最初にいくつかの政府・官公庁発行文書からエネルギーに関する国内動向を示す.第5期科学技術基本計画[1](2016年1月閣議決定,2016–2020年度が対象)では,持続的な成長と地域社会の自律的発展においてエネルギーの安定的確保とエネルギー利用の効率化が謳われており,再生可能エネルギー(太陽光,風力,地熱・波力・海洋温度差発電),高効率火力発電,石炭利用技術,原子力,水素・蓄電池などについて述べられている.平成28年度エネルギー白書[2](2017年6月,資源エネルギー庁)では,福島復興,再生可能エネルギー,水素社会について言及している.その「第2部 エネルギー動向」のデータからは,1973–2015年度でのGDP2.6倍の増加に対し,最終エネルギー消費は1.2倍の増加に収まっており,過去40年間での省エネルギーの効果が確認できる.第4次エネルギー基本計画[3](2014年4月閣議決定)では,今後20年程度のエネルギー需給構造を視野に2018–2020年までを集中改革期間と位置付け,エネルギー政策の基本的視点として,安定供給,経済効率性,環境への適合,安全性,国際的視点,経済成長,を示している.また,再生可能エネルギー,原子力・福島,省エネルギー,水素社会,について言及している.
国際的には,World Energy Outlook 2017 [4](IEA)で2040年までの予測として,再生可能エネルギーの急成長,インド,中国,東南アジアでの需要拡大,中国のエネルギー政策が世界に大きな影響を及ぼすことが述べられている.
「伝熱および熱力学」に関連する研究・開発テーマとして上述の再生可能エネルギー,水素利用関連が増えている.ただ,従来の化石燃料システム・機器における高効率化,省エネルギー化がすぐに不要になるわけではなく,「伝熱および熱力学」として従来に比べて非常に広い応用対象を取り扱うようになってきたという印象である.
2017年開催の国内会議をまとめておく.日本機械学会2017年度年次大会(2017年9月3–6日,埼玉大学)では,分野横断のジョイントオーガナイズドセッションとして,「分散型エネルギーとシステムの最適化」,「燃料電池・二次電池とマイクロ・ナノ現象」,「電子情報機器,電子デバイスの強度・信頼性評価と熱制御」,「熱・流れの先端可視化計測」,「乱流における運動量,熱,物質の輸送現象およびその応用」,「マイクロ・ナノスケールの熱流体現象」,「医工学テクノロジーによる医療福祉機器開発」が開催された.熱工学コンファレンスは,The 9th JSME-KSME Thermal and Fluids Engineering Conference(2017年10月27–30日,沖縄)が開催されたため,2017年は開催されなかった.その他,関連学会主催の国内会議としては,第54回日本伝熱シンポジウム(2017年5月24–26日,さいたま),第38回日本熱物性シンポジウム(2017年11月7–9日,つくば),第55回燃焼シンポジウム(2017年11月13–15日,富山)が開催された.
2017年開催の関連国際会議としては,9th World Conference on Experimental Heat Transfer, Fluid Mechanics and Thermodynamics: ExHFT9(2017年6月12–15日,Iguazu Falls, Brazil),28th International Symposium on Transport Phenomena: ISTP-28(2017年9月22–24日,Peradeniya, Sri Lanka),Asian Symposium on Computational Heat Transfer and Fluid Flow: ASCHT2017(2017年12月10–13日,Madras, India),Asian Conference on Thermal Sciences: ACTS2017(2017年3月26–30日,Jeju, Korea)が開催された.
2017年の熱工学部門(関連部門を含む)からの本学会学術誌への掲載状況は下記の通りである.日本機械学会論文集:63編,Journal of Thermal Science and Technology(JTST):38編,Mechanical Engineering Journal(MEJ):15編,Mechanical Engineering Review(MER):0編,Mechanical Engineering Letters(MEL):0編.大学(文科省)での学術データベース(Web of Science, Scopus)掲載論文重視の影響もあり,全体的に掲載数は少ない.本学会学術誌の中で比べると和文誌の掲載数が多い.
「伝熱および熱力学」は,広範な応用先に適用可能な学術であるが,上述のとおり現状では応用先が非常に広がり,講演会等でのセッション構成が困難になり,会場での議論が深まらないという印象をここ10年ほど持っている.どうすれば「伝熱および熱力学」分野,熱工学部門として学術界(特に若手研究者),産業界,さらには生徒・学生(小・中学生,高校生,大学生)からみて魅力的な分野・部門であり続けられるのか,(これまでもそして)今後も大きな課題である.
熱物性は工学の基盤であり,研究題目や要旨に直接“熱物性”という言葉が使われなくとも,熱物性を測定したり利用したり,といった関連した研究は多い.まず,2017年に開催された熱物性に関連した国内および国際会議のうちいくつかについて概観することで,2017年の熱物性研究の動向を紹介する.
第54回伝熱シンポジウムが2017年5月24日から26日までの日程で埼玉県の大宮ソニックシティにて開催された.323件の講演のうち,熱物性に特化したセッションは3つ(熱物性1~3)で,ナノレベルの粒子や構造を利用した材料開発,光学計測法,界面の性質などに関する14件の講演があった[1].
2017年9月3日から6日までの日程で,埼玉大学を会場として,日本機械学会2017年度年次大会が開催された.熱工学部門に関しては,オーガナイズドセッションが2つ(J061分散型エネルギーとシステムの最適化 講演9件,J062燃料電池・二次電池とマイクロ・ナノ現象 講演15件),一般セッションが1つ(G060 講演26件)あった[2].現象を論じるほとんどの講演で関連する物質の熱物性が必要とされており,基盤データとしての熱物性の役割をよく表わしている.
期を同じくして2017年9月3日から8日まで第21回欧州熱物性会議(ECTP2017)がオーストリアのグラーツで開催された.この会議は3年毎に行なわれ,毎年,順に開催される3つの国際熱物性会議(アジア熱物性会議,欧州熱物性会議,米国熱物性会議)の一つである.セッション名をセッション数の多い方から紹介すると,高温における材料科学のための熱物性,相平衡,および測定器と測定技術がそれぞれ3セション,理論とモデリング,およびイオニック液体とその熱物性が2セッション,そして,ナノ流体と流体材料,固体と固体物性,断熱,標準データと標準物質,流体システム,測定とモデリング,エネルギーと燃料,水溶液,材料一般,輸送現象,ふく射性質,工学への応用,ナノ材料,代替冷媒,新しい測定技術,状態方程式,光・熱放射物性,および光熱・光音響熱物性がそれぞれ1セッションであった[3].
例年,本学会熱工学部門が主催して秋季に開催される熱工学カンファレンスは,2017年9月27日から30日に沖縄で第9回日韓熱流体工学会議(TFEC9)が開催されたため,2017年は開催されなかった.TFEC9は台風のため2日間の短縮日程で開催されたが,予定されていた31のOSと3つのGSはすべて行なわれた[4].熱工学または流体工学と熱工学合同の19セションのうち熱物性は1セッションで,熱物性測定および測定法に関する8件の講演があった[5].
2017年11月7日から9日まで日本熱物性シンポジウムが茨城県つくば市の産業技術総合研究所つくばセンターにて開催された.9つのOSと6つのGSで発表が行なわれ,268名の参加と129件の学術講演があった[6].講演のあったOSおよびGSと講演件数は次の通りである.OSでは,OS1 高温融体と材料プロセス 16件,OS2 先進材料の熱物性とシステムデザイン 6件,OS3 エネルギー変換に関わる熱物性・界面物性 12件,OS5 高熱伝導性樹脂・複合材料の開発と熱物性評価 9件,OS6 断熱材の熱物性計測と評価 8件,OS7 食品ならびに生物資源における熱物性 7件,OS8 エネルギーの輸送に関わる流体熱物性と技術 17件,OS9 マテリアルズイフォマティクスに関わる熱物性データベースと技術 9件,OS10 熱流計測と熱流センサーの応用 9件,GSでは,GS1/GS10 流体の熱力学的性質・輸送性質/原子・分子シミュレーション 4件,GS2 固体の熱力学的性質・輸送性質 8件,GS3 ふく射性質 7件,GS5 表面・界面・薄膜 4件,GS6 新材料・先端材料 3件,GS9 新測定技術 10件であった[7].より詳細な情報については参考文献[6]のシンポジウム開催報告とそれに続く各OSの報告をご参照いただきたい.
この他,熱物性に関わる国際的なトピックとして,キログラムの再定義に向けたNMIJ(日),NIST(米),LNE(仏),NRC(加)などによるプランク定数測定があげられる.2011年の第24回国際度量衡総会において,SI基本単位のうちキログラム,モル,アンペア,ケルビンの再定義の方針が決議された.特に,キログラムは,現在でも人工物「国際キログラム原器」の質量として定義されており2014年の第25回総会での改定が期待されたが,十分な精度のデータが揃っておらず再定義は見送られた.そして,第26回総会においてキログラムの再定義を審議するために測定データを公表する期限が2017年7月1日であった.各機関の最新の測定データは不確かさが十分に小さくそれぞれが不確かさの範囲で一致している.これらのデータをもとに2018年11月13日から16日にフランスで開催される第26回国際度量衡総会においてキログラムのプランク定数を基準とする新たな定義への移行が審議される.なお,前述のケルビンのボルツマン定数による定義への改定およびアンペアとモルの定義の見直しについても第26回国際度量衡総会にて審議される[8, 9].
最近の伝熱工学分野の研究動向を把握するために,学術論文の状況についてアメリカ機械学会ASMEの論文誌Journal of Heat Transfer,日本機械学会が発行する和文誌の日本機械学会論文集,ならびに熱工学部門と日本伝熱学会が共同編集を行う英文誌のJournal of Thermal Science and Technologyの論文数やトピックについて分類し,表1にまとめた.ASME J. Heat Transferの論文総数は179件となっており,2016年の165件より微増している.掲載論文が多い分野は,熱・物質輸送,蒸発・沸騰・凝縮,マイクロ・ナノ伝熱が多く,次いでふく射伝熱,自然対流・複合対流,強制対流が多い.この傾向は前年度とほぼ同様であるが,ふく射伝熱に関する論文が増加している特徴がみられる.次に,日本機械学会論文集,Journal of Thermal Science and Technologyを総計した伝熱工学に関連する論文数は,99件と大幅な増加傾向にある.分野別にみると,二相流と伝熱,噴流・後流・衝突冷却,熱システムが多くASMEとは傾向が異なる.なお,燃焼分野に関してはASMEでは別の論文誌Journal of Engineering for Gas Turbines and Powerに掲載されているため,本表ではその他に分類している.
次に国際会議における研究発表状況について述べる.2017年はアジア地域での比較的大きな国際会議が2件(Asian Conference on Thermal Science 2017,The Ninth JSME-KSME Thermal and Fluids Engineering Conference)開催されたので概略を述べる.
第1回アジア熱科学会議(Asian Conference on Thermal Science 2017)は2017年3月26日から30日まで,韓国済州島で開催された.本会議は2015年に設立されたアジア熱科学工学連盟,Asian Union of Thermal Science and Engineering(AUTSE)が主催する第1回目の国際会議であり,8件のPlenary Lecture,29件のKeynote Lecture,383件の一般講演,130件のポスター発表から構成されており,アジア地域における熱工学に関する包括的な研究議論の場であった.セッションはAir Conditioning & Refrigeration,Biomass Conversion,Combustion,Computational Method,Conduction,Convection,Energy Conversion & Storage,Gas Turbine & Power Generation System,Heat Pipe & Electronics Cooling,Heat Exchanger & Heat Transfer Enhancement,Heat Transfer in Manufacturing,Heat Transfer in Micro & Nanoscale,Hydrogen Production Technology & Fuel Cells,Internal Combustion Engine,Measurements & Diagnostics,Multi-Phase phenomena,Phase Change,Thermal-Hydraulics in Nuclear Engineering,Thermal Management & Storage,Thermal Radiation,Thermoelectric Devicesなど20件以上のセッションに加え,Solar Energyに関する特別セッションが企画された.総参加者は719名で日本からは126名の参加があった.
また,2017年10月27日から30日まで,第9回日韓熱流体工学会議(The Ninth JSME-KSME Thermal and Fluids Engineering Conference(TFEC9))が沖縄コンベンションセンターで開催された.3件のPlenary Lecture,540件の学術講演が発表された.本会議は機械学会の熱工学部門から17件,流体工学部門から12件,両部門合同で2件の計31件のオーガナイズドセッションおよび3つの一般セッションを11室のパラレルセッションで開催された.台風の影響により28日は閉会となったため,29,30日で短縮スケジュールにより実施されるという厳しい状況に見舞われたが700名を超える参加があった.
国内の代表的な伝熱関連の会議としては伝熱シンポジウムと熱工学コンファレンスが挙げられる.
第54回日本伝熱シンポジウムは2017年5月24日から26日まで大宮ソニックシティで開催された.3日間にわたり62セッションに分かれて323件の講演発表があった.2016年の第53回伝熱シンポジウム(大阪)と比べると20件ほど減少しているが,ほぼ平均的な規模であった.セッションは,一般セッション,オーガナイズドセッション,学生及び若手研究者を対象とする優秀プレゼンテーション賞セッションにより構成されている.一般セッションとして,バイオ伝熱,沸騰,電子機器の冷却,強制対流,ヒートパイプ,多孔体内の伝熱,物質移動,計測技術,融解・凝固,分子動力学,混相流,自然対流,自然エネルギー,ふく射,空調・熱機器,熱物性,ナノ・マイクロ伝熱,熱音響,が,またオーガナイズドセッションとして,「燃焼研究の最前線」,「熱エネルギー材料・システムのための熱・物質輸送促進」,「水素・燃料電池・二次電池」,「化学プロセスにおける熱工学」,「非線形熱流体現象と伝熱」,「乱流を伴う伝熱研究の進展」があった.また,並行して日本伝熱学会特定推進研究特別ワークショップが開催され,特別講演の「社会の課題解決に貢献するための伝熱研究(学会)の役割」では企業研究者の伝熱学会への参画がより一層重要であることなどが述べられた.
一方,熱工学部門が主催する熱工学コンファレンスは,前述のTFEC9が熱工学部門,流体工学部門と共同で開催されたことにより,2017年は開催されなかった.
科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業において,2017年度の戦略目標として5つの目標が決定され,そのうちの1つに「ナノスケール熱動態の理解と制御技術による革新的材料・デバイス技術の開発」という,伝熱分野に直接的に関わる目標が掲げられた.本戦略目標では,熱に関する課題の解決や熱エネルギーの有効活用に向けて,熱の根源的な理解と制御を通じた新材料創製やデバイス開発を目的としており,具体的には,(1)ナノスケールでの熱動態の基礎的理解と熱制御基盤技術の構築,(2)熱に関する課題の解決や熱エネルギーの有効活用に向けた革新的材料の創製,(3)熱に関する課題の解決や熱エネルギーの有効活用を実現する新規デバイスの開発,の達成を目指している.
このように伝熱工学分野に関する期待感,というよりも技術革新要求はますます高まりつつあり,我が国の伝熱分野の学術的蓄積から,技術イノベーションにつながる画期的な成果が一つでも多く創出されることを期待する.
2017年の熱交換器に関する研究動向について述べる.熱交換器に関連する研究は多岐に亘るが,対流・沸騰などの伝熱現象に関わる基礎的な研究動向は前述の「8・1・3伝熱」に譲り,ここでは熱交換器の構造や構成要素,また熱交換器を構成要素とするシステムに関する研究を中心に取り上げる.まず2017年に開催された国内講演会のうち,①埼玉で開催された第54回日本伝熱シンポジウム,②東京で開催された日本冷凍空調学会年次大会を調査した.例年であれば日本機械学会熱工学コンファレンスも調査対象とするところであるが,2017年は熱工学コンファレンスの代わりに,沖縄でThe Ninth JSME-KSME Thermal and Fluids Engineering Conference(TFEC9)が開催されたことから,TFEC9を調査対象とした.①では電子機器の冷却,熱エネルギー材料・システムのための熱・物質輸送促進,強制対流,空調・熱機器,ナノ・マイクロ伝熱,自然エネルギー,熱音響のセッションを中心に熱交換器関連の研究発表が行われた.②では熱交換器における技術展開,霜・雪・氷の諸現象と利用技術,熱交換器の技術開発動向と開発事例,吸収,吸着,ケミカル系の冷凍機・ヒートポンプ,沸騰冷却の基礎と応用展開,熱交換器における技術展開,アジアにおけるHVAC&R技術の進展,冷凍・空調・給湯機器におけるシミュレーション技術,蓄エネ・省エネ・創エネにおける技術展開などのセッションを中心に熱交換器関連の研究発表が行われた.①と②を比較すると①の方では,自励振動型ヒートパイプや蓄熱型熱交換器に関する基本的な研究が多かったのに対して,②では住宅用空調,自動車用空調など応用先のターゲットを絞った研究や,熱交換器が重要な役割を果たすシステムに関する研究も多く見られた.また両講演会の共通する話題としては自然エネルギーの有効利用を目指した地中熱交換器に関する研究などが挙げられる.③は熱交換器に関する基礎から応用までの幅広い研究発表がなされたが,地球温暖化防止の観点から開発が期待される新規冷媒の1種である1233zd(E)の利用を想定した先駆的な研究成果が日韓それぞれの研究グループから発表された.
次に学術雑誌の掲載状況より熱交換器の研究に関する国内外の動向を調査した.国内の学術雑誌は①日本機械学会論文集,② Journal of Thermal Science and Technologyであり,国外の雑誌は③ International Journal of Heat and Mass Transfer,④ Applied Thermal Engineering,⑤ International Journal of Thermal Scienceである.国外の雑誌に関してはWeb of Scienceを使い「Heat Exchanger」をトピックスに含む論文を調査対象とした.まず①,②に関しては排熱回収熱交換器の最適設計に関する論文やプレート式熱交換器,電気自動車用に搭載されるLiイオン電池の冷却用ヒートパイプに関する論文が見られたが,全掲載論文における熱交換器に関する論文の割合は10%以下であった,これに対して③,⑤では熱交換器に関する論文が約10%を占めており,特に④に関しては約20%であった.なおこの傾向は2016年とほぼ同様であった.またこの3誌における熱交換器関連の総論文数は約600報で,いずれの雑誌においても中国からの投稿数が第1位であり,中国の勢いを感じることができる.研究内容としては伝熱性能や管内摩擦・圧力損失などの流体の挙動に関する論文が多く,低GWP冷媒・溶融塩・ナノ流体を作動流体としたものも見受けられた.熱交換器の素材としては鋼や銅,ポリマーとした研究例もあった.熱交換性能を向上させるために,熱交換器の構造を工夫する手法として,フィンやねじれ管を改良した例や,チャンネル内にポーラス体や格子構造を取り入れた例が見られ,作動流体の乱流を促進するため,渦を効率的に発生させる工夫や機械的振動・回転機構を取り入れた研究例もあった.また熱交換器の構造を熱交換性能および経済性の両面から最適化するために,多目的最適化アルゴリズムを用いた例もあった.さらに実用的な観点から熱交換器の性能劣化を招く,スケールや霜の付着,材料の腐食に関する研究も活発に行われていることが分かった.最後に読者の参考となるレビュー論文を紹介する[1, 2].
本学会主催の燃焼関連の学術会議としては,7月に岡山でThe 9th International Conference on Modeling and Diagnostics for Advanced Engine Systems(COMODIA)が開催され,年次大会が9月に埼玉で,The Ninth JSME-KSME Thermal and Fluids Engineering Conference(TEFC9)が10月に沖縄で開催された.また,共催学会としては,第54回日本伝熱シンポジウムが5月に埼玉で,第55回燃焼シンポジウムが11月に富山で,第28回内燃機関シンポジウムが12月に福岡で開催された.全体としては,大型プロジェクトの戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)が4年度目ということもあり,燃焼に関連した「革新的燃焼技術」および「エネルギーキャリア」から多くの講演発表がみられた.
はじめに,岡山で開催されたCOMODIAでは基調講演として,「熱効率50%を目指した超希薄火花点火エンジン」として,現在内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)における「革新的燃焼技術」において推し進められている自動車用高効率エンジンに関する研究開発の現状が述べられた.それ以外では「高効率クリーンエンジンを目指した燃焼制御」および「環境問題解決へむけて内燃機関の目指すべき道」であった.後者は,内燃機関の高効率化による二酸化炭素低減の可能性を示したものである.また,一般セッションにおいて燃焼に関わるものとして,噴霧・噴霧燃焼,燃料,化学反応解析,HCCI/RCCI/PCCI燃焼などがあった.つぎに,埼玉で開催された年次大会において,熱工学部門における燃焼関連の講演は一般セッションでなされ,予混合火炎,粒子生成,噴霧火炎関連は3件に加えて火災についての講演がなされた.さらに,エンジンシステム部門においても同様に一般セッションにおいて自着火,予混合火炎,火花点火,ノック,燃焼計測,DME,すすなどを対象とした講演がなされるとともに,「エンジン性能を支える化学反応」と題したテクニカルワークショップが開催された.TFEC9では,「将来のエネルギーシステムのための燃焼の基礎」と題したセッションが6枠あり,予混合燃焼および非予混合燃焼・拡散燃焼に関連する研究発表が多く見られた.また,「火災および爆発」および「燃焼研究の工業応用」はそれぞれ3枠設定され,後者で多く見られたのは石炭燃焼およびエンジン燃焼・熱伝達であった.
埼玉で開催された伝熱シンポジウムにおける燃焼関連は,主に「燃焼研究の最前線」というセッションにおいて5枠22講演があった,なかでも反応機構に関する論文が多く見られたのが特徴的であった.つぎに,富山で開催された燃焼シンポジウムでは,特別講演として「水素のエンジン燃焼研究に携わって」と題して行われたのに加えて,基調講演として,「次世代ICエンジンのための乱流燃焼機構の解明とモデル化」,「火災安全・爆発安全のための燃焼研究」および「圧縮性流体中の燃焼現象解明へ向けた数値解析による取り組み」と題して行われた.このなかでも1つめの講演はSIPの「革新的燃焼技術」で進められている超希薄予混合燃焼を対象としたものであった.初日に特別企画として,若手ワークショップが企画され,「栄光の失敗」および「基礎研究成果のエンジン開発への応用」の2つが話題提供された.一般セッションに関しては,ほぼ例年通りの構成と比率であり,もっとも基礎となる「層流燃焼」が7セッション,「乱流燃焼」4セッションと多く,一方応用である「エンジン燃焼」も5セッションと多かった.これらに加えて,「燃焼排出物」「固体燃焼」「着火・消炎」等についても多く発表がみられた.福岡で開催された内燃機関シンポジウムでは,特別講演として,「電動化時代を迎えたパワートレーン開発の方向性」および「内燃機関進化によるCO2低減への貢献」と題して行われた.ここで,後者は乗用車用パワートレーンの電動化が推し進められているが,内燃機関の高効率化を実現することによって,二酸化炭素排出を抑制できる可能性を示した.一般講演においては噴霧,ノッキング,着火・燃焼,予混合圧縮着火などのセッションが設定され,ここでもSIPの「革新的燃焼技術」に関連した講演が多くみられた.
燃焼関連の学術雑誌として,日本燃焼学会誌が4号,Combustion and Flameが12号発行されている.Combustion and Flameでは比較的複雑な分子構造を対象とした物質に対して,詳細反応を含む化学反応に関する進展が見られるほか,ビッグデータに基づく物性値推定法など新たな手法の提案が目を引いた.Combustion Science and Technologyは12号発行され,これについても,詳細あるいは簡略化した化学反応機構に関する研究,あるいはラージエディシミュレーションを用いた数値解析が多く見られた.Progress in Energy and Combustion Scienceは6号発行され,ここではとくに,二酸化炭素の排出およびそのキャプチャーに関する論文が比較的多く見られた.
2017年における世界の一次エネルギー消費の割合は,化石燃料(石油,石炭,天然ガス)で85%以上になっている.この傾向は40年以上にわたり続いており,今後も化石燃料は重要なエネルギー源となることが予想される.また,この40年間において,消費量は増加一途であり,特に2000年以降はアジア大洋州における石炭の消費量の伸びが著しく,CO2排出の観点から,石炭消費の削減と代替エネルギー源の問題が取り上げられることが予測できる.2017年から2030年頃にかけての世界的な一次エネルギー消費量の見通しは,年平均で1.2~1.8%で拡大を続けることが予測されており,化石燃料の中でも石油は引き続き最大のエネルギー源であることが予想されている.石炭の消費は緩やかに増加する一方,天然ガスは堅調な需要の増加が見込まれている[1].OPECの生産調整やシェールオイル生産量の関連から,石油価格は1バレルおおむね50ドル台で推移しており安定しているが,今後もこれらの動向を見守る必要がある.天然ガスの価格はここ数年安定しており,シェールガスの供給が安定しているためと思われる[2].米国における天然ガスの全生産量に占めるシェールガスの割合は50%を超える水準になっており,今後も安定したエネルギー源として期待できるものと考えられる[3].
燃料に関する話題として,内燃機関からの燃焼排出物の一つであるSPM(浮遊粒子状物質)の低減が重要視されていることから燃料中の硫黄分の問題がある.このSPMは自動車や船舶,工場などから直接排出される1次粒子とVOC,NOx,SOxから生成される2次粒子がある.わが国においては1次粒子に関しては後処理技術などが進み減少してきている.しかし,ガス状の物質から生成される2次粒子に関しては課題が残されている.SPMの約70%は2次粒子であるという報告もある[4].また,SPMはCO2同様に越境するため,わが国のみの対策では抑制効果を十分に発揮することが困難であることが予想され,世界的な削減が求められている.これに伴い,燃料の脱硫化が加速している.自動車用燃料に関しては,アジアなどでのガソリンと軽油は2021年までに硫黄分規制が10 ppmに強化される.また,船舶による海洋汚染の防止は,IMO(International Maritime Organization)が中心となり取り組んでいる.船舶用燃料油では現在の硫黄分の規制値は3.5%以下であるが,2015年からECA(Emission Control Areas)といわれる,主として北米沿岸やバルト海など,一部の海域で硫黄分0.1%以下という規制値が適用され始めた.このような動きの中,一般海域においても2020年以降について燃料硫黄分が0.5%以下に強化される.2018年には,実現の可能性を見極める検証が行われ,遅くとも2025年までには0.5%以下の規制が実施されるようである[5].既存の船舶用機関に関しては,スクラバーを装着することで排ガス中の硫黄分を減少させることや新造船に関しては天然ガスを主燃料とすることが検討され,この分野の研究も進んでいる[6].これに伴い,将来的には舶用燃料としてのLNGの需要が増大する予測もある.
燃焼に関する話題として,2017年は自動車の電動化への動きが活発であった.2030年から2040年ごろにかけて内燃機関を搭載する自動車を順次廃止し,電動化を加速することの発表が相次いだ[7, 8].これは気候変動枠組条約第22回締約国会議(COP22)におけるCO2削減目標のためという側面もある[9].一方,内燃機関を搭載した自動車台数の将来予測は,さまざまなものがあり今後の見通しは不透明である[10, 11, 12].
わが国においては,内燃機関の熱効率を向上させる試みも精力的に行われている.2014年から始まった戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)では「革新的燃焼技術」において,ガソリン機関,ディーゼル機関ともに熱効率50%を目標に研究が精力的に進められている[13].ガソリン機関においては,超希薄混合気において強いタンブル流がある状況下において安定的に着火・燃焼させることに成功し,着実に目標に向かっている[14].ディーゼル機関においては,後燃えの低減,超高圧噴射による希薄燃焼の実現と冷却損失の低減の両立などにより,こちらも着実に目標に向かっている[15].
欧州における内燃機関の研究は,例えばアーヘン大学S.Pischingerらによっても熱効率の向上に関する研究が行われている[16].この研究手法は,ボア径が100 mmから500 mm程度の大型CNG機関と乗用車用ガソリン機関の熱効率の差について注目し,両者の特徴的な技術項目ごとについてのプロジェクトを進行させ,大型と小型機関でどの技術がどの程度の熱効率の差を生じているのかを解析し,最終的に乗用車用ガソリンエンジンの熱効率を向上させようとしているものである.各項目は,吸排気損失低減のための弁周り寸法や燃焼室形状などの機関設計,可変バルブタイミング,EGRとミラーシステム,高負荷時と部分負荷時においてノックを回避しつつ熱効率を上昇させるための可変圧縮比,ノックの発生を抑制するための水噴射,代替燃料,超希薄燃焼を実現するための予燃焼室システムなどがある.これらの結果は,いわゆるライトサイジング機関の排気量の決定にも生かされているようである.現在においても,シリンダー内流動や熱発生率など基本的なデータの積み重ねを慎重に進めている.2017年現在では,図示熱効率44%を達成している.将来的には,これらの各技術項目に加えて,ロングストローク化,予燃焼室システム,排熱回収を導入することで更なる熱効率の向上を試みるようである.
8・1・1の文献
8・1・2の文献
8・1・4の文献
8・2・2の文献
上に戻る