9. エンジンシステム

9・1 エンジンシステムを取り巻く状況と研究の動向

エンジンシステムに関わる日本機械学会の学術講演会として,年次大会(9月14日~17日,北海道大学),スターリングサイクルシンポジウム(12月5日,東京農工大学),内燃機関シンポジウム(12月8日~10日,京都テルサ)が2015年度に開催された.年次大会では,エンジンシステム部門企画セッションとして「予混合圧縮着火燃焼」,「ディーゼルエンジンの性能」,「代替燃料」,「PMとDPF」,「ディーゼル噴霧と性能」,「火花点火燃焼と火炎伝播」,「ガソリンノックと潤滑油」と題した7セッションで合計43件の講演があった.また,部門の基調講演として「エンジントライボロジーとレーザ計測」,先端技術フォーラムとして「排気触媒システム技術」,テクニカルワークショップとして「エンジン技術最前線」が企画された.スターリングサイクルシンポジウムでは7セッションで33件の一般講演があった.内燃機関シンポジウムは自動車技術会との共催であるが,2015年度は自動車技術会が幹事学会であった.一般講演として,SI機関,CI機関,ガス機関,新型機関,代替燃料,噴霧,着火,燃焼,ノック,プレイグニション,冷却,伝熱,潤滑,排気後処理,計測,診断に関する29セッションが企画され,合計95件の講演があった.また,「エンジン屋からみた燃料電池,水素エンジン,水素社会に対する期待」,「低温度自着火とはどういうものか」と題した基調講演,および「内燃機関を取り巻くエネルギー事情」,「動き出した内燃機関の産学官連携研究~AICE共同研究の現場から~」と題したフォーラムが企画された.

他学会では,自動車技術会春季大会(5月20日~22日,横浜),自動車技術会秋季大会(10月14日~16日,北九州),燃焼シンポジウム(11月16日~18日,つくば)などが開催された.これらの学会においても,企業,大学,研究機関からエンジンに関して非常に多くの研究発表があり,日本におけるエンジン研究の重要性が示される.

研究動向としては,エンジンの高効率化や低公害化に向けた多岐にわたる取り組みが見られるが,中でも火花点火機関ではノッキングや希薄燃焼に関する研究が,圧縮着火機関では燃料噴霧や燃焼モデルに関する研究が目立つ印象である.

〔首藤 登志夫 首都大学東京

9・2 各種エンジン

9・2・1 乗用車用機関

a.全体概要

2015年の世界市場は,2014年比で2%増の8 900万台超となり過去最高となった.小型乗用車向けの減税処置が導入された中国や年間を通して順調に推移した欧州や米国が全体の増加を牽引した[1].全体の1/4を超える2 460万台を中国市場が占め7年連続世界1位の市場となっている.比較的高価格帯で欧州車がPHEVを精力的に発表し日本車は燃費がさらに上回るHEVを発表してきた.排気ガスに関してはVW社のディーゼル不正問題に端を発し,今後公定モード以外での排出ガスを抑制する議論が進むと予想される.

b.日本の動向

日本の2015年販売実績は前年比9.3%減の505万台で,乗用車は前年比5.5%減の270万台,軽自動車は16.6%減の190万台であった.19%がHEV(ハイブリッド電気自動車),軽自動車が38%を占め低燃費および低価格指向型の市場といえる[2].マツダはデミオにSKYACTIVE-D 1.5を搭載し燃費30.0 km/l(JC08モード燃費)を発売.12月にトヨタは新型プリウスを発売し燃費40.8 km/l(JC08モード燃費)最大熱効率40%を謳っている.

c.ヨーロッパの動向

欧州の総市場は前年比9.2%増の1 420万台,乗用車の販売台数は前年比9.3%増の1 371万台と2年連続増加した.代替燃料車としてはBEV車,PHEV車,FCEV車を含むEV車が前年比108.8%増の14.6万台と大幅に伸びた.HV車も23.1%増の21.7万台に拡大したがその他のAFV車は8.4%減の21.9万台にとどまっている.全体に占める代替燃料車のシェアは4.2%となった[3].ガソリンエンジンとしては,AudiがA4に搭載される2.0リッターGDI Turboエンジンを発表し高圧縮比(ε=11.5)で出力よりも燃費に注力した設計で注目される.ディーゼルエンジンとしては商用車用で燃費と性能を両立するEuro6排気対応の2ステージターボディーゼルが日産とVWから登場した.

d.米国の動向

米国の2015年の新車販売は前年比5.7%増の1 747万台と過去最高となった.乗用車の販売台数は774万台(前年比98%)および小型トラックは973万台(前年比113%)となり,SUVとピックアップの人気が継続している[4].デトロイトモーターショウでは,高性能V型過給機関の発表が多くFordはFord GTにて比出力126 kW/Lの3.5 L V6ガソリン機関を発表した.

e.中国の動向

2015年の乗用車の販売は前年比7.3%増の2 115万台で小型SUVの台数の伸びが著しい.新エネルギー車の販売はEV車24.7万台およびPHV車8.4万台に留まっている[5].

〔鈴木 雅雄 トヨタ自動車(株)

9・2・2 トラック・バス用機関

a.市場動向

2015年の小型四輪車,軽四輪車も含めた国内トラック販売台数は,前年比で約4.0%減の81万7 234台であった.車種別としては,軽四輪車は前年比11.3%減の38万4 796台,小型車は同2.8%増の25万9 936台,普通車は同4.7%増の17万2 502台と,軽四輪車の大幅減少が影響した.国内バスは,観光バス需要が堅調で同11.7%増の1万3 387台と前年(6.5%増)を上回る伸びとなった.輸出車は,トラックが同4.5%減の46万6 776台,バスが同0.2%減の14万1 299台と全体としては減少であったが,中米ではトラックが21.7%増,バスが23.3%増,北米ではトラックが9.3%増,と大幅増加した地域もあった.

b.技術動向

国内では,昨年に続き「平成27年度重量車燃費基準」過達車型の拡大が進んだ.また,実走行時の省燃費技術として,下り坂などの惰力走行時にエンジンブレーキを遮断する機能がトラックメーカ全社で採用された.UDトラックス(株)は大型トラック用GH11(排気量10.8 L)の改良により燃費基準+5%達成車型を拡大した.三菱ふそうトラック・バス(株)は,大型トラック用6R10(12.8 L)の燃費基準+5%達成車型の拡大とともに,大型バス用6R10に新型エアコンプレッサを採用して燃費性能を向上,燃費基準+15%を達成した.いすゞ自動車(株)は,大型トラックのフルモデルチェンジにおいて,6UZ1(9.8 L)を大幅改良した.コモンレールシステムの超高圧化,EGRクーラの高効率化,ターボチャージャの仕様変更などにより,低中速域のトルクアップを図った.更に,エンジンの自動停止と再始動を制御することでアイドリング時の燃料消費を削減し,燃費基準+5%を達成した.また,本モデルは燃料の多様化に対応して,CNG車用6UV1(9.8 L)が新規設定された.日野自動車(株)は,新エンジンとしてA05C(5.1 L)を中型トラックに採用した.燃料噴射圧250 MPaの超高圧コモンレールシステムと2段過給システムの採用,また燃焼圧力の超高圧化に対応した基本構造体の強化により,小排気量でありながら低回転から高トルク化を実現,燃費基準+5%を達成した.またEV走行も可能な新ハイブリッドシステムと組み合せて大型路線バスにも採用し,燃費基準+20%を達成した.海外では,2014年のハノーバーショーにて公開されたMAN社の新エンジンD38(15.2 L)が発売された他,大きな動向がなかったが,既存エンジンの改良によるトルク特性の低回転化や高トルク化などの仕様変更が見られた.

〔佐野 貴弘 日野自動車(株)

9・2・3 オートバイ用機関および船外機

a.オートバイ用機関

2015年(1~12月)の国内二輪車生産台数は52.2万台で,前年の59.7万台に比べ約12.5%の減少となり,2年ぶりのマイナスとなった.以下に日本二輪車メーカー4社(以下,ホンダ,ヤマハ,カワサキ,スズキ)が2015年に発売した新エンジンについて紹介する.

ホンダは新開発の998 cc・水冷・4サイクル・OHC・4バルブ直列2気筒エンジンを搭載した新モデルを発売した.4バルブユニカム,潤滑方式にセミドライサンプ,270度位相クランクシャフト,2軸プライマリーバランスシャフトによって,扱いやすさと,リアタイヤのトラクションが感じとれる出力特性,そして心地よいパルス感を実現した.

ヤマハは新開発の320 cc・水冷・4サイクル・DOHC・4バルブ直列2気筒エンジンを搭載した新モデルを発売した.強度に優れた浸炭コンロッド,低振動に貢献するアルミ製鍛造ピストン等を投入し軽量化を実現させながら,コンパクトな燃焼室内で混合気の縦渦(タンブル)を積極的に生成させ,素早い燃焼促進による優れた出力・トルク特性を実現した.

カワサキは新設計の998 cc・水冷・4サイクル・DOHC・4バルブ直列4気筒エンジンを搭載した新モデルを発売した.クランクシャフトの慣性モーメントを低減することで,コーナー立ち上がりの加速力を強化し,シャープなハンドリングも実現した.また,電子制御スロットルバルブを採用することで,燃焼効率をさらに向上させ,2016年から適用される新排出ガス規制「ユーロ4」もクリアした.

スズキは新設計の998 cc・水冷・4サイクル・DOHC・4バルブ直列4気筒エンジンを搭載した新モデルを発売した.ボア×ストロークを73.4 mm×59.0 mmとスポーツエンジンにしてはロングストロークに設定し,圧縮比の最適化とフラットトップピストンの採用により,全回転域においてスムーズな出力特性,滑らかなスロットルレスポンス及び俊敏な加速性能を実現した.

〔小野 正樹 スズキ(株)

b.船外機

主要市場であるアメリカでの2015年における船外機出荷台数はNMMA(アメリカ船舶工業会)によると24.8万台であった.一昨年2013年の出荷台数22.4万台から前年2014年は23.7万台と,リーマンショック以後からの冷え込みに対し回復の兆しを見せている.

一方,2010年から始まったEPA(米国環境保護庁)の排ガス規制強化に同調し,カナダ,日本(自主規制),ヨーロッパでも排ガス規制強化の法規が発行された.各国の排ガス規制に対応すべく,各社は電子制御燃料噴射システムなどにより環境性能を向上させたモデルを投入している.

ヤマハは軽量コンパクトと高性能を両立したバスボート専用VMAXシリーズの新モデルとしてF185Aを発売.ホンダはBF90をベースにクラス最軽量(2015年11月調べ),リーンバーン制御による低燃費を実現したBF100を発売.スズキはリーンバーン制御により低燃費を実現した新モデルDF200APを発売した.

〔仲野 洋平 スズキ(株)

9・2・4 汎用機関

a.エンジン生産の動向

日本陸用内燃機関協会の統計によると2015年の汎用機関の国内ガソリンエンジンの生産は,395万台前年比97.4%,金額ベースで482億円前年比98%である.ディーゼルエンジンは148万台前年比95.6%,金額ベースで397億円前年比94.6%である.ガスエンジンは,8.6万台で前年比86%であるが,金額ベースでは13億円101%でほぼ横ばいある.国内生産台数は2014年拡大基調であったが,2015年は縮小する傾向がうかがえる.海外工場での汎用機関の生産は,ガソリンエンジンは970万台前年比98.4%出力ベースで前年比95.6%,ディーゼルエンジンは,47万台前年比98.4%であるが,出力ベースでは前年比101.7%で高出力化していると考えられる.海外生産台数も2014年は拡大基調であったが,2015年は減少傾向にある.ガソリンエンジンの71%は海外工場で生産されているが,ディーゼルエンジンは,76%が国内で生産されており,逆の傾向が見られる.

b.排気ガス規制の動向

国内の大気汚染防止法の定置用ディーゼル,ガソリンとガスエンジンのNOx規制値は比較的厳しくなく,唯一GHP用ガスエンジンのガイドラインが10モードで100 ppm以下と低い.地方自治体の条例による排気ガス規制が厳しいので定置用エンジンはガスエンジンしか生産されていない.小形汎用ガソリン19 kW以下では陸用内燃機関協会の自主規制が行われ2015年からさらに厳しい規制が行われている.19 kW以下の小形ディーゼルの自主規制は変更がないが,各国の排気ガス規制は,アメリカのEPAとヨーロッパのEuromatに追従する傾向があり,常に動向に注視する必要がある.小形ディーゼルの排気ガス対策は一段落した感がある.しかし,ヨーロッパの19 kW以上ディーゼルoff road stage5では,全てのディーゼルエンジンにDPFが必要になると予想されているので,開発が必要になると思われる.また,カリフォルニアではさらにNOxを低減する動きがある.

c.新技術の動向

新技術としては,携帯用ガソリンエンジンに三元触媒と燃料噴射,酸素センサーのシステムを使用し,大幅な排気ガスの低減を実現したエンジンが開発された.2輪車用に小形の噴射装置,酸素センサーの開発が行われ電子制御化が進んだ.農薬散布に使用されるヘリコプター型無人機は,従来2サイクルガソリンエンジンにキャブレターが使用されていたが,4サイクルガソリンエンジンにガソリン噴射が使用され,高出力化と高効率化,排気ガスの浄化が達成された.従来小形ディーゼルを生産していたが,同じベースエンジンを使用してガソリン,LPG,CNGを開発し市場投入をおこなっている.さらに厳しくなる排気ガス規制に対応するためと考えられる.小形ディーゼル排気ガス後処理装置として,DPFとSCRを一体化して小型化と抵コスト化を図った装置が開発された.再生可能エネルギーとしては汚泥消化ガス,畜産と食品から発生するメタンガス,水溶性自噴ガスによるメタンガスを使用する小形ガスエンジンが実用化されている.

〔中園 徹 ヤンマー(株)

9・2・5 建設機械および鉄道車両用機関

建設機械用機関については,2014年より第四次排出ガス規制が米国(EPA Tie4)および欧州(EU StageIV)で実施され,国内においても平成26年規制として特殊自動車(オンロード特殊自動車)と公道を走行しない特殊自動車(オフロード特定特殊自動車)において施行されている.2014年の規制対応では機関本体の改良はもとより更なる後処理装置の装着または強化が必須となっており主としてNOx低減のための後処理装置を導入することで対応している.基本的な低減手段としてはPMはパティキュレートフィルタまたは酸化触媒により低減し,NOx低減に対しては,尿素SCRシステムによる後処理装置をほとんどの機関が採用している.また今回の規制からはブローバイガス還元装置の備え付けが義務付けられている.平成18年規制の基準に対してはNOxおよびPM共に排出量はおよそ9割削減されて,建設機械・農業機械・産業車両等に代表される特殊自動車もオンロード用車両と同様のレベルにまで改善されつつある.また2014年規制からは排ガス低減システムが適正に働いているか否かを判断し異常時には有害排出ガスの増大を防止するようなシステムを組み込むことが求められている.基準値そのものだけではなくシステムが常に正常に働いていることを監視するための故障診断システムと異常時の機械への出力および稼働時間に対する処置が求められている.今回の規制で排出ガス規制は一段落してきているが欧州においては自動車に続きオフロードでも微小粒子状物質に関して粒子数の規制がstageV(2019年)として提案されている.排気ガス対策と並行して地球温暖化対策としてCO2低減の観点から機関および車両システムとしての燃費低減が強く求められており,各社ではハイブリッド車も含めての新規車両開発が進められて,ショベルやホイールローダなどで製品化されてきている.

鉄道車両用機関については,ハイブリッドシステムに関する開発が促進されて議論を活発化させると共に小海線での営業運転の開始以降JR各社ではハイブリッド車両の開発が進められ量産化されて2010年から2015年にかけて営業運転エリアが拡大している.

〔岡崎 達 (株)IPA(コマツ開発本部)

9・2・6 舶用および発電用機関

舶用ディーゼル主機関を生産している国内主要ディーゼルエンジンメーカー11社の2015年1月~12月の生産実績は,889台,777万馬力であった.2014年の919台,796万馬力より台数,生産馬力ともに若干減少した.2014年は過去数年間続いた減少傾向からようやく増加に転じたものの,僅か一年で若干ではあるが減少した.また,2015年末の手持ち工事量は11社合計で775台,962万馬力で2014年末の845台,946万馬力に比べ,台数は減ったものの,生産馬力は増加している.日本の造船所が得意としてきたばら積み船が船腹過剰気味なため,コンテナ船やタンカーなどの船種の製造へ切替えることで,エンジンが大型化したものと思われる.

IMO(国際海事機構)でのNOx,SOx,GHG排出規制に関し,いよいよ2016年からNOx三次規制が始まった.今後はほぼ全てのエンジンに規制対応が求められるため,この後,造船所においては,機関室の新設計が本格化する.従い,各エンジンメーカは,より詳細な技術情報の提供が求められている.

次に,2015年には,三井造船において,環境に優しい燃料として注目を浴びているLNGを主燃料とする舶用デュアルフューエルディーゼルエンジン「ME-GI」の国内初号機が完成した.これに続き,ディーゼルユナイテッド社からは中速ガスエンジン技術を応用したタイプの低速ガスエンジン「X-DF」の初号機を出荷したとの報告があった.さらに,三井造船からは,世界初のメタノールを主燃料とした「ME-LGI」も出荷された.今後の燃料としては,エタンやLPGも注目を浴びている.舶用ディーゼルエンジンが電子制御化されて10年以上が経過したが,2015年は,それに続き,また,新たな時代に突入した年となった.

〔田中 一郎 三井造船(株)

9・2・7 ガスタービン

2015年12月に国連気候変動枠組み条約第21回締約国会議COP21で採択された「パリ協定」は,米国や中国も参加する温暖化対策の国際ルールとなり,2020年以降の温室効果ガスの削減目標作成と5年毎の見直しを全ての国に義務づけた.日本政府は2030年度に2013年度比26%削減する新しい目標を7月に提案しており,その算出根拠として2030年度の電源構成の目標を示している.再生可能エネルギーの割合は22~24%,ガスタービンに関連が深いLNG火力の割合は27%,石炭火力の割合は26%となっている.石炭火力においてもUSC,A-USCだけでなく,ガスタービンが必要なIGCCの運転が想定されている.一方,太陽光発電の大量普及時には,太陽光発電部分を差し引いた電力需要が昼間に落ち込み,夕刻に需要ピークが来る「ダックカーブ問題」が発生し,現状の火力発電の調整能力を超える急激な電力需要の立ち上がりに対応する設備が必要となる.また天候等に発電量が影響される再生可能エネルギーに対応したバックアップ電源の準備も必要である.かかる状況を踏まえ,起動の高速化など運用性が改善された大型ガスタービンが開発されてきているが,現在の技術では発電効率が犠牲となっている.この課題に対応する研究開発がNEDO予算で3月に開始された.航空機産業は市場規模の拡大が続く成長分野で日本は世界シェアの拡大を目指しており,MRJの初飛行など話題が豊富であった.航空エンジンでは,アフターサービス体制を整えた米国でHonda-GE HF120エンジンが搭載されたホンダジェットの販売が開始され,100機を超える受注を得ている.また,JAXAの次世代航空イノベーションハブがスタートし,グリーンエンジン技術の研究開発が進められている.

6月には第60回となる記念大会のASME Turbo Expo 2015がモントリオールで開催された.論文総数は1 051編と減ったが,パネルセッションやチュートリアルセッションなどの論文以外のセッションが多く開かれた.地域別の投稿数においてヨーロッパ522編,北米276編,アジア237編となるなど,アジアの存在が大きくなっている.4年に1回開催されるIGTC2015 Tokyoが虎ノ門ヒルズで開催され,発表論文数は213件と過去最高となった.また12月にはICOPE-15が横浜で開催された.これら国際会議において,航空エンジンを中心にCMCの開発が盛んとなっており,アディティブ・マニュファクチャリングも注目されている.発電用ガスタービンの開発ではここ数年超臨界CO2タービンの発表が多い.燃料多様化では水素や水素リッチ燃料への対応技術の開発が進められている.また,モニタリング技術をさらに進めて,大量計測データから異常予兆を発見する技術も研究開発が進められている.

〔壹岐 典彦 産業技術総合研究所

9・2・8 スターリング機関

国内外で研究・開発,あるいは製品化されているスターリング機関の用途としては,木質バイオマス燃焼発電,太陽熱発電,内燃機関やごみ焼却と組み合わせた排熱利用発電,家庭用ヒートポンプ,さらに一部の海中動力源(潜水艦)などがある.アメリカおよびヨーロッパ諸国のメーカは,今までに蓄積してきた技術を活用して,これらの用途に用いるための機関を商品化している.

国内では,2014年11月に電気事業法に関連した省令が改正となり,発電出力10 kW未満のスターリングエンジン発電設備が一般用電気工作物に規定された.そのため,設備の設置が容易になり,木質バイオマスボイラとスターリング機関を組み合わせた給湯・冷暖房・発電設備の開発などが活発に進められている.その一例としては,南相馬市大町地域交流センターに設置されているサクション瓦斯機関製作所製木質バイオマス燃焼10 kW級スターリングエンジン発電システムの実用運転がある.太陽熱発電並びに排熱利用発電については,一部のメーカによって出力数kW~数十kWの機器を受注生産する段階にある.また,学術・研究機関においても,これらの再生可能エネルギーやシステムの省エネ化を目指した研究開発が活発に進められている.その中でも熱音響機器を用いた排熱利用発電は昨今注目を浴びている研究課題である.

スターリング機関を搭載した海上自衛隊のそうりゅう型潜水艦は,1番艦が竣工してから既に7年ほどの歴史があり,2015年には6番艦の「こくりゅう」が竣工している.中国でも同様のAIP(非大気依存推進:Air Independent Propulsion)を搭載した潜水艦が就航しているとのことであるが,詳細については公開されていない.

〔平田 宏一 海上技術安全研究所

9・2・9 燃料電池

2020年に東京で開催される予定のオリンピック・パラリンピック競技大会において日本の水素エネルギー技術を世界に発信し水素社会実現の契機とする方針が打ち出され,燃料電池自動車などの水素利用システムの普及促進について各方面で検討や推進活動が進められている.2014年度は水素社会構築や燃料電池自動車普及促進策などの検討が政府や東京都において活発化したが,このような検討が2015年度も引き続き行われた.燃料電池バスの走行実証実験も行われ,東京都では2020年までに100台の燃料電池バス導入を目指す計画である.また,従来から水素関連の研究センター等を有する大学が国内に複数あるが,2015年度は新たに東京工業大学や首都大学東京において水素利用技術や水素エネルギー社会に関する研究組織を立ち上げる動きが見られた.

2014年12月に発売されたトヨタ自動車の燃料電池自動車に続いて2016年3月に本田技研工業から燃料電池自動車が発売された.この自動車には最大発電出力103 kWの固体高分子型燃料電池スタックが搭載されている.スタック自体の体積出力密度は3.1 kW/Lに達しており,これはトヨタ自動車の燃料電池自動車と同一の値である.高い発電出力密度を達成するために,2段過給電動コンプレッサーによりカソード空気を加圧して供給しているのが特徴の一つである.燃料電池スタックに燃料/空気供給系,昇圧コンバーターおよびモーターを加えたシステムのサイズは,同社の排気量3 500 ccのV型6気筒ガソリンエンジンと同等である.このコンパクトな構成により,世界で初めて燃料電池スタックをセダン型自動車のフロントフード下に搭載することが可能となった.これはエンジンを搭載するハイブリッド車など他の方式の車両とプラットフォームを共用する上で有利である.なお,この燃料電池自動車はリチウムイオンバッテリーを搭載したハイブリッド構成であり,走行用モーターの最大出力は130 kW/4 501–9 028 rpm,最大トルクは300 Nm/0–3 500 rpmである.また,水素貯蔵容積は141 Lであり,70 MPaの充填圧で約5 kgの水素を貯蔵する.この水素量を低位発熱量でガソリンに換算すると18 L程であるが,1回の充填によりJC08モードで約750 kmの走行が可能ということである.これは,現在の市販ガソリンエンジンハイブリッド車と同レベルのエネルギー効率を既に実現しており,今後の改良によりFCVのエネルギー効率はさらに向上することが予想される.

〔首藤 登志夫 首都大学東京

9・2・1の文献

[ 1 ]
MARKLINES社発表値:LMC Automotive(英調査会社)による2015年世界自動車販売台数速報.
[ 2 ]
日本自動車販売協会連合会, 全国軽自動車協会連合会 発表.
[ 3 ]
ACEA(欧州自動車工業会)発表.
[ 4 ]
Autodata, U.S. Market Light Vehicle Deliveries 発表.
[ 5 ]
中国汽車工業協会 発表.

 

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