ロボティクス・メカトロニクスは,ものづくり,生活分野,サービス分野から,土木建築,インフラ点検,災害対応,農業などの屋外作業,海洋,宇宙,さらには医療福祉,マイクロナノ,バイオなど,きわめて幅広い領域に広がり,実用化が広がりつつある.少子高齢化,労働力不足,安全などの社会問題を解決するために,社会的な期待はきわめて高い.2015年5月には,官民あげてロボット革命イニシアティブ協議会が設立され,具体的なアクションを起こすために活動している.18・2節では,そのロボットイノベーションWGの三つの研究会(ロボットプラットフォーム研究会,安全認証・実証研究会,および社会実装研究会)の活動を紹介し,18・3節では2018年に開催されるWorld Robot Summit(WRS)プレ大会を紹介する.
18・4~18・8節では,インフラ点検・災害対応,ものづくり分野,医療ロボット,ドローンの動向を紹介するとともに,バイオ分野への応用が見込まれているマイクロ・ナノについて紹介する.18・9節では,深層学習や強化学習によりけん引されるAIを取り入れたロボティクスの動向を紹介する.
本部門の最も大きなイベントである部門講演会ROBOMECHは,「再生と飛躍を導くロボティクス・メカトロニクス」をテーマとして,2017年は福島県で開催された.発表件数は1 275件,参加者は1 853名ときわめて大規模であった.18・10節では,その注目技術を紹介する.一方,部門ロードマップ委員会では「アシスト技術」,「建設ロボット」,「ドローン」,「i-Construction」を対象に調査を進めた.18・11節では,その調査概略を紹介する.
ロボット革命イニシアティブ協議会[1]は,2015年2月のロボット新戦略[2]に掲げられたロボット革命を推進するために,官民あげて2015年5月に設立された組織である.次の3つのWGにより構成されている.1)IoTによる製造ビジネス変革を扱うWG1,2)ロボット利活用推進を扱うWG2,3)ロボットイノベーションを扱うWG3.
このうち筆者が主査を務めるWG3は,ロボットによる社会変革を検討するWGであり,2016年度と2017年度においては,以下の3サブワーキンググループ(SWG)で検討がなされ,政策へ反映された.1)プラットフォームロボットサブワーキンググループ(SWG1)では,ユーザが求めるロボットをいち早く提供できる「Easy to use」なロボットの実現のために有効な手段となるロボットプラットフォームの議論をし,報告書にまとめられた(2015年度).その結果は,NEDOプロジェクト(ロボット活用型市場化適用技術開発プロジェクト)において事業化された(2016年度~).2)ロボット活用に係る安全基準・ルールサブワーキンググループ(SWG2)においては,ロボットの社会実装プロセスにおける安全基準の適用やルールに関して,ステークホルダ毎の責務を整理したガイドラインや報告書を公表し(2015年度),「ロボット導入実証事業「日常空間におけるロボット活用」の採択事業者に対し適用し,事業終了後に実施者責務の項目等に関しフォローアップ調査が実施された(2016年度).一方,3)ロボットオリンピック(仮称)サブワーキンググループ(SWG3)【後のロボット国際競技大会 サブワーキンググループに改称】においては,プレ大会を2018年に,本大会を2020年に開催することを前提に,大会を技術飛躍加速力,社会実装加速力,国際性,社会訴求力・発信力,継続性,人材育成性を備えた競技や展示を基本とする競演会とする報告書が作成された(2015年度).その後,これを実体化する実行委員会にて大会の名称(ワールドロボットサミット),ロゴ,各競技種目の概要や,プラットフォームロボット(HSRやPepper),資金管理団体が決定され,複数の学会や競技会で宣伝した(2016年度).
2017年度は,ロボットイノベーションWG(WG3)においては,3つの研究会(ロボットプラットフォーム研究会,安全認証・実証研究会,および社会実装研究会)に分かれてその議論を深め,2018年度の取り組みとして,ロボットプラットフォーム研究会のもとに,それをさらに具体化する調査評価委員会を設置することを決定した.
一方,World Robot Summit(WRS)に関しては,関連委員会(実行委員会及び実行委員会諮問会議等)を通じ,その開催の詳細化を検討した[3].特に競技に関しては,2018年開催へ向け,各々の競技委員会を中心に,ものづくり(優勝賞金1 500万円),サービス(同1 000),インフラ災害対応(1 000)および,ジュニア人材育成に関して,ルール作成や参加チーム募集などを行うとともに,それへ向けた2017年度のトライアルが実施された(詳細は18・3を参照).
さらに,ロボットイノベーションを先導する研究開発に関して,新規プロジェクト等企画立案検討会が設置・開催され,新規プロジェクトの調査研究がなされその結果がとりまとめられた.
国内外のものづくり分野では,労働者不足や労働力のコストアップが進む中,昨今の変種変量生産の要求に応えられる生産システムの実現が求められている.特にコスト制約の厳しい中小企業にとっては,システムインテグレーションに大きなコストがかかるロボットを導入することは簡単なことではなく,低コストでのシステム構築・変更が可能なロボットが求められている.
以上の背景を踏まえ,WRSものづくりカテゴリーでは,ロボットが行う作業の中でもとりわけ難しい「組立作業」を対象とし,``Toward agile one-off manufacturing”を目標に掲げて,与えられた製品情報からすぐさま動作手順を自動生成し,柔軟部品を含む様々な部品の認識,把持,組立ができるロボットシステム,究極的には教示レス,冶具レスで段取り替えを素早く行って,たとえ一品物であっても効率的に組立が可能なロボットシステムを目指し,「製品組立チャレンジ」という競技でその性能を競うこととした.なお,この目標設定に際しては,EUの研究プロジェクトHorizon 2020のロードマップ[1]や米国の情報関連のコンソーシアムによる次世代ロボット白書[2]を参考にした.また,ものづくり競技委員会では,参加チームと目標を共有できるように,自動運転のレベル表に倣って次世代生産システムのレベル表も作成した.(表1)
WRS 2018の製品組立チャレンジでは,2017年のトライアルタスク(IROS 2017の2nd Robotic Grasping and Manipulation Competitionの中で実施[3])の対象製品であったギヤユニットよりもさらに複雑なモデル製品として,ベルトドライブユニットを組み立てる.「迅速な一品ものづくり」を目指すため,事前に告知した製品の組み立てだけでなく,部品の一部を競技の直前になって初めて開示する「サプライズパーツ」に置き換えた製品も組み立てることが求められる.またベルトドライブユニット組立競技に先立って,組立に必要な要素作業の能力を評価する「タスクボード」と組立作業の前に必要なタスクである「キッティング」も行う.各タスクの詳細は競技会のホームページ[4]を参照されたい.
インフラ・災害対応カテゴリー(Disaster Robotics Category)はWorld Robot Summitの4つの競技カテゴリーのうちの1つであり,2018年10月17~21日にプレ大会が東京ビッグサイトで,2020年10月および8月に本大会が愛知県と福島ロボットテストフィールドにて,現場環境のモックアップを設置して開催される予定である[1].ロボット関連技術を高めて現実的なソリューションの種を育てること,社会実装に必要な社会的コンセンサスを慣用すること,社会問題を解決するための手段を育て,社会実装していくこと,各国政府の関与によってロボットの導入障壁を世界的規模で下げること,を目指している.
インフラ・災害対応カテゴリーは次の3つの競技で構成される.
1)プラント災害予防チャレンジ(Plant Disaster Prevention Challenge): 配管・タンク・ポンプなどで構成されるプラントのモックアップの中で,ロボットが日常点検/設備調整,異常検知,設備診断,災害対応を行う.
2)トンネル事故災害対応・復旧チャレンジ(Tunnel Disaster Response and Recovery Challenge): トンネル事故災害のモックアップの中で,災害対応復旧に必要な,ロボットによる障害の走破,車両調査,道具を使用した車両内の調査と救助,経路の確保,消火作業,ショアリング・ブリーチングを行う.2018年はChoreonoid上の仮想環境におけるシミュレーション競技であり,プラットフォームとして双腕型建設ロボットや4脚ロボットWAREC-1が用意されている.
3)災害対応標準性能評価チャレンジ(Standard Disaster Robotics Challenge): 標準性能評価法(Standard Test Method)によりロボットの要素性能を競う.NISTとの協力でプラント等を対象とした新しい標準性能評価法が開発されている.
World Robot Summit(以下,WRS)は,人間とロボットが共生し協働する世界の実現を念頭に,世界のロボットの叡智を集めて開催する競演会である.サービスカテゴリーの競技でも「人とロボットの協働」が重要なテーマになっており,家庭や店舗などの生活空間で必要とされる,人とロボットが助け合い,補い合うロボット技術を競う.ここで,「協働」とは「人とロボットが作業を助け合って行う」ことであり,人とロボットがそれぞれ役割を分担し,それぞれの得意な作業を行うことによってトータルとしてのサービスを向上させるという思いが込められている.2018年10月に開催されるWRSプレ大会のサービスカテゴリーでは以下の三種目が実施される.
家庭でのサービスを実機ロボットで競うパートナーロボットチャレンジ(リアルスペース)[1]では高齢者などの生活をロボットが助けることを想定し,「指定したモノをロボットが取ってくる」,「部屋をロボットが片付ける」タスクを実施する.全ての参加チームは同一の機種(トヨタ自動車の「HSR」)を使用する.ハードウェアは各チーム同一なので,主にソフトウェア技術で競うことになる.
同じく家庭でのサービスを仮想空間において競うパートナーロボットチャレンジ(バーチャルスペース)では全てのタスクを,社会的知能発生学シミュレータ(SIGVerseTM)上で動作するロボットを使用する.ヘッドマウントディスプレイやモーションキャプチャーなどの仮想空間ツールを装着した人間のアバターとロボットが仮想空間内でコミュニケーションすることで,従来には無かったロボット技術の革新を目指す競技である.
店舗におけるサービスを競うフューチャーコンビニエンスストアチャレンジ[2]はロボット技術によって従業員の負担を軽減し,顧客に対して新たなサービスを提供する未来のコンビニエンスストア(コンビニ)を実現することを目的とした,世界初の競技である.コンビニ店舗には様々な業務があるが,その中にある自動化のニーズを解決するためにアイディア,ロボットやソフトウェアの開発までの全般を競う.
日本は,地震,津波,台風,火山爆発など,自然災害が多い.また,2011年に発生した新潟県八箇峠道路トンネルのガス爆発事故に代表されるように,建設現場での事故などの人工災害も後を絶たない.2012年に発生した笹子トンネルの崩落事故は,劣化などの老朽化が原因で生じており,橋梁,トンネル,ダムなどの社会インフラの老朽化への対応が課題となっている.また,腐食などの老朽化が原因で発生するコンビナート事故が急増しているという報告もあり[1],設備事故への対応も喫緊の課題である.
このように自然災害や人工災害の脅威の増大にともない,それらに対する備えがますます重要となっているなか,インフラ点検や災害対応においては,人が行うことが困難,不可能,あるいは危険な作業や環境が多数存在し,人でできることには限界があるため,ロボット技術の活用が求められている.また,ロボットの導入によるコストの削減,工期の短縮も大いに期待されている.
日本政府は,ロボット新戦略[2]の中で,2020年の目指すべき姿として,下記の目標を掲げており,これらの分野でのロボット技術の利活用を推進している.
○国内の重要・老朽化インフラの20%をセンサー,ロボット,非破壊検査技術等の活用により点検・補修を高効率化
○土砂崩落や火山等の過酷な災害現場においても有人施工と比べ遜色ない施工効率を実現
インフラ点検に関しては,NEDOインフラ維持管理・更新等の社会課題対応システム開発プロジェクト(2014~2017年度),戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)インフラ維持管理・更新・マネジメント技術(2014~2018年度)などで,橋梁,トンネル,水中などのインフラ点検用ロボット技術の開発が行われており,飛行型・水上型・水中型などの様々なタイプのロボット技術が開発されている.また,国交省次世代社会インフラ用ロボット現場検証(2014~2015年度)で,ロボットなどの現場での実証試験・評価も行われている[3].
災害対応に関しても,1991年に発生した雲仙普賢岳噴火災害を契機として,無人化施工技術の開発・導入が進められてきており,上記NEDOプロ,SIPプロ,国交省現場実証でも,災害調査や応急普及などのための飛行型ロボットや半水中重運搬ロボット車両などの開発が行われている.なお,1995年に発生した阪神淡路大震災後,大都市大震災軽減化特別プロジェクト(2002年度~2006年度),NEDO戦略的先端ロボット要素技術開発プロジェクト(2006年度~2010年度)などで,様々な情報収集を行う災害対応ロボットの研究開発が行われ,現在では,革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)タフロボティクス・チャレンジにおいても,災害現場で活用可能なタフなロボット技術開発が進められている.
原子力災害対応に関しては,1999年に生じた東海村JCO臨界事故後,経産省原子力防災支援システム[4]や科学技術庁(日本原子力研究所)情報遠隔収集ロボット(2000~2001年)[5, 6]などで原子力防災用ロボットの開発が行われたが,その成果は2011年に発生した東京電力福島第一原子力発電所(1F)事故で活用できなかった[7].しかし,1Fの廃炉に関しては,ロボット技術をベースとした遠隔技術の活用が必須となっている.すでに,注水,瓦礫や汚染水の除去・搬送,建屋や様々な容器内の調査,サンプリング,除染,遮蔽などにおいて,多くのロボット技術が開発,活用されているが[8],今後の廃止措置においても,さらなる調査・サンプリング,止水,燃料デブリの取り出しなどで,さらなるロボット技術が必要とされている.
インフラ点検・災害対応ロボットの社会実装を推進するために,楢葉遠隔技術開発センター(日本原子力研究開発機構)や福島ロボットテストフィールドなど,モックアップや模擬環境を有する実証試験/性能評価拠点の整備・利活用も進められている.これらは,福島イノベーションコースト構想[9]の一環として整備されつつある拠点と位置付けられている.
ものづくり分野に限らず,IoT(Internet of Things)の発展によりさまざまなものを情報でつなげることで新しい価値を生み出そうという概念が一般化してきている.2011年にドイツから発信されたIndustrie 4.0や米国GEからのIndustrial Internetの概念に対抗して,日本では第5期科学技術基本計画において我が国が目指すべき未来社会の姿としてSociety5.0が提唱された[1].この概念の具体的な考え方として,2017年3月にConnected Industriesの概念が提唱された[2].これは,これまで事業所・工場での技術・技能の電子データ化が進んでいるもののそれぞれがバラバラで管理されていることから有効に活用されていない現状を打破するため,データの標準化を横断的に進めることで,技術革新や生産性向上につなげていくものである.対象とする5分野にものづくり・ロボティクスが取り上げられている.この中では,データ利活用・流通を促進するためにデータの種類を「オープンデータ:部品仕様等」,「ディスクローズデータ:部品検査データ等」,「クローズデータ:製造レシピ等」と定義し,管理するものと流通させるものを区分けている.これらの情報をつかうプラットフォーム構築の動きが顕在化してきており,生産加工機や周辺のロボットなどがつながるシステムが構築され,様々なサービス構築が試されている.これからのものづくりでは,このような情報の利活用を前提とするシステムに変化していくものと思われる.
産業用ロボットの稼働状況は,国際ロボット連盟(IFR)[3]によると,世界の工場で稼働するロボットの台数が,2020年までに300万台に達しする予想で,170万台もの新たな需要が見込まれると発表している.2016年の販売台数では,中国が87 000台を販売している状況である.日本は第3位で38 600台と過去最高を記録している.一方,日本ロボット工業会[4]によるマニピュレータ・ロボット出荷台数は23万台強で前年比32.9%増と好調な状況である.反面,このところは主要部品の供給不足が課題となって,需要に対する生産能力の不足が問題となっている.輸出比率が高くなってきており,中国での工場の自動化に使われている.
ISO10218産業用ロボットの安全規格の改正により,人協働ロボットによる様々なアプリケーションが提供されつつある[6, 7].国際ロボット展2017 [5]では,人協働に対応した様々なロボットが発表され,今後本格的に活用されていくものと思われる.人協働ロボットに対する安全の考え方とカテゴリなどの研究[8]も進められており,Connected Industriesで提唱されているものづくりの中核をなす機器になると考えられる.
2015年に決定された「ロボット新戦略」に基づきロボットの利活用を促進するため,ロボット導入実証事業が2016年から3年間にわたり取り組まれて,ものづくり分野においてもこれまで導入できなかった作業への適用事例が多数開発された[9].少量多品種工程におけるマテハンから,加工・加工の補助作業,組立作業などへの適用を実現している.この事業においては導入効果(経済性,生産性など)も評価しており,熟練作業,過酷作業等の自動化が促進されるものと思われる.特に,これまであまり導入されていなかった中小企業に対して,作業に対する周辺機器の開発,画像センサなどのシステムインテグレーションといった導入事例が多く,ロボット・自動化のすそ野が広がっていくものと思われる.
厚生労働省の平成30年1月の介護保険事業状況報告(暫定)[1]によると,要介護(要支援)認定者数は640万人を超えており,増加の一途をたどっている.また,高齢化も深刻な社会問題である.そのため,診断から治療や手術を経てリハビリテーションに至るまで一貫した統合システムとしてのロボットの活用,手術室や周辺医療機器とロボットとの統合,および障がい者や高齢者等の身体弱者の日常生活を支援するためのロボットの活用が進められている.医療ロボットにおいては手術支援ロボットやリハビリテーションロボット等が既に実用化されている.米国Intuitive Surgical社の手術支援ロボットdaVinci Surgical Systemは2017年末の時点で4 400台以上が世界中の臨床現場で使用されており[2],日本においても泌尿器,消化器,婦人科,胸部外科の臨床現場で用いられている.リハビリテーションロボットはHocoma社の下肢リハビリテーションロボットLokomat [3]が有名である.
手術支援ロボットの研究では,マスター・スレイブ方式の手術支援ロボットにおいて医師に手術操作の力覚をフィードバックするための研究が以前から行われており,力フィードバックの機能を備えた手術支援ロボットが実用化されつつある.また,正確な穿刺を支援する穿刺ロボットの研究[4]も進められている.これまでの穿刺の医療処置の効率を高めるだけでなく,人の手では誘導が難しい位置へ針先端を誘導することができるようになる可能性がある.さらには,自動縫合の研究[5]にも注目したい.
術前や術中のナビゲーションは重要であり,以前から行われているMRI環境下におけるロボット手術の研究[6]をはじめ,多くの研究が進められている[7].医師が手術のトレーニングを行うための手術シミュレータも重要であり,医療機器の研究開発等を促進するための人体モデル「バイオニックヒューマノイド」[8]等,患者ロボットの研究開発も進められている.また,リハビリテーションロボットの研究においても実用化を目指した研究が行われている[9].
一方,患者の診断においても超音波プローブを適切に操作できるように支援するような診断支援ロボットの研究開発も行われており,診断から手術に至るまでの統合システムとしての研究開発が進められている[10].
ロボットで障がい者や高齢者等の身体弱者の日常生活動作等を支援するためには,ロボット利用者–ロボット間のインターフェイスが重要となる.そのため,人の動作意思を推定する手法に関する研究が活発になっており,脳–機械インターフェイス(Brain-Machine Interface: BMI)の研究が盛んになっている[11, 12].
ロボティクス・メカトロニクス部門でも医療ロボット関連の研究は活発に行われており,ROBOMECH2017では医療・福祉システムのセッションにおいて120件の研究発表が行われた.
医工連携の進展に伴い,研究成果を製品化する流れが加速する傾向にあるが,2018年4月1日に臨床研究法が施行され[13],これまでの研究開発の流れに影響を及ぼす可能性がある.基本的には医師の臨床研究に関する法であるが,医療ロボットの研究にも影響を及ぼすことが考えられるため,注意が必要である.
現在のドローンの利活用やそれに付随する社会整備は2016年4月28日の「小型無人機に係る環境整備に向けた官民協議会」において策定された「小型無人機の利活用と技術開発のロードマップ」[1]に従って進められている.このロードマップでは,ドローンの飛行形態を目視内・外,有人・無人地帯によって飛行レベル1~4に分類している.2017年はレベル2・目視内自動飛行によるドローンの利活用が拡大する一方で,レベル3・目視外・無人地帯に向けた技術開発や環境整備が進められた年であった.
ドローンの利活用が期待される主たる産業分野として,物流,災害対応,インフラ維持管理,測量,農林水産業の5つが挙げられる.このうち,2017年現在において災害対応,測量,農林水産業については実現場へのドローンの導入が既に活発に行われている.
災害対応分野では,2017年7月5日から6日にかけて発生した九州北部豪雨災害においてドローンによる被害状況調査が実施された.この中で,革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)において開発された災害対応ドローン[2]や国土地理院のドローン[3]をはじめとした多くのドローンが現場に導入され,自動飛行により情報収集を行った.
測量分野では,公共測量や工事測量においてドローンが導入されている[4, 5].特に,建設現場においてはi-Constructionが推進される中でドローンによって撮影した航空写真と画像処理ソフトウェアを用いた現場の3Dモデル作成,切り土や盛り土の土量計算,工事の進捗管理などの業務が一般的におこなわれており,安定した市場を形成しつつある.
農林水産業では,従来から市場が確立していた無線操縦式の無人ヘリコプタによる農薬散布をドローンが代替する形で導入が進んでいる.2018年2月末段階で登録機体数は無人ヘリコプタ2 800機に対してドローンは700機程度であるが[6],無人ヘリコプタと比較して機体が小型で廉価であることや,自動飛行による農薬散布の可能性が注目され,ドローンへの期待は大きくなっている.また,鳥獣害対策[7],精密林業[8],漁場探索等にもドローンの導入が検討されている.
一方,インフラ維持管理および物流分野においてはドローンの本格導入に向けた様々な開発や実証実験が実施された.
インフラ維持管理では,SIP(戦略的イノベーション創造プログラム)の「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」等において従来から行われてきたインフラ構造物点検の実証試験が継続的に行われており,風外乱への対応などの課題が浮き彫りになる一方で,段階的に実現場への導入が始まっている[9].
物流分野へのドローンの導入には,今後のレベル3・目視外無人地帯,レベル4・目視外有人地帯の達成が必須であり,そこに向けた物流用ドローンポートの開発[10],長距離飛行実験,物資輸送実験などが実証特区において数多く実施された.
以上のことから,2017年はドローンの社会実装に向けたターニングポイントとなる年であったと言うことができる.
マイクロ・ナノ技術の進展は,センサ・アクチュエータの小型化・高分解能化に大きく貢献している.センサ応用としては,スマートフォンやヘッドマウントディスプレイ等に搭載し,ヒトの位置や動きが正確に計測できる小型高感度3軸ジャイロセンサと小型高感度3軸加速度センサが搭載されたセンサチップ(4.5 mm×3.5 mm)[1]が開発されている.これらのセンサは衛星から送られてくるGPS信号との併用で,車の自動運転における正確な自己位置同定に必要不可欠なセンサであり,今後も熾烈な開発競争が繰り広げられることが予想される.アクチュエータ応用としてはマイクロ流路内圧力障壁の強さの異なるキャピラリーバルブを配置し,受動的に液滴の動きを制御する方法も開発されている[2].
一方,マイクロ・ナノ技術とバイオ応用を組み合わせる研究も活発に進められている.細胞特性計測を意識した方向と,細胞選別を意識した方向がある.細胞特性計測を意識した研究としてはPZTアクチュエータと実時間高速ビジョンを用いてマイクロ流路内で細胞を能動的にマニピュレーションし,細胞の硬さや粘性といった機械インピーダンスを評価する研究が進められている.特に,狭窄部で細胞を一時的に変形保持することによって細胞の機械インピーダンスが時変パラメータになることが定量的に示されている[3].またPDMS製マイクロ流路の開ループ伝達特性も明らかになり,マイクロ流路内細胞マニピュレーション制御則構築に利用されるようになった[4].ただし細胞を狭窄部に押し込む際,不自然な変形を避けるためには流路断面は矩形ではなく円形断面が望ましい.この点についてはマイクロ流路加工技術に対して新たなブレークスルーが期待される.細胞選別を意識した研究では,高速スループットが求められる.そのためには駆動アクチュエータ系の周波数特性を上げる必要がある.チューブを介さずにPZTアクチュエータを直接PDMSチップ表面に接触させることで1 MHzのスループットを実現したという報告がある[5].さらに巨核球から血小板を取り出すための3次元マイクロチップの設計指針が示され,実験的検証が行われている[6].またiPS細胞由来の心筋細胞の拍動運動時に発生する力をバネ定数既知の弾性部材の一端を固定し,弾性部材と固定壁の間に心筋細胞を設置し,PZTアクチュエータで弾性部材を動かすことによりμNオーダでの力計測が実現されている[7].このような力センサは将来的には人工筋肉の評価にも使われる可能性がある.またMicromachinesでは“Biomedical Microfluidic Devices”の特集号[8]が企画され,マイクロ・ナノ技術とバイオとの融合が強く意識されるようになったことも付記しておきたい.
深層学習や強化学習にけん引される第三次ブームと,AIとニューラルネットワーク分野は進化を続けており,ロボティクス分野では特にCV(Computer Vision)との融合が顕著である.例えば,画像からの剛体運動モデル化という基本的な課題に対して,Byravan and Foxは,生の点群データから剛体運動をモデル化して学習するように設計された深層ニューラルネットであるSE3-NETSを提案し,ロボットアームを用いてその有効性を示した[1].深層学習強化学習の基本問題としてまず,複雑な3次元操作タスクを行うようなロボットに必要な膨大な試行錯誤が,実際の物理ロボットでは困難であることが挙げられる.Guらは,非同期で強化学習を行う複数の実ロボットを用いて,学習アルゴリズムを並列化することで,トレーニング時間を短縮できることを示した[2].一方,VRシミュレーションを用いて実環境へのドメイン適応を行うアプローチも提案されている.例えば,Tobinらは,シミュレータに十分なバラツキがあれば,実際の世界は単なる別のバリエーション考えることができるとして,ドメインランダム化手法を提案し,実ロボットを用いた物体認識および把持実験によりその有効性を示した[3].
ところで,第二次ニューラルネットワークブームの立役者の一つである誤差逆伝搬法が提案された1986年には,後にサブサンプション・アーキテクチャ(SSA)としてロボティクスのみならず人工知能研究にも嵐を巻き起こすことになるコンセプトが,ブルックスによって提案された.ブルックスらはSSAを用いて,家庭用清掃ロボットという新規マーケットの開拓に成功し,その後Rethink Robotics社も設立し,ROSを採用した双腕ロボットBaxterを販売して,ヒト協働を目的とした知能ロボットのマーケットの開拓にも成功した.Baxterは,産業応用だけでなく,知能ロボット研究のプラットフォームとして幅広く活用されている[4].日本では,トヨタ自動車(株)が,やはりROSを採用した生活支援ロボットであるHSRの実用化に向け,「HSR開発コミュニティ」を2015年に発足させ,筆者の研究グループも含めて,国内外の多数の研究機関とオープンイノベーションを進めている.2017年のロボカップ@ホーム世界大会からは,標準機リーグの標準機として採用されていることは特筆に値する[5].
2017年5月10~13日,福島県郡山市でロボティクス・メカトロニクス部門主催のROBOMECH2017 in Fukushimaが開催された.本講演会はロボティクス・メカトロニクス分野の国内講演会としては最大規模を誇り,2017年の福島大会では1 274件の発表があった.本講演会は,全件ポスター形式で行われている.全体を総括すると,従来とは全く異なるエポックメイキング的な方向性の転換というものは特には無く,これまでの研究を更に深化発展させるという方向での発表が主であった.
発表講演数の多いセッションは表2のようになっている.これらの合計で476件の講演数になり,全体の約37%に上る.本講演会は全てオーガナイズト・セッションで構成されているので各セッションの講演数はオーガナイザの努力に依るところもあるが,全体的な傾向は掴むことができるのではないかと考えられる.(1)~(6)は応用フィールド別のセッションであり,単独では「(3)飛行ロボット・メカトロニクス」が46件と最多である.この中には,飛行メカニズムや制御法の開発,地図作成など広範な研究がおこなわれている.また,「(4)福祉ロボティクス・メカトロニクス」「(5)リハビリテーションロボティクス・メカトロニクス」「(12)ウェアラブルロボティクス」を合計すると100件を超え,人を指向した研究が多いことがわかる.これに「(11)感覚・運動・計測」「(13)人間機械協調」を加えると更に増える.人の機能の回復・増強・拡張などを目的としてロボティクス・メカトロニクス技術を応用しようとする研究や,人と機械・ロボットの相互作用や関係性,インタフェースに着目した研究が活発に行われている.これらの応用指向的な研究に対して,(7)~(9)のような移動・駆動機構やその動力源,(10)のようなセンサ・感覚といった,ロボティクス・メカトロニクスの基本要素技術に関する研究も引き続き活発である.これらの研究では,新しいアクチュエータやセンサの開発・提案も多数行われており,それらが切り開く新たな応用分野にも期待したい.
一方で,若手優秀講演フェロー賞など受賞講演の分野をみると,発表講演数の多寡とはほとんど相関は無く,広くさまざまなセッションに分散している.ただし,実機のデモンストレーションを行っている講演は評点が若干高くなる傾向は,数字で示すことは難しいものの感覚的には感じるところもある.これは,研究や提案内容を具体的に“目に見える形で実証”することを重視するロボティクス・メカトロニクス分野の特徴といえるかも知れない.
2015から2017年度のロードマップに関する調査では,ロボットやICT技術を含む情報化技術を社会活動(医療・福祉,実生活,サービス)や生産活動(建設作業や工事,搬送)の様々な場面で適用するための可能性,将来性について検討を実施した.社会活動では,人や社会に関わる要素技術として「アシスト(ハードとスキルの両面)技術」,「社会ロボティクス」を,生産活動では建設や搬送技術に関わる人手不足や生産性向上の応用技術として「建設ロボット」,「ドローン」,「i-Construction」を対象に調査を進めた.以下にその調査概略を示す.
「アシスト技術」は,医療・福祉における身体のリハビリ促進や介護を目指す医療アシスト,建設や農業分野で作業者が装着あるいは移乗して重作業や繰返し作業の軽減・効率化を目指す作業アシスト,製造業における作業スキル補助や高度な手術支援を目指すスキルアシストなどに分類される.医療アシストでは疾患者の手足のリハビリ,歩行支援,ベッドの起床・移乗アシスト,介護者の移し替えによる荷重軽減など多くの場面で必要とされ,今後は介護ロボットの開発や関連技術の普及が見込まれる[1].作業アシストでは苦渋作業軽減や少子高齢者化による労働者不足への対策,生産性の向上などを目的としてとして専門業者や大手ゼネコンが中心となって開発を進めている[2].将来はより高負荷のパワーローダ,アシストスーツへのニーズが求められる.スキルアシストでは誰もが標準レベルの作業を可能にする支援技術が求められ,部材の位置決めや重量物移動の軽減(力制御やバランサ),鋳造物の注湯制御アシスト,手震の抑制,他など,高度なスキルを維持する技術も必要となる.
「社会ロボティクス」は,これまで環境や空間の知能化,構造化技術などとして進められてきたが,今後はインターネットを介して社会そのものにロボット技術を浸透させ,一見ロボットには見えないが社会を支える高度な機能を持つロボットとして位置付け,新たなサービスを提供するツールとして期待できる.ITS(高度道路交通システム)システムによる交通安全支援や自動走行システム,建屋・施設内では施設内移動ロボットの高度化機能支援,家庭内ではホームロボット(クリーナロボット)やコミュニケーションロボット(癒し,見守りロボットなど),LAN端末によるセキュリティーサービス,健康モニタリングなどが今後も普及して行くと見込まれる.一方,このようなロボット技術を実社会に導入に対して,法律,安全性,倫理上の問題も考慮する必要がある.例えば,公道上のロボットの走行は道路運送車両法や道路交通法の制約を受け,生活支援ロボットなどは人に対する安全性を確保する必要もある.さらに介護・医療用のサービスロボットでは被験者あるいは被介護者・患者等の実証データがロボットの改良に不可欠であり,ロボット導入のリスクと利益を考慮した倫理原則が求められる.
「ドローン」は,コンピューター制御された無人航空機の総称で,姿勢制御や経路飛行だけでなく,外界を認識して障害物を回避する機能やGPSによる自己位置認識を基に正確な帰還性能を有している.活用範囲として,現状は「監視・空撮」の目的・利用が主であるが,今後は「搬送」への適用が期待されている[3].特に,災害救助の調査,山岳地帯や河川の測量や空撮,橋梁やトンネルのインフラ点検,農薬散布など精密農業,エネルギー施設や製造施設の点検,物流業における配達などが実用化を目指している.これには,より安定した性能(負荷重量,飛行時間,目視外飛行,操作性,安全性,他)を有するドローン開発が不可欠であり,国内外の多くの,関連省庁,開発機関で基礎研究,開発,実用化,法整備が見込まれる.2015年12月の航空法の改正により,200 g以上の無人飛翔体は産業用・ホビー用途の区別なく航空法の適用を受け,指定区域内での利用には許可が必要となった[4].
「i-Construction」では,近年,土木分野では生産性向上とグローバルな競争力を培うため,調査・測量,設計,施工,検査,維持管理・更新のあらゆる建設生産プロセスにICT技術を導入し,3次元データを一貫して使用する15の新基準を整備している[5].トップランナー施策の1つに「ICT土工」があり,ロボットが活躍する場面としては,①UAVや周囲監視装置を用いた空中写真から地形の3次元計測技術(UAVの制御,カメラなど撮影・検知技術を含む),②測量データの変換技術や公共測量の導入,③ICTを導入した建設機械(油圧ショベル,ホイルローダー,他)による施工技術(爪先位置の計測,車体の自律制御,土砂性状のセンシング技術を含む)④検査の省力化データ解析による出来高施工結果の管理システム技術等の開発,が求められている.i-Constructionは,現在進められているSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)「インフラ維持管理・更新・マネジメント技術」[6]の中で,トンネルや橋梁への点検システムへの展開が実施されており,その実用化が期待されている.
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