エンジン研究では,引き続き燃費改善,高効率化に向けた取り組みが行われている.火花点火機関では希薄燃焼,ノッキング,HCCIに関連する研究など,圧縮着火機関では,噴霧燃焼,すす生成・酸化,燃料噴霧に関する研究などが継続して行われ,モデリング,熱損失,燃焼・排ガスの計測・診断技術,後処理技術,代替燃料利用,潤滑に関する研究も活発に行われている.また,産学,学学による研究協力が進展している.
エンジンシステムにおける研究の動向に関して,日本機械学会による学会講演会の状況を紹介する.エンジンシステムに関わる学術講演会として,2017年には年次大会(9月4日~6日,埼玉大学),第20回スターリングサイクルシンポジウム(11月25日,明星大学),第28回内燃機関シンポジウム(12月6日~8日,福岡リーセントホテル),国際会議COMODIA2017(7月25日~28日,岡山コンベンションセンター)が開催された.
年次大会では,一般セッションの他に「噴霧・燃焼」,「排気後処理」,「HCCI・化学反応」の4セッションが組まれて合計20件の講演があった.部門企画として「噴霧–混合気制御によるディーゼル燃焼過程の人為的制御」と題する基調講演,ワークショップ「エンジン性能を支える化学反応」,先端技術フォーラム「モビリティエネルギーを考える」があり,市民フォーラムでは「温めて動く機械スターリングエンジン」も企画された.スターリングサイクルシンポジウムでは3つの講演セッションが組まれて24件の一般講演があり,「今,日本で手に入るスターリングエンジン」と題するパネルディスカッションも行われた.自動車技術会との共催である内燃機関シンポジウムでは,一般講演として,CI機関,SI機関,ガス機関,予混合圧縮着火,噴霧,着火・燃焼,ノッキング,計測診断,排気後処理,代替燃料,潤滑,圧力振動・騒音に関するセッションが企画され,合計111件の講演があった.さらに,内燃機関の今後を考える企画で「電動化時代を迎えたパワートレーン開発の方向性」および「内燃機関進化によるCO2低減への貢献」と題した基調講演があった.その他「高効率レース用エンジン」と題したフォーラムも企画された.COMODIAは2012年以来の開催となり,内燃機関シンポジウムと同様のセッションが組まれて101件の講演があった.このシンポジウムでは,「Research and Development of Super-Lean Burn for High Efficiency SI Engine – Challenge for Innovative Combustion Technologies to Achieve 50% Thermal Efficiency –」,「Combustion Control – An Enabler High-Efficiency Clean Combustion Engines –」,「Our Direction for ICE – Efficient Contribution to Environment –」と題した3件のPlenary Lectureも行われた.
自動車のEV化が話題になっているが,普及の是非,可能性について多くの議論があり,エコカーの方向はまだ明確には定まっていない.こうした状況のもと,エンジン研究は上記のように活発に行われている.
2017年の世界市場は,2016年比で1.9%増の7 089万台となり,初めて7 000万台超となった[1].中国や欧州,インド,日本が全体の増加を牽引した.中国市場は2.3%増の2 496万台となり,9年連続世界1位の市場となっている.各国でパワートレーンの電動化を推進する動きが強まり,フランスやイギリスが2040年,インドでは2030年にガソリン車,ディーゼル車の販売禁止,中国では10%の新エネルギー車の販売を義務付けなどの方針が示された.こうした中でもRDE等,規制強化に対応するために高効率,低エミッションエンジンの開発が盛んに進められている.
日本の2017年販売実績は2016年比5.9%増の439万台で,とくに好調だったのが軽自動車で7.4%増の144万台だった[2].2015年の軽自動車税引き上げ以降,販売不振が続いていたが,各社の主力車種の販売が好調だった.また,30%超まで増加したHEV(ハイブリッド電気自動車)用のエンジン熱効率は最大41%まで向上している.トヨタは高速燃焼コンセプトを基軸としたTNGAエンジンシリーズとして2.5 L L4 NAエンジンと3.5 L V6過給エンジンを発売,日産は世界初の量産型可変圧縮比エンジンについてプレスリリースを実施,マツダは世界初のSPCCI(火花点火制御圧縮着火)燃焼を行うSKYACTIV-Xを2019年に発売することを発表するなど,新エンジンコンセプトの発表が相次いだ.
2017年の欧州の総市場(EU)は前年比3.4%増の1 513万台となり10年ぶりに1 500万台超に到達した[3].中でもイタリア,スペインで大幅販売増を記録.ディーゼル車の市場シェアは49.9%から44.8%に下落,一方で,ガソリン車がシェアトップの49.4%まで増加した.電動車を含む代替燃料車は39.7%増の85万台と高い伸びを示しているものの,市場シェアとしては5.7%に留まっている.Volkswagenは1.5 L L4過給エンジンをGolfに搭載,Rightsizing思想と同様,前モデルよりも0.1 L排気量を増やし,気筒休止システムを導入した.ミラーサイクルを採用し過給でありながら圧縮比12.5を実現している.Daimlerは日産と共同開発の1.4 L L4過給エンジンを発表し,4気筒ではMercedes初となる気筒休止を採用している.Jaguar Land Rover新開発の2.0 L L4過給エンジンは2015年に発売されたディーゼルエンジンとモジュール設計になっており,ボア径,ストローク,デッキハイト,クランクジャーナルやバランサ位置など多くのものが共通化されている.
北米の自動車販売はピックアップ,SUVの販売が増加したものの,乗用車は前年比9.9%減の775万台であった.各社CAFE規制対応のため,小型SUVへの過給ダウンサイズエンジンの導入を拡大し,ピックアップトラック用大排気量エンジンの改良を進めている.FordはピックアップトラックF-150用に,直噴とポート噴射の両方を備えた燃料システムを採用したEcoBoostV6過給(2.7 L,3.5 L)を発表した.
2017年の小型四輪車,軽四輪車も含めた国内トラック販売台数は,2016年比3.0%増の83万2 195台であった.車種別としては,軽四輪車は同5.1%増の39万9 974台,小型車は同0.5%増の25万5 836台,普通車は同1.8%増の17万6 385台と,各車種とも増加した.国内バス販売台数は,同0.6%増の1万5 593台と,増加基調にあるものの2015年と2016年の10%以上の伸び率には及ばなかった.輸出車は,トラックが同4.1%減の36万8 407台,バスが同9.6%減の11万9 012台であった.中近東ではトラックが同14.6%減,バスが同44.6%減,アフリカではトラックが同35.2%減,ヨーロッパではトラックが同53.5%増,バスが同87.0%減,オセアニアではトラックが同12.4%増,バスが12.3%増,と大幅に変動した地域もあった.
各社から「平成28年排出ガス規制」に適合した車両が発表された.UDトラックス(株)は大型トラックのフルモデルチェンジにおいてGH11(排気量10.8 L)を改良した.ユニットインジェクターとコモンレールシステム双方の特長を生かした燃料噴射システムの採用,ピストン燃焼室形状などを見直し,出力向上とともに「平成27年度重量車燃費基準」+5%を達成した.三菱ふそうトラック・バス(株)は大型トラックのフルモデルチェンジにおいて6R20(10.7 L)と6S10(7.7 L)を新規設定して,従来の6R10(12.8 L)から大幅なダウンサイジングを行った.6R20はアシンメトリックターボ,燃料噴射圧250 MPaの増圧式コモンレールを採用した.6S10は2段過給システム,燃料噴射圧240 MPaのコモンレールシステム,排気バルブへのDPF再生時の可変タイミング機構を採用した.燃費基準はいずれのエンジンも+5%を達成した.いすゞ自動車(株)は大型トラック用6UZ1(9.8 L)のEGRシステムやターボ仕様などを改良して,燃費基準についても+5%を達成した.また,6NX1(7.8 L)はターボシステムなどを改良して,軽量を生かしてミキサ車への展開を行った.中型トラック用4HK1(5.2 L)はターボシステムや燃料噴射系などの改良とともに全車尿素SCRを採用した.燃費基準についてもクラストップの+10%を達成した.日野自動車(株)は大型トラックのフルモデルチェンジにおいてA09C(8.9 L)に低圧段と高圧段それぞれに空冷インタークーラを装着した2段過給システムを採用して,高出力化とともにクラストップの燃費基準+10%を達成した.中型トラックもフルモデルチェンジを行い,A05C(5.1 L)のターボシステムを改良して中型全車に展開して,一部の車種では尿素SCRシステムを不要として利便性を向上した.
各社で低燃費化の改良が進んだ.SCANIAは新エンジンであるDC07(6.7 L)を始めとした大型トラック用エンジンで,EGRを使用せず尿素SCRのみでNOx低減を行い燃費を約10%改善した.IVECOでも同様にTECTORシリーズとCURSERシリーズにおいてNOx低減を尿素SCRのみとして低燃費化した.MANはD0834(4.6 L)とD0836(6.9 L)を改良して燃費を約5%改善した.CUMMINSはISX12(11.9 L)とISL9(8.9 L)を改良してGHG規制に対応した.新型エンジンとしては,FREIGHTLINERは2段過給と単段過給の両方のターボシステムを設定したDD5(5.1 L)とDD8(7.7 L)を発表した.
2017年の国内二輪車生産台数は,小型二輪車,軽二輪車,原付一種,原付二種の各クラスで前年を上回り,全体では2016年比15.4%増の約64.7万台で,2年連続の増加となった.日本二輪車メーカー4社(以下,ホンダ,ヤマハ,カワサキ,スズキと表記)が2017年に発売した新エンジンについて間単に紹介する.
ホンダは,新開発の1 833 cm3・水冷・4サイクル・SOHC・4バルブ・水平対向6気筒エンジンを搭載したモデルを発売した.ユニカムバルブトレインの採用,ISG採用によるスタータモータと付随する補機類の廃止などにより,エンジン単体で従来よりも約6.2 kgの軽量化を実現した.またピストンスカートへのモリブデンコーティングによるフリクション低減なども同時に実施し,60 km/h定地燃費値で7 km/L向上させ,燃料タンク容量を4 L減らしたにも関わらず,従来同等の航続距離を確保した.
ヤマハは,新設計の155 cm3・空冷・4サイクル・SOHC・4バルブ・単気筒エンジンを搭載したモデルを発売した.従来よりも最高出力回転速度を1 500 rpm引き上げることで,エンジン出力性能の向上を図るとともに,可変バルブ機構のVVA採用により低速走行時の扱いやすさと高出力の両面の向上を可能としている.フリクション低減や燃焼改善も実施し,従来モデルに対し低速トルクは全域向上,最高出力は18.3%向上し,燃費においては4.7%の改善を達成した.
カワサキは,新設計の399 cm3・水冷・4サイクル・DOHC・4バルブ・並列2気筒エンジンを搭載したモデルを発売した.エンジンのコンパクト化により,従来649 cm3モデルと共通化されていた基本構成を,同時に新設計された248 cm3モデルとの共通化に変更し,車両全体で44 kgの軽量化を実現した.
スズキは,新設計の124 cm3・水冷・4サイクル・DOHC・4バルブ・単気筒エンジンを搭載したモデルを発売した.レースの解析技術を用いた燃焼室の最適化や,吸気効率の向上,燃料噴射の最適化などにより,最高出力11 kW/10 000 rpm,最大トルク11 N・m/8 000 rpmの出力性能と60 km/h定地燃費値で48.2 km/Lの燃費性能を両立した.
主要市場であるアメリカでの2017年の船外機出荷台数はNMMA(アメリカマリン工業会)によると28.3万台であった.リーマンショック後は経済回復と共に回復し,2015年は24.8万台,2016年は26.4万台と近年は年5%以上の伸びを示している.
一方,2010年から始まったEPA(米国環境保護庁)の排ガス規制強化に同調し,カナダ,日本(自主規制),ヨーロッパ,オーストラリアでも排ガス規制強化の法規が発効された.各国の排ガス規制に対応すべく,各社は電子制御燃料噴射システムなどにより環境性能を向上させたモデルを投入している.
以下に,2017年に発売した各社の船外機新モデルを紹介する.ヤマハは軽量・コンパクト設計を徹底した低燃費の新モデルF90Cを発売.ホンダはエンジンのメンテナンス性を向上し外観に躍動感と力強さを表現したBF50を発売.スズキは2重反転プロペラを採用し加速,安定性を向上した新モデルDF350Aを発売した.
日本陸用内燃機関協会の統計によると2017年の汎用の国内ガソリンエンジンの生産は,216万台前年比92%,金額ベースで550億円前年比87.1%である.ディーゼルエンジンは154万台前年比123.3%,金額ベースで445億円前年比113.9%である.ガスエンジンは,9.9万台で前年比108.4%で,金額ベースでも13.5億円104.3%で増加している.国内生産台数は2016年は縮小基調であったが,2017年は拡大する傾向がうかがえる.海外工場での汎用機関の生産は,ガソリンエンジンは1 028万台前年比103.7%出力ベースで4 189万馬力,前年比108.2%,ディーゼルエンジンは,43万台前年比99.1%であるが,出力ベースでは1 259万馬力で前年比114.1%であるので,高出力化していると考えられる.海外生産台数も2016年は減少基調であったが,2017年は拡大傾向にあった.
国内の大気汚染防止法の定置用ディーゼル,ガソリンとガスエンジンのNOx規制値は比較的厳しくなく,唯一GHP(ガスエンジンヒートポンプ,小規模低NOx機器)用ガスエンジンの推奨ガイドラインが12モードで100 ppm以下と低い.推奨ガイドラインに適合した機器は,環境省適合ラベルを表示することが出来る.地方自治体の条例による排気ガス規制が厳しいので,定置用エンジンはガスエンジンしか生産されていない.小形汎用ガソリン19 kW以下では,陸用内燃機関協会の自主規制が行われ,2014年からさらに厳しい規制が行われている.さらに小形汎用火花点火エンジン排出ガス自主規制(3次)の改正が行われた.非携帯用エンジンクラスIの排気量80 ccを超えて140 cc未満のエンジンに対するHC+NOxの当初基準値(13.1 g/kW・h)の適用期限を2019年12月31日までとなる.当該クラスのHC+NOxの基準値は2020年1月1日より10.0 g/kW・hとなる予定である.
排気ガス総量の傾向は,ディーゼルエンジンの8–19 kWの1台当たりの排出量が減少したため,ディーゼルエンジンからの排出量が減少したが,ガソリンエンジンの台数が増加したので,全体の排出量は,(NM)HC+NOxが2 337トン/年(前年比104.4%),COが19 551トン/年(前年比105.8%)で増大した.ちなみにCO2の総排出量は119 121トン/年(前年比99.7%)でやや減少した.
移動用2気筒小型ディーゼルが開発された.機械式噴射ポンプと予燃焼室のパスを改善し,低エミッションと高効率を達成した.ピストンライナーのコーティングを工夫し,フリクションロスの低減を図った.汎用ガソリンエンジンの吸気系にサイクロンを設けて,コンタミネーションの除去とメンテナンスインターバルの長期化,コンパクト化を行った.LPGボンベを使用する小型発電機用LPGガスエンジンが改良されている.特にアジア地域での販売が増加している.コストダウンと小型化のためゼロガバナーをエンジンカバー内に収納した.また,チョークを省き,始動を簡単にした.ドローン用小型ガソリンエンジンでは,長時間の飛行を目指してシリーズハイブリットの通常対抗ピストンエンジンが試作された.通常対抗ピストンは2サイクルであるが,4サイクル対抗ピストンエンジンが試作された.一方これまで,小型リーンバーンガスエンジンが主流であったマイクロコージェネでも,ストイキ三元触媒を用いて,高出力と低エミッションを両立したエンジンが販売されている.
建設機械用機関の排気ガス規制について,日米欧では2014年から第四次排出ガス規制が米国(U.S. EPA Tier4)および欧州(EU StageIV)で実施され,国内でも平成26年規制が特殊自動車(オンロード特殊自動車およびオフロード特定特殊自動車)を対象として実施されている.更に欧州では2019年よりEU StageVが実施される予定で,NOx規制値はStageIVと同様であるが,PM規制値が低減されるとともにPN規制が導入される.
日米欧以外の地域でも排出ガス規制強化の動きが加速されている.カナダ,韓国,オーストラリアではすでに第四次規制が導入されているが,トルコ,インドも2019年~2020年頃の導入が予定されている.また中国では,現在中国四次規制の検討が進められているが,規制のレベルはEU StageIIIbに加えてPN規制の追加が検討されている.規制内容および実施時期についての正式公布は2018年の中頃の予定である.
建設機械用機関の技術動向として,日米欧の四次規制対応については,56 kWから560 kW出力のレンジではEGR+DPF+SCR,56 kW未満の出力レンジではEGR+DPFを採用している機関が多い.ただし一部の機関ではDPFの代わりにDOCでPM規制に対応している.一方EU StageV対応では,PN規制に対応するためにこれまでDOCで対応していた機関についても新たにDPFを装着する必要がある.ただし56 kWから560 kWの出力レンジでは,一部ではStage VからDPFを追加した代わりにEGRを廃止してDPF+SCRで対応する機関もみられる.また排気ガス対策と並行して,建設機械の性能向上や燃費低減が強く求められており,超高圧コモンレール燃料噴射システムや2段過給を採用した機関も量産化されている.
鉄道車両用機関については,ハイブリッドシステムの営業運転が開始されて以降,更なる開発の促進と共にハイブリッド車両の営業エリアが拡大している.また国鉄時代に製作した一般気動車の老朽取替用として,新型一般気動車の新製が計画されている.
JR北海道では,JR東日本との仕様を合わせた電気式気動車として,車両および機関を一新させてH31年以降量産される予定である.またJR貨物でも電気式機関車の走行試験を実施している.
舶用ディーゼル主機関を生産している国内主要ディーゼルエンジンメーカー10社の2017年1月~12月の生産実績は,703台,747万馬力であった.2016年の804台,750万馬力より台数は減ったものの,生産馬力では同水準となった.また,2017年末の手持ち工事量は10社合計で628台,883万馬力で2016年末の770台,1 120万馬力から減少となった.台数当たりの生産馬力が増えた背景としては,バルカー市況の低迷により,タンカーやコンテナ船の建造割合が増え,製造される主機が大型化したことが一因として挙げられる.三井造船では,大型コンテナ船シリーズ向けに世界最大クラスの大型機関を連続建造し,生産馬力を伸ばした.
2016年は記録的な低迷となった新造船マーケットであったが,2017年には緩やかではあるものの回復の兆候が見られ始めた.NOx三次規制船の商談は大幅にずれ込んでいたが,市況の回復とともに徐々に新たな商談も始まり,日立造船からは,NOx低減技術として国内造船所向けとしては初となるSCR(選択的触媒還元)を採用した三次規制船向け主機を受注したとの発表があった.三井造船からは,ライセンサーであるMAN Diesel&Turbo社が開発したSCRを同社テストエンジンにて共同で検証試験を行い,認証を取得したとの発表があった.
一方,既存船も対象とした一般海域におけるSOx規制強化は2020年からの適用開始で決定しているが,高硫黄重油の使用を前提としたSOxスクラバーの採用は初期投資が大きいこともあり,新造船,レトロフィットともあまり進んでおらず,実質的に規制適合油による対応が大勢を占めることとなる.これに関連して,規制適合油の供給能力や品質への危惧など,世界中で様々な議論が行われているが,なかなか定まった方向性は見えておらず,新造船の商談が進まない要因の一つにもなっている.しかしながら,一部の船社ではSOxスクラバーを積極採用する方針を打ち出しており,今後は比較的短期での投資回収を見込める中大型船を中心にSOxスクラバー(含むSOxスクラバーレディ仕様)の採用は増加していくと予想されている.
2017年の国内舶用機関業界の大きな話題として,低速ディーゼル舶用機関としては唯一の国内ブランドをもつ三菱重工舶用機械エンジンの舶用エンジン事業と神戸発動機が統合し,ジャパンエンジンとして新たに発足した.
低炭素社会に向けて,再生可能エネルギーの導入が進む中,海外では水素や水素キャリアへの関心が高まっている.我が国が世界に先駆けて水素社会を実現するために再生可能エネルギー・水素等戦略会議が12月に決定した水素基本戦略において,メタネーションやアンモニアについて取り上げられ,ガスタービンでのアンモニア燃料利用についても明記された[1].三菱日立パワーシステムズは,発電用大型ガスタービンの開発において水素混焼試験に取り組んでおり,水素燃焼用に新たに開発した燃焼器などにより,天然ガスに対し体積比で水素30%の混焼でも低NOxで安定的に燃焼する技術を開発している.これにより従来の天然ガス火力発電と比べて発電時のCO2排出量を10%低減できるようになる.川崎重工業と大林組は,水素を燃料とする1 MW級ガスタービン発電設備を用いた水素コジェネレーションシステムの実証プラントを神戸ポートアイランド地域に完成させ,運用を開始した[2].内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)で,取り組まれているガスタービンでのアンモニア燃料の利用技術の研究開発に発電用大型ガスタービンが加わり,50 kW級,2 MW級と併せて小規模から大規模までの研究開発体制ができた.再生可能エネルギー増大に伴う需給ギャップへの対応策として,機動性に優れる広負荷帯高効率ガスタービンについてNEDOの先導研究が進められた[3].
航空用のガスタービンでは,セラミック複合材の高温部材やアディティブマニュファクチャリング(AM)による金属部品の実用化が進められている.また航空エンジンの電動化について検討が深められている.ホンダジェットも好調で中国市場への進出の動きがあった.JAXAでは防衛省のF7エンジンを研究開発に利用する準備を進め,30年代の民間航空機エンジンの実用化を目指している.基板技術としては,GEは,燃焼噴射ノズルをAMにより製造することで設計を見直し,従来の加工技術では20点の部品で構成していたものを一体化して,コストダウンと25%の減量に成功した[4].今後,設計手法の改善とともに適用部品の拡大が見込まれる.
学術分野では,ASME Turbo Expoが例年通り開催され盛況であった一方で,Global Power and Propulsion Societyが設立され[5],質の良い論文を集めることを目指したJournalを発刊し,国際会議も開催しており,学術面での新たな動きとして注目される.
多種多様な熱源を利用できるスターリング機関は,温室効果ガス削減に有効であり,国内外で研究・開発,あるいは製品化されている.これらは,再生可能エネルギー,都市ガスや灯油などを熱源とする熱電供給システム,木質バイオマス燃焼発電,工業炉やごみ焼却炉と組み合わせた廃熱利用発電,家庭用ヒートポンプ,さらに一部の海中動力源(潜水艦)などを用途として応用化が進められている.アメリカおよびヨーロッパ諸国のメーカは,これまでに蓄積してきた技術を活用して,これらに用いるスターリング機関の商品化を進めている.国内では,2014年11月に電気事業法に関連した省令が改正され,発電出力10 kW未満のスターリングエンジン発電設備の設置が容易になった.そのため,木質バイオマスボイラとスターリング機関を組み合わせた給湯・冷暖房・発電設備の開発や太陽熱発電などの研究・開発が各方面で行われており,例えば,太陽熱発電並びに廃熱利用発電を主な用途としたスターリング機関については,一部のメーカによって出力数kW~数十kWの機器を受注生産できる体制となっている.また,海外におけるバイオマスエネルギーを利用したポータブル電源システムとしてフィージビリティスタディーも進められている.学術・研究機関においては,再生可能エネルギーの有効利用やシステムの省エネ化の観点から研究が継続的に行われており,さらに,熱音響機器を用いた排熱利用発電,冷凍機技術,要素技術などに関連した研究・開発が活発に進められている.
日本が有する先進の水素エネルギー技術を2020年オリンピック・パラリンピック競技東京大会で世界に発信することで水素社会実現の契機にするとともに国内産業の振興を狙う方針により,燃料電池自動車などの水素利用システムの普及のための活動が各方面で進められている.
東京都では,2020年までに100台以上の燃料電池バスの導入を目指す計画であり,2015年に燃料電池バスの走行実証実験を開始し,2017年3月には乗車定員77名の燃料電池バス2台を使用して路線バスでの営業運行を開始しているが,2018年3月より新たに量産型の燃料電池バスを3台導入した.この量産型燃料電池バスはトヨタ自動車が開発したものであり,燃料電池バスとして国内で初めて型式認証を取得している.車両サイズは10 525×2 490×3 350 mmで,定員は79名である.車両には総容積600 Lの70 MPa高圧水素タンクと合計出力228 kWの固体高分子型燃料電池スタックを搭載し,ニッケル水素バッテリーを組み合わせて,最大出力113 kW,最大トルク335 N・mの交流同期モーターを2基駆動している.また,この燃料電池バスは外部給電システムを搭載しており,災害時などに最高出力9 kW,電力量235 kWhの供給が可能である.
乗用車については,2014年12月にトヨタ自動車から,2016年3月に本田技研工業から,固体高分子型燃料電池を搭載した自動車が発売され,2016年8月には日産自動車からエタノールの改質による水素を燃料とする固体酸化物型燃料電池を搭載した自動車のプロトタイプが発表され現在に至っている.トヨタ自動車と本田技研工業の燃料電池自動車が搭載する燃料電池スタックの体積出力密度は約3.1 kW/Lであり,ガソリンエンジンの出力密度に匹敵するレベルに達している.70 MPaの高圧水素を122.4 Lまたは141 Lのタンクに充填することでバッテリー電気自動車を十分に超える航続距離を実現しており,水素ステーションの整備が進めば従来のガソリンエンジン乗用車と同様の使い方が可能となると考えられる.
二輪車では,スズキが2016年8月にスクーター型の燃料電池二輪車の型式認定を受け,2017年3月に18台の車両のナンバーを取得し,公道走行を開始している.この燃料電池スクーターは,排気量200 ccのガソリンエンジンスクーターの車体を基に開発されたものであり,最大発電出力3.5 kWの固体高分子型燃料電池スタックと2.4 V/2.9 Ahのリチウムイオンバッテリーが搭載されており,最大出力4.5 kW,最大トルク23 N・mのモーターを駆動する.10 Lの70 MPa高圧水素を搭載し,一回の燃料充填により60 km/h定地走行条件で120 kmの走行が可能ということである.
フォークリフトでは,従来から実証実験が行われてきたが,2016年11月に豊田自動織機から2.5トン積の燃料電池フォークリフトが市販され,またニチユ三菱重工業が開発した燃料電池フォークリフトの試作車が2016年9月に発表された.何れの燃料電池フォークリフトも固体高分子型燃料電池を搭載しており,水素の充填圧力は35 MPaである.燃料電池フォークリフトには,充電時間の長い従来の鉛バッテリーフォークリフトに比べて連続稼働が容易で作業効率が向上するという利点があり普及が期待される.
船舶では,国土交通省が燃料電池船実用化の促進を目的として水素燃料電池船の安全ガイドラインの策定に取り組んでおり,ヤンマーが開発した発電出力5 kWの固体高分子型燃料電池システムを搭載した小型船舶による実船試験が2017年3月より開始されている.また,東京都は2020年のオリンピック・パラリンピック競技東京大会に合わせて国内初の燃料電池船商業運航を目指している.
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