機械力学・計測制御部門(以下,本部門)は,機械工学におけるいわゆる「四力学」の一つである機械力学に加え,これに関連の深い計測,制御の各分野を主たる活動基盤としている.本部門では,各分野の学術的な基盤研究から実践的な応用研究,他部門との連携による新領域まで幅広く研究が行われ,その研究成果が積極的に公開されている.ここでは,2015年1月~12月に発行された本会論文集(和文・英文)への掲載論文を中心として本部門の研究活動について概括するとともに,同期間に催行された講演会・講習会などの状況について概説し,本部門の研究活動の概要について紹介する.
上記期間中に本会論文集に掲載された学術論文のうち,「機械力学,計測,自動制御,ロボティクス,メカトロニクス」のカテゴリーとして掲載された論文は118編である.また同論文集Vol.81,No.824では「機械力学・計測制御分野特集号」が組まれ,上記カテゴリーに26編の論文が掲載された.したがってこのカテゴリーでは144編の論文が掲載されている.昨年(2014年)は新しい方針に基づいた論文集創刊の年であり,108編(=88編+20編(特集号))であったので,掲載論文数は少しではあるが増加傾向にある.2013年までの論文集(C編)とはカテゴリーが異なるので単純な比較はできないが,2013年の「機械力学,計測,自動制御」のカテゴリーの一般論文は221編,特集号が35編,他に技術論文15編,ノート11編であった.2014年からの論文集のカテゴリーの方が細かいので(カテゴリー名は2013年までの方が短いが,その中に生体工学関係,交通・物流関係も含まれている),「機械力学,計測,自動制御,ロボティクス,メカトロニクス」のみでなく,「生体工学,医工学,スポーツ工学,人間工学」および「交通・物流」のカテゴリーまで広げて内容を確認すると,それらのカテゴリーに分類されている論文のうち,平均して毎月1,2編は本部門に深く関連するものである.それらを含めて考えても,論文集の形態変更と時を同じくして論文数がかなり減っていることは否定できない.さて2015年に限定して,論文集全体に占めるカテゴリー「機械力学,計測,自動制御,ロボティクス,メカトロニクス」の論文集の割合は約31%である(部門144/総数472).部門数,登録者数等を考えると,比較的貢献していると考えられる.
一方,本部門が担当していた英文誌Journal of System Design and Dynamics(JSDD)は,日本機械学会の方針変更に従い2013年12月を以て刊行を停止し,Mechanical Engineering JournalのDynamics & Control, Robotics & Mechatronicsカテゴリーに移行した.2015年には34編(論文16編+特集号18編)の論文が掲載された.2014年は11編であったので,これも掲載論文集は増加傾向にある.ちなみにJSDDの最後の時は45編(論文30編+特集号8編+レビュー論文7編)であったので,JSDD時代の論文数に戻りつつあることがわかる.
毎年開催される本部門の部門講演会「Dynamics and Design Conference」(略称D&D)は本部門活動の中心である.2015年度の同講演会D&D2015は,総合テーマ「結束を新たに,未来を拓く」のもと,2015年8月25日~28日の4日間にわたり,青森県の弘前大学で開催された.発表件数は328件,参加者累計524名であった.D&Dにおいて例年開催されている振動工学データベースフォーラム(v_BASE)のみならず,特別フォーラム「自動運転技術における機械力学・計測制御の役割」も開催された.
部門主催の講演会・シンポジウムとしては,この他に,2015年6月22日~24日にわたって,「第14回運動と振動の制御」シンポジウム(MoViC2015)が宇都宮市の栃木県総合文化センターで開催され,212名の参加者を集め114件の講演発表の講演発表がなされた.機素潤滑設計部門が主催(本部門は合同企画)したものとして,「第14回評価・診断に関するシンポジウム」が,2015年11月24,25日に,福井県国際交流会館にて開催され,59名の参加者と24件の講演発表を集めた.これらのシンポジウムは多くの開催を重ねており,定着度の高い充実したシンポジウムとなっている.
本部門が深く関わる国際会議の一つとして,「The 16th Asia Pacific Vibration Conference(APVC2015)」が2015年11月24日~11月26日にHanoi University of Science and Technology(ベトナム)にて開催され,日本から多くの研究者,学生が参加した.
部門主催の講習会として,5月25日,26日に本会において「振動モード解析実用入門」(受講者58名),7月16日に東京大学生産技術研究所において「マルチボディシステム運動学の基礎」(受講者24名),17日に「マルチボディシステム動力学の基礎」(受講者19名),11月7日に東京工業大学,15日に愛知工業大学で「計算力学技術者2級認定試験対策講習会」(関東地区:受講者18名,東海地区:受講者9名),2016年12月22日には本会で「納得のロータ振動解析:講義+HIL+実験」(受講者22名),翌2016年1月13日,14日に本会で「回転機械の振動」(受講者23名)が行われた.これらの講習会は継続的に毎年開催されているが,いずれも一定の受講者数を集めており,本部門主催の講習会として重要な役割を果たしている.
国内では,2015年8月に開催されたDynamics and Design Conference 2015(弘前大学)における領域4「流体関連振動・ロータダイナミクス」,OS「流体関連振動・音響のメカニズムと計測制御」で15件の研究成果が発表された.内容は,液面振動とスロッシングが3件,平行流と軸流による振動と制御が6件,管群の振動が1件,流体構造連成の振動が1件,気柱共鳴と渦励起振動が3件,燃焼振動が1件であった.これらの研究は,主に解析モデルの精緻化,および振動発生条件と励振メカニズム解明を目的として行われたものである.このうち,ターボポンプの軸方向振動の解析モデルの構築と解析結果に関して2件の報告[1, 2]があり,作動流体の圧縮性に起因して,不安定振動が発生することが明らかにされた.また,ガスタービン燃焼器内で発生する燃焼振動に関して,修正n-τ modelが提案され,このモデルにより燃焼振動発生の判定予測の精度が向上することが報告された[3].
また,9月の日本機械学会年次大会(北海道大学)におけるジョイントセッション「流体関連の騒音と振動」では,22件の研究発表があった.このうち,流れによる騒音に関する研究が最も多く12件の発表があり,機械の静粛化への要求の高さが伺える.これ以外では,シートや平板のフラッタ,流れ方向流力弾性振動とその振動を発電に利用した研究[4],テンタゲートの振動,空気圧で浮上する平板の自励振動などの研究発表があった.
日本機械学会論文集では,流体関連振動に関して約10編の論文が発表された.内容は,内部流れによるシェルのフラッタ[5, 6],翼・ディスク系のフラッタ[7]など,複雑な形状の構造物に発生するフラッタに関する研究成果の報告が多かった.特に,内部流れによるシェルのフラッタに関する研究では,円筒シェルおよび角筒シェルに発生するフラッタの発生条件,三次元的に変形する複雑なフラッタモード,および流体力の仕事分布が明らかにされた.その他,流体構造連成系の振動として,水中におけるフリースタンディングラックの振動に関する研究成果の報告[8, 9]が2件あり,原子炉使用済み燃料の貯蔵など,原子力分野における流体関連振動の研究は,今後も重要な課題として残されていることが示されている.また,弾性平板の進行波を利用した水中推進に関する研究など,流体関連振動を利用する研究も報告された.
海外では,7月のASME Pressure Vessels and Piping Conference 2015(ボストン)において,流体関連振動のセッションが設けられ,日本からの発表13件を含む57件の研究発表があり,活発な討論が行われた.また,本国際会議では,原子力プラントにおける流体関連振動の評価に関してIAEA活動報告があり,全体で23件,日本から9件の発表があった.また,流体関連振動に関連する学術雑誌Journal of Fluids and Structuresでは,パイプライン配管設備の流体関連振動に関するレビュー論文[10]が掲載され,流体系および構造系パラメータの影響,流体構造連成の影響,境界条件の影響,解析モデルと解析方法の分類,実験結果,配管の形状など広い視点からのレビューが報告された.特に,これら海外の国際会議や雑誌では,数値流体解析手法を用いた複雑な流体構造連成系の数値シミュレーションの論文が目立つ.しかしながら,機械構造物の設計に有益な情報を得るには,流体構造連成系を対象とした数値流体解析は,未だに計算負荷が大きく計算コストの点で課題が残されている.
2015年5月14日~15日に長崎県佐世保市ハウステンボスで開催された第27回「電磁力関連のダイナミクス」シンポジウム(SEAD27)から研究動向を紹介する.SEADは,日本機械学会,電気学会,日本AEM学会の持ち回りで主催し,2015年は電気学会の主催で開催された.4件の基調講演と155件の一般講演が行われ,回転機技術,磁気浮上技術,アクチュエータ,電磁誘導技術とその応用,電磁力関連材料,電磁非破壊評価,静電力・プラズマ応用,センサ・計測技術,電力変換,リニアドライブ技術,振動と制御,超磁歪アクチュエータ,バイオメカニクス,超電導とその応用,磁気軸受とその関連技術,電磁解析・シミュレーション技術,マイクロ・ナノメカニズム,ロボット・医療福祉応用,材料の電磁特性と応用といったセッションが行われた.
回転機技術では,燃料電池車[1]や電気自動車用のスイッチトリラクタンスモータモータ[2]など電気自動車に関連する報告があり,自動車関連の研究活動が活発に行われていることが伺えた.基調講演では,プレミアム効率モータの電磁界解析技術やベクトル磁気特性に基づいた解析技術などが紹介された.アクチュエータでは,球面モータ,圧電素子,磁歪材料などの他,電磁誘導を用いたダンパ[3],液晶アクチュエータ[4]などが発表された.従来技術の高性能化や高効率化だけでなく,新材料や新しい仕組みを用いたアクチュエータなどもあり,今後の展開に注目したい.磁気浮上・磁気軸受では,薄鋼板の浮上,ベアリングレスモータ,磁気軸受を用いた発電機[5]などの発表があった.受動式の磁気浮上・磁気軸受やセンサレスなど低コストを目指した研究が多数発表された.超電導関連では,基調講演で超電導リニアの紹介があり,一般講演では超電導コイルによる磁気支持[6]などの発表があった.超伝導コイルを用いた磁気支持では,超電導バルクに比べ,高い支持力やより広いギャップなどが期待できる.医療・福祉応用では,基調講演において障がい者のための福祉機器開発やQOL(生活の質向上)のための取り組みが紹介され,一般講演では人工心臓やその関連技術,内視鏡[7]などの発表があった.また触覚センサ[8]など,今後,福祉機器への応用が期待できる発表も多数あった.電磁力関連技術は,アクチュエータやセンサなど,医療・福祉に貢献できる部分が多く,今後ますます研究が盛んになると思われる.またマイクロ・ナノメカニズムのセッションではMEMS機器の電磁力駆動[9]に関する発表が行われた.MEMS機器ではアクチュエータに圧電素子や静電力が用いられるが,電磁力では低電圧化が可能となる.
電磁力関連の分野では,電磁力解析に進化により,アクチュエータやセンサの高性能,高機能化が行われ,毎年のように新しいアイデアが提案されている.また機能性材料の開発や応用など,今までなかった新しい試みも盛んに行われており,その包含する範囲も確実に広がっている.応用分野も産業応用だけでなく,医療や福祉,バイオ,環境,MEMSなど多岐にわたっており,今後,ますます本分野の重要性が高まってくると考えられる.
評価・診断・メンテナンスに関する論文として,構造物や材料,コーティングなどの損傷メカニズムの解明や非破壊検査やセンシング技術などに関する内容が,日本機械学会論文集に7件,Journal of Advanced Mechanical Design, Systems, and Manufacturingに1件掲載された.弘前大学で行われたD&D2015では,「領域6 スマート構造・評価診断・動的計測OS6-1 システムのモニタリングと診断」にて評価・診断・メンテナンスに関するオーガナイズドセッションが設けられ,3つのセッションで合計11件の発表があった.その内訳は,構造物のモニタリングが3件,計測法が4件,機器の診断が4件であった.本分野の代表的な国際会議であるCOMADEM2015(The 28th International Congress of Condition Monitoring and Diagnostic Engineering Management)がアルゼンチンのブエノスアイレスで開催された.2015年は,X CORENDE(The 10th Regional Non-Destructive & Structural Testing Congress)と同時開催で,85件の一般講演と8件の基調講演があった.また,本部門所属の診断・メンテナンス技術に関する研究会が主催する第14回評価・診断に関するシンポジウム(2015年11月24日(火),25日(水)に福井県国際交流会館)では,6つのセッションで合計24件の発表があった.その内訳は,損傷検知・信号処理が4件,検査ロボット・非破壊検査が4件,振動解析・トライボ診断が4件,音響利用・管理システムが4件, 回転機械診断が4件,潤滑油診断・摩擦摩耗が4件であった.特別講演として,「色研究の歴史と色による汚染物の判定」と「金属光造形複合加工法とアプリケーション」の2件の講演があった.シンポジウムの共催や合同研究会の実施など,他学会(日本設備管理学会,日本トライボロジー学会)との連携も活発に行われている.本分野は,企業の研究成果発表が多く,機械設備や社会インフラ構造の維持管理や保全に関する要求の高まりがうかがえる.特に近年では,ロボット技術やIoTなどの新しい技術に対する積極的な取り組みも必要とされていることから,今後もより一層,分野を超えた連携を進めていく必要があると思われる.
モード解析は,振動・騒音解析の基盤技術として今も国内外で活発に研究されている.しかしながら,とりわけ国内においては大学での学術的な研究の範囲を超えて,企業での製品開発に直結する応用研究の色合いがますます強まっているように感じられる.
国内におけるモード解析関連の研究発表は,Dynamics & Design Conference(以下,D&D)内のオーガナイドセッション(以下,OS)「モード解析とその応用関連技術」でなされることが多い.本OSの2011年から2015年の発表件数を確認すると,ジョイントセッションでの発表分を含めて,古い年から順に30件→26件→26件→14件→24件である.2014年に14件に減じた以外は概ね25件程度で推移しており,D&DのOSの中でも決して少なくはない.本OSの2015年のサブセッション名を確認すると,「車輌への応用」,「伝達経路解析・入力同定」,「加振法・解析法」,「モデル化・寄与分析」となっており,固有振動数やモード減衰比などを予測・同定するというモード解析そのものの研究と,車輌等の振動・騒音解析のための分析法やモデル化技術に大別されるように見受けられる.
日本機械学会論文集で2015年に発行された論文においては,モード解析に直結するものは5本程度しか見当たらない.国内では,自動車産業を中心に振動・騒音解析の技術が発展している現状があり,その基盤技術として「モード解析」は不可欠であるものの,日本機械学会論文集の現状を見る限り,日本機械学会においてはモード解析そのものに関する学術的な研究の活性度が低下している懸念がある.本会論文集で2015年度に発表された論文の中から,特にモード解析と関連の深い論文を選び,研究の中身に着目する.モード解析の知識を用いて材料特性を同定する研究としては,両端自由支持はりに付加質量を与えて線密度の同定を行う研究[1]や,ひずみ分布を有する薄板の幅方向の固有振動数と振動モードより張力分布を求める方法を部分空間法でオンライン化した研究[2]が見られる.モード特性同定法としては,高減衰の円筒シェル構造物の周方向の振動モードが調和関数を基底関数として表現できることに基づき,周方向の空間フーリエ級数を用いてFRFを縮約することで特定の周方向次数の成分のみを抽出し,モード特性同定の難易度を改善した研究[3]が見られる.また,構造音響連成系の解析法としては,連成固有振動数と連成固有モードなどの固有特性が,構造音響連成間伝達率を用いることで音響主体の連成モード,構造主体の連成モードに大別できることを示した研究[4]や,構造音響連成系において,音響系を含む連成系を主系,構造変更の対象とする構造系を付加系と捉えて動吸振器の原理で音圧低減した研究[5]などが見られる.
一方,国外でも,大学での学術的な研究から,企業における振動・騒音解析の基盤技術としてモード解析を研究する状況へのシフトが加速している様子が見受けられる.モード解析を基盤技術として毎年開催される国際会議IMAC(International Modal Analysis Conference)も2015年で33回目の開催となった.今なお約400件の講演が行われ,モード解析の基礎から,機械工学や土木工学,建築への応用まで多種多様な研究が行われている.また,モード解析を基盤技術としつつ,振動・騒音解析全般にテーマを広げて隔年で開催されている国際会議ISMA International Conference on Noise and Vibration Engineeringが2014年に開催された.採択されただけでも400件の講演論文が集まり,参加者も約650名と多数であった.この学会の参加者の半数は企業からである.上述のとおり,企業での製品開発に直結する技術として振動・騒音解析があり,その基盤技術としてのモード解析を包含する研究は,今も加速している現状が確認できる.
日本機械学会での研究会活動は,モード解析研究会が中心となる.2015年の12月には,トピック紹介と国外の論文講読を兼ねた研究会が23名の参加を得て宮城県石巻市で開催された.トピック紹介では,実車状態でのサスペンションブッシュ剛性同定法や,モード解析の双対化などが紹介された.論文講読のテーマとしては,エネルギー解析や波動解析をモード解析と関連づけた内容および振動―音響連成解析の内容が多数を占めた.これらの技術の応用先の多くは自動車関連であり,自動車の振動・騒音解析の基盤技術としてモード解析が多用される中で,種々の技術発展が進んでいる状況が散見される.
本会の計算力学技術者(CAE技術者)資格認定事業における「振動分野の有限要素法解析技術者」認定試験は,モード解析関連の技術に立脚した有限要素法の理解を必要とし,この認定を取得した技術者が新たな指導者となることで,産業界へのモード解析技術の普及が促進されるものと期待される.表1の通り,振動分野の認定試験は2012年の2級に始まり,2013年には1級,2015年には上級アナリストの試験が開始され,これまでに多くの受験者と多くの認定者を輩出している.
マルチボディダイナミクス(多体系動力学)は,多数の物体や部品からなる構造物を扱い,機械の運動や制御に関する学問分野である.当該分野の近年の発展は目覚しく,優れた汎用コードも開発され,有限要素法と並ぶ強力なCAEツールになりつつある.コンピュータを援用したマルチボディダイナミクスを用いることにより,従来までは不可能であった複雑な物体の動力学の解析が可能になった.そのため,機械工学,航空・宇宙工学,ロボティクス,メカトロニクス,バイオメカニクスなどの多岐にわたる分野で応用されている.弘前大学で開催されたD&D2015においては,OS「マルチボディダイナミクス」で21件の発表が行われた.その内訳は,柔軟マルチボディダイナミクスが5件と多く,ロボット・宇宙関連5件,自動車・鉄道への応用問題4件,基礎理論・積分法4件,人体・スポーツ・福祉関連3件と多様な分野で活発な議論が行われた.海外では,2015年6月にECCOMAS2015がスペイン・バルセロナで開催され,281件の講演発表があった.これらの会議では,柔軟マルチボディダイナミクス,ロボット・メカトロニクス制御システム,接触問題・衝突・摩擦関連,自動車関連のダイナミクス,バイオメカニクス・スポーツ工学,鉄道関連のダイナミクス,航空宇宙関連,制御・最適化・感度解析,計算の効率化・リアルタイム処理関連,ソフトウェア開発関連,定式化・計算手法の理論展開,連成解析等のセッションが設けられ,活発な議論が行われた.傾向としては,柔軟マルチボディダイナミクス,ロボット・メカトロニクス制御システムに関する研究が例年どおり多く,連成解析が徐々に増加している.また,本部門所属の研究分科会として,マルチボディダイナミクス研究会(A-TS10-38)が設置され,毎年研究会が開催されている.2015年には2回の研究会があり,大学や企業のマルチボディ研究紹介や国際会議動向調査についての報告など,有意義な情報交換がなされた.ここでは,2015年のマルチボディダイナミクスの研究動向のうち,注目されるいくつかのテーマを取り上げる.
柔軟マルチボディダイナミクスの分野では,大変形する柔軟体と剛体の接触問題に対して,線形相補性問題を用いた解析法の提案[1]やタイヤと路面間の接触問題を高精度に解析するための手法についての研究[2]が報告され,自動車関連のダイナミクスの分野では,サスペンションマルチボディモデルを用いたステアリングHILSシステムについての研究[3]や熱の影響を考慮可能なタイヤモデルの提案およびFEMとMBDタイヤモデルの連成解析についての研究[4]が報告された.また,ロボット・メカトロニクス制御システム分野では,ケーブル駆動ロボットの運動性能を評価するための指標を提案し,数値シミュレーションモデルを用いた検討から評価を行った研究[5]が報告され,連成問題の分野では,粒子法の一種である個別要素法に相補性問題を導入して粒子間の接触問題を表現し,計算効率を向上させた解析手法であるNSCDを用いて,マルチボディシステムと粒状態の連成解析を行っている研究[6]が報告されている.以上より,接触問題の高精度化,FEMとMBDの連成解析など実アプリケーションへの適応に向け,様々な力学問題を詳細に解析することが可能となってきており,当該分野の今後のさらなる発展が期待される.
スポーツ工学では,スポーツをはじめとする各種の身体運動と,主にスポーツ用具・施設・設備・環境との調和を目的として,ハードウェアの開発・評価,身体運動の分析・評価手法の開発,ならびに人間に関わる様々な工学的問題への学際的な取り組みが行われている.例えば,バドミントンのシャトル発射装置について,2つのローラを用いて,高い連射性能を有するとともに,80 m/sを超えるシャトルの最高初速度を達成したもの[1],発射アームの回転によりバドミントンのシャトルを投射するマシンを考案し,その発射性能を明らかにしたもの[2],ゴルフスウィングのダウンスウィング開始からリストターンが始まるまでの加速パターンの違いが,動きの違いにどのような影響を与えているかについて,検討したもの[3],ゴルフのパターに装着した慣性センサの信号を利用して,打球の距離を判別するシステムを構築したもの[4],フライフィッシングのキャスティングにおけるラインの動的な挙動を,フライの質量および空気抵抗を考慮して明らかにしたもの[5],水泳運動における大腿義足の膝関節の動作の効果を検討したもの[6],そして,水球の投球動作における下肢の水中での最適な動作をシミュレーションによって検討したもの[7]などが報告されている.
国内におけるスポーツ工学関係の主な行事として,シンポジウム:スポーツ工学・ヒューマンダイナミクス2015が,2015年10月30日~11月1日に立命館大学びわこ・くさつキャンパスにて開催され,計106件の研究発表に加えて,特別講演,フォーラム,チュートリアルなどが執り行われた.なお,2016年度の同シンポジウムは,2016年11月9日~11月11日に山形テルサ(山形市)に於いて開催予定である.
海外では,2015年9月にスペインのバルセロナにあるロイヤルメルボルン工科大学のヨーロッパ校にて開催された第7回アジア太平洋スポーツテクノロジー国際会議(APCST2015)において93編の口頭研究発表があった.なお,1996年から隔年で開催されているスポーツ工学国際会議(ISEA)は,2016年はオランダのデルフト工科大学にて開催される.
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