10. 動   力

10・1 日本のエネルギー事情

2016年度の一次エネルギー国内供給(消費)は,経済産業省資源エネルギー庁の総合エネルギー統計(確報)によると,前年度比0.9%減と3年連続で減少した.その量は,統計が比較可能な1990年度以降では,1990年度に次いで2番目に少ない19 836 PJと26年ぶりに20 000 PJを下回った.前年度と比べ,実質GDPは1.2%増,鉱工業生産指数は1.1%増,円建て原油価格は12.2%下落し,夏は暑く冬は寒冷とエネルギー需要増加要因が重なったにもかかわらず,消費は微減した.ただし,家庭部門は増加(0.6%)し,製造業での減少量105 PJのうち,84 PJはエネルギー多消費なエチレンの生産が減少した化学工業によるものであるなど,東日本大震災以降に観測されてきた節減による消費量の横断的・急速な減少は緩和した感がある.一次エネルギー国内供給の9割を占める化石燃料をエネルギー源別に見ても,石炭(−2.2%),石油(−3.2%)が前年度を下回った一方で,天然ガスは電力需要の3年ぶりの増加などを背景に反転増(1.5%)となるなど,まだら模様であった.原子力は,2015年8月,9月の川内原子力発電所と2016年1月,2月の高浜発電所(再稼動直後の2016年3月に地方裁判所が運転停止仮処分決定,2017年3月に高等裁判所が同仮処分取り消し)に続き,伊方発電所が2016年8月に再稼動し,89.4%増となった.再生可能エネルギー(水力を除く)は,固定価格買取制度の追い風を受けて太陽光などを中心に10.8%増と大幅に増加した.発電部門での低炭素化が進んだこと,最終エネルギー消費も1.3%減少したことで,エネルギー起源の二酸化炭素排出は3年連続で減少(−1.7%)し,11億2 786万tとなった.パリ協定基準年の2013年度と比べると−8.7%である.

2017年度の一次エネルギー消費は,日本エネルギー経済研究所によると,景気拡大や気温影響などにより,前年度比0.9%増となった.石油は引き続き減少,天然ガスは2年ぶりの減少となったが,石炭は増加に転じた.再生可能エネルギー,原子力は引き続いて増加した.原油輸入価格は,夏場に1バレル50ドルを割り込んだ後は上昇に転じ,OPECなどによる減産の延長もあって2018年3月には$67/bblに達した.2030年を見据えたエネルギー基本計画の改定に向けた議論が正式に始まり,電源構成にかかるさまざまな見解が各方面から出されている.また,国内のみならず海外でも,電気自動車など自動車の電動化に対する注目度が急速に高まった.

〔栁澤 明 (一財)日本エネルギー経済研究所

10・2 火力発電

10・2・1 日本の火力発電の動向

a.電気事業者の発電設備

2017年12月末現在の電気事業者の発電設備は合計2億7 551万kWで,その内訳は火力1億7 408万kW(構成比63.2%),原子力4 148万kW(15.1%),水力4 955万kW(18.0%)などである(表1).2017年度中に完成した主な火力発電設備は1地点となっている(表2).

表1 電気事業者の発電設備(出力単位:MW)
表1 電気事業者の発電設備(出力単位:MW)
表2 2017年度中に完成した主な火力発電設備
表2 2017年度中に完成した主な火力発電設備

b.自家用発電設備

2017年9月末現在の自家用発電設備は合計2 512万kWで,その内訳は火力1 939万kW(構成比77.2%),水力48万kW(1.9%),新エネルギー等(風力・太陽光など)525万kW(20.9%)などであり,昨年度と比較して新エネルギー等の発電設備が増加していることが分かる(表3).

表3 自家用発電設備(出力単位:MW)
表3 自家用発電設備(出力単位:MW)

c.計画中の主な火力発電設備

今後計画されている火力発電設備(環境アセスメント手続き実施中・実施済のものなど2017年度末時点で公表されているもの)のうち,主なものは32地点,3 463万kWである(表4).そのうち,燃料別出力割合はLNG(Liquefied Natural Gas)・都市ガスが約51%,石炭が約48%,その他が約1%となっている.

表4 計画中の主な火力発電設備
表4 計画中の主な火力発電設備

発電設備においては,長期的な電力の安定供給,エネルギーセキュリティーの確保,地球温暖化防止など環境負荷低減の観点から,火力,水力,原子力を中心とした電源のベストミックスが進められてきた.このような中,LNGを燃料とする発電設備ではコンバインドサイクル発電(CC)が,石炭を燃料とする発電設備では超々臨界圧汽力発電(USC)が導入されており,現在,CC,USC,石炭ガス化複合発電(IGCC)の建設が計画されている.

d.火力発電の新技術

LNGを燃料とする発電設備では,コンバインドサイクル発電においてさらなる高効率化が図られ,1 600℃級ガスタービンによる熱効率62%以上(低位発熱量基準)を達成する発電設備が運転を開始した.また,次世代の高効率ガスタービンの実用化を目指し,国家プロジェクトとして1 700℃級ガスタービンの要素技術開発も進められている.

一方,石炭を燃料とする発電設備では,超々臨界圧プラントの蒸気条件を700℃級まで高温化させた先進超々臨界圧プラント(A-USC:Advanced Ultra Super Critical)の実用化要素技術開発が,国家プロジェクトとして進められている.また,石炭ガス化複合発電では,海外で運転されている酸素吹き方式よりも送電端効率の良い空気吹き方式の開発が進められており,商用化に至る最終段階である25万kW級プラントの実証試験が2013年3月に終了(以降商用プラントとして運用を開始)し,54万kW級プラントの建設が開始した.また,酸素吹き方式においても16.6万kW級プラントの実証試験が2017年3月に開始した.

〔平塚 直光 東京電力フュエル&パワー(株)

10・2・2 海外の火力発電の動向

国連エネルギー統計2015によると,2015年における世界の火力発電設備容量/発電電力量は,41.6億kW/16.6兆kWhであり,それぞれ2014年比で2.0%/1.1%増加した.

米国における2017年の新設火力は,ガス火力が739万kW,石炭火力が5万kWであり,閉鎖はガス火力479万kW,石炭火力551万kWであった.ガス火力の導入が進み石炭火力が閉鎖されている理由として,①シェールガス革命による天然ガス価格の下落,②水銀・有害汚染物質基準(MATS)などによる環境規制の強化によって石炭火力の経済性が低下したことが挙げられる.一方でトランプ大統領は,2017年3月に「エネルギー面での自立」に関する大統領令に署名し,化石燃料規制の緩和や,国有地での石炭採掘制限撤廃を宣言した.さらに,エネルギー省長官はベースロード電源の持つ価値を卸電力市場で正しく評価し,石炭火力の閉鎖を回避するよう連邦エネルギー規制委員会に指示したが,成功しなかった.この様に大統領は石炭業界を支援する動きを見せているが上手く進んでおらず,今後も新設火力は経済性の高いガス火力が中心になると考えられている.

欧州では,COP21で採択されたパリ協定を受け,再エネ導入と脱石炭が進んでいる.EU全体では2017年にEU産業排出指令における火力発電所などからの汚染物質の排出基準が見直され,2021年から,SO2,NOxの規制の強化に加え水銀の規制値が追加される.また,現在審議中のEU電力市場規則改定案では,容量メカニズムへの参加要件をCO2排出基準550 g/kWh以下とする提案(実質的に石炭火力を排除)がなされている.さらに,英国やフランスは,それぞれ2025年,2022年までに石炭火力を全廃することを表明しており,欧州における石炭火力の占める割合は今後も減少が見込まれる.一方で,ガス火力は再エネの出力変化をバックアップする調整電源として期待されている.

〔辺見 航次郎 (一社)海外電力調査会

10・3 原子力発電

10・3・1 日本の原子力発電の動向

a.軽水炉

わが国の原子力発電は,2017年12月現在,改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)を含む沸騰水型軽水炉(BWR)が22基,加圧水型軽水炉(PWR)が20基の計42基が稼動している.また,3基が建設中であり,6基が計画中である.表5に,最近5年間の原子力発電所の基数,合計出力及び年平均の設備利用率の推移を示す.2017年は,関西電力の高浜原発4号機が営業運転を再開し,計5基が営業運転を再開している.2017年の平均設備利用率は8.4%となり,2016年に引き続き上昇した.他の原子炉の運転再開についても,各電力会社からの申請に基づき,新規制基準に基づく安全性審査が進められている.

表5 最近5年間の原子力発電の推移
表5 最近5年間の原子力発電の推移

b.新型炉

高温ガス炉は,(国研)日本原子力研究開発機構(原子力機構)の高温工学試験研究炉(HTTR)の再稼働に向け,新規制基準への適合性確認のための審査が進められている.また,原子力機構とポーランド国立原子力研究センターとの間で研究協力に関する覚書が締結されるなど,ポーランドの高温ガス炉建設に向けた協力が進められた.国際熱核融合実験炉(ITER)計画では,日本が担当する機器の調達活動などによりITER建設が進展し,12月に建設計画の50%を達成した.幅広いアプローチ(BA)活動も,(国研)量子科学技術研究開発機構においてJT-60SAの建設が順調に進展するなど着実に進められている.

〔竹上 弘彰 (国研)日本原子力研究開発機構

2016年度に設置された「高速炉開発会議」の議論を踏まえて,第6回原子力関係閣僚会議(2016年12月21日)にて「もんじゅ」の廃止及び今後の我が国の「高速炉開発の方針」が決定された.

これを受けて原子力機構は,「『もんじゅ』の廃止措置に関する基本的な計画」を2017年6月13日に文部科学大臣に提出した.この「基本的な計画」に基づき,安全確保を最優先に我が国で最初のナトリウム冷却高速炉の廃止措置に向けて,2017年12月6日に廃止措置計画認可の申請を行った.その後,更に竜巻や火山等の事故評価の追加,大規模損壊発生時の対応の追加などを反映した廃止措置計画認可申請書の補正を2018年2月23日に行い,3月28日に認可された.

一方,高速炉開発は,将来の高速炉の実現に向け,戦略の策定,体制の整備等を一体的に進めることになり,「高速炉開発会議」の下に実務レベルの「戦略ワーキンググループ」を設置し,2017年3月30日から8回開催して今後10年程度の開発作業を特定する「戦略ロードマップ」を2018年目途に策定する為に,国内外の有識者や米国,仏国,中国等の高速炉サイクル開発国などからの報告を聴取した.

高速実験炉「常陽」は,損傷した炉心上部機構の交換等の復旧作業が2014年に完了し,2015年6月に燃料交換機能等が全て正常に復帰した.また,2013年12月に施行された新規制基準への着実な対応が進められ,2017年3月30日に新規制基準に適合させた変更申請を行った.

〔中村 博文 (国研)日本原子力研究開発機構

c.核燃料サイクル

日本原燃(株)が事業展開を進めている六ヶ所再処理施設では,主工程が完成し,ガラス固化体を製造するガラス溶融炉の社内試験も終了した.また,2014年1月より新規制基準への適合性確認を受けており,竣工に向けた対応を進めている.ウラン濃縮工場では,新型遠心機を導入し,2012年3月に生産運転を開始しており,順次生産能力を拡大していく予定である.MOX燃料工場は,建設工事中である.

原子力機構の東海再処理施設では,2017年6月に廃止措置計画の認可申請,2018年2月に同計画の補正を行い,廃止措置にかかる取り組みを進めるとともに,高放射性廃液をより安定な形で貯蔵するため,高放射性廃液のガラス固化処理を2016年1月から開始している.また,高放射性廃液のガラス固化技術の高度化に関する技術開発等を実施している.プルトニウム燃料技術開発施設では,MOX燃料に関する研究開発,核燃料施設の廃止措置やプルトニウム系廃棄物の処理に関する技術開発等を実施している.

〔田中 秀樹 (国研)日本原子力研究開発機構

10・3・2 世界の原子力発電開発の動向

世界原子力協会(WNA)によると,世界では2018年1月1日現在で447基,3億9 204.1万kWの商業炉が運転中である.基数は前年実績と変わらなかったものの,容量は65.5万kW分増加した.また,この時点で建設中の原子炉は57基,6 131万kWとなり,基数と容量は3基,319万kW分減少している.

2017年中に新たに送電開始した原子炉は合計4基で,内訳は中国の3基とパキスタンの1基である.一方,ドイツや韓国,スウェーデンなどの原子力発電先進国で,合計4基が永久閉鎖された.また,2017年中に中国,インド,バングラデシュで1基ずつ本格着工しており,依然としてアジア諸国が世界の原子力発電規模拡大に大きく寄与していることが明確に示された.

これらの原子炉建設プロジェクトは,すべて中国とロシアの原子炉メーカーが受注していたもので,中国で送電開始した3基のうち,陽江4号機と福清4号機は中国製だが,田湾3号機はロシア製のPWRである.これに対して,パキスタンで完成したチャシュマ4号機は,中国企業が建設した.また,バングラデシュ初の原子炉建設プロジェクトとして着工したルプール1号機,およびインドで着工したクダンクラム3号機は,ともにロシア企業が工事を請け負っている.中国の新規着工件数は1基のみと例年に比べて減少したが,この1基は中国が独自技術で開発した60万kWの高速実証炉である.これにより,中国は原子力発電開発で新しい時代の幕開けを迎えたと評価している.

この他,建設中基数の中から米国のV.C.サマー2,3号機が削除された.EPC契約企業だったウェスチングハウス(WE)社が2017年3月に連邦倒産法の適用申請したことが大きく影響したもので,同計画のオーナー企業らは,完成までの追加経費と日程を再評価した結果,両機とも完成を断念する判断を下した.一方,同様にWE社製原子炉が2基建設中だったA.W.ボーグル計画は,連邦政府から融資保証の追加適用を提案されたことや,東芝がWE社の親会社保証金を前倒し弁済したことが功を奏し,地元州政府は計画の継続を全会一致で承認している.

韓国では,脱原子力政策を掲げる文在寅政権が2017年5月に発足し,12月に公表した「第8次電力需給基本計画案」で6基分の新設計画を全面的に白紙化した.その一方で同政権は,「将来的原子力技術の発展戦略」の中で原子力技術の輸出支援強化を重点推進項目の1つに指定した.中東における大型炉や中小型炉の輸出実績を元に,諸外国の建設・運転計画に韓国企業が参加出来るよう,政府が積極的に支援していく方針を明らかにした.

〔石井 明子 (社)日本原子力産業協会

10・4 新エネルギー技術

10・4・1 燃料電池

コージェネ財団によると,家庭用燃料電池(エネファーム)の2017年度の販売台数は約4.9万台と,2016年度の4.7万台よりも約0.2万台増加した.エネファームへの国の導入支援補助金は,固体高分子形が2018年度,固体酸化物形が2020年度まで支給される.固体酸化物形では,マイクロガスタービンと組み合わせた加圧ハイブリッド型250 kW級システムが2017年度に市場投入され,MW級システムに向けた技術開発も進められている.りん酸形,溶融炭酸形もそれぞれ百kW級,MW級定置用システムが内外で着実に導入された.燃料電池自動車に関しては,2015年にトヨタMIRAの販売が,2016年にホンダCLARITYのリースが開始され,水素・燃料電池戦略協議会の官民目標として2020年までに4万台の普及が掲げられた.また,水素ステーションに関しては,2017年末の設置数は92カ所で,2020年度までに160カ所整備する計画である.水素ステーション普及に向けて,トヨタやJXTGエネルギーなど11社が日本水素ステーションネットワークを設立した,

〔麦倉 良啓 (一財)電力中央研究所

10・4・2 太陽電池

太陽光発電協会(JPEA)によると,日本における2017年の太陽電池出荷量は8 067 MW(2016年比84%)であった.このうち,国内向け出荷量は6 860 MW(2016年比84%)と,全体の85%であった.全出荷量は,2014年をピークとして依然減少傾向にある.

種類別としては,シリコン結晶系太陽電池が7 369 MWと出荷量全体の91%を占め,シリコン多結晶太陽電池は2016年比73%と前年に続き減少したが,シリコン単結晶太陽電池は海外出荷分に支えられ,2016年比109%とやや回復傾向がみられた.CIS系薄膜太陽電池では,約0.5 cm2セルにおいて世界最高の変換効率22.3%を達成した.

用途別では産業・事業用等の非住宅用モジュールが4 592 MWとモジュール国内出荷量の80%を占めたが,2017年4月の改正FIT法施行,および2017年度の買取価格が10 kW以上においてkWhあたり2016年度の24円から21円へとさらに引き下げられた影響もあり(2 MW以上は入札制度へ移行),2016年比89%と3年連続で減少した.

〔岡島 敬一 筑波大学

10・4・3 バイオマス・廃棄物発電

環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課資料「一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成28年度)について」[1]によると,国内ごみ排出量は4 317万t(前年度4 398万tに対して1.8%減)で,2000年度をピークに減少傾向にある.直接焼却量は3 294万t(直接焼却率は80.3%)で,2003年度以降減少傾向である.ごみ焼却施設数は1 120施設で,このうち発電設備を有する施設数は358施設あり全ごみ焼却施設の32.0%を占め,発電能力合計は1 981 MW,平均発電効率は12.81%で,高効率化傾向が続いており,処理量100 T/日以下の比較的小規模な施設でも高効率発電が導入されるケースが多くなってきている.

さらに2011年7月に施行された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」により,バイオマス発電の導入が順調に進展中で,2017年3月末の時点で制度開始後から新たに認定を受けた設備の導入容量は85万kW(認定時のバイオマス比率を乗じて得た推計値)となっている[2].

〔田熊 昌夫 三菱重工環境・化学エンジニアリング(株)

10・4・4 水素利用技術

経済産業省は,2017年3月に将来のCO2フリー水素の利活用拡大に向けて,現状の課題と今後の取組の方向性をまとめた「CO2フリー水素ワーキンググループ報告書」を公表した[1].

政府は,2017年12月の「再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議」において,「水素基本戦略」を決定した[2].水素基本戦略は,2050年を視野に入れ,水素社会実現に向けて将来目指すべき姿や目標とその実現に向けた2030年までの行動計画を取りまとめたものであり,水素コストを将来的に20円/Nm3程度まで低減し,環境価値も含め,既存のエネルギーコストと同等のコスト競争力の実現を目指すこと等が示されている(図1).

図1 水素基本戦略のシナリオ[2]
図1 水素基本戦略のシナリオ[2]

燃料電池自動車の登録台数は2017年3月末現在で1 807台[3],開所済みの商用水素ステーションは2017年12月末現在で92箇所[4]となった.燃料電池バスの市販が開始され,東京都が2017年3月から路線バスとして営業運行を開始した[5].

国際的な水素サプライチェーンの分野では,従来から進められていた豪州の未利用エネルギーを利用した水素サプライチェーンの検討に加えて,ブルネイで製造した水素を海上輸送して国内へ供給する実証事業が本格始動した[6].また,液化水素タンカーの安全基準が日豪海事当局間で確認された[7].

水素発電の分野では,市街地での水素ガスタービン発電による熱電供給システムの実証試験が神戸市で開始[8]されるとともに,既存の石炭火力発電所において水素キャリアの一つであるアンモニアを混焼する実証試験[9]等が実施されている.

2017年1月のダボス会議において,水素利用を推進するグローバルなイニシアチブとしてHydrogen Council(水素協議会)が設立され,種々の取組が進められている[10].

〔飯田 重樹 (一財)エネルギー総合工学研究所

10・4・5 風力発電

世界全体の風力発電の累積導入量は,GWEC(Global Wind Energy Council)の統計によると2017年末で5億3 912万kW(2016年末4億8 766万kW)に達した.これは日本国内の原子力・火力を含む発電設備の合計3億63万kWの1.8倍である.2017年の新規導入は5 257万kW(2016年は5 462万kW)で,年成長率は前年比4%減(2016年は12%増)[1],新規投資額は860億ドル(2016年は1 016億ドル)と12%減だった[2].2017年は世界の年間電力需要の5%(2016年は4%)を風力発電が供給した.

風力発電は気象条件で出力が変動するが,送電線の広域連系で変動を相殺することで,EUでは年間電力供給の11.6%(2016年は10.4%)を担っている.デンマーク,ポルトガル,アイルランド,ドイツの4国では20%以上,スペイン,英国,スウェーデン,ルーマニア,オーストリア,リトアニアでは10%以上を供給している[3].

国別では累計・新規共に,1位中国,2位米国,3位ドイツである.特に中国は累計で35%,新規は37%の世界シェアを持つ.環境保護に熱心とは言えない中国と米国が世界1を争い,原子力依存のフランス,島国の英国とアイルランドも,風力発電を大量導入している(表6).風力発電は,安価に短期間に大量導入できる「国産エネルギー源」として多くの国々で活用されている.最近の新規建設は中南米(ブラジル,メキシコ)やアフリカが増えてきている.更に欧州を中心に洋上風力開発(商用案件は主に着床式)も進みつつある(写真1).

表6 世界の風力発電の導入状況[1, 3]
表6 世界の風力発電の導入状況[1, 3]
写真1 英国のBurbo Bank Extension洋上風力発電所(2017年5月運開,V164 8MW×32基=254.2MW,写真提供:MVOW)
写真1 英国のBurbo Bank Extension洋上風力発電所(2017年5月運開,V164 8 MW×32基=254.2 MW,写真提供:MVOW)

日本の風力発電は,2017年12月末時点で累計で340万kW・2 225台(2016年12月末時点で323万kW 2 148台),2017年の新規で17万kW・77台(2016年は19万kW・92台)/年である(写真2).残念ながら世界の1%未満に過ぎない.年間電力供給に占める風力発電の比率も0.6%にすぎず,10%以上が並ぶ先進諸国には大きく後れを取っている(表6).2012年7月から固定価格買取制度(FIT:Feed in Tariff,風力は当初22円,2018年度は20円/kWh)が始まったが,同年10月から1万kW以上の風力発電所には法規に基づく環境アセスメント(手続きに4~5年必要)が適用されたため,FITによる導入促進効果はまだ顕在化していない.現在,610万kWがFIT認定済で未運開,更に500万kW以上が計画中である.風況の良い北海道と東北で送電線の容量不足の懸念から新規連系受付が制限されており,大きな議論となっている.洋上風力開発では,港湾部への導入促進のために国土交通省が2016年5月に港湾法を改訂,一般海域に対しても2018年5月頃に新法が成立する見込みである[4].

写真2 日本の大型ウインドファームの例(三重県の新青山高原風力発電所,2017年運開,2MW風車×40台,写真提供:青山高原ウインドファーム)
写真2 日本の大型ウインドファームの例(三重県の新青山高原風力発電所,2017年運開,2 MW風車×40台,写真提供:青山高原ウインドファーム)

風力発電機は大型化が進んでおり,陸上設置用で定格出力3 MW以上,ロータ直径110 m以上,タワー高さ100 m以上,洋上用では定格出力6~9.5 MW,ロータ直径164 mの風車(写真1)が商用化されている.最近の変化としては,風力発電(陸上と洋上の両方)の急激な価格低下と,洋上風力のグローバル化が挙げられる.陸上風力発電は,太陽光発電や安価なシェールガスによる火力発電と経済性で競争している.世界では好風況,低人件費,良連系条件,低事業リスクの地域に大型風車を大量導入することで,2017年に発電コスト(LCOE)は45ドル/MWh(4.9円/kWh)にまで下がっている(図2)[5].2017年時点の再安値はモロッコの30ドル/MWh(3.3円/kWh)である.

図2 世界の異なる電源毎の均等化発電原価(LCOE)[5]
図2 世界の異なる電源毎の均等化発電原価(LCOE)[5]

洋上風力発電でも,環境アセスメントと系統接続が政府に保証され,洋上変電所と陸上までの海底送電線のコストが送電会社負担になるセントラル方式を採用しているオランダやデンマークの案件では,事業リスクが小さくなり,驚異的に入札価格が低下した(図3)[6].8~9 MW級超大型風車による台数(建設工数)低減,それに応じたSEP船と港湾インフラの整備,SCADAとCMS(機器寿命監視)による稼働率向上,輸送建設工法の最適化(日に2台のペースで据付),大手事業者が自らEPC取纏めて中間マージン排除する,等の工夫が実を結んでいる.

図3 欧州洋上風力市場事業入札動向(MVOWまとめ)[6]
図3 欧州洋上風力市場事業入札動向(MVOWまとめ)[6]

立地拡大に向けて,陸上では寒冷地(−40℃以下)や高山(標高3 000 m以上)向け特別仕様の普及,対台風仕様(Class T)風車の開発,洋上風力開発の本格化,GoogleやSoftbank等のベンチャーによる空中風車(AWT:Airborne Wind Turbine)の研究等が進んでいる.

浮体式洋上風力発電は,ノルウェー,ポルトガル,日本での実証研究(合計4地点・20.3 MW・6台)を経て,2017年9月に英国でStatoil社がHywind Scotland project(6 MW風車×5台,スパー型浮体,写真3)を運開して,冬季には65%という驚異的に高い設備利用率を達成した.2018年は日本のNEDOプロジェクトで北九州市沖に3.5 MW風車1台,フランスFloatgen国家プロジェクトで大西洋岸に2 MW風車1台が運開する予定である.フランスではさらに24 MW×4サイトの開発計画が進んでいる.

写真3 英国のHywind Scotland浮体式洋上ウインドファーム(2017年9月運開,6MW風車×5台,スパ−型浮体,出典:Statoil社)
写真3 英国のHywind Scotland浮体式洋上ウインドファーム(2017年9月運開,6 MW風車×5台,スパ−型浮体,出典:Statoil社)

〔上田 悦紀 (一社)日本風力発電協会

10・4・6 地熱発電

2011年の東日本大震災以降,再生可能エネルギー導入拡大が望まれる中,ベース電源として活用可能な地熱発電が大きな注目を集めている.

最近では,山川発電所(鹿児島県指宿市)で地熱バイナリー発電(出力4 990 kW)が運転開始した(2018年2月)他,山葵沢地熱発電所(秋田県湯沢市,出力4万2 000 kW)の新規大規模案件の開発も進んでいる(2019年5月頃運転開始予定).また,安比地域(岩手県八幡平市,計画出力1万4 900 kW)では,環境アセスメントが終了した(2018年1月).

一方,「長期エネルギー需要見通し」[1]における2030年の導入目標(約155万kW,現状の3倍相当)に向け,NEDO(国立研究法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)では,地熱発電の導入拡大を目的とした「地熱発電技術研究開発」[2]のプロジェクトを2020年度まで延長して遂行している.さらに,「エネルギー・環境イノベーション戦略」における温室効果ガス排出量を削減する次世代技術候補として超臨界地熱発電が有望視されており[3],2050年頃普及に向けた開発の第一歩として実現可能性調査[4]が行われている.

〔讃岐 育孝 (国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構

10・4・7 電力貯蔵

再生可能エネルギーが増大する中,電力系統の安定化や余剰電力対応に蓄電池を活用する事例が増えている.国内では,SBエナジー(株)と三菱UFJリース(株)が北海道二海郡八雲町に設置する「ソフトバンク八雲ソーラーパーク」の2018年4月工事着工,2020年度中の運転開始を目指す計画を発表した.太陽光発電設備の出力の急峻な変動緩和対策として蓄電池などの併設を求めた北海道電力(株)の「太陽光発電設備の出力変動緩和対策に関する技術要件」(2015年4月公表)に基づき,蓄電容量約27 MWhのリチウムイオン電池を併設した出力約102 MWの太陽光発電所である.海外では米国テスラが,2017年7月に計画発表しオーストラリアに設置した世界最大級の出力100 MW,蓄電容量129 MWhのリチウムイオン電池システムが,2017年12月から稼働した.隣接する315 MWのホーンズデール風力発電所の発電電力で充電し,利用ピーク時に放電して需要家に電力供給される.火力発電の調整力を一部代替が可能な大規模システムが設置され,稼働した意義は大きいが,より大容量の電力貯蔵を蓄電池だけで賄うのは現状困難であり,他の蓄電技術との併用などの対応策が今後の大きな課題である.

〔三田 裕一 (一財)電力中央研究所

10・4・3の文献

[ 1 ]
環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課資料 一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成28年度)について http:/​/​www.env.go.jp/​recycle/​waste_tech/​ippan/​h28/​data/​env_press.pdf(参照日2018年4月19日).
[ 2 ]
固定価格買取制度 情報公表用ウェブサイト http:/​/​www.enecho.meti.go.jp/​category/​saving_and_new/​saiene/​statistics/​index.html(参照日2018年3月28日).

10・4・4の文献

[ 1 ]
CO2フリー水素ワーキンググループ報告書(2017年3月7日), 経済産業省 http:/​/​www.meti.go.jp/​report/​whitepaper/​data/​20170307001.html(参照日2018年4月6日).
[ 2 ]
水素基本戦略(2017年12月26日), 内閣官房 https:/​/​www.kantei.go.jp/​jp/​98_abe/​actions/​201712/​26energy.html(参照日2018年4月6日)http:/​/​www.cas.go.jp/​jp/​seisaku/​saisei_energy/​pdf/​hydrogen_basic_strategy.pdf(参照日2018年4月6日)http:/​/​www.meti.go.jp/​press/​2017/​12/​20171226002/​20171226002-2.pdf(参照日2018年4月6日).
[ 3 ]
EV等 保有台数統計, 一般社団法人次世代自動車振興センター http:/​/​www.cev-pc.or.jp/​tokei/​hanbai.html(参照日2018年4月6日).
[ 4 ]
水素ステーション整備状況, 一般社団法人次世代自動車振興センター http:/​/​www.cev-pc.or.jp/​suiso_station/​index.html(参照日2018年4月6日).
[ 5 ]
報道発表資料「都営バスで燃料電池バスによる運行を開始!」, 東京都 http:/​/​www.metro.tokyo.jp/​tosei/​hodohappyo/​press/​2017/​02/​24/​07.html(参照日2018年4月6日).
[ 6 ]
世界に先駆けて国際間水素サプライチェーン実証事業が本格始動, 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)http:/​/​www.nedo.go.jp/​news/​press/​AA5_100807.html(参照日2018年4月6日).
[ 7 ]
水素サプライチェーン構築に向けた新たな一歩, 国土交通省 http:/​/​www.mlit.go.jp/​report/​press/​kaiji08_hh_000051.html(参照日2018年4月6日).
[ 8 ]
世界初,市街地で水素による熱電供給システム実証試験を開始, 国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)http:/​/​www.nedo.go.jp/​news/​press/​AA5_100883.html(参照日2018年4月6日).
[ 9 ]
水島発電所2号機でのアンモニア混焼試験の実施について, 科学技術振興機構(JST)https:/​/​www.jst.go.jp/​pr/​announce/​20170629/​index.html(参照日2018年4月6日).
[10]
「Hydrogen Council(水素協議会)」スイス・ダボスにて発足, Hydrogen Council https:/​/​newsroom.toyota.co.jp/​jp/​detail/​14751630(参照日2018年4月6日)http:/​/​hydrogencouncil.com/​hydrogen-council-investor-day-announced/​(参照日2018年4月6日).

10・4・5の文献

[ 1 ]
Global Wind Statistics 2017, GWEC http:/​/​gwec.net/​cost-competitiveness-puts-wind-in-front/​(参照日2018年4月25日).
[ 2 ]
Wind investment falls to four-year low, Windpower Monthly https:/​/​www.windpowermonthly.com/​article/​1454674/​wind-investment-falls-four-year-low(参照日2018年1月16日).
[ 3 ]
Wind in Power 2017 European statistics, WindEurope(参照日2018年2月13日)https:/​/​windeurope.org/​about-wind/​statistics/​european/​wind-in-power-2017/​.
[ 4 ]
「海洋再生可能エネルギー発電設備の整備に係る海域の利用の促進に関する法律案」を閣議決定, 首相官邸 http:/​/​www.kantei.go.jp/​jp/​singi/​kaiyou/​energy/​yojo.html(参照日2018年3月9日).
[ 5 ]
再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会(第1回)資料3, 経済産業省 http:/​/​www.meti.go.jp/​committee/​kenkyukai/​energy_environment/​saisei_dounyu/​001_haifu.html(参照日2017年5月25日).
[ 6 ]
再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会(第3回)資料2, 経済産業省 http:/​/​www.meti.go.jp/​committee/​kenkyukai/​energy_environment/​saisei_dounyu/​003_haifu.html(参照日2017年6月14日).

10・4・6の文献

[ 1 ]
長期エネルギー需要見通し, 経済産業省 http:/​/​www.meti.go.jp/​press/​2015/​07/​20150716004/​20150716004.html(参照日2018年4月9日).
[ 2 ]
事業一覧 地熱発電技術研究開発, NEDO(国立研究法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)http:/​/​www.nedo.go.jp/​activities/​ZZJP_100066.html(参照日2018年4月9日).
[ 3 ]
エネルギー・環境イノベーション戦略, 内閣府 http:/​/​www8.cao.go.jp/​cstp/​nesti/​index.html(参照日2018年4月9日).
[ 4 ]
超臨界地熱発電の実現可能性調査に着手—2050年頃の普及を目指す—, NEDO(国立研究法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)http:/​/​www.nedo.go.jp/​news/​press/​AA5_100789.html(参照日2018年4月9日).

 

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