2015年の四輪車生産は928万台(前年比5.1%減)で,内訳は乗用車783万台,トラック131万台,バス14万台で,二輪車生産は52万台(同1.3%減)である.
2015年の新車輸出は乗用車397万台(同3.4%増)で生産に占める割合は50.7%で2014年より9.3%増加した.二輪車は42万台(同10.1%減)で生産に占める割合は80%で2014年より3.3%増加した.
2015年の日本メーカー車を含めた輸入車新規登録台数は32.9万台で,前年比2.1%減となった.
2016年1月末で,乗用車6 107万台,トラック1 466万台,バス23万台,原付を除く二輪車366万台になっている.
HEV(Hybrid Electric Vehicle)の低燃費化が進んだ.モータ・変速機構・パワー素子の損失低減に加え,燃焼速度向上による大量EGR化等のエンジンの熱効率向上がHEVの性能向上に繋がっている.また,オルタネータを補助駆動機とする,いわゆるマイルドハイブリッドの普及拡大や,大型路線バスのHEVシステムの改良により電気のみでの走行を可能にするシステムの導入等,軽自動車から大型車両までHEV技術の普及が加速した.
EV(Electric Vehicle)についてはバッテリ搭載量を拡大する傾向が見られ,キーデバイスであるリチウムイオン電池の低コスト化と普及のサイクルが回り出すことが期待される.一方,内燃機関についても,前述のHEV向けのエンジン技術や,ピストン頂部に多孔質膜をコーティングすることで燃焼時の冷却損失を低減する技術,ピストンに振動吸収部材を内蔵しディーゼルノック音を低減する技術等,環境性能や静粛性を向上させる技術革新がみられた.
安全技術では,国土交通省と(独)自動車事故対策機構により2014年から開始された予防安全性能アセスメントの後押しもあり,自動ブレーキや車線はみ出し警報を中心に誤発進抑制・後方死角検知等の安全支援機能をパッケージ化した製品の普及が加速した.また,アセスメントの対象にはなっていないが,歩行者を対象とした被害軽減ブレーキや,衝突後の二次被害を軽減するポストコリジョンブレーキ等,さらなる先進安全技術の普及が見られた.路車間・車車間通信を活用したシステムについても,760 MHz帯のITS専用周波数を活用したシステムが市場投入された.交差点での出会い頭事故の防止等,実安全への貢献には今後の普及が課題である.
EUに続き国内でもABS装着義務化の法改正が2015年1月に実施された.ABS装着義務化はインドや中国などでも予定されており世界的な潮流となっている.また排出ガス規制についても2015年7月の法改正によって強化され,騒音規制の見直しと同様に国際基準との整合が図られた.
タイやインドネシアなどのアセアン地域ではインターネットによるタクシー配車サービスがバイクタクシーにも展開されるようになり,また国内では携帯事業者が電動二輪車のレンタルとその運転状況を可視化するサービスを開始するなど,ネットワーク通信と連携したサービスが展開されはじめた.
近年,地球環境保全や衝突安全性向上のニーズがますます高くなってきており,自動車には,さらなる軽量化と高剛性・高強度の相反する性能の両立が求められている.
車体技術では,車体部品への高張力鋼板の採用が進められ,衝突安全に関わる構造骨格部品においては,ホットプレス工法も含めて980 MPa級以上の高張力鋼板の使用率が増加している.
エンジン技術では,材料の鉄からアルミへの置換が進んでおり,さらなる軽量化や高機能化に対応するために,より薄肉・複雑形状の製品が求められている.
一方生産ラインでは,既存のガソリン車とハイブリッド車の混流生産など,よりフレキシブルな生産体制が求められている.
近年益々議論の高まっている自動運転において,人工知能(AI)分野との関連性がより深まってきている.
人工知能(AI)は,人の振る舞いや認知,判断といった,運転にも密接に関わる領域で大量のデータを処理しつつ,人に寄り添うパートナーとなる目的で研究されてきているので,運転分野での研究加速,共創が見込まれる.
また,自動運転の段階によっては,人間(ドライバー)との協調が重要な課題であるため,機能,制御側(AI)と人間側(ドライバー)との仲立ちをどのように構築するか,といった研究も始まってきている.
本稿では,2015年1月から12月の1年間について,車両生産数,新幹線・在来線の状況,新形式車両・新規技術,海外展開,研究のとりくみを視点とし動向をまとめた.記載した内容は,既にホームページ・刊行物等[1, 2, 3, 4, 5, 6, 7]で公表されている内容を基に,機械工学者の観点も踏まえ注目すべき内容を精査し選定した.また,企業名は極力排除することとした.2015年1年間の鉄道技術動向という観点で閲覧いただければ幸いである.
国土交通省ホームページの鉄道車両等生産動態統計調査 月報[1]によると,2015年1月から12月の1年間の車両生産数は,総生産数1 750両(内新幹線車両は244両)であった.また,国内向け車両が1 592両,輸出向け車両は158両であった.2014年1年間の生産数は1 617両(内新幹線車両424両)であり,前年と比べ,新幹線車両の生産数は減少したが,国内向け,輸出向けはともに増加した.また,2015年12月末時点での受注残数は4 064両であり,2013年12月末および2014年12月末時点の受注残数2 851両と2 923両と比べて数が多いことから,2016年以降の生産数も例年以上になると推測される.
新幹線では北陸新幹線が従来の長野新幹線の東京~長野間を金沢まで延伸する形で整備が進められ,2015年3月14日のダイヤ改正に合わせ,東京~金沢間で最高速度260 km/hでの営業運転を開始した.同日,東海道新幹線では一部車両で最高速度を270 km/hから285 km/hに引上げて運転を開始した.また,山陽新幹線では,2014年10月の東海道新幹線開業50周年に続き,2015年3月に大阪~博多間全線開通40周年を迎えた.北海道新幹線は,新青森・新函館北斗間の営業運転開始に向け準備が着実に進められた(2016年3月開業).超電導リニアによる中央新幹線の整備に関しては,2027年の営業運転開始に向け,南アルプストンネルや品川駅の一部について工事契約が締結され建設が本格化した.また,2014年11月から開始された超電導リニア体験乗車は,2015年に計4回行われ,乗車人数は2万人を超えた.
在来線では,2015年3月14日に上野東京ラインが開業し,時間短縮や混雑緩和など利便性が向上した.5月30日には仙石線全線の運転再開に合わせて,東北本線塩釜−松島間と直通する接続線が新たに設けられ,仙台東北ラインとして開業した.また,仙台市営地下鉄では2006年に着工した東西線の準備が整い,2015年12月6日に鉄輪式のリニアモーター式車両により営業を開始した.山手線では,2015年度内に次世代通勤型車両E235系の量産先行車が導入されて運用を開始した.また,つくばエクスプレスと愛知県の東部丘陵線(磁気浮上式リニアモーターカー「Linimo」)が共に開業10周年を迎えた.
北陸新幹線の金沢延伸開業に伴いE7/W7系新幹線電車(図1)が開発・導入された.E7系(JR東日本編成)は,2014年に東京~長野間に先行投入され,W7系(JR西日本編成)は,金沢延伸開業と共に投入された.E7/W7系は12両編成(10M2T)5ユニットで構成される.北陸新幹線での営業最高速度は260 km/h(東北新幹線では275 km/hの走行性能)であり,電源周波数は50/60 Hzの二つの周波数に対応している.高崎~長野間の約30 kmに及ぶ連続勾配対策として,1ユニット開放条件でも30‰勾配起動や空気ブレーキのみで260 km/hから停止できる性能を有する.また,トンネル微気圧波や騒音やなどの環境性能,地震時の安全性,車内快適性や乗り心地において,従来のE2系やE5系車両をベースに性能向上・最適化が図られた.
東海道新幹線では,最新のN700A,およびブレーキ性能向上や車体傾斜区間拡大などのN700Aの一部機能を付加したN700系改造車により,1992年以来23年ぶりに最高速度が15 km/h引き上げられ,285 km/hでの営業運転が開始された.8月には,保有するN700系車両全ての改造が終了し,保有する車両の約8割がN700Aタイプとなり,安全性・安定性の向上が図られた.
北海道新幹線では開業に向けた整備が進められ,東北新幹線で使用されるE5系をベースとしたH5系車両が製作された.先頭部はE5系と同じ形状であるが,外観のカラーリングでは帯の色が変更されている.H5系は10両編成(8M2T)4ユニットで構成される.また,最高運転速度は320 km/h,上り3‰勾配での均衡速度は360 km/hで,電源周波数は50 Hzのみ対応している.北海道新幹線内の最高速度は260 km/hで,貨物列車との共用走行区間は140 km/h運転となる.2016年3月の開業に向け,性能確認等,各種準備が進められた.
リニア中央新幹線の建設と並行し,山梨実験線では超電導リニア技術のブラッシュアップと建設・運営・保守のコストダウンに向け,2013年から引き続き営業線仕様の車両と設備での走行試験が実施された.2015年4月に,L0系車両(図2)が1日の最長走行距離4 064 km,最高速度603 km/hの新記録をマークした(図3).
仙石線全線運転再開に合わせて開業した仙台東北ラインでは,通勤型のHB-E210系ディーゼルハイブリッド車両が新造投入された.このシステムは,リゾートハイブリッド車両HB-E300系などで既に実績があり,エンジンの機械的動力を電気的エネルギーに変え,主回路蓄電池の電気的エネルギーと組み合わせてモーターを駆動するシステムである.ブレーキ時には回生電力が主回路蓄電池に蓄えられ,エネルギーの有効利用が図られている.運転最高速度は100 km/h,加速度は2.3 km/h/sと1.8 km/h/sとの切換えが可能で,減速度は3.5 km/h/sである.
新規に開業した仙台市営地下鉄東西線では,鉄輪式のリニアモーター式地下鉄用車両2000系が新造導入された(図4).台車はリンク式操舵台車が採用され(図5),すべての台車にリニアモーターが搭載されている.車体断面を小さくしてトンネル断面積の縮小による建設費低減が図られており,また,東西線の路線条件である急曲線や急勾配57‰にも対応した性能を有している.運転最高速度は70 km/h,加速度は3.5 km/h/s,常用最大減速度は4.0 km/h/s,非常減速度は4.5 km/h/sであり,大きな加減速性能を有している.
JR高山本線,太多線,紀勢本線,参宮線では,2014年から2015年にかけて一般気動車の老朽取替としてキハ25形2次車一般用気動車が順次投入された.この気動車には,東海道新幹線N700Aに搭載した台車振動検知システムをベースに在来線車両用として初めて台車等の状態を常時監視する「振動検知装置」を備え,併せて動力伝達軸落下防止枠の強化や減速機の支え構造等の改良など,積極的に安全性向上策が図られている.
JR山手線へ導入されたE235系量産先行車は,既存のE231系,E233系をベースに開発され,「人と対話する車両」をイメージした外観・内装等のデザインや,新しい列車情報管理システム等が採り入れられた(図6).新しい列車情報管理システムでは,車上機器の劣化状態の推測の他,走行中に線路や架線の状態監視が可能である.車内の新規設備として,従来の17インチ車内表示器に加え,21.5インチ車内表示器が新設された.また,空調装置の冷房運転では,データベースに蓄積された過去の各駅乗車率などから次駅の乗車率を予測し,必要により次駅到着前に車内を予冷する予測制御が行われる.
広島地区に導入された227系電車(図7)は,国鉄からの近郊車両の老朽取替として順次投入され,併せて駅のサインや路線図デザインも新しくして,地上との統一性を持たせている.この電車には国際規格(IEC61375-3-4)に準拠したプロトコル(TRDP)を採用した伝送技術による制御装置を搭載しており,100 Mbpsと高速な伝送速度を実現しつつ,高速伝送に対応した電気連結器を開発することで,分割・併合運転を実現している.
新しい要素技術の開発動向に注目すると,国内の研究所で開発されている「脱線しにくい台車」では,輪軸操舵機構による曲線通過時のサイドフォース(横圧)低減と3分割台車枠による輪重減少抑制機構を設けて軌道への追従性を高めており,二律背反する高速走行安定性と急曲線通過性能を極力両立し,より安全性を向上した台車が開発された(図8,図9).この台車で,車両試験台による定置試験と所内試験線での走行試験を行いその有効性が確認された.
また,台車枠の一部をCFRPで製作し,コイルばねの機能をCFRP製フレームで持たせる構造の台車が国内メーカーにより開発され,鉄道事業者での営業運転や走行試験が行われている.この台車は,大幅な軽量化実現とともに,軌道との追従性が向上して輪重減少を抑制できることが走行試験で確認されている.2014年からは熊本の鉄道事業者にて営業運転が開始され,2015年にはJR2社(四国,九州)と西日本鉄道(株)でそれぞれ走行試験が行われた.
東海道新幹線車両の主回路システムにおいては,半導体素子に次世代半導体素子SiC素子を適用した主変換装置を開発・試作して走行試験を実施し,実用化の目途が立った.これにより,省エネルギー化と軽量化が期待でき,従来のN700系に対し編成で約11 tonの軽量化が可能となるとの見通しが得られている.
海外展開については,官民にて積極的に進められた.車両や保守・運行に関わる日本の企業や組織の動きを以下に列挙する.
2015年3月には,国内メーカーがオランダの鉄道運行会社へ標準型近郊車両234両(70編成)の納入と10年間の保守契約締結,ミャンマー鉄道省へ国内事業者が使用してきた気動車28両の譲渡契約締結.4月にはインドネシアへ国内事業者が使用してきた通勤形電車120両の譲渡発表.5月には国土交通省とタイ政府運輸省との鉄道分野に関する協力覚書の調印,国内メーカーが香港の地下鉄システム向け蓄電池式回生電力貯蔵装置2台を受注.6月には米国メリーランド州知事が超電導リニアに乗車.7月には国際鉄道連合(UIC)と国内事業者が主催した第9回UIC世界高速鉄道会議が開催,ミャンマー鉄道公社へ国内事業者が使用してきた気動車19両の譲渡および車両保守の技術支援を発表,英国高速鉄道新線計画の推進主体との運行計画に関するコンサルティング契約を国内事業者が締結,英国の鉄道インフラ会社から国内メーカーグループ会社(英国)が鉄道運行管理システムを受注,同じく英国の鉄道運行会社と国内メーカーグループ会社(英国)が標準型都市間電車173両(29編成)の納入と車両保守に関する正式契約を締結,国土交通省がカンボジアのブノンペンおよびミャンマーのヤンゴンで交通関連のセミナーを開催.9月には英国の鉄道システム事業会社と国内メーカーグループ会社(英国)が建設した鉄道車両工場の開所式を開催しキャメロン首相も出席,タイの首都バンコクで建設中の都市鉄道パープルラインに向け国内メーカーが製作中の車両を初出荷(63両製造予定),インド国貨物専用鉄道運営・維持管理プロジェクトを国内事業者と建設コンサルタント会社が受託,ドイツ鉄道システム技術有限会社と国内研究所による微気圧波に関するシンポジウム開催やブレーキ技術に関する共同研究協定書調印.11月には米国連邦運輸省アンソニー・フォックス長官と石井国土交通大臣が超電導リニアに乗車し米運輸長官が米国内で超電導リニア技術導入に向けた調査費予算計上を表明,米国・テキサス高速鉄道の事業主体に海外交通・都市開発事業支援機構が4 000万米ドル出資を決定,国際高速鉄道協会IHRAの第4回全体会議が開催され日本型高速鉄道の優位性の効果的な情報発信をテーマに協議,インド南部のベンガルールに国内メーカーが建設中の鉄道車両用電機品の新工場が完成・稼働開始.第7回鉄道技術国際シンポジウムSTECH2015が日本機械学会の主催で開催.12月にはブラジル都市旅客鉄道事業への参入を国内事業者が発表,インド鉄道省研究設計標準機構と国内研究所が技術協力の覚書締結,インドでの日印首脳会談でムンバイ~アーメダバード路線への高速鉄道技術(新幹線システム)導入とチェンナイ・アーメダバード2都市での地下鉄事業への協力で合意,イタリアの鉄道運営企業2社から国内メーカーがそれぞれ2階建て車両136両・2階建て車両16両を受注契約.
以上のように,海外展開においては,様々な取り組みが目に見える形で積極的に行われている.こういった多くの成果の裏側には,国際標準化への取り組み,官民一体でのPR活動,国内関係企業・組織の技術力向上に向けた絶え間ない取り組み,国内での安全安定輸送に向けた日々の弛まぬ努力により成し得たものと思われる.
2015年には,日本機械学会交通物流部門が主催し,2015年12月に交通・物流部門大会(TRANSLOG2015)/鉄道技術連合シンポジウム(JRAIL2015)が同時開催され,また11月に鉄道技術国際シンポジウムSTECH2015が国内にて開催された.各シンポジウムの講演[6, 7]では,安全・防災,快適性,環境・省エネルギー,輸送サービス,状態監視,メンテナンス,低コスト化など,様々な取り組み紹介が行われ,積極的に議論された.鉄道に関する研究発表講演数は約370件(内TRANSLOG・JRAIL合わせて約210件,STECHが約160件)に及んだ.TRANSLOG/JRAILの鉄道研究210件を例にとると,機械工学が関わる分野は約100件で,残り半数強が土木工学・電気工学分野であった.また,鉄道技術は,各工学分野の技術が集結したひとつのシステムであり,車両/軌道,車両/電気設備との境界に関係した研究発表も積極的に行われ,これまでの安全性や性能向上などを対象としたものに加え,車両から軌道や電気設備を状態監視してメンテナンスに活かすといった内容も多く見られるようになった.更に,産学連携や産産連携での研究発表も多く見られ,より多角的なアプローチでの研究開発が行われるようになってきたことが窺える.
日本の鉄道は,長い鉄道の歴史において様々な経験を通じ,ハードとソフトの両面で一歩一歩着実に進化を遂げてきた.その進化のスピードは,他の交通・物流機械と比べてゆっくりであったかもしれないが,今日においては「安全・安定性」「快適性」「環境性」「速達性」の面で高い優位性を有している.近年,各国ではこれらの優位性から多くの高速鉄道導入計画が持ち上がり,高速鉄道を運行する国が海外展開にしのぎを削っている状況にある.その一方で,世界各地で鉄道事故による人的被害が発生しているのも事実であり,ソフト・ハードの両面から引き続き安全意識と安全技術を高めていくことが重要である.また,自然災害に対する対策や研究開発が,国内では積極的に行われており,近年の地震・火山活動の活発化や気候変動を踏まえると,安全技術の追求は非常に重要且つ意義深いことである.2016年4月に起きた熊本地震により九州新幹線回送列車6両全てが脱線し,新幹線における人的被害や構造物の致命的損傷はなかったものの,地震規模と震災被害の大きさに衝撃を受けた.一方,こうした大きな震災被害の中,九州新幹線が早期に復旧され全線開通されたことに,大変勇気づけられた.改めて,鉄道は日本が誇れるシンボリックな存在であると思う.今後もより安全な鉄道システムの構築を目指し,継続的且つ着実に進化・発展させていく必要があると考える.
(一社)日本航空宇宙工業会[1]によると,航空機分野の生産額は2015年に1.8兆円を上回り,2014年の1.5兆円より14%増加した.2013年以降生産額は大きく増加している.
国土交通省航空局[2]によると,2015年12月末の登録航空機数は2 734機となった.毎年末の登録航空機数がピークだったのは1991年末の2 882機であり,その後,微減と微増を繰り返したが,2011年末の2 633機で底を打ち,以降は微増し現在に至っている.
無人航空機(ドローン・ラジコン機等)に係る航空法が改正され,2015年12月10日に施行された[3].対象となる機体は,飛行機,回転翼航空機,滑空機,飛行船であって構造上人が乗ることができないもののうち,遠隔操作又は自動操縦により飛行させることができるもの(200 g未満の重量のものを除く)である.空港等の周辺の空域,地表又は水面から150 m以上の高さの空域,人口集中地区の上空,は飛行禁止空域となり,無人航空機を飛行させる場合は国土交通大臣による許可が必要となった.
航空機分野の2015年の動向としては,まず三菱重工業グループによる国産初のジェット旅客機開発の進展が挙げられる.三菱航空機(株)と三菱重工業(株)によると,国産旅客機MRJ(Mitsubishi Regional Jet)の飛行試験機の初飛行が,2015年11月11日に実施された[4].この初飛行では県営名古屋空港を離陸後,太平洋側の空域を利用し,上昇,下降,旋回などの基本特性の確認を約1時間半かけ実施した.
アメリカ,ボーイング社との提携の動きも進展した.(一財)日本航空機開発協会と航空機製造5社は2015年7月,ボーイング社との間でB777Xの開発・製造に関する正式契約に調印した[5].主要構造部位の約21%を日本の航空機メーカーが製造分担し,分担部位としては,胴体,中央翼,圧力隔壁,主脚格納部結合,客室扉,貨物室扉,主脚扉,翼胴フェアリング等が含まれる.
一方,エアバス社は,ローンチしたA350-900の超長距離型,A350-900ULR(Ultra-Long Range)をシンガポール航空が選定したことを2015年10月13日に発表した[6].シンガポールからニューヨークへの路線は約8 700海里(16 110 km)の距離があり,就航すると,世界最長の旅客サービス路線となる予定であり,飛行時間は最大19時間の見通しである.
研究開発では,無人航空機の実用化に向けた動きが活発である.また,国土交通省の交通運輸技術開発推進制度において「航空機の到着管理システムに関する研究」が採択され,研究が進められている.
宇宙技術に関しては,宇宙飛行士の油井亀美也氏の国際宇宙ステーション(ISS)第44次/第45次長期滞在が関心を集めた[7].油井氏らが搭乗するソユーズ宇宙船は,日本時間7月23日午前6時02分,カザフスタン共和国のバイコヌール宇宙基地から打ち上げられ,午前11時45分にISSへドッキング,午後1時56分にソユーズ宇宙船とのハッチが開かれ,長期滞在が始まった.142日間の滞在を経て,日本時間12月11日午後3時32分,油井宇宙飛行士らが搭乗したソユーズ宇宙船とのハッチが閉じ,午後6時49分にISSから分離,52分に軌道離脱噴射を完了し,午後10時12分頃にカザフスタン共和国に着陸した.
現在開発中の新型基幹ロケットの機体名称に関して,JAXAは,プライムコントラクタ(三菱重工業株式会社)と検討調整の結果,H3ロケット(英語名称:H3 Launch Vehicle)と決定した[8].打ち上げ費用を半減させる国際競争力のある新型基幹ロケットの開発が期待される.
2015年の世界の新造船の建造量は2014年より4.5%程度増加し約6 757万総トン(2 870隻)であった.日本は約1 301万総トン(520隻)とシェア19.2%で,中国(37.2%),韓国(34.4%)に継ぐ世界第3位であった.一方,2015年の世界の新造船の受注量は約7 657万総トン(2 197隻)と2014年の8 160万総トン(2 888隻)から減少した.日本は約2 058万総トン(540隻)とシェア26.9%で,中国(33.0%),韓国(30.9%)に継ぐ第3位であった(集計はIHS(旧ロイド統計)の速報値による).
2015年前半は,NOx排出規制(三次規制)対応による船舶の駆け込み発注があったが,2015年後半は新興国の経済成長の鈍化に伴う海運市況の低迷が影響し,世界での船舶の発注は伸び悩んだ.
地球温暖化防止に向けた国際海事機関(IMO)によるNOx,SOx,CO2の船舶からの排出規制強化に対応するため,従来の重油燃料から,環境負荷の少ない液化天然ガス(LNG)を船舶の燃料に使用するLNG燃料船の開発が盛んに行われている.2015年には日本初のLNGを燃料に使用するタグボートが建造され,就航した.大型船舶向けに,LNGと重油の両方を燃料として使用可能な低速ディーゼル機関やメタノールと重油の両方を燃料として使用可能な低速ディーゼル機関が日本国内で製造され,出荷された.
船舶から排出されるCO2の排出総量規制を受け,省エネルギー船型や省エネ付加物の開発,水中の船体抵抗を減らす低摩擦塗料の開発・改良が行われている.また,船舶の推進プラントの燃費効率改善のため,主機関の廃熱からエネルギーを回収する廃熱回収システムなどの各種技術開発も進められている.
船舶による次世代のエネルギー輸送を目的に,液体水素を海外から日本に船舶で運ぶための水素輸送に関する研究開発が官民で行われている.
日本エレベーター協会の2015年調査[1]による国内の昇降機全体の新設台数は,29 077台(前年度29 391台)であり,2014年調査からほぼ横ばいとなった.新設台数の内訳は,エレベーターが25 801台(前年度24 837台),エスカレーターが1 964台(前年度1 843台),小荷物専用昇降機が1 198台(前年度2 571台),段差解消機が114台(前年度140台)であった.一方,既設エレベーターのリニューアル(撤去新設,制御リニューアル含む)は2010年度では6 245台であったが,2014年度では10 188台と5年間で63%程度増加した.1970年前後の高度経済成長期に設置されたエレベーターがリニューアルの時期を迎えていることが背景であり,今後も増加すると考えられる.
国内の講演会では,ビルの高層化に伴い長尺化するロープやケーブルなどの挙動解析や,高速化に伴う乗り心地性能向上のための振動騒音抑制技術など,先進技術の研究成果が発表された(2015年12月:第23回交通・物流部門大会,2016年1月:技術講演会“昇降機・遊戯施設の最近の技術と進歩”).
新技術としては,海外を中心としてエレベーターの行先階管理システムが導入される例が増えている.これは各利用者が入力装置に行先階を入力すると,目的階まで早く到着するエレベーターの号機を表示し,利用者を効率的に誘導するものである.エレベーターの最高速度も1 010 m/minから1 080 m/minに更新され中国の上海に納入された.更には1 200 m/minのエレベーター技術が開発されており,2016年に納入される見込みである.このように利用者が目的階に早く到達可能となる技術が進歩している.
また,昇降機の安全性向上に対する研究も進んでいる.東日本大震災では建築物の層間変形が大きくなったことが原因と推定されるエスカレーター落下事象が発生したが,地震時挙動の解析や実験などにより,エスカレーターフレームの建屋とのかかり代や隙間の寸法が基準化[2]された.今後も昇降機の安全に関する調査,検討と必要な基準の見直しが実施されていく見込みである.
経済産業省の生産動態統計(確報)による,2015年1月~12月の荷役運搬機械(運搬機械からエレベータ,エスカレータを除いた)生産額は,3 103億円(2014年度比3.8%,124.2億円減)であった.このうち,クレーンは2014年度比13.5%増,巻上機は3.3%減,コンベヤは6.9%減,機械式駐車装置は12.5%減,自動立体倉庫装置は17.5%減である.
(一社)日本産業車両協会の調査による,2015年1月~12月のフォークリフト生産台数は11.5万台で,2014年度比0.7%増,輸出を含めた販売台数は1.4%増,国内販売台数は2.1%増の状況である.
2016年は,高水準の企業収益や低金利,合理化・省力化に対するニーズの高まり等,良好な投資環境ではあるが,市場の不確実性や,財政・金融政策の先行き不透明感が重石となり,設備投資のペースは緩やかにとどまるものと考えられる.
2014年度の物流システム機器の総売上金額は,2013年度の3 781億円から8.0%減の3 479億円となった.一方,売上件数も2013年度の125千件から112千件へと減少した(前年度比10.4%減).
機種別に見ると,自動倉庫が721億(前年度比15.5%減),コンベヤが821億(前年度比15.4%減),台車関連が639億(前年度比3.0%増),棚が308億(前年度比0.5%増)となっている.
2014年度はデフレ脱却により景気回復が進み,一部の企業の業績が好転した一方,消費税増税(2014年4月)前のかけこみ需要の揺り戻しや,労働力不足による着工の遅れなどがあり,設備投資が停滞したものと推察される.なお,海外向けの売上高は3.6%減少し,クリーンルーム向けも10.3%の減少となった.業種別に見ると,「電機・精密機器」に対する売上の比率が,依然として高水準となっている.
2015年のフォークリフト国内販売台数は,7.9万台と前年比102%とリーマンショック以降,6年連続の増加となった.うち,エンジン車は前年比97%と前年を下回り,バッテリ車は107%と前年を上回った.バッテリ車の比率は約55.2%と6年ぶりに前年より増加した(表1).一方,海外に目を向けると,輸出は3.7万台と前年比100%と横ばいであった.国内販売と輸出をあわせた台数は11.6万台と,前年比101%と増加した.
2016年に入って国内販売台数は前年同月とほぼ同等で,2月は6 011台と前年同月比99.0%であった.輸出は3 119台と前年同月比103.6%,国内と輸出を合わせると9 130台と100.5%である.
2015年の世界の産業車両市場は,先進国市場が引き続き増加傾向であるのに対して,中国や南米を中心に新興国市場は減少に転じているが,長期的には発展を続けるものと思われる.
各社とも,“日本ブランドの確立”をキーワードに,IoTや燃料電池,新型電池等の新技術を取り込んだ,物流の効率化,安全向上,環境負荷低減に貢献する信頼性の高い商品やソリューションの開発と提供を推進している.
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