17. 生産システム

17・1 生産システム関連のアルゴリズム

生産システムに関連するアルゴリズムの対象範囲は製品設計,工程計画,生産計画,生産スケジューリングのみならず,セル生産における作業員配置やサービス設計など多岐にわたる.本節では,2017年中に発行された生産システム部門(以下,本部門)に関連する学術研究論文に基づいて,生産システムに関連するアルゴリズムの研究動向を紹介する.本部門の活動として,日本機械学会論文集Vol. 83,No. 848において,「“つながる”新しい生産システムを目指して」の特集号が企画され,4本の論文が掲載されたことをはじめとし,英文ジャーナル(Journal of Advanced Mechanical Design,Systems,and Manufacturing)において,生産システムのアルゴリズムに関連する9本の論文が掲載されている.

クラウドコンピューティング,AI,IoTなどの多くの新しい情報処理環境が加速度的に進歩する中で生産システムのアルゴリズムの利用範囲も,ハードとソフト,リアルとバーチャル,モノとサービスなど多岐にわたってきている.このような新たな潮流である“つながる”新しい生産システムを対象として,製品を作る製造工程を複数の工場や企業に分散して生産効率を上げるクラウドクラウドマニュファクチャリングに関する研究が報告されている[1, 2].受注生産型の製品を扱う企業において,つながる工場間で作業を相互委託することによる生産性の向上が従来研究で示されており,これに対して,マルチエージェント交渉モデルに基づくエージェント間の融通により製造コスト低減における有効性が確認されている[1].文献[2]ではサービスコストの不確実性を考慮し,資源サービス供給者,エージェント,および資源需要者からなるスーパーネットワークモデルに対して,各エージェントの融通量の決定に関する均衡条件を導出している.

生産スケジューリングに関する研究では数多くのアルゴリズム研究が見られる.2機械リエントラントフローショップ問題に対する数理計画法,種々の改良NEHヒューリスティックス,反復局所探索法,シミュレーティッドアニーリング(SA)を比較し,大規模問題ではSAや反復貪欲法が実用上,高い性能であることが示されている[3].精密板金加工のスケジューリング問題では,加工レイアウト(ネスティング)と生産スケジュールを同時決定するネスティング・スケジューリング統合モデルに対し,Bottom Left(BL)法と遺伝的アルゴリズム,局所探索,ディスパッチングを組み合わせたハイブリッド解法が提案されている[4].

スケジューリングのアルゴリズム研究の成果は幅広く応用され,セル生産における作業者配置の動的環境下における運用方法[5],企業の社会的責任(CSR)活動への投資量決定を有する生産計画問題に対するラグランジュ緩和法[6],組み込みシステムの大規模なハードウエア/ソフトウエア分割問題に対するGPUベースのタブー探索[7],組合せ的食品袋詰め問題に対する近似アルゴリズム[8],有向2部グラフ構造を有する0–1ナップサック問題[9]などが報告されており,さまざまな経験的解法(ヒューリスティックアルゴリズム)に関する研究動向として挙げられる.制約付き多目的最適化に対する改良型進化計算法に関する研究[10]が報告されており,これらのアルゴリズムの製品設計や工程設計等への応用が期待される.

コンピュータ支援工程設計ではAI等の活用により,CADモデルから人間の知識を用いてNCコードを自動生成することが期待されている.機械要素のデータベースを用いて特徴抽出とモデルマッチングを自動的に行うモデル同定法に関する研究が報告されている[11].文献[12]では品質機能展開(QFD)を用いて工程分析を行い,適切なサービス設計を行う方法が報告されている.QFDでは顧客満足が得られる設計品質を設定し,その設計の意図を製造工程まで展開することで,製品設計段階から製品の価値向上を目的とするサービス設計法を提案している.製品設計の機能検証のために概念設計の段階でペトリネットによるモデル化を用いた検証手法が提案されている[13].

以上から,2017年の生産システムのアルゴリズム研究動向を総括すると,従来からの数理計画手法に加えて,さまざまなヒューリスティック解法が研究されており,対象とする範囲は静的な問題のみならず,コスト変化や需要の不確定性,急なオーダー変更への対応など動的環境におけるアルゴリズム研究も盛んに行われている.今後はコネクテッドインダストリー,スマートファクトリー,インダストリー4.0,つながる工場,Supply Chain 4.0を実現するために,クラウドによるものづくりの分散化やマスカスタマイゼーションへの対応,新しいサービス設計,工場間の連携と協調,短ライフサイクルへの対応など,生産システムのアルゴリズム研究はますます重要となってくるであろう.

〔西 竜志 大阪大学

17・2 生産システム関連の要素技術

本節では,2017年中に発表された生産システム関連の要素技術に関する論文を整理し,そこから生産システム部門に関わる研究動向について述べる.対象とした論文は,「“つながる”新しい生産システムを目指して」特集号と,日本機械学会論文集,英文ジャーナル(Journal of Advanced Mechanical Design,Systems,and Manufacturing),生産システム部門講演会2017論文集から選んだ関連が深いものである.その中で,要素技術別に分類すると,最適化モデル,シミュレーション,AM(Additive Manufacturing),IoT活用やクラウドマニュファクチャリングとして大別できる.

まず,最適化モデルに関するものは,スケジューリング問題,生産計画問題,配置問題,サプライチェーンなどの領域で報告されている.その代表的な論文としては,精密板金加工のスケジューリング問題[1],作業者の能力差と生産コストを考慮したスケジューリング問題[2],不確定な需要下での生産計画問題[3],二機械リエントラントフローショップスケジューリング問題[4]などがある.さらに,セル生産の機能向上を目指す作業者配置問題[5],動的主従関係を考慮した多期間生産計画問題[6],市場影響を考慮したサプライチェーン計画問題[7]などが報告されている.これらの多くは,最適化問題としての定式化とともに有効的かつ実用可能な手法を提案している.こういった最適化モデルは,古くから幅広い研究領域に渡って継続的に研究されている.

シミュレーションに関連するものとして,まず,環境配慮の生産システムに関する研究が挙げられる.例えば,グリーン製造システムのための物理シミュレータの開発[8],省エネルギーアイドル状態付き生産設備の運用方法[9]などが報告されている.さらに,後述するIoT活用やAMに関連する研究領域においてもシミュレーション技術が多く活用されている.一方,環境配慮に関する研究としてそれ以外のものは,定性的な評価方法を用いた製品や部品に対する環境配慮設計の適合性判断手法[10]などがあるが,十分に研究されているとは言えないことから,継続的な研究が必要な分野であると考えられる.

IoT活用やその考え方を取り入れたクラウドマニュファクチャリングに関するものが最も多く報告されている.シミュレーションを用いたクラウドマニュファクチャリングの生産性評価[11]をはじめ,不確定なコスト下での均衡問題[12],クラウドマニュファクチャリングの社会有効性に関する研究[13],さらに,IoT活用としては,農業生産システムへの活用[14]や作業のモニタリングシステムの開発[15],多品種少量組立ラインへの適用[16]などが挙げられる.このような研究領域において,今後,ICTの発展とともに生産システムの全般に渡って益々多くのIoTに関連する要素技術が活用されると期待する.

新しい製造技術であるAM,つまり,3Dプリンタを主とした付加製造技術は,材料加工方法[17, 18]をはじめ,教育事例[19]などにも用いられている.これからもその活用領域を広げていくことと予測される.

〔柳 在圭 金沢大学

17・1の文献

[ 1 ]
勝村義輝, 杉西優一, 藤井信忠, 国領大介, 貝原俊也, 管理付きエージェント型シミュレーションを用いたクラウドマニュファクチャリングの生産性評価方法, 日本機械学会論文誌, Vol. 83, No. 848, 2017. DOI: 10.1299/​transjsme.16-00440.
[ 2 ]
Wei Guo, Wei Peng, Lei Wang, The equilibrium of cloud manufacturing system under cost uncertainty, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol.11, No.2,(2017), DOI: 10.1299/​jamdsm.2017jamdsm0020.
[ 3 ]
BongJoo Jeong, Sang-Oh Shim, Heuristic algorithms for two-machine re-entrant flowshop scheduling problem with jobs of two classes, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol. 11, No. 5,(2017), DOI: 10.1299/​jamdsm.2017jamdsm0062.
[ 4 ]
阪口龍彦, 田中 達也, 清水 良明, 内山 直樹, 精密板金加工のスケジューリング問題のためのハイブリッド解法, Vol. 83, No. 848,(2017), DOI: 10.1299/​transjsme.16-00333.
[ 5 ]
原口春海, 貝原俊也, 藤井信忠, 国領大介, セル生産における技能向上を目的とした作業者の配置に関する研究(第4報, 動的環境下における運用法の提案), Vol. 83, No. 848,(2017), DOI: 10.1299/​transjsme.16-00357.
[ 6 ]
Takuya Aoyama, Tatsushi Nishi, Guoqing Zhang, Production planning problem with market impact under demand uncertainty, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol.11, No.2,(2017), DOI: 10.1299/​jamdsm.2017jamdsm0019.
[ 7 ]
Neng Hou, Fazhi He, Yi Zhou, Haojun Ai, A GPU-based tabu search for very large hardware/software partitioning with limited resource usage, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing, Vol. 11, No. 5,(2017), DOI: 10.1299/​jamdsm.2017jamdsm0060.
[ 8 ]
Yoshiyuki Karuno, Seiya Tanaka, Cooperative item collecting problems in directed bipartite structures, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol. 11, No. 2,(2017), DOI: 10.1299/​jamdsm.2017jamdsm0025.
[ 9 ]
Yoshiyuki Karuno, Ryo Saito, Heuristic algorithms with rounded weights for a combinatorial food packing problem, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol.11, No.1,(2017), DOI: 10.1299/​jamdsm.2017jamdsm0003.
[10]
Koji Shimoyama, Taiga Kato, An evolutionary constrained multi-objective optimization algorithm with parallel evaluation strategy, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol.11, No. 5,(2017), DOI: 10.1299/​jamdsm.2017jamdsm0051.
[11]
Alejandro De Arriba-Mangas, Ryo Fukuda, Hideki Aoyama, Development of model identification methodology based on form recognition for Computer-Aided Process Planning, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems and Manufacturing Vol. 11, No. 5,(2017), DOI: 10.1299/​jamdsm.2017jamdsm0054.
[12]
野末 卓, 荒川雅裕, 製品の価値向上を目的とするサービス設計法の研究(QFDの要求品質展開利用による設計法の提案), 日本機械学会論文誌, Vol. 83, No. 848,(2017), DOI: 10.1299/​transjsme.16-00347.
[13]
Eiji Morinaga, Hidefumi Wakamatsu, Hijiri Abiru, Eiji Arai, Behavior modeling method for functional verification of product considering ways of usage, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing Vol. 11, No. 5,(2017), DOI: 10.1299/​jamdsm.2017jamdsm0066.

17・2の文献

[ 1 ]
阪口龍彦, 田中達也, 清水良明, 内山直樹, 精密板金加工のスケジューリング問題のためのハイブリッド解法, 日本機械学会論文集, Vol.83, No.848,(2017), DOI: 10.1299/​transjsme.16-00333.
[ 2 ]
板谷大地, 貝原俊也, 藤井信忠, 國領大介, 井筒理人, 梅田豊裕, 作業者の能力差と生産コストを考慮したスケジューリングに関する研究, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2017), pp.47–48.
[ 3 ]
Takuya AOYAMA, Tatsushi NISHI and Guoqing ZHANG, Production planning problem with market impact under demand uncertainty, Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturing, Vol.11, No.2(2017), DOI: 10.1299/​jamdsm.2017jamdsm0019.
[ 4 ]
BongJoo JEONG and Sang-Oh SHIM, Heuristic algorithms for two-machine re-entrant flowshop scheduling problem with jobs of two classes, Vol.11, No.5(2017), DOI: 10.1299/​jamdsm.2017jamdsm0062.
[ 5 ]
原口春海, 貝原俊也, 藤井信忠, 国領大介, セル生産における機能向上を目的とした作業者の配置に関する研究(第4報, 動的環境下における運用法の提案), 日本機械学会論文集, Vol.83, No.848(2017), DOI: 10.1299/​transjsme.16-00357.
[ 6 ]
櫻井創, 西竜志, 動的主従関係入れ替えを考慮した多期間生産計画問題, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2017), pp.63–64.
[ 7 ]
青山拓弥, 西竜志, 市場影響を考慮した2階層サプライチェーン計画問題のモデル化と解法, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2017), pp.89–90.
[ 8 ]
米本涼, 諏訪晴彦, グリーン製造システムのための物理シミュレータの開発(エネルギー効率性評価のためのスケジューラの実装, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2017), pp.29–30.
[ 9 ]
矢永健太郎, 日比野浩典, M2M環境下の省エネルギアイドル状態付き生産設備の運用方法の研究(第1報 生産ラインにおける運用方法, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2017), pp.43–44.
[10]
柴田知世, 山田周歩, 山田哲男, 井上全人, 製品のアップグレード設計への適合性評価(ノートパソコンの設計問題への適用), Vol.83, No.851(2917), DOI: 10.1299/​transjsme.17-00082.
[11]
勝村義輝, 杉西優一, 藤井信忠, 国領大介, 貝原俊也, 管理付エージェント型シミュレーションを用いたクラウドマニュファクチャリングの生産性評価方法, Vol.83, No.848(2017), DOI: 10.1299/​transjsme.16-00440.
[12]
Wei GUO, Wei PENG and Lei WANG, The equilibrium of cloud manufacturing system under cost uncertainty, Vol.11, No.2(2017), DOI: 10.1299/​jamdsm.2017jamdsm0020.
[13]
勝村義輝, 杉西優一, 貝原俊也, 藤井信忠, 國領大介, クラウドマニュファクチャリングの社会有効性に関する研究, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2017), pp.101–102.
[14]
松本悠作, 日比野浩典, 久保直輝, 農業生産システムにおけるIoTを活用する圃場の欠品および優良ロスを事前評価するシミュレーションの開発, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2017), pp.35–36.
[15]
伊藤彰朗, 青山和浩, 大泉和也, 北w村遼, プレス工場における作業のモニタリングシステムの検討, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2017), pp.31–32.
[16]
上岡洋介, 動的最適化生産CPSの多品種少量組立ラインへの適用, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2017), pp.105–106.
[17]
中矢太陸, 金子順一, 堀尾健一郎, 熱可塑性樹脂造形における形状精度向上手法の開発, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2017), pp.71–72.
[18]
舘野寿丈, 関口太一, 大胡疾風, 角田陽, 超音波振動援用の材料押し出し型AMにおける振動の効果, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2017), pp.75–76.
[19]
松本宏行, 今泉博貴, 高橋正明, ものつくり大学における付加製造技術を用いた教育事例, 生産システム部門研究発表講演会講演論文集(2017), pp.79–80.

 

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