2. 人材育成・工学教育

2・1 人材育成・工学教育の動向

2・1・1 工学教育の動向

2018年3月に,文部科学省から「工学系教育改革制度設計等に関する懇談会取りまとめ(座長:名和豊春北海道大学総長)」が公表された[1].この「取りまとめ」は,2017年6月に公表された「大学における工学系教育の在り方について(中間まとめ)」を踏まえた上で,工学系教育改革の実現に向けて具体的な施策の制度設計について検討を進めたものとなっている.概略は以下の4つの提言からなっている.

(1)学科・専攻定員設定の柔軟化:教育組織と研究組織を分離し,学部等全体で教員及び学生の収容定員を管理する仕組みを活用する.これにより,深い専門知識と幅広い分野の知識の修得を可能とする教育体制を構築し,硬直化した縦割りの教育研究体制を柔軟化する.

(2)学部段階における工学基礎教育の強化:基礎力強化のため,モデル・コア・カリキュラムを策定する.このカリキュラムでは,教育内容を精選し,学生が学ぶべき知識・技能等の到達目標を提示するとともに,一定水準を明確にして教育の質を担保する.

(3)学部・大学院連結教育プログラムの構築:学部・大学院一貫教育システムを創設する.既存のカリキュラムを効率化し,工学以外の経営学・社会学等との組み合わせ(メジャー・マイナー制),企業等と連携したPBL(Project-Based Learning)など実践的な内容を盛り込んだ教育課程とする.

(4)産業界との教員人事交流促進等を含めた連携強化:産学のトップマネジメントによるコミュニケーションを強化し,組織対組織での連携を具現化する.この産学連携教育においては,実務家教員がカリキュラムの策定,シラバス・教材の開発まで,大学と共同・連携して実施する.

以上の施策を具体化することにより,工学系人材が新たな社会的価値の創造(イノベーション)を拡大させ,あらゆる分野を牽引していく人材に進化することを期待している.意欲的な施策ばかりであり,その実現には長い時間を要すると思われるが,変革著しい社会や産業界で求められる工学系人材育成に資するものとなるように思われる.

2・1・2 工学系高等教育機関での学生の動向[2]

大学数は780校となり前年と比較して3校増加し,大学生は2 891千人で前年より17千人増加した.学生数は学部が2 583千人,大学院が251千人で,学部が16千人増,大学院が1千人増であった.女子学生および社会人が占める割合はそれぞれ43.7%(0.3%増),23.8%(0.2%増)となり,いずれもここ数年の微増傾向が続いている.大学および大学院の専門別では,工学系の学部生が全体の14.9%で0.1%減,大学院修士課程は40.9%で0.5%減,博士課程は17.2%で0.4%減であり,微減傾向が続いている.

大学生の学部卒業後の進路調査によれば,卒業者の大学院への進学は全体で11.0%,就職率は76.1%であり,正規の職員等に就職した者は72.9%を占めていた.好調な経済状況を反映して,就職率はゆっくりと改善を続けている.修士課程(前期課程)修了者の博士課程への進学率は9.2%で前年より0.2%減,就職率は78.2%で0.7%増であった.就職者のうち75.1%が正規の職員等に就いている.就職者総数を産業別に見ると,製造業が43.0%と最も高く,次いで情報通信業が11.4%,教育・学習支援業が8.0%となっており,例年とほぼ同じ傾向であった.博士課程(後期課程)修了者は,就職率が67.7%で前年度より0.3%増加した.正規の職員などは53.3%,非正規職員などが14.4%となっていた.職業別に見ると,専門的・技術的職業従事者が92.5%を占めていた.ポストドクター等の数は1 454人で,修了者に占める専攻分野別の割合は工学が24.0%で最も高かった.これらの動向は前年と同様であった.

2・1・3 日本機械学会の活動

イノベーションセンターは,技術者教育,人材活躍・中小企業支援事業,日本技術者教育認定機構(JABEE)事業,機械状態監視資格認証事業,計算力学技術者資格認定事業,研究協力事業,技術ロードマップという7つの委員会を設け,各種施策の企画・実施を行っている.また,2009年度に設立されて以来,技術者の人材育成・活用,技術者資格の認証・認定,産業界の技術開発・生産活動を支援することにより,機械工学分野のイノベーションを牽引し,産官学の連携強化,外部資金の導入促進による学会事業の拡大と学会プレゼンスの向上を目的として活動を続けている.人材育成は成果が明確に現れるまでに時間を要するため,PDCAサイクルを円滑に回しながら,長期に渡り事業を進めていく必要がある.イノベーションセンターが実施している各種事業へのご支援・ご協力をお願いする次第である.

〔山本 誠 東京理科大学

2・2 技術者教育プログラム認定の動向

日本技術者教育認定機構(JABEE)が行う高等教育機関における技術者教育プログラムの認定審査において,当初から本会は機械及び関連の工学分野審査委員会の幹事学会として活動を行っている[1].2016年度(2017年4月認定)には,海外教育機関の2プログラムを含めて7プログラムが新たに認定され,JABEEにおける全16技術分野の認定プログラムの累計は175教育機関で501プログラムになり,認定プログラムからの修了生の累計は約26万人に達している.これらのうち,本会が幹事学会を担当する機械及び関連の工学分野のプログラム数累計(旧基準の機械および機械関連分野のプログラムを含む)は82と16技術分野中で最多(約16.4%)で,引き続き認定分野の中核の位置を占めている.認定プログラムの一覧は,JABEEのホームページ上で公開されている[2].

2017年度にはこれらのJABEEプログラム修了者の中から2 309名が技術士二次試験に臨み274名が合格しており,合格率も一昨年度の10.2%,昨年度の13.1%とほぼ同等の11.9%で,全体の合格率13.3%に匹敵する値となりつつある[3].これに伴い合格者の平均年齢も全体では42.9歳であるのに対JABEE修了者は31.3歳,最年少の合格者は26歳と,若い技術士を生み出すことに寄与している.

2016年度の審査対象は,中間審査が9%,認定継続審査が82%であり,新規審査は9%と昨年と同様の低い水準にある.また,認定継続を取りやめるプログラムの数が新規認定プログラム数を上回るようになっており,認定中のプログラム数が漸減している.この点は課題としてJABEEでも強く認識しており,同一校複数プログラムの一斉審査による効率化,変更通知と変更時審査の撤廃など,受審校の負担を減ずる方策を採るとともに,企業関係者の実地審査の視察等を通して,特に産業界からの理解を得るための取り組みを実施している.さらに,的確な審査を実施するため,審査員研修会を3回実施し,214名が参加している.本会でも,前年に引き続き,2017年度年次大会会期中の9月4日に埼玉大学において,イノベーションセンターJABEE事業委員会の主催で新人審査員研修フォーラムを開催した.

JABEEはアジア諸国における技術者教育認定団体設立の動きに合わせて国際協力機構(JICA)に協力する形でインドネシアでの認定制度立ち上げの準備作業を実施しており[4],昨年度に引き続き2016年度にも同国の2プログラムを認定している.他方,JABEEは認定する技術者教育の国際的同等性を担保するためのワシントン協定への加盟が認められているが,2017年には継続加盟審査があり,ワシントン協定からの審査員による実地審査の視察等が行われた.継続加盟の可否は2018年6月の総会で決定される予定である.各教育プログラムにおいても,技術者教育の国際的動向を注視しつつ,継続した改善を期待したい.

〔佐藤 勲 東京工業大学

2・3 技術者資格認定・認証の動向

2・3・1 ISO18436準拠機械状態監視診断技術者の認証

我が国の産業界は,競争力維持,強化のため,機械設備の安定安全操業が不可欠な環境にある.本会では,その一助として,2004年よりISO18436-2に準拠した機械状態監視診断技術者(振動)を,また,2009年からは日本トライボロジー学会と協力して,ISO18436-4に準拠した機械状態監視診断技術者(トライボロジー)の資格認証事業を実施している.以下に,両診断技術者の2017年度の資格認証試験の概要と現況のトピックスを示す.

(1)ISO18436-2に準拠した機械状態監視診断技術者(振動)

第1回試験が6月24日に,第2回試験が11月18日(カテゴリIVの記述,面接試験は実施せず)に実施された.合格者数(合格率,受験者数)は,カテゴリI/II/III/IVでそれぞれ,24名(92%,26名)/252名(88%,288名)/26名(70%,37名)/0名(0%,2名)であった.また,10月21日には,マレーシアにて,第4回目となる資格認証試験を実施し,カテゴリI/IIで合格者数(合格率,受験者数)はそれぞれ4名(100%,4名)/7名(78%,9名)であった.2017年末での合格者数総数は,4 884名となった.

(2)ISO18436-4に準拠した機械状態監視診断技術者(トライボロジー)

第1回試験(カテゴリI/II)を12月2日に実施した.合格者数(合格率,受験者数)は,カテゴリI/IIでそれぞれ,82名(99%,83名)/9名(69%,13名)であった.年一回の試験実施となったが,受験者数を維持している.2017年末での合格者数総数は,1 172名となった.

(3)その他の活動

機械状態監視診断技術者(振動)については,年1回,コミュニティを開催し,資格認証者間での情報交換,共有を推進している.第9回目となった2017年は千葉で開催され,技術交流の幅を広げている.2018年度は10月12日に大阪での開催予定である.コミュニティに関する情報は,本会のホームページhttps://www.jsme.or.jp/conference/joutai/を参照されたい.本ホームページには機械状態監視診断技術者の認定試験の詳細についても記載されている.

2014年より開始されたマレーシアにおける認証事業を2018年度で終了し,認証者の更新のみを行っていくこととした.海外での実情を把握し,国内における認証事業を推進するため,引き続き韓国KSNVE,米国VIと定期的に会合を行っていく.当該資格認証事業が,機械技術者,機械状態監視診断技術者の技術レベルおよび社会的地位の向上に貢献できるよう,更に事業推進していく.

〔藤原 浩幸 防衛大学校

2・3・2 計算力学技術者認定

機械設計プロセスにおける計算力学(CAE)の急速な普及とともに,産業界において,計算力学技術者の品質保証が重要な課題となっている.本会では,CAEに携わる技術者の能力レベルを認定・保証するため,2003年度から計算力学技術者認定試験を実施している.2017年度も,イノベーションセンターの主催により,本会関連部門・支部の協力,国内53学協会の協賛,日本機械工業連合会,日本産業機械工業会,日本電機工業会の後援を得て,固体力学,熱流体力学,振動分野の上級アナリスト試験を9月9日(土),10日(日)に,1・2級認定試験を12月9日(土)に実施した.固体分野は全国5会場(関東,東海,関西,北陸,九州地区),熱流体分野と振動分野は全国4会場(関東,東海,関西,九州地区)で試験が行われた.合格者数および合格率は,固体分野が上級アナリスト:8名(80%),1級:65名(37%),2級:188名(29%),熱流体分野が上級アナリスト:5名(83%),1級:96名(52%),2級:175名(66%),振動分野が上級アナリスト:2名(67%),1級:32名(30%),2級:107名(68%)であった.また,書類審査による初級認定者は,固体分野が89名,熱流体分野が33名,振動分野が4名であった.認定試験開始以来,各級の受験者数・合格者数は共に順調に増加し,これまでの累計で8 358名という多くの認定者が誕生している.

また,2014年度から開始した非営利組織NAFEMS(The National Agency for Finite Element Methods and Standards)におけるPSE(Professional Simulation Engineer)資格と上級アナリスト資格との国際相互認証の協定に基づき,固体分野上級アナリスト4名がNAFEMSのPSEとしてあらたに認定された.

計算力学技術者の認定試験の詳細や合格者のリストなどについては,http://www.jsme.or.jp/cee/cmnintei.htmをご覧いただきたい.

〔長嶋 利夫 上智大学

2・1の文献

[ 1 ]
文部科学省:「工学系教育改革制度設計等に関する懇談会取りまとめ」, http:/​/​www.mext.go.jp/​b_menu/​shingi/​chousa/​koutou/​088/​gaiyou/​1403191.htm,(2018.4).
[ 2 ]
文部科学省:学校基本調査―平成29年度結果の概要―, http:/​/​www.mext.go.jp/​b_menu/​toukei/​chousa01/​kihon/​kekka/​k_detail/​1388914.htm,(2018.4).

2・2の文献

[ 1 ]
日本機械学会ホームページ, https:/​/​www.jsme.or.jp/​jabee/​.
[ 2 ]
日本技術者教育認定機構ホームページ, https:/​/​jabee.org/​accreditation/​program.
[ 3 ]
日本技術士会ホームページ, https:/​/​www.engineer.or.jp/​c_topics/​001/​attached/​attach_1013_2.pdf.
[ 4 ]
国際協力機構ホームページ, https:/​/​www.jica.go.jp/​indonesia/​office/​information/​event/​20170127.html.

 

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