アベノミクスによる円安効果で日本企業の輸出競争力も高まったものの,中国の景気減速により,国内粗鋼生産は1億515万tonとなり,昨年に比べ5%減少した.一方,世界の粗鋼生産量は16億6 200万tonであった.中国の粗鋼生産量が減少したため,昨年の16億6 000万tonから4 000万トン減少し,16億2 200万tonとなった.中国の粗鋼生産量は,2 000万tonほど減少し8億400万tonであったが,依然として全世界生産量の50%を占める.中国国内にはそれだけの粗鋼を消費する需要はなく,昨年は1億tonが輸出される事態となっている.他方,新日本製鐵(株)と住友金属工業(株)が2012年10月に経営統合の効果で,2015年度では年率2 000億円の統合効果見込みが報告された.
新日鐵住金(株)君津製鉄所において,第3高炉を休止し,2基体制となった.また,小倉第2高炉も休止となった.JFEスチールでは,東日本製鉄所(京浜地区)に鋼管純亜鉛めっき設備を導入するとの発表があった.神戸製鋼加古川製鉄所では,8月には新溶銑処理工場に2基目の脱りん炉建設するとの発表があった.
環境・エネルギー,プロセス,材料分野で公的資金による研究が多く行われている.環境調和製鉄プロセス技術開発(COURSE50)は,CO2排出の抑制と,CO2の分離・回収により,CO2排出量を約30%削減する技術を開発するというもので,2030年頃までに技術を確立し,2050年までの実用化・普及を目指している.現在,Phase1(Step2)が行われ,ミニ試験高炉部分確性を行っている(www.jist.or.jp/course50).材料関係では,革新的構造用金属材料創製を目指したヘテロ構造制御に基づく新指導原理の構築が継続中である.強度,延性,じん性,加工性,耐環境性など,従来は両立が困難であった複数の機能を同時に向上させるような革新的な材料の確立を目指し引き続き研究が行われている(www.jst.or.jp/kyousou/theme/).また,2013年度から新たに革新的構造材料技術開発(2013–2022)がスタートした.19企業,1独法で構成されるISMA新構造材料技術組合(岸輝雄理事長)を構成し,高強度鋼板,非鉄金属,CFRP,それらの異種接合によるマルチマテリアル化による輸送機器の構造材料の革新を目指した研究がスタートした(isma.or.jp).1.2 GPa級の超ハイテンや0.01%Cの分析が可能なFE-EPMAの開発などの報告があった.さらに,2014年度は,内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム,SIPプロジェクトがスタートした.航空機産業を中心にすえた革新的構造材料の実現に向けたプロジェクトが10プロジェクトの中のひとつであり,2015年度は2年目となった(www8.cao.go.jp/cstp/gaiyo/sip).
JFEスチールでは,建築構造用低降伏比780 N/mm2級高張力厚鋼板が新宿東宝ビル新築に初採用された.また,巨大地震に対応できる制震ブレース用550 MPa級高張力厚鋼板も実用化された.また,高伸びと高穴広げ性を両立した980 MPa級高張力冷延鋼板が開発された.新日鉄住金は,港湾設備を超長寿命化できる鋼矢板・鋼管矢板向けチタンカバー・ペトロラタム被覆工法が,沖縄県の漁港で初の大規模採用された.また,高耐食性めっき鋼板が「高強度耐力壁」として用いられ,4階建てスチールハウスの工事に初めて適用された.神戸製鋼は,船舶用鋳鍛鋼品の高強度中間軸が世界で初めて国際規格に採用された.山陽特殊製鋼では,真球度が高く,流動性に優れた,高融点の金属粉末を開発した.高融点金属を含む幅広い種類の製造が可能で,流動性50%向上した.
昨年に引き続き,構造材料関係の大型国家プロジェクト,ヘテロプロジェクト,ISMA,SIPという3つ行われるという鉄鋼材料にとっては,大変よい環境を迎えている.成果も順調に出つつあり,産官学連携して,革新構造材料の研究開発に取り組む体制を確固たるものになることを期待したい.
アルミニウムの生産量は3年間横ばいの状況である.2015年の箔を除く展伸用アルミニウム合金の製品の生産量は2 007 976トンで前年比2%の増であった.板製品の生産量は1 260 776トンで前年比の8%の増,押出製品の生産量は747 200トンで前年比の8%の減少であった.板製品の増加は,飲料缶や自動車パネル用の板材の増加による.国産缶の出荷量は前年比10%増の222億缶であり200億缶を初めて上回った.コーヒーなどの非アルコール飲料向け25%の増であったがビールは1%の減少であった.押出材は,アルミサッシ用の形材の減少が影響した.ダイカストの生産量は951 715トンで前年比2.4%の減少,鋳物は418 530トンの前年比0.3%の増加であった.ダイカストは自動車用が847 977トンと前年比2.5%の減少となった.鋳物は自動車やその他の輸送機械用が398 994トンで前年比0.4%の増となった.自動車を除く輸送機械は前年比11.2%の増であった.
2015年のマグネシウムの生産量は詳細な報告がまだなされていなので示すことができないが,2014年と比較して大きな変動はないようである.また,国内の研究の報告も欧米と比較すると以前より少ないが,国プロ関係の難燃性マグネシウムの報告が見受けられた.
2015年の伸銅製品の生産量は765 994トンで前年比0.4%の減少でリーマンショック以来の低水準となった.銅製品の393 877トンで1%の増加であった.銅製品では,条が前年比6%の増加であった.黄銅製品は321 025トンで前年比3%の減少であった.黄銅製品の生産量は板が6%,条が7%,管が11%,棒が1%の減少で線だけが10%の増加でほとんどの製品で減少した.半導体リードフレーム用,自動車用,エアコン向けなどが減少したためである.世界に目を向けると銅地金の需要は前年比2.3%の増加となった.
2015年のスポンジチタンを主とするチタン原料の輸出は20 618トンで前年比28%増加となった.しかし,日本以外では減少した.これはリサイクルの進展によるスクラップへの原料シフトや展伸材加工の下工程強化による輸出品の高付加価値化といった需要構造の変化によるものと言われている.米国を例にとるとチタンスクラップの輸入は21 964トンで前年度比14.3%の増で過去最多となった.国内外の航空機関連のメーカーから再溶解原料を戻すリサイクル体制が軌道に乗ったためとされている.日本のチタン展伸材の出荷量は15 495トンで前年比10%の増加となった.主に船舶用の板式熱交換機や中東地域の海水淡水化プラント向けの輸出の増加が影響した.
(一社)日本ファインセラミックス協会(JFCA)が毎年実施している産業動向調査[1]によれば,2014年のファインセラミックス部材の総生産額は2兆3 131億円(前年比11%増)であった.これは,2009年度のリーマンショック後の生産額1兆5 785億に比すれば47%増であり,多くの製造品において顕著な回復傾向が認められる.内訳を見ると,主要製品である電磁気・光学用部材が前年比13%増(1兆5 834億円)となったのに加えて,工具・耐摩耗部材などの機械部材が前年比17%増(2 869億円),熱的・半導体関連部材は前年比7.5%増(2 324億円)と,幅広い分野で市場が好調に推移している.電磁気・光学用部材はスマートフォンやタブレット端末に代表されるモバイルIT機器の市場に,また,機械部材は自動車の市場に大きく影響されるが,2014年はこれらのマーケットがおおむね好調だったことが大きい.ファインセラミックス全体の市場おける各品目の構成比については,2010年度以降大幅な変化は見られず,機械的部材に関してはファインセラミック市場の約12%で推移している.
2015年6月に北海道大学で開催された年次大会において,「セラミックスおよびセラミックス系複合材料」と,「自己治癒材料・システム」のオーガナイズドセッションが企画運営され,計12件の講演があった.また11月に広島大学で開催された機械材料・材料加工技術講演会では,セラミックスおよびセラミックス系複合材料のセッションにおいて11件の講演があった.講演内容を評価材料で分類すると,圧電セラミックス,熱電セラミックス,バイオセラミックス,自己治癒セラミックス,繊維強化セラミックスなど多岐に及んでいる.特に,自己治癒セラミックスに関しては特別セッションも含めて多くの研究発表がなされており,近年における当該分野の進歩を反映している.いずれの講演会でも別のセッションにおいて,多孔質材料など,ファインセラミックスに関する講演が数件あった.これらの講演会に共通する傾向としては,大学・公的研究機関からの講演が,依然多くの割合を占められていることがあげられる.
航空エンジンへの長繊維強化セラミック複合材料(CMC)への適用が米国および欧州で本格的に進みつつある現状を踏まえ,我が国でも内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP),NEDO次世代構造部材創製・加工技術開発プロジェクト,JAXAによるaFJRプロジェクトなど,CMCの実用化にむけた素材,プロセス,コーティング,設計などの研究開発が,官民をあげて進められている.今後,国内外の研究開発動向が注目される分野である.
2015年におけるわが国のプラスチック原材料の生産実績は前年比2.1%増の1 083万tである.0.3%増の2014年からさらに増加したが,後述のように熱可塑性樹脂の増加が大きい.熱硬化性樹脂全体の生産量は86.7万t(5.3%減)である.主な内訳は,フェノール樹脂(27.8万t(2.1%減)),ユリア樹脂(6.4万t(1.5%減)),メラミン樹脂(7.9万t(2.5%減)),不飽和ポリエステル樹脂(9.7万t(5.8%減)),エポキシ樹脂(11.6万t(6.5%減))である.一方,熱可塑性樹脂全体の生産量は975.4万tで2014年比3.1%増となった.主な内容は,ポリエチレン(260.9万t(1.1%減)),ポリスチレン(75.4万t(3.1%増)),AS樹脂(8.1万t(8.0%増)),ABS樹脂(37.6万t(5.6%増)),ポリプロピレン(250.1万t(6.5%増)),メタクリル樹脂(15.3万t(2.0%増)),ポリビニルアルコール(22.7万t(0.9%増)),塩化ビニル樹脂(164.3万t(11.2%増)),ポリカーボネート(29.4万t(3.3%減)),ポリエチレンテレフタレート(43.1万t(6.9%減)),ポリブチレンテレフタレート(18.9万t(8.6%増))などとなっている.
2012年に見直しを受けた用途別FRP出荷数量統計について2014年分について示すと(カッコ内は前年比%),合計245千t(4.3%減)となった.その内訳は,建設資材33.4千t(5.4%増),住宅機材74.3千t(7.1%減),浄化槽27.9千t(5.1%減),舟艇/船舶6.4千t(17.9%減),自動車/車両19.9千t(増減なし),タンク/容器18.2千t(1.1%減),工業機材24.2千t(5.8%減)などとなっている.
国内で開催された複合材料に関わる行事として,2016年3月に第7回日本複合材料会議(JCCM-7,日本材料学会,日本複合材料学会主催,京都)が行われた.この会議は「日本を代表する複合材料に関する会議」の設立を目的に2010年京都で第1回が行われ,第2回(2011年東京にて開催予定でった)が震災で講演中止となったものの,その後毎年京都と東京で交互に行われているものである.近年の複合材料の自動車やエネルギー関連応用への期待の高まりを背景に,講演数,参加者数ともに増加傾向にあり,活発な研究発表,議論がなされている.また,2015年9月に第40回複合材料シンポジウム(日本複合材料学会主催,金沢),10月に第60回FRP総合講演会・展示会(FRP CON-EX)(強化プラスチック協会主催,東京)が開催された.共に第40回,第60回を迎え,歴史ある国内会議としての地位を確立している.これらの会議では,それぞれ学術側,産業側がメインとなり特色ある会議となっており,バイオ及びグリーンコンポジット関係を含む最新の材料開発や応用研究が多く発表されている.また,ナノコンポジット研究についてはその進展は著しく,分子シミュレーションを援用した研究が急増している.さらに,国内会議としては,日本機械学会関連の会議(年次大会(9月(北海道)),機械材料・材料加工技術講演会(11月(広島)),材料力学カンファレンス(11月(横浜)))において高分子・高分子基複合材料のセッションが組まれ,多くの研究発表がなされている.国際会議に目を向けると2015年はデンマークで第20回複合材料国際会議(ICCM-20)(7月)が開催された.
2015年における鋳鉄(銑鉄鋳物,鋳鉄管と可鍛鋳鉄),鋳鋼品,非鉄鋳造品(銅合金,アルミニウムとダイカスト)および精密鋳造品を合計した鋳物の総生産量は540万tであり,2014年の総生産量556万tに対して,若干の減少傾向を示した.総生産量が695万tとピークであった2007年と比較して,2015年は77%の数値まで落ち込んでいる.銑鉄鋳物は332万tで前年と比較して95%に減少している.用途別では,自動車を含む輸送機械用が234万tで前年比95%と減少し,産業機械器具用,金属工作・加工機械用を含む一般・電気機械用は85万tで前年比96%と減少した.鋳鉄管は39万tで,前年比114%と増加した.可鍛鋳鉄は4.3万tで前年比97%と減少した.鋳鋼品は船舶,土建鉱山機械,鋳鋼管,破砕機・摩砕機・選別機などを中心に合計15.7万tが生産され,前年比91%と減少している.非鉄鋳物では,銅合金鋳物が7.8万t,アルミニウム鋳物は41.7万tの生産量で前年とほぼ同等である.ダイカストは97万tで前年比97%と減少した.精密鋳造品は5 861 tで前年比88%と大きく減少した.鋳造品に関して2014年が前年より増加傾向であったことに対して,2015年は全体的に減少傾向を示している.2011年からの過去5年間の推移をみると,鋳鉄鋳物全体の生産量は,1年毎に増加,減少を繰り返している.銑鉄鋳物に関しては2012年をピークに減少し,鋳鉄管に関しては2011年がボトムであり,そこから年々増加し2015年では2011年と比較して134%生産量が増加した.可鍛鋳鉄,銅鋳物,アルミ鋳物は,ほぼ横這いであり,ダイカストにおいては1年おきに増減を繰り返している.鋳鋼に関しては,2011年をピークに,2015年で生産量が71%も大幅に減少している.日本での鋳造品生産量の減少傾向に対し,海外の生産量は年々増加傾向であり,特に中国では年度毎平均15%増加している.国内生産の鋳物品よりも安価な海外生産品にシフトしていることが推察される[1].
(公社)日本鋳造工学会では,「3D積層造型鋳型を用いた鋳造技術」,「環境に配慮した鋳造設備技術」,「銅合金鋳造技術の進展」,「精密鋳造の最新技術」などの最新のRP技術を用いた製法などや環境に配慮した鋳造工程など次世代型の鋳造工場を目指した研究開発が多く報告されている[2, 3].
圧延分野では,異周速圧延や片側駆動圧延などの非対称条件での圧延における反り変形の解析や,その反りを利用して管材の製造に利用する報告がある.また,熱間圧延時のスケールによる表面疵が問題となっており,スケールに関する研究が行われている.その他,加工対象としてCFRP薄板の製造に圧延を利用する方法が提案されている.
板材成形の分野では,素材として高張力鋼板は多くの報告があり,CFRPについても盛んに研究報告されている.高張力鋼板やアルミニウム合金板の異方硬化特性や成形限界予測に研究が多く見られた.また,熱可塑性CFRPのプレス加工や変形メカニズム解明,有限要素解析など,熱可塑性CFRPに関する報告が急増している.材料試験には多軸試験に関する物が多数見られた.摩擦撹拌インクリメンタルフォーミング,レーザピーンフォーミング,スピニング加工などの逐次成形に関する報告や,インクリメンタルフォーミングによって曲げ加工を施されたものを平坦化加工したリサイクル板材の材料特性や成形性などが発表されている.
鍛造・押出しの分野では,サーボプレスのスライドモーション制御を利用したものが多数報告されている.特に寸法精度におよぼす素材温度や塑性発熱,金型―被加工材間の熱伝達特性の影響など,冷間加工における熱の影響に注目した研究がいくつか見られた.また,通常は鍛造加工では重要視されておらず板材成形で取扱われている材料特性としての複合硬化則を,鍛造加工のシミュレーションに適用して,その影響が明確に見られることが報告されている.2015年は塑性加工連合講演会において「鍛造加工における素材・工具間界面現象に関する研究の最新動向」というテーマセッションが組まれたため,鍛造加工における潤滑特性や摩擦特性を測定する手法としてその場観察できる方法や高温試験,リング圧縮試験に関する研究や潤滑剤の開発に関する発表が多数見られた.板鍛造に関する報告は2014年までは非常に多かったが2015年はそれほど多くはなかった.押出しに関しては,報告数があまり多くはなかったが,押出によるボンド磁石の高強度化や純銅のねじり押出による超微細結晶化,多層材の押出しに関する研究報告があった.
塑性接合に関する研究が国内外において盛んになってきており,メカニカルクリンチングやヘミング加工,リベットによる高張力鋼板やアルミニウム合金板の接合などが報告されている.また,摩擦撹拌接合に関する研究報告が急増しており,鋼やアルミニウム合金の接合だけでなく,鋼―アルミニウム合金などの異種材料の接合に関する研究報告が多数見られた.鋼の摩擦撹拌接合では工具寿命が問題となるため,サーメットやコバルト基合金などの工具材料の開発も盛んに行われている.
そのほかの傾向としては,3Dプリンタやレーザ加工,マイクロ塑性加工,チタン合金の加工技術を応用した生体医療材料の加工に関する研究報告が増加している.マイクロ塑性加工に関する研究も盛んである.マイクロ塑性加工では結晶粒径や再結晶,加工誘起変態などの材料微細組織が加工特性に及す影響に関する報告が多い.また,マイクロ塑性加工においてもサーボプレスや超音波を利用した加工法が多数報告されている.
3Dプリンタやナノ・マイクロ加工が市場を賑わせている一方,既存のプラスチック成形プロセス技術の変革と改良が並行して行われている.また,環境調和を代表とした社会的ニーズに応えるべくものづくりが進められ,部材の樹脂化,高強度化,コスト低減化が一段と進められている.以下に代表的な成形加工技術である射出成形,押出し成形およびブロー成形の動向について紹介する.さらにプラスチック系複合材料やリサイクル分野の動向についても紹介する.
射出成形は,自動車,情報通信機器,家電機器を中心に薄肉軽量化のニーズに対応した成形技術開発が進められ,とくに大型部品の薄肉成形,軽量化,高強度化を対象とした成形技術が注目される.大型部品の薄肉成形では,多点ゲートによるウエルドの強化や離型性の改善が要求され,樹脂流動シミュレーションを活用した金型の最適化設計を検討している.ナノ・マイクロデバイスの量産法としてはナノインプリント技術が注目される.既存のリソグラフィー技術と比べて,低コストでサブミクロンサイズの微細パターンを形成できる.この技術を用いて,防汚性や光透過性を付与した機能性フィルムが開発されている.パターンの加工寸法や精度向上を目指し,樹脂の微細加工特性,物性評価や成形加工条件の最適化に関する技術改良が図られている.また,高剛性・高強度化を目指す長繊維強化では,シリンダ内における繊維の破損を抑制するため,長繊維専のスクリューや繊維を直接シリンダ内に供給できる成形機の開発に力点が置かれている.他方で強化繊維を金型内でプリフォームした後,低粘度樹脂を用いて射出反応成形を行う方法や化粧品容器のデザイン性向上を目指した加飾成形の事例がある.
押出し成形は,二軸押出し機を中心に混練,分散および反応制御の精度向上を目指し,設備と材料の両面からの検討が続いている.吐出の高速化のための成形機やスクリュー形状の改良,シミュレーションによる最適化などがその計測技術と併せて行われている.また,成形品の高付加価値化や高機能化に向けたカーボン繊維やカーボンナノチューブなどとのコンポジット化に関する研究も多い.
ブロー成形は,環境調和とコスト低減化のニーズから,飲料ボトルをはじめ各種中空部材や容器の薄肉化および軽量化が図られている.中空で自由度の高い成形性を利用して高付加価値の製品や部材など,新分野への参入を図っている.
プラスチック系複合材料は,自動車や航空機などの輸送機器に関する環境負荷低減のニーズから,機材や機器の軽量化に大きく貢献し,さらなる利用拡大を狙って研究が進められている.カーボン繊維に熱硬化性樹脂を含浸させるプリプレグ工程で,時間短縮と含浸効果向上を目的とした真空含浸成形が注目されている.熱可塑性樹脂複合材料の用途展開にあたっては各種問題点(低い機械的特性,繊維と樹脂の界面強さ,流動成形で形成されるウエルドによる強さの低下など)の解決のため,連続繊維シートとの組み合わせによるハイブリッド成形の研究が多く実施され発表されている.また,金属材料と樹脂材料の組み合わせによるマルチマテリアル化が推進されている.この異種材料による複合化にあたって,金属材料の表面処理による極性の添加,化学処理によるアンカー効果の発現,接着剤の研究など異種材料間の接合接着に関する研究も多く,自動車部品などへの実用化に向け今後の展開が期待される.
リサイクル分野では,廃プラスチックを利用した二次製品に再生するマテリアルリサイクルが全体の約50%を占め,ほかにケミカルおよびサーマルリサイクルの化学原料化,ガス化,高炉還元剤として再利用されている.また,PETフィルムを利用したサステナブルパッケージの開発,CFRPからカーボン繊維を回収する方法や産業用フィルターのリサイクルなど,プラスチックのリサイクル率を高める技術やリサイクルが困難な材料の再生技術などに関する調査研究が継続している.
2015年度の溶接学会全国大会における各溶接プロセスのセッションでの発表件数で比較すると摩擦攪拌接合(FSW)55件,レーザ溶接32件,固相接合(圧接や超音波接合を含む)31件,アーク溶接19件,抵抗溶接14件となっている.FSWやレーザ溶接といった新しい溶接プロセスに注目が集まっているが,溶接冶金24件に分類されているものを含めると従来技術であるアーク溶接についてもそれらに負けず劣らずの旺盛な研究開発が進められていることが分かる.
アーク溶接[1, 2]ではこの旺盛な研究開発により溶接現象の可視化計測技術やシミュレーション技術が大きく進歩しており,これらの成果を利用したアークの制御技術の開発が進められている.特に溶滴移行現象の理解が進んだことにより,溶滴移行制御による低スパッタ高速溶接が可能となっている.
レーザ溶接[1, 3]では,レーザ発振機の大出力化・高輝度化と共に装置の小型化・低価格化が進み,様々な産業における導入が加速している.特にリモート溶接/スキャナ溶接による高速溶接技術が注目され,研究開発が進められている.また,レーザ溶接でも可視化計測技術の進歩でのその溶接現象の理解が進み,溶接品質の向上に寄与している.
FSW [1, 4]では,従来は軽金属同士の接合の研究が主体であったが,異材や鉄鋼材料の接合にその研究対象が変化している.また,摩擦攪拌プロセッシング(FSP)と呼ばれる表面改質技術の報告も多くなってきている.FSWにおいても可視化計測技術の開発が旺盛に進められており,その接合現象の解明が進められている.
抵抗溶接[1, 5]では,車体軽量化のために適用が進んでいる高強度鋼板を対象とした抵抗スポット溶接の研究開発が進められている.また,溶接部のナゲット形成や溶接部の破壊挙動におけるシミュレーション技術の開発も旺盛に進められている.
皮膜形成技術である溶射法について2015年度の日本溶射学会全国講演大会における発表件数で各溶射法を比較すると,全49件の中でコールドスプレー/ウォームプレー12件,エアロゾルデポジション/超音速フリージェットPVD/サスペンション溶射6件と非溶融成膜技術に対する注目が依然高い水準にある.溶射の分野においても溶射粒子の温度・速度の計測技術の進歩により,皮膜品質管理の向上が期待されている.
様々な構造材料の開発に合わせてこれらを実装するために,新しい溶接・接合の技術開発が一層重要性を増している.新構造材料技術研究組合(ISMA)[6]が進める「SIP革新的構造材料プロジェクト」においても溶接・接合が重要なテーマとなっており,そのなかでも鋼板/軽金属,金属/CFRPなどの異種部材接合技術の開発が進められている.
日本粉末冶金工業会の統計[1]によれば,粉末冶金製品生産額ならびに原料粉末出荷量に関する生産額は,2008年のリーマンショックで2009年に生産額8億円近くに落ち込んだものの,全体景気の回復と中国景気停滞が影響し,2010年以降は生産金額10億円程度で横ばいに推移している.一方,市場調査機関[2]によれば,2015年から2020年にかけての米国における金属粉末の需要は年率6.2%で拡大し,2015年度末には48億ドルに達するとの報告がある.粉末冶金製品ならびに素材粉末の需要は今後も伸張していくものとみられる.需要の牽引には,2015年のGartnerの戦略的テクノロジ[3]の第3位に位置付けられた三次元積層造形技術(Additive Manufacturing/3D-printing)やマルチマテリアル化構想への適用が主要因として挙げられる.両者ともに2015年6月の経済産業省「金属素材競争力強化プラン」の柱となっている[4].
国内外の学協会における技術動向として,上述の三次元積層造形技術およびマルチマテリアルに関する素粉末製造,プロセスにおける研究発表が盛んに行われた.国内では本学会の2015年年次大会[5]にて「次世代3Dプリンティング」と「粉末成形とその評価」のセッション,2015年度第23回機械材料・材料加工技術講演会[6]で「粉末成形とその評価」のセッションが組まれ,いずれも盛況であった.また,粉体粉末冶金協会によると2015年度の春季講演会[7]では,「粉末積層3D造形技術の現状と課題」の講演特集が組まれ,宇宙航空研究開発機構による特別講演や,チタン合金を含む生体材料,セラミックス構造体,高融点金属合金や汎用金属への適用の可能性など三次元積層造形技術に関する幅広い分野の講演が実施された.国際会議に目を向けると,TMS2015(オーランド・米国)ではAdditive Manufacturing Materials and Processes Workshop [8],Euro PM2015(ランス・フランス)では三次元造形技術の特別講演[9],2015年11月に京都で開催されたInternational Conference on Powder Metallurgy in Asia(APMA2015)ではAdditive Manufacturing with Powder Metallurgy [10]のセッションが組まれるなど,世界各国で三次元積層造形技術への研究発表が盛んに行われた.
一般の粉末冶金・粉末成形の動向としては,粉体粉末冶金協会の春季および秋季講演大会[7]において,「金属ガラス・ナノ結晶材料の構造制御と応用に関する新たな展開」「傾斜機能・生体材料」「イオン伝導材料」「粉末成形・加工による特異組織構造形成と高次機能化」「多階層ナノ・メゾ組織制御による高強度・高延性材料創製」「21世紀の社会を支える高機能電子部品材料」「環境・エネルギー分野応用のための磁性材料の新展開」「バイオインスパイアードによる材料開発」「機能性新材料:新物質と新機能」「硬質材料(工具材料)の新たな展開」といった講演特集および企画セッションが組まれた.
プラズマの特殊加工への応用が多様化している.プラズマとは気体原子が自由電子とイオンに分離した電離気体であり,固体,液体,気体に並ぶ第4の相状態といわれる.自然界にもその例を多く見ることができ,オーロラ,炎,雷など身近な現象内に見出すことができ,水素プラズマの巨大な固まりである太陽などの恒星の質量を考えれば,暗黒物質を除く目に見える物質の99%以上はプラズマであると言われている.プラズマには大別して高温プラズマと,低温プラズマが存在する.
温度が10 000℃以上である高温プラズマの特殊加工への適用例としては,古くからプラズマ溶接やプラズマ溶射が挙げられる.近年では直流のプラズマジェットに換えてRFプラズマ溶射により溶射膜質の向上が図られ,太陽電池用の多結晶シリコン膜や生体適合性材料の水酸アパタイトの合成などに利用されている.特殊加工における熱プラズマの応用として,熱プラズマCVDも重要である.熱プラズマCVDにより高純度SiO2を高速かつ課バレージ良く堆積することが可能であり,半導体プロセスに欠かせない技術となっている.
低温プラズマは,電子温度は高いものの,イオンや中性粒子の温度は低い非平衡なプラズマである.特に近年,室温から200℃程度の大気圧プラズマ源が開発され,その特殊加工への応用が広がっている.大気圧プラズマに使用できるガス種も,従来から使用されてきたHe,Arのみならず,空気,O2,N2,CO2など多様化し,それらマルチガスを用いたプラズマにより各種金属やプラスチック,テフロンなどの親水化処理がなされている.最近では,−90℃~150℃程度の範囲で±1℃の精度で温度制御可能な大気圧プラズマが開発され,新しい化学プロセスなどへの応用が期待されている[1].
また,低温プラズマは真空中,大気中の他に液中でも生成可能であり,この特性を利用して固体高分子形燃料電池用の電極での触媒である白金ナノ粒子を,担体として優れた特性を有するカーボンナノチューブに効率的に担持させる方法として液中プラズマ処理が研究されている.このように各種ガスで,液中,大気圧中など多様な雰囲気中でプラズマを生成することが可能となっており,被照射対象が大きく広がったことで,さらなる特殊加工,表面処理への応用が期待できる.
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