日本鉄鋼連盟によれば,日本経済は緩やかな回復を続け,個人消費には持ち直しの動きがみられ,雇用環境も引き続き堅調となっている.企業活動も堅調で自動車分野,産業機械分野,造船分野等で増産傾向となった.新日鐵住金(株)が日新製鋼(株)を子会社化することになり,鉄鋼業界の再編が進んでいる.
海外では,米国は依然堅調を維持しており,欧州は総じて底堅く,中国も景気は内需が堅調に推移している.また,ASEAN諸国では全体的に緩やかな回復傾向が続いている.国内の粗鋼生産量は年度で1億466万tonとなり,昨年の1億477万tonと同程度であった.一方,世界の粗鋼生産量は昨年の16億2 900万tonから16億9 122万tonへと増加した.その中で,中国の粗鋼生産量は,8億3 173万tonとなり,全世界生産量の50%を占める.また,インドの粗鋼生産量も9 600万tonから1億140万tonと6%の増加し,1億tonを超えた.第2位の日本に続く世界第3位の生産量となっている.
2017年10月には,神戸製鉄所の上工程設備(高炉~連続鋳造,一部の分塊圧延設備)を休止し加古川製鉄所に集約した.国内の高炉は25基となった.一方,コークス炉に関しては,新日鐵住金,JFEスチールで老朽化したコークス炉の改修が逐次進んでいる.
2017年度も2016年度に引き続き,環境・エネルギー,プロセス,材料分野で公的資金による研究が多く行われている.環境調和製鉄プロセス技術開発(COURSE50)は,CO2排出の抑制とCO2の分離・回収により,CO2排出量を約30%削減する技術を開発に向けて,ステップ2(2013~2017年度)に取り組み,各要素技術を統合したパイロットレベルの総合実証試験を,試験高炉を用いて,行っている.(www.jist.or.jp/course50).
材料関係では,革新的構造用金属材料創製を目指したヘテロ構造制御に基づく新指導原理の構築が継続中である.材料に存在する様々なスケールでの不均一性(heterogeneity)を積極的に利用することで,従来にない革新的構造材料を生み出すことを目的とした研究である.現在までに13テーマが終了し,10テーマが研究継続中である.(www.jst.or.jp/kyousou/theme/).2013年度からスタートした革新的構造材料技術開発ISMA(2013–2022)も5年目になり,輸送機器の高強度鋼板,非鉄金属,CFRP,それらの異種接合によるマルチマテリアル化に関して成果を上げている.前半5年間のまとめが報告されているが,残留オーステナイトを利用する方法と径元素を活用する方法において,目標である引張強さ1 500 MPa,全伸び20%を有する革新鋼板を開発したと報告している.(http://isma.jp/pdf/isma_report_10.pdf)
さらに,内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム,SIPプロジェクトが4年目に入った.米欧が席巻する航空機産業の一角に食い込むための革新的構造材料の実現に向けたプロジェクトで,耐熱材料では,鍛造シミュレータを用いたTi合金,Ni基合金鍛造材のデータベースを作成すると共に,信頼性の高い組織・特性予測ツールを構築しつつある.(http://www.jst.go.jp/sip/k03/sm4i/project/index.html).
経済産業省では,2015年に「金属素材競争力強化プラン」をリリースし(http://www.meti.go.jp/press/2015/06/20150619002/20150619002.html),素材の高度化とマルチマテリアル化を実現するための材料設計技術,製造技術,分析・評価技術の開発,人材の育成や予防保全技術の開発に関しての官民での推進を示している,ISMAやSIPもこの方針に合致して進んでいる.
新日鐵住金(株)では,合金鉄溶解炉による資源循環システムの開発が,平成29年度資源循環技術・システム表彰経済産業大臣賞を受賞した.JFEスチールは,冷延鋼板および合金化溶融亜鉛めっき鋼板で,高伸び型,高伸び–高伸びフランジ性型,超高伸び型の3タイプについて,それぞれ引張強さ590–1 180 MPa級まで品揃えした.また,超大型コンテナ船に適用可能な,世界最大厚となる板厚100 mmのYP460 MPa級高アレスト鋼を開発した.神戸製鋼所はプレスの生産性に優れたホットスタンプ用冷延鋼板(焼入後引張強さ1 470 MPa級)を開発し,自動車のボディ骨格向けに順調に量産を行なっている.また,世界最大級となる超大型コンテナ船用クランクシャフト(全長22 m,重量約500 t)一式を三井造船(株)へ納入した.
昨年に引き続き,構造材料関係の3つの大型国家プロジェクト,ヘテロプロジェクト,ISMA,SIPが並行して行われるという鉄鋼材料にとっては,大変よい環境を迎えている.産官学連携して革新構造材料の研究開発に取り組む体制・拠点が確固たるものになりつつあり,今後の成果を期待したい.
2017年の箔を除くアルミニウム圧延品の生産量は2 074 449トンで前年比2.6%の増加であった.4年連続で200万トンを超え,リーマンショック以来最高の数字となった.板材の生産量は1 278 667トンで前年比2.3%の増加,押出材の生産量は795 782トンで前年比3.1%の増加であった.板材の増加は,乗用車へのアルミ需要増やトラック架台の生産増による.国産缶の出荷量は前年比2%減の219.3億缶であった.低アルコール飲料(チューハイ,サワー等)は好調であったが,ビール系飲料(ビール,発泡酒,第3のビール)が2%減と落ち込んだ.ボトル缶の出荷量は前年並の29.5億缶であった.押出材の増加は,板材同様,乗用車へのアルミ需要増やトラック架台の生産増による.ダイカストの生産量は1 018 812トンで前年比6.0%の増加,鋳物は441 815トンで前年比4.3%の増加であった.ダイカストは自動車用が909 322トンと前年比5.7%の増加となった.鋳物は自動車用が412 982トンと前年比4.2%の増加となった.鍛造品は45 995トンで前年比8.2%の増加で,その内自動車用が31 431トンで前年比5.3%の増加となった.電線は28 184トンで前年比2.1%の増加であった.
2017年の国内マグネシウム需要量は,添加材向けの需要が前年比0.3%増,構造材向けの需要が同5.5%減,輸出が同62.2%減となり,全体では40 067トンで前年から1.5%減となった.マグネシウム合金を使用する構造材向けの需要では,射出成形部門が400トンから480トンに,展伸材部門が750トンから770トンに増加した.世界中で排ガス等の環境規制が強まってきていることから,環境負荷の少ない製造工程である射出成形品の需要増に,押出材や板材等の製造技術の向上が展伸材の需要増に繋がったものと思われる.その他は,鋳物分野は横ばいの推移,自動車部品や携帯電子機器部品など構造材向けで最も需要の多いダイカスト部門が4 800トン,前年比9.4%減という厳しい推移となり,構造材向け全体では前年比5.5%減の6 350トンと2年続けてのマイナスでの推移となった.輸送分野の他,エネルギー,医療等の新しい分野において活発な研究開発等が行われているが,マグネシウム合金製品の海外生産の流れが続いており,需要回復にはまだ至らなかった.地金の輸出は,比較的量の多かったアメリカ向けのマグネシウム合金地金の輸出量が0となったこともあり,前年から62.2%減の227トンとなった.
2017年の伸銅製品の生産量は,821 521トンで前年比5%の増加であった.国内景気は引き続き回復が続き,伸銅品需要全般についても銅条・銅管・黄銅棒など堅調な国内需要に加え,板条製品での旺盛な海外需要などから,2017年も増加基調が継続した.半導体とコネクタで自動車向けが堅調に推移.スマートフォンの性能の高度化でコネクタ需要が伸びるほか,ガス機器も増加.また,輸出は半導体と自動車向けの増加が続いた.銅の生産量は431 578トンで前年比6.6%の増加だった.黄銅の生産量は340 425トンで前年比2.6%の増加だった.青銅の生産量は37 996トンで前年比7.4%の増加だった.
2017年のチタンの国内の展伸材の出荷量は,18 246トンで前年比10.6%の増加であった.そのうち,合金は2 355トンだった.輸出量は,11 907トンで前年比6.2%の増加であった.4年連続で前年実績を上回り,過去4番目の水準だった.近年は需給ギャップや顧客の在庫調整などの影響で底ばいが続いていたが,足元のチタン展伸材需要は航空機,一般工業向けともに回復基調にある.一方で,鉱石やコークスなどの原料コストが上昇している.
(一社)日本ファインセラミックス協会(JFCA)が毎年実施している産業動向調査[1]によれば,2016年のファインセラミックス部材の総生産額は2兆5 016億円(前年比3.1%増)となり,過去最高の生産額の記録を更新した.2017年も,引き続き過去最高生産額を更新する見通しである.内訳を見ると,圧倒的な割合(全生産額の68.3%)を占めている「電磁気・光学用」部材が前年比2.8%増(1兆7 083億円),工具・耐摩耗部材などの「機械的」部材(全生産額の11.5%)が前年比4.1%減(2 878億円),「熱的・半導体関連」部材(全生産額の10.6%)が前年比10.2%増(2 643億円),「化学,生体・生物・他」部材(全生産額の9.5%)が前年比7.3%増(2 386億円)と,「機械的」部材以外は堅調な伸びを示している.ターゲット部材や複合材料部材などで構成される「汎用及びその他」は,シェアは小さい(全生産額の0.1%)が,前年比23.6%増(26億円)と急激な伸びを示した.「電磁気・光学用」部材はスマートフォンをはじめとする携帯電話や高密度電子情報機器・ICT機器への適用,自動車の電装化・電子化が進展してきたことにより,需要が増えた.ファインセラミックス全体の市場おける各品目の構成比については,2010年度以降大幅な変化は見られない(「機械的」部材に関してはファインセラミック市場の約12%).
2016年9月に埼玉大学で開催された年次大会において,「セラミックスおよびセラミックス系複合材料」と,「自己治癒材料・システム」のオーガナイズドセッションが企画運営され,計19件の講演があった.また6月には南カリフォルニア大学で開催された第6回JSME/ASME機械材料・材料加工技術国際会議では,Ceramics and Ceramic Matrix Compositesのセッションにおいて6件の講演があった.講演内容を評価材料で分類すると,セラミックコーティング,熱電セラミックス,バイオセラミックス,自己治癒セラミックス,繊維強化セラミックスなど多岐に及んでいる.特に,自己治癒セラミックスに関しては特別セッションも含めて多くの研究発表がなされており,近年における当該分野の活発さを反映している.いずれの講演会でも別のセッションにおいて,ファインセラミックスに関する講演が数件あった.これらの講演会に共通する傾向として,大学・公的研究機関からの講演が,依然多くの割合を占められていることがあげられる.
航空エンジンへの長繊維強化セラミック複合材料(CMC)への適用が米国および欧州で本格的に進みつつある現状を踏まえ,我が国でも多くのプロジェクト(内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP),NEDO次世代構造部材創製・加工技術開発プロジェクト,JAXAによるaFJRプロジェクトなど)において,CMCの実用化にむけた素材,プロセス,コーティング,設計などの研究開発が,官民をあげて進められている.今後,国内外の研究開発動向が注目される分野である.
2017年におけるわが国のプラスチック原材料の生産実績は前年比3.0%増の1 107万tである.0.7%減の2016年から増加に転じた.熱硬化性樹脂全体の生産量は93.4万t(4.4%増)である.主な内訳は,フェノール樹脂(30.1万t(4.2%増)),ユリア樹脂(6.5万t(3.0%減)),メラミン樹脂(8.1万t(1.2%減)),不飽和ポリエステル樹脂(10.0万t(4.2%増)),エポキシ樹脂(12.5万t(8.7%増))である.一方,熱可塑性樹脂全体の生産量は986.6万tで2016年比2.8%増となった.主な内容は,ポリエチレン(265.5万t(3.3%増)),ポリスチレン(77.3万t(2.5%増)),AS樹脂(7.3万t(4.3%増)),ABS樹脂(39.5万t(9.7%増)),ポリプロピレン(250.6万t(1.6%増)),メタクリル樹脂(15.5万t(6.9%増)),ポリビニルアルコール(23.1万t(7.4%増)),塩化ビニル樹脂(170.6万t(3.3%増)),ポリカーボネート(31.0万t(5.8%増)),ポリエチレンテレフタレート(42.4万t(1.4%増)),ポリブチレンテレフタレート(11.0万t(35.7%減))などとなっている.
2012年に見直しを受けた用途別FRP出荷数量統計について2016年分について示すと(カッコ内は前年比%),合計235千t(0.9%増)となった.その内訳は,建設資材33.1千t(2.2%増),住宅機器70.3千t(1.4%減),浄化槽27.6千t(1.1%減),舟艇/船舶6.3千t(1.6%増),自動車/車両21.1千t(5.5%増),タンク/容器17.9千t(1.1%減),工業機材22.1千t(1.4%増)などとなっている.
国内で開催された複合材料に関わる行事として,2018年3月に第9回日本複合材料会議(JCCM-9,日本材料学会,日本複合材料学会主催,東京)が行われた.この会議は「日本を代表する複合材料に関する会議」の設立を目的に2010年京都で第1回が行われ,第2回(2011年東京にて開催予定であった)が震災で講演中止となったものの,その後毎年東京と京都で交互に行われているものである.構造の軽量化要求への一つの回答として複合材料実用化への期待から,企業からの参加者数が増加傾向にある.材料および構造の機能化・知能化・複合化に関連する幅広い分野からの講演が行われた.また,歴史ある国内会議として,2017年9月に第42回複合材料シンポジウム(日本複合材料学会主催,仙台,第11回日韓複合材料ジョイントシンポジウムも併催された),11月に第62回FRP総合講演会・展示会(FRP CON-EX)(強化プラスチック協会主催,福島)が開催された.これらの会議では,それぞれ学界,産業界がメインとなり特色ある情報発信が行われている.最新の材料開発や応用研究が多く発表されている中,実用化への期待から高速成形法や接合法など成形関連の研究成果の発表が引き続き目立っている.マルチマテリアル,マルチスケールをキーワードに,種々の材料についてミクロな構造からマクロな特性を理解する努力がなされている.さらに,国内会議としては,日本機械学会関連の会議(年次大会(9月(埼玉)),機械材料・材料加工部門の国際会議(6月(アメリカ・ロサンゼルス)),材料力学カンファレンス(10月(札幌)))において高分子・高分子基複合材料のセッションが組まれ,成形から評価まで多くの研究成果が発表された.国際会議に目を向けると2017年は中国・西安で第21回国際複合材料会議(ICCM-21)(8月)が開催された.
生産量において,2017年における鋳鉄(銑鉄鋳物,鋳鉄管と可鍛鋳鉄),鋳鋼品,非鉄鋳造品(銅合金,アルミニウムとダイカスト)および精密鋳造品を合計した鋳物の総生産量は545万tであり,2016年の総生産量522万tに対して,若干の増加傾向を示した.総生産量が695万tとピークであった2007年と比較して,2017年は78%と全盛期に比較してまだ低い水準にある.銑鉄鋳物は344万tで前年と比較して107%と増加し,2015年から2年連続してのマイナスとなっていたが,ようやく回復傾向に反転した.用途別では,自動車を含む輸送機械用が237万tで前年比104%と増加し,産業機械器具用,金属工作・加工機械用を含む一般・電気機械用は90万tで前年比113%と増加した.鋳鉄管は25万tで,前年比71%と2年連続で減少した.可鍛鋳鉄は4.2万tで前年比105%と増加した.鋳鋼品は船舶,土建鉱山機械,鋳鋼管,破砕機・摩砕機・選別機などを中心に合計16.2万tが生産され,前年比108%と増加した.非鉄鋳物では,銅合金鋳物が7.5万tで前年比97%と減少し,アルミニウム鋳物は44.2万tの生産量で前年比104%と増加した.ダイカストは104万tで前年比103%と増加した.精密鋳造品は5 493 tで前年比101%と横ばい状態であった.2017年の鋳造品の生産量に関して,鋳鉄管と銅合金鋳物以外,全体的に前年度より増加傾向を示した.2017年の生産金額は,1兆9 456億円となり前年比+4%であり,2015年から2年連続のマイナス傾向から脱却し回復基調にある.生産金額は,1990年,2008年のピーク時には,2.5兆円であったのに対して,現在は80%程度の水準である.しかし,非鉄金属鋳物の生産額の比率は年々増加し,2017年は51.2%と2年連続で5割を超えた[1].(公社)日本鋳造工学会では,以下のテーマについてオーガナイズドセッションが開催されている.「グローバリゼーションに対応した鋳造設備」,「ダイカストの生産性向上,高品質化,高機能化」,「電磁気的手法による鋳鉄の非破壊試験」,「特殊鋳型システムと環境適応化」,「生砂型管理技術の再構築」など,鋳造設備の自動化や環境に配慮した鋳造法が報告された.「黒鉛球状化理論」では放射光や超高圧電子顕微鏡など最新の分析機器を用いてその場観察した結果などから黒鉛晶出に関する報告がなされている.「鋳造CAEの活用と最適化」では共通解析モデルに対するCAEの適用などが報告されている[2, 3].
(一社)日本鋳造協会では「鋳造産業ビジョン2017」の作成し,Industry4.0やIoTに代表されるIT技術の製造業への展開を踏まえたビジョンが示された[4].また,鋳造技術の伝承と高度化を目指した「鋳造カレッジ」は2017年に10周年を迎え,協会認定の鋳造技師の認定数は累計827名(2016年年度まで)を数えている[5, 6].
第14回アジア鋳物会議(AFC)が2017年11月7日~10日に仁川(大韓民国)で開催され,基調講演3件,一般公演92件,日本から11件の発表があった[7].
圧延分野の研究発表数は減少傾向が続いており,他の塑性加工方法と比べても減少割合が大きい.全体的にはアルミニウム合金やマグネシウム合金など非鉄金属の圧延に関する研究が多い.加工時の材料流動に関する研究は少なく,圧延ロールにコーティングやテクスチャを施して潤滑特性や摩耗特性を調査する研究が散見された.その他CFRP薄板やクラッド材の圧延なども見られた.また,加工中の諸現象の可視化に関する研究が増加傾向にある.
板材成形の分野では,高張力鋼板,アルミニウム合金,CFRPのホットスタンピングや温間深絞りに関する研究が盛んに行われている.冷間加工では高張力鋼板のテーラードブランクや,コールドリサイクル材,アルミニウム合金の深絞り加工の成形性,しわ発生,耳の形成などに関する研究が盛んに報告されている.マイクロフォーミングに関しては,摩擦力測定,表面あれや変形挙動のその場観察の研究報告があり,マイクロフォーミングの金型製造に関して平成29年度塑性加工春季講演会では「金型マイクロ製造に向けての金型技術の展開」と題したテーマセッションが開催された.曲げ加工に関しては,精度向上のためのゴム援用加工,64チタンの曲げ加工性向上のためのレーザ切断条件による集合組織制御など新しい取り組みが見られた.そのほか摩擦撹拌インクリメンタルフォーミング,レーザピーンフォーミングや氷をショットに用いたピーンフォーミング,スピニング加工などの逐次成形に関する報告が多数発表されている.
鍛造分野では,延性破壊条件やバウシンガ効果の評価の他,各種非鉄金属の熱間鍛造時の流動応力や,アルミニウムの超大ひずみ域における応力ひずみ曲線の近似式など材料特性に関する研究が多く見られた.また板鍛造への応用を目指した増肉加工や円板圧縮による新規摩擦法則の検証が報告されている.一時盛んに研究報告のあったサーボプレスのモーションの影響に関する発表は少なくなっている.金型に関してはXRDによる冷間鍛造用金型の残留応力評価や高温鍛造における熱伝達係数や摩擦係数の同定,熱間鍛造におけるトライボロジー特性評価などの関心が高まっている.
塑性接合に関する研究が国内外において盛んで,メカニカルクリンチングやヘミング加工,摩擦攪拌接合による高張力鋼板やアルミニウム合金板の接合などが報告されている.近年は異材接合が比較的多くなってきているが,特に金属とCFRPや樹脂を接合する研究報告が増加してきている.また,クラッド材の深絞り加工性や複合サイクル試験など接合材の評価に関する報告も散見された.
そのほかの傾向としては,講演会では塑性加工用の金型技術,金属用3Dプリンティング,塑性加工におけるIoT活用,超音波援用塑性加工などに関するテーマセッションが開催された.また,3年に1回開催されるICTP(International Conference on Technology of Plasticity: 塑性加工に関する国際会議)が2017年9月17–22日にイギリスのケンブリッジで開催され,世界各地から602名の参加があり,402件の講演があった.
プラスチック業界では3Dプリンタが市場を賑わせている一方,既存のプラスチック成形プロセス技術の変革と改良が進んでいる.また,低炭素化を代表とした社会的ニーズに応えるべくものづくりが進められ,部材の樹脂化,高強度化,コスト低減化が一段と進められている.以下に代表的な成形加工技術である射出成形,押出し成形の動向について紹介する.さらにプラスチック系複合材料やリサイクル分野の動向についても紹介する.
射出成形は,自動車,情報通信機器,家電機器を中心に薄肉軽量化のニーズに対応した成形技術開発が進められ,とくに大型部品の薄肉成形,軽量化,高強度化を対象とした成形技術が注目される.大型部品の薄肉成形では,多点ゲートによるウエルドの強化や離型性の改善が要求され,樹脂流動シミュレーションを活用した金型の最適化設計を検討している.高剛性・高強度化を目指す長繊維強化では,シリンダ内における繊維の破損を抑制できるスクリューや成形機の開発に力点が置かれている.
押出し成形は,二軸押出し機を中心に混練,分散および反応制御の精度向上を目指し,設備と材料の両面からの検討が続いている.吐出の高速化のための成形機やスクリュー形状の改良,シミュレーションによる最適化などがその計測技術と併せて行われている.他方で,せん断ひずみ速度を数千sec−1まで制御可能な高せん断加工機や混練時間を長くできる8軸押出機が開発され,従来の二軸押出し機では得られない充填材の分散を達成している.
プラスチック系複合材料は,自動車や航空機などの輸送機器に関する環境負荷低減のニーズから,機材や機器の軽量化に大きく貢献し,さらなる利用拡大を狙って研究が進められている.特に自動車分野では,走行時の炭酸ガスの排出規制の強化を目的とした研究が進んでいる.ガラス繊維や炭素繊維の連続繊維を強化繊維として,エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂をマトリックスとした複合材料は,高圧注型(HP-RTM)による成形サイクルの短縮が研究課題とされ,これを解決すべく材料と成形加工技術の両面から研究されている.さらに,部材の生産性向上の要求により不連続繊維と熱可塑性樹脂の複合材料を用いた射出成形が注目を浴びている.
熱可塑性樹脂複合材料では,熱硬化性樹脂を用いた複合材料よりも低い力学特性や射出成形などの流動成形で発生するウエルド部の低い強度が問題点として挙がっている.これらの解決のため,連続繊維シートとの組み合わせによるハイブリッド成形や金型流路の最適化設計による繊維配向制御が実施されている.他方では,母相/繊維界面を改質する添加剤の開発や天然繊維であるセルロースナノファイバー分散樹脂の研究も進んでいる.
また,金属材料と樹脂材料の組み合わせによるマルチマテリアル化が推進されている.この異種材料による複合化にあたって,金属材料表面への極性の付与,物理処理や化学処理によるアンカー効果の発現,接着剤の研究など異種材料間の接合接着に関する研究も多く,自動車部品などへの実用化に向けて研究が進められている.
リサイクル分野では,廃プラスチックを利用した二次製品に再生するマテリアルリサイクルが全体の約40%を占め,コークス炉化学原料化が40%,ガス化が10%,高炉還元剤が5%程度であった.研究成果としては熱硬化性であるポリウレタンを対象に,構造制御,自己修復性付与による長寿命化,植物原料由来のバイオポリウレタンの開発が昨年度から引き続き検討されている.さらに,東京オリンピックに向けた持続可能な資源循環の方向性についての意見交換が行われている.
日本国内における研究開発動向は溶接学会全国大会で確認することができる[1].2017年度の溶接学会全国大会の一般講演における各溶接プロセスのセッションでの発表件数で比較するとアーク溶接52件,摩擦攪拌接合(摩擦攪拌プロセスを含む)40件,レーザ接合35件,抵抗溶接29件,固相接合(圧接や超音波接合を含む)37件となっている.また,シミュレーション技術が21件,溶接冶金が17件,疲労・破壊・継手強度について45件ほどの発表がある.また,このうち異材接合に関する発表が44件あり,そのプロセスの内訳は,レーザ溶接が4件,摩擦攪拌接合が10件,アーク溶接が1件,ろう接が6件,固相接合が24件であった.異材接合に関する発表の材料の組み合わせでは鉄/アルミが11件,鉄/アルミ以外の異種金属が24件,金属/樹脂が6件,金属/セラミックスが2件であった.一般講演以外ではマルチマテリアル接合やシミュレーション技術に関するフォーラムが企画され,学会誌でも特集が組まれるなど大きな関心を集めている[2, 3].
皮膜形成技術である溶射法について2017年度の日本溶射学会全国講演大会[4, 5]における発表件数で各溶射法を比較すると,一般講演全34件中で非溶融成膜技術であるコールドスプレー/ウォームプレー/エアロゾルデポジション法が12件,微粒子を懸濁液として供給する溶射であるサスペンション溶射が2件,APS溶射が10件,HVOF溶射が2件,レーザ積層が2件であった.APS溶射のうち4件は1 kW以下の低電力溶射に関するものであった.また,エアロゾルデポジション法[6]やサスペンション溶射[7]といった微粒子を用いるプロセスが,皮膜組織の緻密化や制御の観点から注目されている[8].さらに,エアロゾルデポジションにプラズマを重畳したハイブリッドエアロゾルデポジション法では,セラミックスコーティングの3次元形状への被覆特性が向上することから注目されている[6].
日本粉末冶金工業会の統計[1]および経済産業省の統計[2]よると,粉末冶金の機械部品は,2008年のリーマンショックの影響で2009年に生産額800億円近くに落ち込んだものの,2010年以降は生産額1 000億円程度で横ばいに推移してきた.2017年は生産額1 200億円となり,2016年度に比較し,生産量は4.0%,生産額は5.3%増加した.軸受合金についても,2017年に171億円であり,2016年から8.2%増加した.また粉末冶金の磁性材料は,2017年は1 026億円で,2016年から7.9%増加した.海外では欧州では自動車や航空機産業の発展にともない粉末冶金製品の生産量は増加しており,アメリカでも同様の傾向である.アジアではタイやインドネシアなどが急激に成長しており,これらの傾向は続いていくとみられている.
学協会においては,国内では本学会の2017年度年次大会にて「次世代3Dプリンティング」および「粉末成形とその評価」のセッションがあり[3],さらに米国ロサンゼルスの南カリフォルニア大学において開催された,第6回JSME/ASME機械材料・材料加工技術国際会議においても,「Powder Metallurgy Materials and Processing Symposium」で発表があり[4],いずれも盛況であった.
また,粉体粉末冶金協会の春季大会においては[5],「バイオインスパイアードによる材料開発」「各種粉末の焼結技術および焼結機構の新たな展開」「金属ガラス・ナノ結晶材料の構造制御と応用に関する新たな展開」「磁性材料・磁気デバイスにおけるナノ・マイクロ構造制御」「イオン伝導材料・電池材料の新展開」「粉末製造技術とその応用」「希少金属代替または使用量削減技術」といった講演特集および企画セッションが組まれた.さらに秋季大会では[6],「インテリジェントソサイエティを創造する高機能電子部品材料」「磁性材料・磁気デバイスにおける微細構造制御と機能発現」「傾斜機能・生体材料」「硬質(工具)材料の技術・研究における新たな展開」「新しい電子物性を創成する遷移金属(希土類)化合物」の講演特集が行われた.また2017年は粉末冶金協会の創立60周年であり,その記念事業として,国際会議(JSPMIC2017)が開催された.協会がカバーする広い分野にわたるセッションで,口頭発表202件,ポスター82件の発表があり,19カ国から400名弱の参加者があった.
海外の学会では,米国ラスベガスで,POWDEMET2017が開催され,AM(Additive Manufacturing)に関する発表は,同時開催されるAMPM2017にまとめられた[7].欧州では,イタリア,ミラノにてEuroPM2017が開催され,Additive Manufacturingをはじめ多くの発表があった[8].2017年は粉末冶金に特化した世界会議は開催されていないが,昨今に引き続き世界各国で三次元積層造形技術への研究発表が盛んに行われた.
2013年の本欄において3Dプリンタについて述べたが,いわゆる3Dプリンタブームはひと段落し,3Dプリンタで出来ること,現在は困難なこと,得意なこと,不得意なことが認知されつつある.しかし,世界では,そのような認知を時代遅れとするような,様々な取組みが試されている.特に注目されるのは,インフラ分野での3Dプリンタの応用である.オランダのMX3D社は多軸ロボットアーム先端に材料供給と溶接機能を有した「3Dプリンタロボット」を開発し,実用サイズの金属製の橋を3Dプリントすることに成功している.サンフランシスコのApis Cor社はクレーンのような建築用3Dプリンタにより,コンクリート製の床面積38平方メートルの家を24時間で「プリントアウト」することに成功している.
これらインフラ分野への3Dプリンタの応用は,将来,月面基地建設や極地,未開拓地,被災地などへの応用が期待され,一部ではすでに実証実験も開始されている.さらに注目すべきは,MX3D社の金属3Dプリントブリッジには,設計時から適切な位置に各種センサをとりつけ,橋の変形や振動などを収集し,歩行者数や外気温度の変化,風速などの環境測定を可能とし,橋の構造体としての状態やライフタイム推定に役立つようになっている.
このことは,単に造形技術としての3Dプリンタ技術だけでなく,より複雑で新しいものづくりが起きつつあることを示唆している.例えば,慶應義塾大学の田中らは,3Dプリント中にセンサやRFIDを埋め込むことが可能な3Dプリンタを発表し,「IoTファブリケーション」の実現を目指している.筆者らも機械要素と電気要素が真に一体化した「リアルメカトロニクス」の実現を目指して,金属と樹脂材料が隣接した状態で成形可能な造形技術を実現しつつある.例えば,溝尻らはフェムト秒レーザによる極短時間熱還元により,周囲に熱伝導する前に酸化銅ナノ粒子を大気中で還元結合させることに成功[1]し,軟質プラスチック表面に配線パターンや温度センサを造形することに成功している.海外では,Robert J. Wood, Jennifer A. Lewisらは,3Dプリント可能な有機イオン液体の導電性インクを開発し,軟質エラストマー製のソフトロボットを3Dプリントし,その内部にセンサやアクチュエータを形成することに成功している[2].3Dプリントされた複雑造形物内部にセンサやアクチュエータ,配線などを自在に形成できるようになれば,機械工学も大きな変革を余儀なくされるだろう.
6・1・3の文献
6・1・4の文献
6・2・1の文献
6・2・4の文献
6・2・5の文献
6・2・6の文献
上に戻る