などの発表があった.それぞれ,単一細胞や単一分子の解析を目的とした技術開発であり,高効率化,低コスト化,操作の簡素化といった方向性への開発が進むと考えられる.その一方で,機械学会のマイクロ・ナノ工学部門においては,ものづくりをベースとした研究者が多いコミュニティならではの特徴的なテーマがみられる.ひとつは脂質二重膜を人工的な生態模擬インターフェースや細胞模擬反応場として利用するものである.球状の脂質二重膜構造(リポソーム)[5]は細胞やオルガネラの区画と同様に,膜融合や膜分裂といった物理現象を誘起させることで,動的な反応場を構築することができる[6, 7].もうひとつは,水性ゲル(ハイドロゲル)を使った要素またはシステム開発である.横溝らは,アルギン酸ゲルにカチオン性ナノ粒子を塗布して接着剤として利用し,三次元構造を組み立てた[8].尾上らのグループは,機能性ハイドロゲルを巧みに利用して,ゲルの膨潤に起因するひずみ[9]や化学物質[10]を検出するデバイスを開発している.これらの基礎研究の積み重ねが,将来の新しいニーズの解決策となることを期待したい.医用デバイスとしては,血圧脈波[11]や疲労[12]検出デバイスに関する発表があり,実用化に向けた開発研究が着々と進行している.

平行して行われたセンサ・マイクロマシンと応用システムシンポジウムでは,特に細胞の組織化に関する研究の進展が顕著であった.血管構造や肝組織の再構成技術,細胞シートの共培養技術などの研究結果が披露され,再生医療や細胞組織のアッセイ系への展開が期待される.同じポスター会場で発表が行われ,活発な議論が展開された.

〔鈴木 宏明 中央大学

23・6 IoT

IoT(Internet of Things: もののインターネット)は,あらゆるモノをインターネットで結ぶということを意味し,IoE(Internet of Everything)などとも呼ばれている.物理的には全てのものがインターネットを介して通信できる装置を備えていることを意味し,さらには通信によりやり取りする何らかの情報を保有しているか発信することを意味している.

上記の観点からすると現在,最もこれを体現しているのはスマートフォンである.スマートフォンには加速度計,温度計,圧力計,近接センサ,光センサ,電波センサなどが搭載されており,GPSと地図データを合わせて使えば個別のスマートフォンそのものが相当なビッグデータを保有していることになり,それらが何億台と集まるセンタマシーンを保有している会社は既に超巨大なビッグデータ会社と言っても良い.これらのデータを何の役に立てるかは応用する側に依る.勿論,スマートフォンを保有する本人が一義的に受益者となるのであろう.一方でフェースブックでの個人データがイギリスの会社に渡り,米国の大統領選挙戦略,戦術に使われたことなどが2017年~2018年にかけて明らかになり将来のIoT使用法の悪例を連想させる.

IoTが従来のRF-IDタグの概念と進歩していると思われる所は,センサネットワークであり,ものにセンサを取り付け,あるいはセンサそのものがインターネットと接続され,工場設備のメインテナンス・オペレーションの低コスト化や高効率化および地球環境保護などの目的で使用されることである.特に前者では,米国ではIndustrial internet,ヨーロッパではドイツを中心にIndutrie 4.0と称されて,製造業の革新を目指し,各種工場設備のメインテナンスなどに用いられようとしている.日本では,サイバー空間とフィジカル空間(現実社会)が高度に融合した「超スマート社会」を未来社会Society5.0として2016年1月に閣議決定された第五期科学技術基本計画にて規定し,欧米に対抗しようとしている.しかし何れも,まだ緒についたばかりであるが,いくつかの例も見られる.例えばGEではジェットエンジンに各種のセンサを取り付け,地上の基地に居ながらにして飛行中のジェットエンジンのセンサ情報により状態を把握している.これらは未然の事故防止や欠航などの防止に役立っており,コスト削減と信用力向上に大きく役立っていると言われている.センサネットワークにかかわるマイクロセンサに関連する国際会議は,IEEE Solid-State Sensors, Actuators, and Microsystems(Transducers),IEEE Micro Electro Mechanical Systems(MEMS),日本機械学会Int. Sym. Micro-Nano Science and Technologyなどであり,国内会議では本学会の他に電子情報通信学会,電気学会,応用物理学会などで発表が多い.この他,ビジネス,技術等の多方面から総合的にMEMS Engineer Forum(毎年開催),Trillion Sensors(適宜開催)などで議論されている.

〔桑野 博喜 東北大学

23・1の文献

[ 1 ]
Yole Development, Status of the MEMS Industry 2017, p65, p40.

23・2の文献

[ 1 ]
Y. Ito et al., High-efficiency and Precision Cutting of Glass by Selective Laser-assisted Milling, Precision Engineering, Vol.47,(2017)pp.498–507, DOI: 10.1016/​j.precisioneng.2016.10.005.
[ 2 ]
J. Zhang, et al, Sculpturing of Single Crystal Silicon Microstructures by Elliptical Vibration Cutting, Journal of Manufacturing Processes, Vol. 29(2017)pp.389–398, DOI: 10.1016/​j.jmapro.2017.09.003.
[ 3 ]
B. Guo, Q. Zhao, Ultrasonic Vibration Assisted Grinding of Hard and Brittle Linear Micro-structured Surfaces, Precision Engineering, Vol. 48,(2017)pp. 98–106, DOI: 10.1016/​j.precisioneng.2016.11.009.
[ 4 ]
N. Kawasegi et al., Sub-micrometer Scale Patterning on Single-crystal Diamond Surface using Focused Ion Beam and Deep Ultraviolet Laser Irradiations, Precision Engineering, Vol. 50,(2017)pp.337–343, DOI: 10.1016/​j.precisioneng.2017.06.007.
[ 5 ]
井本祐司, 閻紀旺, 純鉄金型を用いたプレス転写による単結晶ダイヤモンドへの微細形状創成, 精密工学会誌, Vol.83, No. 8,(2017)pp.770–775.
[ 6 ]
仙波卓弥, 天本祥文, 角谷均, ナノ秒パルスレーザを用いたナノ多結晶ダイヤモンド製ノーズRバイトに対する走査線加工技術, 日本機械学会論文集, Vol.83, No.851,(2017)16-00573, DOI: 10.1299/​transjsme.16-00573.
[ 7 ]
T. Sugihara, Y. Nishimoto, T. Enomoto, Development of a Novel Cubic Boron Nitride Cutting Tool with a Textured Flank Face for High-speed Machining of Inconel 718, Vol. 48,(2017)pp.75–82.
[ 8 ]
Q.B. Nguyen et al., The Role of Powder Layer Thickness, on the Quality of SLM Printed Parts, Archives of Civil and Mechanical Engineering, Vol.18,(2018), pp.948–955, DOI: 10.1016/​j.acme.2018.01.015.
[ 9 ]
西津 卓史 他, トポロジー最適化と積層造形を活用したラティス構造の創出手法, 日本機械学会論文集, Vol. 83. No. 855,(2017), 16-0058, DOI: 10.1299/​transjsme.16-00581.
[10]
D. Wang et al., Ultrafast Laser-enabled 3D Metal Printing: A Solution to Fabricate Arbitrary Submicron Metal Structures, Precision Engineering,(2017), DOI: 10.1016/​j.precisioneng.2017.11.015.
[11]
冨江瑛彦 他, パウダージェット加工における粒子衝突角度と加工現象に関する研究(ハイドロキシアパタイト膜形成技術による歯科治療), 日本機械学会論文集, Vol.83, No.856(2017), DOI: 10.1299/​transjsme.17-00169.
[12]
三菱重工工作機械(株), DUVレーザによる微細加工技術開発, Industrial Laser Solutions Japan,(2017)pp.16–18.

23・3の文献

[ 1 ]
神谷庄司, 金剛英, 杉山裕子, 泉隼人, 単結晶シリコンの疲労過程における結晶すべり変形の電子線誘起電流観察, 2016年度日本機械学会年次大会講演論文集(2017), J2210101.
[ 2 ]
安藤妙子, 単結晶シリコンのき裂治癒による破壊強度変化, 2017年度日本機械学会年次大会講演論文集(2017), J2210104.
[ 3 ]
伊奈銀之介, 桑原晃一, 西脇剛, 伊藤孝浩, 生津資大, Al合金薄膜のSEM内疲労き裂進展試験, 2017年度日本機械学会年次大会講演論文集(2017), J2210301.
[ 4 ]
米谷玲皇, 岡田耕, 前田悦男, 顕微ラマン分光法による薄膜シリコンメカニカル構造体のひずみ検出特性, 2017年度日本機械学会年次大会講演論文集(2017), J2210401.
[ 5 ]
張文磊, 上杉晃生, 平井義和, 土屋智由, 田畑修, プラズマCVDによりDLCを全面被膜した単結晶シリコンマイクロ構造体の引張特性に及ぼす成膜バイアスの影響, 2017年度日本機械学会年次大会講演論文集(2017), J2210103.
[ 6 ]
土屋智由, Banerjee Amit, 平井義和, 田畑修, 熱駆動SOI-MEMSを用いたへき開破壊によるナノギャップ創製, 2017年度日本機械学会年次大会講演論文集(2017), J2210205.
[ 7 ]
太田進也, 生津資大, 安藤陽, 小山知弘, 千葉大地, 巨大磁気抵抗効果を用いた歪みの検出, 2017年度日本機械学会年次大会講演論文集(2017), J2210402.
[ 8 ]
金築俊介, 神谷亮太, 桒原晃一, 訓谷保広, 後藤大輝, 野村拓未, 三宅修吾, 生津資大, 瞬間はんだ接合部に及ぼすAlNi多層薄膜の自立化の効果, 2017年度日本機械学会年次大会講演論文集(2017), J2210303.
[ 9 ]
A. Uesugi, K. Maenaka, and T. Namazu, Effect of Ge Concentration on Poly SiGe Mechanical Properties, 30th International Microprocesses and Nanotechnology Conference(MNC2017)(2017), 8D-6-4.
[10]
H. Suzuki, T. Kaneko, T. Kato, Growth of Suspended Graphene Nanoribbons and its Optoelectronic Application, 2017 International Conference on Solid State Devices and Materials(SSDM2017)(2017), H-1-06.
[11]
T. Yamada, D. Ito, T. Sluka, N. Setter, O. Sakata, T. Namazu, H. Funakubo, M. Yoshino, and T. Nagasaki, Domain Formation in Pb(Zr, Ti)O3 Nanorods Driven by Depolarizing Field, 8th International Conference on Electroceramics,(ICE2017)(2017).
[12]
A. Takakura, K. Beppu, T. Nishihara, T. Kozeki, T. Namazu, Y. Miyauchi, and K. Itami, Direct Mechanical Strength Measurements of Structure-defined Single-walled Carbon Nanotubes, 53rd Fullerenes-Nanotubes-Graphene Symposium(2017).

23・4の文献

[ 1 ]
Marie, J. Anifriev, R. Yanagisawa, R. Voltz, S. Nomura, M. Heat conduction tuning by wave nature of phonons, Science Advance, Vol.3 No.8, DOI: 10.1126/​sciadv.1700027.
[ 2 ]
Gong, H. Bickham, B.P. Woolleyb, A.T. Nordin. G.P. Custom 3D printer and resin for 18 μm × 20 μm microfluidic flow channels, Lab on a Chip, Vol.17, No.17(2017), DOI: 10.1039/​C7LC00644F.
[ 3 ]
DeChara, N.S. Wilson, D.J. Mace, C.R. An open software platform for the automated design of paper-based microfluidic devices, Scientific Report, Vol.7, 16224(2017), DOI: 10.1038/​s41598-017-16542-8.
[ 4 ]
Mabuchi, T. and Tokumasu, T., Dependence of electroosmosis on polymer structure in proton exchange membranes, Mechanical Engineering Journal., Vol.4, No.5(2017), DOI: 10.1299/​mej.17-00054.
[ 5 ]
Ishikawa, Y. Fujihara, R. Kubo, S. Iwaki, C. Study on microdroplet diameter enlargement for enhancement of moisture separation efficiency, Vol.4, No.6(2017), DOI: 10.1299/​mej.17-00287.
[ 6 ]
Kikuchi, Y. Taguchi. T. Nagasaka, Y. Decay time control of mass diffusion in a transient grating using a fringe-tunable electrothermal Fresnel mirror, Journal of Thermal Science and Technology, Vol.12, No.2(2017), DOI: 10.1299/​jtst.2017jtst0027.
[ 7 ]
Hyakutake, T. Orihara, R. Mezaki, Y. Experimental study on the effect of a surrounding fluid on bovine sperm motility in three dimensions, Journal of Biomechanical Science and Technology, Vol.12, No.1(2017), DOI: 10.1299/​jbse.16-00580.
[ 8 ]
Wang, J-L. Kuo, Y-W. Hsiao, J-K. Macromolecular diffusion in intact, degraded and crosslinking-augmented intervertebral discs, Journal of Biomechanical Science and Technology, Vol.12, No.2(2017), DOI: 10.1299/​jbse.16-00629.
[ 9 ]
Gharaie, S.H. Mosadegh, B. Morsi, Y. Towards computational prediction of flow-induced damage of blood cells using a time-accumulated model, Journal of Biomechanical Science and Technology, Vol.12, No.4(2017), DOI: 10.1299/​jbse.17-00168.
[10]
植村豪, 深井勝行, 田畑恵良, 平井秀一郎, 低温排熱利用改質器におけるマイクロチャンネル内メタノール水溶液の相変化現象, 日本機械学会論文論文集, Vol.83, No.846(2017), DOI: 10.1299/​transjsme.16-00399.
[11]
川原顕磨呂, 森晟文, Law, W.Z. 米本 幸弘, Mansour, M.H. 佐田富 道雄, 円形マイクロ流路内の非ニュートン流体の気液二相圧力損失, 日本機械学会論文論文集, Vol.83, No.847(2017), DOI: 10.1299/​transjsme.16-00386.
[12]
高橋翼, 中村寛子, 木村啓志, 精子選別機能集積型受精卵作出デバイスの開発, 日本機械学会論文論文集, Vol.83, No.850(2017), DOI: 10.1299/​transjsme.16-00560.
[13]
佐藤綾美, 岡本崇, 山田崇恭, 泉井一浩, 西脇眞二, 希薄気体流れを対象としたトポロジー最適化, 日本機械学会論文論文集, Vol.83, No.850(2017), DOI: 10.1299/​transjsme.17-00135.
[14]
鈴木淳史, 巽和也, 堀井悟史, 栗山怜子, 中部主敬, 蛍光偏光測定によるマイクロ流路内液体温度計測, 日本機械学会論文論文集, Vol.83, No.853(2017), DOI: 10.1299/​transjsme.17-00200.
[15]
早坂良, 大村高弘, ナノ粒子の磁気特性を利用した薄膜形成過程のシミュレーション, 日本機械学会論文論文集, Vol.83, No.854(2017), DOI: 10.1299/​transjsme.17-00180.
[16]
高橋優輔, 吾妻樹, 溝井篤志, 日野遥, 橋本成広, マイクロ円柱パターンの隙間によるがん細胞の捕捉, 日本機械学会論文論文集, Vol.83, No.854(2017), DOI: 10.1299/​transjsme.16-00110.
[17]
Shin, S. Han, D., Park, M.C. Mun, J.Y. Choi, J. Chun, H. Kim, S. Hong, J.W. Separation of extracellular nanovesicles and apoptotic bodies from cancer cell culture broth using tunable microfluidic systems, Scientific Reports, Vol.7, 9907(2017), DOI: 10.1038/​s41598-017-08826-w.

23・5の文献

[ 1 ]
白石成, 鈴木健司, 高信英明, 三浦宏文, EWODを利用した液滴排出制御デバイスの開発, 日本機械学会第8回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集, 31am3-PN-45(2017).
[ 2 ]
浜崎紘輝, 安田隆, 微小孔アレイを用いた細胞組織の局所薬剤刺激, 日本機械学会第8回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集, 31pm3-PN-20(2017).
[ 3 ]
鈴木翔, 山本貴富喜, 茂木克雄, 電気力学的操作による細菌細胞の単離と破砕の研究, 日本機械学会第8回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集, 01pm4-PN-100(2017).
[ 4 ]
東直輝, 伊藤伸太郎, 福澤健二, 張賀東, マイクロ流路内に形成したナノスリットによるDNA試料のオンチップ濃縮, 日本機械学会第8回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集, 01pm4-PN-106(2017).
[ 5 ]
申東哲, 森本雄矢, 神谷厚輝, 竹内昌治, 遠心力を用いた3次元集積リポソームの形成, 日本機械学会第8回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集, 01pm4-PN-80(2017).
[ 6 ]
吉田昭太郎, 竹内昌治, 誘電泳動ピンセットを用いた細胞サイズリポソームの選択的電気融合, 日本機械学会第8回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集, 31pm3-PN-22(2017).
[ 7 ]
勝田翔太, 岡野太治, 鈴木 宏明, 細胞サイズのリポソームを用いた試薬操作・徐放システム, 日本機械学会第8回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集, 01pm4-PN-86(2017).
[ 8 ]
横溝晃世, 小田悠加, 森本雄矢, 竹内昌治, アルギン酸ゲル構造の3次元組み立て, 日本機械学会第8回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集, 31pm3-PN-30(2017).
[ 9 ]
井山瑛里加, 桐谷乃輔, 尾上弘晃, ハイドロゲル膨潤検知のための単層カーボンナノチューブ歪みセンサ, 日本機械学会第8回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集, 01pm4-PN-74(2017).
[10]
林知希, 瀧ノ上正浩, 尾上弘晃, 生化学物質検出のためのDNAアプタマー修飾ゲルセンサ, 日本機械学会第8回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集, 01pm4-PN-84(2017).
[11]
深堀俊, 堀正峻, 土肥徹次, 3軸力センサにより体動の影響を低減した血圧脈波計測デバイス, 日本機械学会第8回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集, 02pm1-PN-127(2017).
[12]
堀内亮吾, 小笠原鵬人, 伊藤和彦, 三木則尚, ウェアラブル疲労センサシステムの開発に向けた検出素子の配置位置の検討, 日本機械学会第8回マイクロ・ナノ工学シンポジウム講演論文集, 01pm4-PN-96(2017).

 

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