12. 環 境 工 学

12・1 環境工学を取り巻く状況

近年,夏季における局所的な豪雨はもはや常態化しつつあり,2015年は鬼怒川氾濫による常総市の被害の他,各地でも被害がもたらされている.また,気温もしかり,群馬県の館林市では2015年の最高気温は39.8℃にも達した.自然環境の変化に対応する新たな仕組みや応用が求められる状況にあるといえよう.エネルギーについては,新たなエネルギー導入への機運は年々高まり,水素社会に向けての研究は一層進むものと予想される.大気関係では焼却排ガスの水銀など,従来の基準より一層高い水準が今後求められるものと思われ,残渣処理を含めた新たな技術開発が求められる,また,国外においては,廃棄物処理技術,騒音振動対策技術,省エネ技術など日本の高度な技術が求められており,もはや環境技術は国内だけでなく海外展開の機運は年々高まっている.汚泥処理技術の国際標準化の動きも始まっており,特に日本の有効利用技術や熱技術などに対する期待は大きい.

このように,自然環境の変化,市場の変化が著しいなか,環境工学は柔軟にかつ継続的に技術を磨き上げ,日本のみならず国際社会に貢献してゆかねばならない状況にあるものと考える.

〔遠藤 久 月島機械(株)

12・2 騒音・振動評価改善技術分野の動向

環境省から,北陸新幹線長野~金沢間の開業に伴い,新幹線鉄道騒音に係る騒音環境基準の達成状況が報告された.89測定地点のうち商工業地域などの8測定地点では環境基準値をすべて下回っていたが,住居地域などの81測定地点では,37測定地点(41.6%)において,環境基準値を超過した.平成27(2015)年度の自動車騒音常時監視結果に基づき,全国の自動車交通騒音状況が報告された.評価対象は全国828の地方公共団体で,道路に面する地域延長46 347 km,7 209千戸の住居等である.昼間・夜間のいずれか,または両方で環境基準超過は514千戸(7.1%)で,近年緩やかな改善傾向にある.道路種類別では都市高速道路の超過割合が最も高く,65千戸のうち8千戸(12%)であった.航空機騒音に関しては,昨年から環境基準の評価指標として時間帯補正等価騒音レベル(Lden)で評価が行われており,平成26年度の空港での環境基準達成率は,成田国際空港が59%,東京国際空港が100%であった.

続いて,研究動向を紹介する.2015年7月8日から7月10日まで,第25回環境工学総合シンポジウムが産業技術総合研究所臨海副都心センターで開催された.7月10日には相模川流域下水道右岸処理場の施設見学があり,8日と9日の2日間に講演会が行われた.全体の講演論文数は60件で,そのうち騒音・振動評価・改善技術のオーガナイズドセッションでは15件の講演発表があった.騒音・振動の評価・改善技術については,各種マスカーによる音声マスキング効果及び心理的影響の比較や,薄膜と空気圧を利用した遮音量可変型軽量遮音構造の開発など6件,振動・騒音の解析技術では,弾性板と吸音材を組合せた場合の音響特性の数値解析や,自動車周りの流れに起因する車室内騒音の寄与率分析など5件,空力音の計測・制御では,鉄道関係の騒音・振動の制御と解析など4件が報告された.計算機の性能向上に伴い大規模な連成解析が高精度で可能となり,新しい知見が得られている印象を受けた.

2015年度年次大会においては,9月14日に「流体関連の騒音と振動」のオーガナイズドセッションがあり,22件の講演発表が行われた.騒音のモデル化と対策については,大規模構造渦の制御がキャビティ音の抑制に及ぼす役割や,歯茎摩擦音/s/の口腔単純形状モデルを用いた空力音響解析など6件,流れで生じる構造物の音響問題では,T字状分岐管の音響特性と流体音特性,渦と壁面との干渉によって発生する音響場と非定常壁面せん断応力に関する研究など6件が報告された.9月15日の環境工学部門の一般セッションでは,筐体における吸音材適正配置による放射音抑制や,構造体を付加した遮蔽板の騒音抑制効果などの5件が報告された.その他,流れによる自励振動,流れと構造の連成に関する研究成果が報告された.

国際会議の動向については,2015年7月12日~7月16日に第22回International Congress on Sound and Vibration(ICSV22)がイタリアのフィレンツェで開催された.110のセッションが組まれ,953件の講演論文が報告された.このうち,航空機や鉄道,自動車,船舶等の乗り物に関係するものが約2割と最も多く,これらを構成する様々な機器に関する研究成果が報告された.ANCおよびアクティブ制振関連については61件の発表があり,Active Noise BarrierやVirtual Sound Barrierなどが報告された.音響材・制振材関連では71件の発表があり,建築分野で用いられているMPP(Micro Perforated Plate)や音響的性質が設計された人工的な材料であるAcoustic Metamaterialsに関する報告などがあった.風車に関してはウインドファームからの騒音の評価やセレーション翼の性能などが報告された.

2015年8月9日~8月12日には,第44回Inter-Noise Congress & Exposition on Noise Control Engineering(INTER-NOISE2015)が,米国のカリフォルニア州サンフランシスコで開催された.本会議は,今年で44回目を迎える音響,騒音,振動に特化した国際会議である.3件のキーノートレクチャーに73のセッションが組まれ,727件の講演論文が発表された.ANC関連に関しては,自動車内のキャビン騒音の低減やMRI騒音への適用など,実製品へ適用した例が数多く報告された.繰り返し衝撃音へも応用可能な空間伝達特性に依存しない制御手法やパッシブとアクティブを上手く組み合わせたActive Double Panelシステムなどが提案された.アクティブ制振関連では,コストが安く,UVを当てるだけで粘性を変えられ利便性が高いPhoto-rheological Fluidsと呼ばれるセミアクティブ用のダンピング材を用いた研究やVoice Shutterなどの研究成果が報告された.騒音・振動制御に関しては,特にABH(音響ブラックホール)が注目されており,適切な穴形状や個数,配列,エッジ形状などの設計に関する研究が多く見られた.本セッションは常に立ち見が出るほど聴衆が多く,供試体を3Dプリンタで簡単に製作できることもあり,研究が加速している印象を受けた.

〔濱川 洋充 大分大学

12・3 資源循環・廃棄物処理技術分野の動向

循環型社会を形成するため,循環型社会形成推進基本法を基に個別物品の特性に応じた規制が有る.食品リサイクル法が見直され,食品廃棄物発生抑制に向けた取組みを,地方自治体等と連携し促進していくこと,さらに食品廃棄物等の再生利用手法の優先順位が,飼料化,肥料化,メタン化等飼料化及び肥料化以外の再生利用の順となった.

小型家電リサイクル法については,平成26年度にリサイクル事業者に回収された小型家電の量は約5万トンである.小型家電の回収・処理に前向きな市町村は平成27年4月現在で75%である.人的・資金的制限の中,使用済み小型家電を効率よく回収する仕組みづくりが求められている.

EUから「資源効率(Resource efficiency)」,「循環型経済政策(Circular Economy)」という考え方が国内に伝播.「資源効率」はより少ない資源投入でより大きな価値を生み出すこと,「循環型経済政策」は循環型経済システムへと移行することで,国際競争力の向上,持続可能な経済成長等を目指す考え方である.日本も個々には同様な考え方に基づき再資源化に取組んでいるが,EUの考え方が世界基準となると日本の海外展開等にも影響するため,今後の動向には注意が必要といえる.

「水銀に関する水俣条約」に基づき一部の政令が改正され,廃水銀が特別管理廃棄物に指定,その処理基準が強化された.また,製造を規制する「特定水銀使用製品」に一定の量を超える水銀を含有するボタン電池,蛍光灯等が定められた.さらに煙突等から排出される水銀濃度の排出基準を定める検討も行われている.

東日本大震災等の教訓・知見を踏まえ,災害により生じた廃棄物について,適正処理と再生利用を確保しつつ迅速に処理すべく,廃棄物処理法,災害対策基本法の一部が改正された.これを受けて災害廃棄物処理支援ネットワーク(D.Waste-Net)が平成27年9月に発足し,同月に発生した関東・東北豪雨災害に専門家等を派遣した.また,東日本大震災後に防災や施設強靭化を発注側の要求水準書に取り入れた一般廃棄物焼却施設が実稼動を始めている.東日本大震災に関して,福島県では汚染廃棄物対策地域に指定された11市町村における災害廃棄物等の約116万5千トンの処理に向け,平成27年に稼動を開始した4施設を加え,仮設焼却炉6施設(平成27年末時点)での災害廃棄物等の減容化が本格化,一日も早い復興を目指している.

平成27年11月から12月にパリで行われたCOP21におけるパリ協定採択もあり,日本での一層の温暖化対策が必要となる.日本の温室効果ガス総排出量に占める廃棄物分野の割合は平成25年度で2.6%であるが,低炭素社会,循環型社会を実現するためには,廃棄物の3Rを推進しつつエネルギー回収を進めていく必要がある.

一般廃棄物焼却施設において,総施設数は減少しているが発電施設は増加し,発電効率も平成25年度の12.03%から平成26年度では12.84%に増加している.発電効率を増加させる取組みとして,過熱蒸気温度を400℃から450℃に想定した材料開発や,排ガス再循環や燃焼技術による無触媒脱硝による低NOx燃焼,蒸気を使用せず剛球や圧力波を使用したボイラダスト除去,レーザー計測技術を利用した燃焼制御,小規模施設については,バイナリー発電やメタン発酵と焼却の組み合わせによる発電が学会等で報告されている.

一般廃棄物焼却施設の延命化に関して,環境省は基幹改良(基幹的設備改良)を行う場合について見直しを行い平成27年3月に「廃棄物処理施設の基幹的設備改良マニュアル」として整備,循環型社会形成推進交付金以外にエネルギー特別会計を利用したメニューを新設し,施設強靭化対策を含めた延命化対策を推進している.

廃棄物焼却施設の高効率発電を後押ししているFIT制度に関しては見直しが行われており,廃棄物発電を含むバイオマスについては,数年先の買取価格を提示することも検討されている.FIT制度の今後の動向には注意が必要と言える.一方,平成28年4月より始まる電力小売自由化を見据え廃棄物焼却施設で発電される電気の小売を検討している自治体も有り,廃棄物焼却施設は,地域の根幹となる社会インフラとしての重要性が今後増すと考えられる.

し尿処理等を行う汚泥再生処理センターについては,資源化としてHAP法・MAP法でリン回収を行う実施設が稼動を始めているが,リン回収量を増やすための汚泥のアルカリ処理や脱水汚泥の助燃剤化の取組みも実施設で行われている.回収したリンは肥料成分として地域還元を行っている.下水汚泥についてもメタン発酵を活用したエネルギー利用が進んでいる.さらに下水熱を利用した取組みも行われている.

最後に,アジア等の途上国を中心に廃棄物処理体制の未整備・未成熟による環境問題が発生しており日本の廃棄物処理技術に関心が高まっている.そこで支援国の実情に応じた技術供与のあり方が求められている.

〔太田 智久 (株)タクマ

12・4 大気・水環境保全分野の動向

大気環境の現状および保全対策に関して以下にまとめます.窒素酸化物,二酸化硫黄,一酸化炭素のほとんどの観測局で環境基準達成しています.浮遊粒子状物質についても環境基準達成率は高いと言えます.更なる濃度低下を目指して,排出ガス低減性能の高い自動車の普及や排出基準に適合している全国のトラック・バス等であることが判別できるように「自動車NOx・PM法適合車ステッカー」の交付等に取り組みが実施されています.次世代自動車等の普及に取り組んだ結果,新車販売に占める次世代自動車の割合は,20%を超えています.船舶からの排出ガスについては,国際海事機関の排出基準を踏まえ,海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律により,窒素酸化物,燃料油中硫黄分濃度等について規制されており,規制濃度が強化される方向で検討されています.

一方,微小粒子状物質(PM2.5)の環境基準達成率は,一般局,自排局とも低い水準で推移している.有効測定局数は,PM2.5が常時監視項目に加わった平成22年度以降,着実に増加しています.PM2.5は,原因物質と発生源が多岐にわたり,生成機構は複雑であるなど解明すべき課題が残されています.排出抑制対策の基盤となる発生源情報の整備や生成機構の解明等,シミュレーションモデルの高度化等を進めつつ,国民の安全・安心の確保,環境基準の達成,アジア地域における清浄な大気の共有を目標とした取組が進められています.

光化学オキシダントの環境基準の達成状況は,依然として極めて低い水準となっています.関東地域,東海地域,阪神地域等において,近年,域内最高値が低下しており,高濃度域の光化学オキシダントの改善が示唆されています.揮発性有機化合物(VOC)は光化学オキシダント及び浮遊粒子状物質の生成の原因物質の1つであり,VOCの排出抑制対策については,平成22年度までに全国のVOC総排出量を平成12年度に比べて3割程度削減させることを目標に,法規制と自主的取組を適切に組み合わせること(ベストミックス)により実施されました.平成22年度のVOC総排出量は平成12年度に対し4割以上削減されました.

酸性雨に関しては昭和58年度からモニタリングやその影響に関する調査研究を実施しており,モニタリング結果の概要は,次のとおりです.降水は引き続き酸性化の状態にある.降水中に含まれる非海塩性硫酸イオン等の濃度は冬季と春季に高く,国内の酸性沈着における大陸からの影響が示唆される.特に山陰等の地域で顕著な上昇が見られた.二酸化硫黄及び粒子状非海塩性硫酸イオンは,大陸に近い地点ほど濃度が高く,大陸からの移流の寄与が大きいことが示唆された.また,特定の気象条件や黄砂の飛来現象に伴いイオン成分等の上昇も確認された.

次に水環境の現状および保全対策に関して以下にまとめます.水質汚濁に係る環境基準のうち,重金属類など人の健康の保護に関する環境基準(健康項目)については,ほとんどの地点で環境基準を満たしている.生活環境の保全に関する環境基準(生活環境項目)のうち,有機汚濁の代表的な水質指標である生物化学的酸素要求量(BOD)または化学的酸素要求量(COD)の環境基準の達成率は,湖沼では依然低く,閉鎖性海域の海域(東京湾,伊勢湾,大阪湾,瀬戸内海)もあまり高くない状況が続いています.一方,全窒素及び全リンの環境基準の達成率も,湖沼では依然として低い水準で推移し,閉鎖性海域では一部未達成になっています.赤潮の発生状況は,閉鎖性海域および有明海で報告されており,貧酸素水塊や青潮の発生も見られました.

「豊かな海」の観点から,干潟・藻場の保全・再生等を通じた生物の多様性及び生産性の確保等の重要性も指摘されています.多様な魚介類等が生息し,人々がその恩恵を将来にわたり享受できる自然の恵み豊かな豊穣の里海の創生を支援するため,平成22年度に作成した里海づくりの手引書や全国の実践事例等の情報について,ウェブサイト「里海ネット」(http://www.env.go.jp/water/heisa/satoumi/)で提供されています.

地下水質の概況調査の結果では,調査対象井戸において環境基準を超過する項目が見られ,汚染井戸の監視等を行う継続監視調査の結果では,一定数の調査井戸において環境基準を超過していました.施肥,家畜排せつ物,生活排水等が原因と見られる硝酸性窒素及び亜硝酸性窒素の環境基準超過率が,最も高くなっており,これらに係る対策が緊急の課題となっています.一方,汚染源が主に事業場であるトリクロロエチレン等の揮発性有機化合物についても,依然として新たな汚染が発見されています.

〔吉田 篤正 大阪府立大学

12・5 環境保全型エネルギー技術分野の動向

2015年から2016年にかけて,我が国の環境保全型エネルギー技術を取り巻く環境は大きな転換期を迎えた.2014年4月に策定されたエネルギー基本計画を受けて,長期エネルギー需給見通しが2015年7月に発表された.これはエネルギー政策の基本的視点である安全性,安定供給,経済効率性,および環境適合性の政策目標を達成することを念頭に,2030年度のエネルギー需給構造を示したものである.併せて,この需給構造を実現するために今後重要となる技術的な取り組みが示されている.まず,エネルギー起源のCO2排出量に関しては,産業,業務,家庭,運輸の各部門において実現可能性の高い省エネルギー対策を積み上げることで,2013年度総排出量比で21.9%削減することを目指している.また,電源構成に関しては,低炭素の国産エネルギー源である再生可能エネルギーが安定的な運用の可能な地熱発電・水力発電・バイオマス発電と,調整電源としての火力発電を伴う太陽光発電・風力発電とに大別されて導入が進められる.火力発電については発電量当たりのCO2排出量の低いLNG火力と発電コストの低い石炭火力が特に重要視されている.その結果として,2030年度の原子力発電への依存度は20~22%を目指す.水力発電・石炭火力発電・原子力発電等によるベースロード電源が全電源に占める割合は56%程度となる.この長期エネルギー需給見通しを実現するための重要な取り組みとして,本部門における環境保全型エネルギー技術の中核である①省エネルギー,②再生可能エネルギー,③多様なエネルギー源の活用が明文化されている.まず,省エネルギーに関しては,設備・機器の高効率化を推進した上で,エネルギーマネジメントによるエネルギーの最適利用およびエネルギーの見える化の導入推進が掲げられている.産業部門では工場へのエネルギーマネジメントの導入,業務・家庭部門ではBEMS(Building Energy Management System)・HEMS(Home Energy Management System)の活用が挙げられており,新築建築物・住宅に対する省エネルギー基準の段階的な適合義務化も目指す.また,家庭用燃料電池コージェネレーションおよび運輸部門における燃料電池自動車といった水素関連技術の活用や,ネガワット取引を含むデマンドレスポンスへの取り組みも言及されている.次に,再生可能エネルギーに関しては,安定的な運用が可能な地熱発電,水力発電,バイオマス発電の導入を進め,これらのベースロード電源化を目指す.一方,出力変動の大きな太陽光発電,風力発電の導入を拡大するために,電力系統運用の広域化ならびに系統運用技術の高度化などの環境整備を進める.再生可能エネルギーを導入する原動力となるべき固定価格買取制度に関しては,太陽光発電の導入推進に偏ったこと,また,後述する電力自由化の流れを踏まえた上で,制度見直しの必要性について言及している.さらに,多様なエネルギー源の活用に関しては,廃熱回収・再生可能エネルギー熱を含めた熱利用の面的な拡大の推進が挙げられている.そのために,燃料電池コージェネレーションおよびヒートポンプ給湯器を蓄エネルギー機器と組み合わせた分散型エネルギーシステムとして広く導入していくことが重要な取り組みとして掲げられている.

転換期を象徴するもう一つの環境変化は2016年4月に開始された電力自由化(小売り全面自由化)である.特別高圧区分の大規模工場,デパート,オフィスビルなどや高圧区分の中小ビルや中小規模工場などを対象とした電力の小売り自由化は既に行われていたが,家庭や商店などが対象となる低圧区分において電力の小売りが新たに自由化された.これにより,消費者が自身のライフスタイルや価値観に合わせた電力料金体系やサービスを選択することが可能となった.電力系統の広域運用を利用することで再生可能エネルギーを中心とした電力供給を行う事業者も少数派ながら進出してきており,前述した固定価格買取制度とは別のアプローチで再生可能エネルギーの導入促進に寄与できる可能性がある.また,家庭用燃料電池コージェネレーションは設置した世帯ごとに余剰発電電力が発生しないように出力調整を行う必要があったが,今回の電力自由化を機にガス事業者による余剰発電電力の買取も一部で行われるようになった.家庭部門において太陽光発電だけでなくコージェネレーションの余剰発電電力の買取が積極的に進められるようになると,HEMSによるエネルギーの最適利用がさらに重要になると思われる.

2015年7月に開催された第25回環境工学総合シンポジウムでは,環境保全型エネルギー技術分野において22件の発表が行われた.長期エネルギー需給見通しを実現するための取り組みとして前述した新エネルギー,エネルギー有効利用,省エネルギー技術,蓄エネルギー技術などに関する最新の研究成果について活発な議論が行われた.

〔涌井 徹也 大阪府立大学

 

上に戻る