2017年度にはH-IIAロケット5機,イプシロンロケット1機,SS-520 5号機の合計7機のロケットが打ち上げられた.H-IIAロケットに関しては,2017年6月1日に準天頂衛星「みちびき2号機」を搭載した34号機,2017年8月19日には準天頂衛星システム 静止軌道衛星「みちびき3号機」を搭載した35号機,2017年10月10日には準天頂衛星「みちびき4号機」を搭載した36号機,2017年12月23日には気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C),および,超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)を搭載した37号機,2018年2月27日には情報収集衛星光学6号機を搭載した38号機がそれぞれ打ち上げられ,連続32機の成功となった.特に37号機は国際競争力の強化を目的として開発された基幹ロケット高度化,および,衛星相乗り機会拡大対応開発の成果を適用し,衛星2基をそれぞれ異なる軌道高度に打ち上げる機能を追加した第2段ロケットが初めて用いられた.本技術により,今後は衛星の相乗り打上げ機会が拡大し,H-IIAロケットの打上げ能力を最大限活用することが期待される.
小型衛星の機動的打上げ手段の獲得・提供等を目指し,高性能と低コストの両立を目指す新時代の固体燃料ロケットであるイプシロンロケットは内之浦宇宙空間観測所から2018年1月18日に高性能小型レーダ衛星(ASNARO-2)を搭載した3号機が,日本電気株式会社からの受託契約に基づき打ち上げらた.3号機には液体ロケット並みの軌道投入精度(高度誤差±20 km)を実現するための小型液体推進システム(Post Boost Stage, PBS)を搭載した強化型イプシロンロケット(オプション形態),および,衛星分離衝撃を世界トップレベル(衝撃レベル1 000 G以下)まで低減する低衝撃型衛星分離機構が適用され,今後の更なる打上げ受託獲得が期待される.また,イプシロンロケットは今後の増加が期待されている超小型衛星の打上需要への対応のため,キューブサットや60 kg級の超小型衛星を同時に打ち上げ可能な複数衛星搭載システムの開発を実施しており,4号機に適用する計画である.さらに,平行して開発が進められているH3ロケットとのシナジー効果発揮に向けた開発として,H3ロケットの固体ブースタ(SRB-3)と1段モータの共有化や電子機器開発の共通化に関する検討を実施している.
SS-520 5号機はSS-520観測ロケットに新規開発の第3段モータ等を加えるとともに民生技術を活用して開発された小型ロケットであり,2017年1月の4号機の実験失敗に対する対策が施され,2018年2月3日に内之浦宇宙空間観測所で打上実験が実施された.ロケットは正常に飛行し,東京大学が開発した超小型衛星TRICOM-1Rの分離,軌道投入に成功した.
自立性の確保と国際競争力のあるロケット及び打上げサービスの提供を目的とし,2020年度の初号機打ち上げを目指して開発が進められているH3ロケットは,2017年4月から1段エンジン(LE-9)実機型の燃焼試験が開始される等,着実に開発が進められている.
宇宙輸送システムの将来に向けた研究開発としては,部分再使用システムの開発が世界的に進んでいる状況をふまえ,JAXAにおいても1段の再使用による低コスト化に必要な重要技術課題の検討を実施し,エンジン等の再使用に向けた研究を進めている.
2017年は科学・実用衛星として5機の打上げが行われ,また以前に打上げられた衛星による堅実な成果が得られた年であった.さらに,今後打上げられる衛星の開発も着実に進んでいる.
日本のほぼ天頂を通る軌道を持つ人工衛星を複数機組み合わせ,GPSを補いより高精度で安定した衛星測位サービスを実現する準天頂衛星システム「みちびき」は,「みちびき2号機(準天頂軌道衛星)」が2017年6月1日,「みちびき3号機(静止軌道衛星)」が2017年8月19日,「みちびき4号機(準天頂軌道衛星)」が2017年10月10日にそれぞれH-IIAロケット34号機,35号機,36号機で打上げられた.正式サービスは2018年11月1日から開始される予定である.
地球環境変動観測ミッション(GCOM)のうち,気候変動観測衛星「しきさい」(GCOM-C)は放射収支と炭素循環に関わる雲・エアロゾル(大気中のちり)や植生などを全球規模で長期間継続して観測することを目的としており,2017年12月23日にH-IIAロケット37号機で打上げられた.打上げ後3ヶ月間の初期機能確認を終了し,2018年4月からは定常的な観測運用を開始した.
未開拓の領域である300 km以下の「超低高度軌道」は,光学画像の高分解能化,観測センサ送信電力の低減,衛星の製造・打上げコストの低減などが期待されており,この高度を利用する超低高度衛星技術試験機「つばめ」(SLATS)は,GCOM-Cと相乗りで2017年12月23日に打上げられた.初期段階フェーズを2018年3月に完了し,軌道遷移フェーズへ移行後観測運用を行っている.
以前打上げられた衛星として,2016年12月20日に打上げられたジオスペース探査衛星「あらせ」(ERG)は,ヴァン・アレン帯に存在する高エネルギー電子の生成過程や宇宙嵐発達の仕組みを明らかにすることを目的としており,2017年3月から定常運用を開始している.これまでに種々の宇宙嵐時の放射線帯の変動の様子を観測し,また明滅するオーロラの起源を明らかにしている.
2018年以降の予定については,状況も含めて記載する.
小型衛星を短期間に低コストで実現するための衛星開発運用アーキテクチャを確立し,低コスト・短期の開発期間実現を目指す先進的宇宙システム(ASNARO)において,Xバンドレーダ衛星のASNARO-2は2018年1月18日にイプシロンロケット3号機によって打上げられた.2018年3月には機能・運用確認フェーズにおいて取得した初画像を公開した.
2014年12月3日に打ち上げられた小惑星探査機「はやぶさ2」は,C型小惑星「Ryugu」を目指して順調に航行を続けている.2018年2月には小惑星Ryuguの撮影を行い,そのデータを使った光学航法により2018年6月~7月頃にRyuguに到着する予定である.
温室効果ガス観測衛星「いぶき」(GOSAT)の後継機で,温室効果ガスの観測機能・性能の向上を目指す「いぶき2号」(GOSAT-2)は2018年に打上げの予定である.一酸化炭素を観測対象として追加し,二酸化炭素と組み合わせて観測することにより人為起源の二酸化炭素の排出量推定を目指すと共に,PM2.5の濃度推定に必要なデータの観測を行う.
水星に2機の周回探査機を送る日欧共同プロジェクトの水星探査計画「BepiColombo」において,JAXAは水星磁気圏探査機(MMO)の開発を担当し,2014年度に実機の製作・試験を完了した.ESTEC/ESAでの試験を終えた後,2018年10月にアリアンロケットによる打上げを予定している.
商用衛星では,カタールの国営衛星通信事業者であるEs'hailSat(エスヘイルサット)社から受注した通信衛星「Es'hail 2」は,2018年中に打上げの予定である.
将来の月や火星の有人探査に向けて,世界各国の宇宙機関が国際宇宙探査について活発な議論が行われており,日本も深宇宙探査を果敢に推進している.2010年5月に打ち上げた金星探査機「あかつき」は,2015年12月7日に姿勢制御用エンジンを用いて金星周回軌道投入に成功,金星を楕円軌道にて順調に周回し,金星の科学観測を行っている.「あかつき」搭載の紫外イメージャで雲頂を観測,近赤外カメラで下層の雲を観測し,スーパーローテーション風速の時間変化が大気中の高度により異なることを初めて示すことができた.また,近赤外カメラの画像データより,高度45–60 kmの中・下層雲領域の流れが赤道付近で速いジェット状になる時期があることを発見した(Nature Geoscience, Vol.10, pp.646–651, DOI: 10.1038/ngeo3016, 2017)(JAXA,北海道大学共同プレスリリース 2017年8月29日).
2014年12月3日に打ち上げた小惑星探査機「はやぶさ2」は,2015年12月3日に地球スイングバイを実施し,電気推進で順調に飛行中である.2018年6月~7月に小惑星に到着予定であり,1年半ほど小惑星に滞在して小惑星の観測およびサンプル採取を行う.その後,2019年末頃に小惑星を出発,2020年末頃に地球に帰還する予定である.「はやぶさ2」では,南北と東西のDDOR(Delta Differential One-way Range)を同時に実施し,三次元の幾何学的位置を瞬時に直接測定する方法によるイオンエンジン使用中の軌道決定を深宇宙で初めて実施した(ISTS, 2017-d-097, 2017).イオンエンジン動力航行中は推力の不確定性が大きいため,従来手法による軌道決定は極めて困難である.海外(NASA, ESA)の深宇宙探査機では必ずイオンエンジンをオフにして軌道決定を行っている.NASA局とJAXA局を用いて,2017年1月のイオンエンジン動力航行中に実証試験を行ったところ,僅か52分間の観測時間で,1.28 km(1σ)という極めて高い位置精度を得ることができた.
日本とヨーロッパ(European Space Agency(ESA):欧州宇宙機関)と共同で推進している水星探査「BepiColombo(ベピコロンボ)」計画は,「惑星の磁場・磁気圏の普遍性と特異性」や「地球型惑星の起源と進化」について明らかにするミッションである.JAXAは,日本の得意分野である磁場・磁気圏の観測を主目標とするMMO探査機の開発と水星周回軌道における運用を担当し,ESAが打ち上げから惑星間空間の巡航,水星周回軌道への投入,MPOの開発と運用を担当する.MMOとMPOは,2018年秋にアリアン5型ロケットで一緒に打ち上げられ,水星到着後に分離して,協力しながら約1年間の観測を行う予定である.
月着陸実証機SLIM(Smart Lander for Investigating Moon)が2016年4月よりスタートし,開発を進めている.SLIMでは,将来の月惑星探査に必要なピンポイント着陸技術を開発し,それを小型探査機で月面にて実証する計画である.従来の「降りやすいところに降りる」着陸ではなく,「降りたいところに降りる」着陸へと質的な転換を果たすもので,世界的にもユニークなミッションである.小型の探査機によって月への高精度着陸技術の実証を早期に実現し,我が国として重力天体への着陸技術を獲得することは重要であり,将来の科学ミッションや国際協働有人探査ミッションに貢献するものである.そのほか,ESAが推進している木星やその氷衛星を調べる次世代探査計画「JUICE(The Jupiter Icy moons Explorer:木星氷衛星探査機)」ミッションに日本も参加し,観測機器の一部の開発を進めている.「JUICE」は,2022年にアリアン5にて打ち上げ,2030年に木星系到着,2032年にガニメデ周回軌道に投入し,約8か月後の2033年6月にミッションを完了する計画で,世界初の氷衛星の周回機となる.
将来計画としては,火星衛星探査計画(MMX)を準備している.MMXでは,火星の衛星(フォボス・ダイモス)の探査を行い,試料サンプルを地球に回収(サンプルリターン)して詳細な分析を実施する計画である.これにより火星衛星起源を実証的に決定して,原始惑星形成過程の理解を進めるとともに,生命材料物質や生命発生の準備過程(前生命環境の進化)を解明する.また,深宇宙探査技術実証機(DESTINY+)を検討中である.DESTINY+では,小型深宇宙探査機技術の獲得と流星群母天体のフライバイ観測及び惑星間ダストのその場分析を行う.低コスト・高頻度の深宇宙探査を実現するために,DESTINY+では,イオンエンジンや軽量・高性能太陽電池パドル,先端的熱制御や機器の小型化・高性能化,ミッションペイロードのモジュール化などにより小型高性能深宇宙輸送機を実証する.また,地球生命の前駆物質の可能性がある地球外からの炭素や有機物の主要供給源と考えられている地球飛来ダスト及びその母天体の実態解明を行う.そのために,地球飛来ダストの実態解明(組成・速度・到来方向の分析)と地球飛来ダスト特定供給源である流星群母天体フェイトンの実態解明(形状・地形・物質分布からダスト放出機構を探る)を行う.
さらに,ソーラー電力セイル計画(OKEANOS(オケアノス))をはじめ,国際探査計画(月極域探査,国際宇宙探査ゲートウェイ,月サンプルリターン,有人探査)なども視野にいれて検討しており,我が国も本格的な月惑星探査を進める予定である.
日本における有人宇宙活動の将来ビジョンがようやく見えてきた.
内閣府,文部科学省の有識者委員会を中心に国際宇宙探査の在り方について議論を進めて来ており,国際的に月近傍から火星へと流れが進む中,日本も乗り遅れることなく国際協力の枠組みの中でISS後の活動として,探査を政策の柱の一つとして日本の得意技術をもって国際協力への参画に取り組もうとしている.
国際宇宙ステーション(ISS)は2024年までの運用の間に最大限の利用拡大を図ろうとしている.米国では2017年10月に行われた国家宇宙会議(NSpC)で地球低軌道において米国が有人宇宙活動を継続的に維持するための基盤を構築するとともに,米国人宇宙飛行士を再び月に送り,火星以遠に米国人を送るための基盤を構築することを国際的なパートナーシップの強化の中で行うことを提言した.
欧州は,欧州宇宙機関(ESA)がMoon Villageと呼ばれる「様々な目的を持つ人々が月面の1つの場所に集まり,個別の活動よりも大きな成果を目指す」というコンセプトを示している.
翻ってJ AXAでは2017年1月に制定した「きぼう」利用戦略において有望分野の重点化を図るとともに一部産業の自立化を目指す方針が示され,多額の予算をかけた「きぼう」を使い倒すことが当面の課題のようである.
実際,宇宙環境利用という側面では,すでに200基を超える放出実験を誇る「きぼう」のエアロックとロボットアームを活用した超小型衛星放出の実績は出色であり,この事業化を推進するため2017年度内を目標に本事業を行う民間事業者の選定を進めている.
今後1–3 kg級の超小型衛星を対象とし同時放出数を現在(1 Uで12機)から2倍(1 Uで24機)に増強する予定であり海外機関とJAXAおよび日本国内大学との連携を通じた超小型衛星事業の海外での利用拡大が期待される.
さらに宇宙放射線や高真空・熱環境等が材料や部品に与える影響を複合的に調べる実験や,ISSに衝突する宇宙塵(微粒子)を捕獲して微生物の存在を確認する実験など曝露実験環境を提供することを目的とした簡易曝露実験装置(ExHAM)を開発して「きぼう」の船外に設置し,2015年から2回1年単位の曝露実験を実施しており,2016年および2017年には曝露実験を終えた実験材料が順次地上回収されて実験利用者に引き渡され利用者側で回収後の評価確認を実施中である.
これらに加え.さらなる船外環境の利用機会拡大を目指し,中型曝霧実験アダプタ(i-SEE P)を開発し,初回ミッションは2016年4月から実施しており.2017年には4 K映像撮影機能を持つ次世代ハイビジョンカメラシステム(HDTV-EF2)の宇宙実証を実施している.
船内実験室では2016年に小動物飼育装置を用いたマウスの初めての長期飼育帰還後の健康な産仔の作出が成功し骨量や筋量の減少など,優れた初期成果が報告されたが,2017年8月から2回目の実験が行われ,30日間の飼育後12個体全数が生体として回収された.微小重力区に対し,低重カ~l Gという対照区を持つ同装置の最大の特徴を活かし,将来の有人探査時代に向けて,今後も重要な発見が期待される.
船外実験プラットフォームでは2015年に打ち上げられた高エネルギー電子・ガンマ線観測装置は,観測運用2年を超え.順調に観測を継続している.2017年は,これまで観測されなかった3テラ電子ボルトまでの高エネルギー電子線の観測に成功するなど,優れた成果をあげている
2017年のノーベル物理学賞の対象となった.米国の重力波天文台(LIGO)による観測成果に対し.観測された重力波の成因に関する重要な根拠を本装置が与えた.
現在,我が国には7名の宇宙飛行士がいる.
金井宣茂宇宙飛行士は,第54次/55次ISS長期滞在搭乗員に任命され,2017年12月17日にソユーズ宇宙船によって打ち上げられた.長期滞在中は,ISSのフライトエンジニアとして,宇宙環境を利用した日本および国際パートナーの科学実験,医学実験などを行う予定である.
野口聡一宇宙飛行士は,2017年11月に第62/次/63次ISS長期滞在搭乗員に任命されミミッションにむけた固有訓練を開始した,
また星出彰彦宇宙飛行士がISS第64次/第65次長期滞在搭乗員に決定され,日本人として2人目のISS船長として第65次長期滞在の指揮をとることとなった.
若田光一宇宙飛行士は,「きぽう」の運用や装置開発などを担当するJAXA有人宇宙技術センター長およびISSプログラムマネージャとして宇宙飛行士としての豊富な経験および人脈を活かしISS参加各国機関との調整等に当たっている来たが,2018年4月宇宙飛行士出身として始めてJAXA理事に就任し,今後JAXA,日本の有人宇宙活動をさらに牽引していくことが期待される.
北海道大樹町を拠点に小型液体ロケットを開発するインタステラテクノロジズ社は,2017年7月30日,観測ロケット「MOMO」の打上げ実験を実施した.高度100 kmへの到達を目指していたが,打上げ66秒後に通信が途絶し,緊急停止コマンドが送信された.高度20 kmに到達後,射点から4~8 kmの海上に落下したと推定されている[1].MOMOは推力1.2トンの液体推進系により高度100 km以上へ飛翔する観測ロケットで,20 kgのペイロードを搭載する計画である.小型人工衛星の軌道投入用ロケットZEROの開発も並行して進められている.
キャノン電子,IHIエアロスペース,清水建設,および日本政策投資銀行は,2017年8月9日,小型ロケットによる商業宇宙輸送サービスを目指す「新世代小型ロケット開発企画株式会社」を発足させた[2].キャノンが民生機器の量産やコスト削減,IHIエアロスペースがロケット開発やシステムインテグレーション,清水建設は各種インフラなどの知見やノウハウを活かし,小型衛星を専用で打ち上げる小型ロケットの開発を進める計画である.
経済産業省とJAXAの協力により,2段式観測ロケットであるSS-520に3段目を追加して超小型衛星を地球周回軌道に投入するSS-520-4号機が開発され,鹿児島県肝付町の内之浦宇宙空間観測所から打上げられた.2017年1月15日に実施された打上げでは打ち上げ20秒後にロケットからのデータが途絶えたため2段目の点火は見送られ,機体は海上の警戒区域内に落下した.その後の調査により,飛行中の振動でケーブルが破断したのが送信途絶の原因と特定された.対策を施した機体が2018年2月3日に打上げられ,東京大学が開発した3 Uサイズの超小型衛星「TRICOM-1R」を地球周回軌道に投入することに成功した.
米国の民間企業であるロケットラボ社は,開発する「エレクトロン」ロケットの実験機を,2017年5月25日,地球周回軌道到達を目指してニュージーランド北部のマヒア半島から打上げた.高度224 kmでテレメトリが途絶え,飛行中断コマンドが送信され,目標軌道へは到達出来なかったが,それ以外の技術的な実証はすべて成功した[3].その後,不具合の原因が特定され,2018年1月21日に再度実施された打上げでは,地球観測小型衛星「Dove」を含む3機の小型衛星を地球周回軌道に投入することに成功した[4].エレクトロンロケットは高度500 kmの太陽同期軌道に150 kgのペイロードを投入する計画である.
米国の民間企業であるベクタースペースシステムズ社は,2017年8月,ジョージア州で小型ロケットVector-Rの2回目の低高度打上げ実験を実施した[5].到達高度は3 km未満と推定されている.Vector-Rは全長13 mの小型液体ロケットで,50 kgのペイロードを地球周回低軌道に投入する計画である.兼松株式会社は2018年2月3日,ベクタースペースシステムズ社へ投資し,業務提携すると発表した[6].
JAXA宇宙科学研究所は,大学共同利用連携拠点として,「北海道大学 超小型深宇宙探査機用キックモータ研究開発拠点」を2017年度から新たに採択した[7].超小型深宇宙探査機を静止遷移軌道から月以遠の深宇宙軌道に投入するピギーバック搭載可能なハイブリッドキックモータを実現する計画である.
2013年以降,100 kg以下衛星の打上数は,Cubesat型規格を中心に年間100機以上が打上げられているが2017年は10 kg以下のみで272機が打上げられ,年間200機を越えた.急激に伸びた背景には,インドのPSLVロケットが1度の打上で小型・超小型衛星を104機打上げたこと加え,Planet社以外にもSPIRE社やSky and Space Global社,GEO Optics社,Astro Digital社の民間コンステレーションが打上開始したこと,欧州の小型衛星実証プログラムQB50の下で軌道投入が開始されたことにある.
需要予測は,各々欧米企業が発表しており,引き続き堅調に推移するとしている.米国Spaceworks(SEI)社は,50 kg以下の需要予測として2018年が250~400機程度,2019年は300~400機程度と推測している.また欧州EUROCONSULT社でも500 kg以下における小型衛星の需要予測を発表しており,2017年~2026年の10年間で6 200機になると予測している[1].
この小型・超小型衛星におけるサイズは,Cubesatクラスであれば10 cm四方を1 Uとしており,2017年末段階で1 U~6 Uサイズまでが実用化している.さらに将来計画では12 Uや27 Uサイズの計画も発表されている.2017年は1 Uサイズが15機,1.5 Uサイズが4機,2 Uサイズが37機,3 Uサイズが203機,6 Uサイズが12機打上げられた.特に3 Uサイズと6 Uサイズは民間投資による商用衛星が多く,Planet社の光学観測ミッション,SPIRE社のAIS/M2MとGPS-ROミッション,Astro Digital社の光学観測ミッションが8割以上を占めている.
Cubesatは近年,日本や欧米に限らず中国やロシア,アジアやアフリカでも開発・打上げられており,同衛星へ対応したバス・コンポーネントは,ネット上で販売されている.また,ミッション目的も徐々に拡大し,2003年初打上時は教育ツールであったが,2017年段階では,中分解能光学ミッション(Flock衛星),低速通信(M2M/IoT/AIS/ADS-B)ミッション(Lemur衛星),マイクロ波放射計の気象ミッション(MiRaTA衛星),GPS掩蔽観測ミッション(PlanetiQ衛星),電波混雑・解析ミッション(Pathfinder),温室効果ガス観測ミッション(Bluefild社),風速観測ミッション(Hyper Cube衛星),光高速通信ミッション(Aerocube-OCSD衛星),与圧バイオ実験ミッション(BioSentinel衛星),月・火星・小惑星探査ミッション(Lunar-Icecube探査機),再突入・De-orbitミッション(EGG),フォーメーションフライト/ランデブードキングミッション(CPOD),測位衛星精度向上サイエンスミッション(DICE),太陽観測サイエンスミッション(Falconsat-7)等々が発表されており,民間をはじめ研究開発機関や学術機関等で開発が進められている.これらCubesatミッションが拡大している背景には,部品の入手が容易な上,開発側の環境が改善していることにある.具体的には姿勢制御コンポーネントが挙げられる.開発者は,姿勢制御を有するCubesatを開発する場合,「リアクションホィール,磁気トルカ,スタートラッカ,GPSセンサー,地球センサー等」を個別に調達するが,近年は“姿勢制御統合ユニット(ADCS統合ユニット)”としてMaryland Aerospace社やHyperion社等が販売しており,これら技術を積極的にMIT等が採用することで,衛星システムとして早期に仕上げるスキームで実施されていたことがSmall satellite ConferenceやCubesat workshopの学会やワークショップで発表されている.
一方,Cubesatサイズよりも大きい100 kg前後の小型衛星の分野では,民間資金調達によるベンチャー企業の商業ミッションが拡大し,近年は量産競争が起きている.ONEWEBのような150 kgクラスの衛星では,900機量産する設備が2018年現在はフロリダ州ケネディー宇宙センター付近で建設が進められており,光学衛星もPLANET社の高分解能光学衛星SkysatはMDA/Space System Loral社が量産している.また,光学衛星BlackskyGlobal社の量産は欧州Thales Alenia社が担当し,Earth-i社のフルカラー動画撮影衛星はイギリスSSTL社が量産すると発表されており,(宇宙ベンチャーは量産設備へ投資するリスク取らず)100 kg前後クラスのコンステレーション衛星は,大手宇宙企業が量産を実施している動向が見られている[2].
これら小型・超小型衛星における欧米の開発及び投資の動向から,日本でも宇宙産業を育成するため,2018年3月に宇宙開発のベンチャー企業(VB)向けに1 000億円の支援枠を新設する発表をした.2018年度から5年間,日本政策投資銀行などを通じて投融資する.宇宙航空研究開発機構(JAXA)などの研究者を登録する人材バンクや,月面資源の開発を促す新法も検討する.30年代に国内の宇宙産業の市場規模を2.4兆円に倍増する政府目標の達成につなげるとしている[3].
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