2017年のパソコン(PC)総出荷台数は約2億5 444台と対2016年比0.3%増と2011年から続く減少が一段落し安定傾向が見られている.
2017年のHDD(磁気ディスク装置)の生産台数は対2016年比5.0%減の約4億984万台であった.今後が期待されるニアラインHDDは,10 TB以上の容量帯においてヘリウム封止HDDの比率が高まっており主な出荷先はハイパースケール・クラウド・プロバイダー向けとなっている.一方の8 TB以下の容量帯では従来のエアHDDが一定の根強い需要を形成している.また総出荷容量は263 EBとエンタープライズ市場の9割近くを占めており,また足元ではデータセンターの新設,拡充の動きを背景にニアラインHDDの需要は急速に上向いてきている.
2017年のSSD(Solid State Drive)市場は2016年比で約21.6%増の12 182万台と堅実に増大している.2016年後半から続いたNAND不足とそれにともなう価格上昇も3D NANDモデルの拡大と歩留りが向上してきたことにより緩和されてきている.エンタープライズ向けは,映像配信などの高速,大容量コンテンツ用途として高速性へのニーズが高まっている.PC向けはSSD搭載率の拡大により堅調に増加している.
(統計はテクノ・システム・リサーチ社による)
「事務機械出荷実績」[1]によれば,2017年の事務機械総出荷額(一般社団法人ビジネス機械・情報システム産業協会会員企業のみの集計)は1兆4 454億円(対前年比98.7%)であった.2015年までの微増傾向から,2016年には一転して1割近くの減少となったが,2017年は低下にやや歯止めがかかった.国内外別では,国内が3 523億円(同97.4%),海外が1兆931億円(同99.1%)であり,2016年に見られた海外向け出荷の減少が抑制された.複写機・複合機とページプリンタの総出荷額は,それぞれ8 996億円(98.4%)と1 999億円(97.2%)である.
オフィス向けの需要が頭打ちとなる中で,カラー複合機はワークスタイルの変革や多様性に着目した商品が主流となってきている.また,事業からの撤退や,事業の買収などM&Aの動きが多くなってきたのが2017であった.一方で,デジタル印刷市場向けの需要は増加が予想され,各メーカーの研究開発が活性化している.インクジェット機では,商業印刷向けを中心として新商品発表が相次いでいるほか,軟包装市場向けの製品発表も見られ,対象市場拡大の動きがでている.印刷メディアビジネスの総合イベントであるpage2017(2017年2月8日~10日)では,各メーカーが精力的に展示を行い,約70 000人が参加した.電子写真方式では,高機能化した新タイプトナーの発表が複数あり注目された.電子写真技術については,学術会議での発表も,解析に関わるシミュレーション・分析技術や材料技術を中心に増加傾向にある[2].
一般社団法人 日本電機工業会の発表によると,2017年の冷蔵庫・洗濯機やエアコンなどの白物家電の国内出荷額は,約2.3兆円,2016年比102%となり2年連続のプラスとなり,1997年以降最も高い出荷金額となった.一部の地域で夏の天候不順のようなマイナス要因があったものの,安定した買い替え需要に支えられ,省エネ製品・高付加価値製品が堅調に推移した.たとえば,洗濯機は,昨年同様,まとめ洗いや大物洗いへのニーズが依然として高く,大容量化へシフトした需要となっている.冷蔵庫では,401 L以上の大型の需要が伸びた昨年に対して,少人数世帯の増加もあり,今年は400 L以下の中・小型タイプの構成比がやや拡大した[1].
また,モノとインターネットをつなぐIoT(Internet of Things)の普及を背景に,「スマートスピーカー」が日本市場に次々と投入された.スマートスピーカーは,ユーザーが話しかけた音声を認識することができ,たとえば音声で家電を操作するような,これまでにない機能・付加価値の創出が期待されている.今後は,スマートスピーカーだけでなく,家電同士あるいは家電とサービスを連携させる協業活動がますます活発化すると予想される.
未来の医療として医療や福祉技術に求められるものとして,「医療の迅速化,簡便化」,「医療の安全性,客観性」,「患者のQOLの向上」の三つが挙げられる.これらはもちろん全て独立ではなく,それぞれが深く関わっている.それぞれの詳細内容を表1に示す.
2017年度に発表された研究の大部分が前述したこれら三つに貢献するものである.発表の中には基礎技術に関する研究もあるが,具体的な疾患を研究対象とする研究もあり,医療関係との連携・融合が強く行われ,実用化を目指した研究も進められている.また,糖尿病,認知症などの高齢化により多くなっている疾患についても取り上げられている.糖尿病を対象とした研究では,無痛針のスパッタリングでの加工技術についてであり,痛みの軽減を目指すものであり「患者のQOLの向上」に貢献するものである.また,臓器中の腫瘍位置推定に向けた鉗子把持位置に対する硬質物の存在方向推定法の研究では,低侵襲治療の触診が行えない場所での触診の効果を実現させようとするものであり,上記3つの全てに貢献するものである.また,早期のリハビリテーションの重要性も浸透してきており,リハビリ機器の開発も多く発表されている.また興味深かったのが,認知症と運動機能の関係性が着目したものであり,健康診断の中で行われている10メートル最大速度歩行の計測に対応した歩行解析ステムの開発を行い,精度改善の効果が報告された.さらなる実用化に向け,極めて高速な歩行にも適用可能な解析アルゴリズムを開発や,計測から解析結果の提示までの手順の効率化が検討されている.また,再生医療工学に基づく研究についても報告されており,細胞シートを積層した心筋組織の作製などが発表されており,より生体を模擬した組織の構築が行われてきている.
一方,近年科学技術の中でも情報関係が飛躍的に発展している.IoTや深層学習,ビッグデータなどもそれらの代表的なものであり,様々な分野で展開されているが,医療・福祉の分野も例外ではなく大きな恩恵を受けている.今もなお,医師の診断や施術,治療などには医師の勘や経験に頼る部分が大きいが,これらが情報に基づいたそれらへと置き換えられると,医師同士でも知識の共有が迅速に行われ,手術時間の短縮により患者や医師の負担を軽くするものとなる.さらに正確な情報をより得られやすくなるため安全性を担保しながら精度の向上につながる.年次大会でも,高齢者のための転倒防止アシスト用の深層強化学習を用いた移動ロボットについて発表された.さらに,部門講演会のキーノートスピーチでは,大阪大学産業科学研究所の関谷毅教授に「フレキシブルエレクトロニクスを活用した次世代IoT基盤技術の構築~ご家庭内での脳のセルフケア,構造物ヘルスケア技術を実例に~」を講演していただき,センサの開発やその信号処理なども含めて情報化技術とヘルスケアの最先端技術について紹介していただいた.今後,情報と医療や福祉の関係はさらに深く関わり,情報技術の発展が医療・福祉の発展に大きく寄与することを確信している.
近年の機械学習技術の発展は目覚ましい.このような背景において,機械学習機能を積極的に取り入れた知能化機器は,比較的低コストで既存の機械に付加価値を与え得ると期待されている.機械学習の中で人間の脳機能をモデル化したニューラルネットワーク,特に深層学習(Deep learning)は,その汎用性の高さから様々な分野への応用が可能である.これまでのDeep learningは,主に画像処理や音声信号処理など,識別機能に主眼をおいた研究が多い.これらの識別機能を知能化機器に取り込むことで,状況に適応した機能の選択が可能となる.また,アクチュエータの異常検知に応用することで,診断機能や自己回復機能を有する新しい知能化機器への展開が期待できる.
一方,時系列予測に関する研究も盛んとなっている.これは,時系列情報を入力信号として,近い未来の状態を推定するものである.機械学習における教師信号は,過去の履歴から取得することが可能であり,画像識別のように事前に学習データのラベリング操作が不要とある.このように,近い未来の状態を予測し,その予測値を用いた駆動が可能となれば,環境適応性に加え,人間との親和性が高い新しい機械が期待できる.
インターネットの高速・大容量化と情報端末装置の小型化の進展に伴い,紙媒体による文書や広告は年々減少しつつある.このような状況に対応して,複写機やプリンタ,ATMといった機器の基盤技術であった柔軟媒体ハンドリング分野の取り組みは,従来技術の一層の深化への取り組みと,柔軟媒体のハンドリングを活用した新たな展開への取り組みという二つの大きな潮流ができている.印刷技術を用いて電気回路やセンサなどを製造するプリンティッドエレクトロニクス(PE)は新たな展開の代表的な事例であり,より薄いフィルムを高信頼に搬送する技術や巻き取る技術に関する研究だけでなく,高分子ナノシートといった医療応用の分野に向けた研究も盛んになっている.
このような状況を反映して,機械学会の柔軟媒体ハンドリング分野の講演会では,昨年度に引き続き,薄いフィルムのハンドリングや印刷プロセスを用いたデバイスの開発などに関する発表が大きな割合を占め,フィルムの生産性の低下をもたらすフラッタ発生を抑制する研究や,ロール・ツー・ロールと印刷技術を利用した圧力センサやナノシート創生に関する事例の発表が行われた[1, 2].
一方,柔軟媒体ハンドリング分野では不可避のトライボロジに関する研究も継続して行われている.部門講演会(IIP2018)では紙搬送の性能低下の要因となる紙粉付着による影響の発表があり,この内容に関しては部門所属の研究会でもより深く活発な議論がなされた.カット紙や長尺のウェブのハンドリングに共通するトライボロジはいまだに企業側の関心が高く,製品や製造に直結した研究が継続して行われることが期待されている.
今後の柔軟媒体ハンドリング技術は,印刷技術を応用したデバイス開発やナノシートの創生などの新分野へ活用がますます盛んになっていくであろう.このため,さらに薄く,長く,広いフィルムを高信頼に取り扱うハンドリング技術の研究が必須である.また柔軟媒体ハンドリング技術の高度化における摩擦,媒体のシワといった従来からの課題に対しても,これらを解決するための機械分野の研究が従来にも増して重要である.
国内IT市場は企業のデジタル化のニーズに支えられてプラス成長がつづき,その中でもセキュリティサービス・製品の市場規模は2016年実績で4 212億円,2021年に5 574億円,平均成長率5.8%と予測されている[1].成長要因のひとつに製造業を中心としたIoT(Internet of Things)システムの増加がある.工場機器,社会インフラ,監視カメラ,自動車,家電などのモノがインターネットに接続し,各種センサデータの収集と分析が普及するにつれて,外部からの不正アクセスやデバイスのボット化によるサイバー攻撃が拡大するとみられ,セキュリティ強化への投資が進んでいる.
2017年5月には身代金要求型マルウェア「WannaCry」の被害が急拡大した.もっとも被害が出た5月13日には,英国では40病院や自動車工場に感染し,米国では物流会社に被害を出し,フランスでは鉄道券売機に被害を出すなど,1日で150カ国の23万台に感染した.さらに6月には破壊型マルウェア「NotPetya」の被害が拡大し,ウクライナ国内の1万台以上への攻撃を足がかりに,少なくとも64カ国に感染拡大し,製薬会社,物流会社,衛生用品製造会社,海上運送会社などの操業に影響した[2].いずれのマルウェアもファイル共有で広く使われるプロトコルの脆弱性を突く攻撃コードが組み込まれ強い感染力を獲得した.必ずしも産業制御システムを狙って開発されたわけではないが,強い感染力のために多数の産業制御システムが感染し,操業の停止や復旧コストなど企業業績に影響を及ぼした.
国内では政府による重要インフラ業界への働きかけが行われ,2017年4月に「重要インフラの情報セキュリティ対策に係る第4次行動計画」を公表し,とくにリスクマネジメントおよび対処体制の整備が強化された[3].同4月に「産業サイバーセキュリティセンター」が発足し,産業分野でのセキュリティの中核人材を育成するプログラムを開始した[4].さらに日本機械学会では「セーフティおよびセキュリティソリューション研究会」が設立され,機械・人・組織・社会などの複雑なエコシステムに対する安全・安心なソリューションモデル理論の構築に向けた議論を開始した[5].
人間の動作を力学的に補助する装着型パワーアシストの研究が進んでいる.補助する操作トルクなどを監視しながらパワーアシスト量を決定する方法に加え,人間の操作意思を筋電位などから検出し,アシスト機構の動作パターンや補助力を制御する.こうした,人間への運動力学系のアシストだけでなく,人間が動作しようとする動機や動作の文脈をカメラや環境認識センサなどからの情報で推定し,空間的な状況と人間の操作意図を考慮しながら補助量を補正したり,動作範囲を制限したりする認知系のアシストを持つシステムが提案されている[1].このとき,パワーアシスト装着者に対して,運動力学系に由来する制御挙動と認知系に由来する制御挙動を違和感なく装着者の意識の中に統合する必要がある.こうした要求に対して,膝関節運動中に特定の筋肉に振動刺激を与えることにより発生する関節角度知覚に対する錯覚を利用することにより認知系判断に起因するパワーアシストの挙動範囲の制限などを違和感なく実現しようと試みられている[2].装着型パワーアシストシステムに対して錯覚という生体知覚を応用したヒューマンマシン設計の興味深い視点と言える.
一方,人間が知覚する触覚感覚の変化に着目し,人間挙動を誘導する方法が提案されている.具体的には,指先皮膚への滑り感覚をアクティブホイール式指触覚インタフェースによって提示し,線画を的確に書くように触覚感覚によって誘導する[3].直接的,もしくは,視覚的に人間挙動をガイドするのではなく,操作者が触覚感覚から規範挙動に対する誤差をフィードバック学習し,上達させる認知系の人間–機械系ループを構成する.
生体知覚・感覚機能の機械システム応用に関する究極的システムの一様相にブレインマシンインタフェースがある.特に高次脳機能活動を観測し,その観測結果を機械システムの操作や制御に活用する研究視座が提案されている.高次脳機能計測として代表的なNIRS(Near-Infrared Spectroscopy)などにより脳内活性状態を観測し,その情報を機械システムに活用する構成例を図1に示す.
機能的に局在化している特定の脳内部位に着目し,その部分の脳賦活状態により人間の主観的な情動変化を推測する試み[4]や脳内活性部位を空間的に把握し,人間の知覚特性や疲労状態を推定する手法,また,時間的な脳内活性部位の遷移を分析して,人間–機械システムの挙動を変化せる戦略的方策などが考えられる[5].特定部位の活性状態観測では,偏桃体などの主観的評価に関係する脳内部位の活性状態により,システム挙動に対する人間の官能評価推定値を客観的に結び付ける試みは今後の人間–機械システムに大きな影響を与える.また,人間の機械操作の慣れや機械操作スキル獲得の過程を人間の脳内活性部位の状況から経時的にフィードバックして上達を早める試みや脳内活性部位の状況により機械システムの応答特性を変化させる,高次脳機能レベルで人間挙動に適応的な機械–人間システムは,今後の展開が期待される.
あらゆるモノをインターネットに接続し,新しいサービスを創造,提供するIoT(Internet of Things)に関する技術開発が注目を集めている.特に近年スマートフォンに代表される携帯情報端末の普及に伴い,多くの情報を手元で取得,コントロールでいる環境が確立されたことで,これまで情報取得を目的としなかった多くのモノから有用なデータ取り出し,その情報を活用する技術的な環境が整備され,その背景の元でIoTを活用したイノベーションに関する議論が活発に行われている.一方でIoT技術そのものの定義についてはまだ議論が残されており,その実用分野や将来像についても現段階で未確定の分野が多いが,一般的にIoTに関する要素技術は以下の階層に分類することができる.
近年のAI技術の進展,およびビッグデータやクラウドコンピューティングの利用拡大により,情報処理分野におけるIoTのコア技術が近年急速に進展してきた.この技術を従来からある各種家電製品,自動車をはじめとする交通技術,建築物等に導入することで,ライフスタイルに直接関係するサービス・プロダクトの革新が期待されている他,製造プロセスや流通等の効率化,低コスト化においても大きく寄与すると予想されている.
機械工学と特に関連の深い分野として,センサやアクチュエータ等の機能性デバイスの技術分野が挙げられる.特に無線通信機能を実装したセンサ素子(センサノード)の開発に加え,多数のセンサノードを駆動するための電力源として環境発電(エナジーハーベスト)技術の実現が求められており,自立駆動可能な機能性マイクロセンサ技術の進展はIoTの全体像を左右する重要なIoT基盤技術と位置づけられる.
IoT技術は,現在最も注目されているイノベーションの一つとして様々な技術階層において研究開発が進められているが,個別の要素技術の性能向上のみではなく最終的なサービス・製品形態,また各技術階層との整合性を意識することに関することが重要となる.また,情報のセキュリティやプライバシーについても新しい課題が生じることが予想され,体系的な技術開発が今後求められる.
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