機械力学・計測制御部門(以下,本部門)は,機械工学における「4力学」の1つである“機械力学”(機械のダイナミクス),および,ダイナミクスと関連の深い“計測および制御”を主たる活動基盤としている.本部門では,各分野の学術的な基盤研究から実践的な応用研究,他部門との連携による新領域まで幅広く研究が行われ,その研究成果が積極的に公開されている.ここでは,2016年1月~12月に発行された本会論文集(和文・英文)への掲載論文を中心として本部門の研究活動について概括するとともに,同期間に催行された講演会・講習会などの状況について概説し,本部門の研究活動の概要について紹介する.
上記期間中に日本機械学会論文集(日本語)に掲載された学術論文のうち,「機械力学,計測,自動制御,ロボティクス,メカトロニクス」のカテゴリーとして掲載された論文は101編である.また同論文集Vol.82,No.837では「機械力学・計測制御分野特集号2016」が組まれ,上記カテゴリーに23編の論文が掲載された.したがってこのカテゴリーでは124編の論文が掲載されている.これは,本論文集に掲載された論文総数の31%(124編/総数397編)にあたる.前年(2015年)も同じ数値であり,本部門の貢献度の高さがわかる.2014年に新学術誌となってから3年が経過した.特集号も含めた本カテゴリーの論文数の推移を見ると,108編(2014年),144編(2015年),124編(2016年)である.旧和文論文集(C編)とはカテゴリーが異なり,厳密な比較は難しいが,2013年度の論文数が250編程度であったことを考えると,投稿論文数の減少は否めない.今後の原因分析と対策が急がれる.
一方,本部門が担当していた英文誌Journal of System Design and Dynamics(JSDD)は,日本機械学会の方針変更に従い2013年12月を以て刊行を停止し,Mechanical Engineering JournalのDynamics & Control, Robotics & Mechatronicsカテゴリーに移行した.2016年には,特集号を含み22編の論文が掲載された.本論文の3年間の掲載論文数の推移は,11編(2014年),34編(2015年),22編(2016年)であり,2015年に大幅増加となったものの,2016年は減少している.ちなみにJSDDの最終年(2013年)の論文数は45編(論文30編+特集号8編+レビュー論文7編)であり,新体制での減少が目立つ.和文誌同様,原因究明と対策が急がれる.
毎年開催される本部門の部門講演会「Dynamics and Design Conference」(略称D&D)は本部門活動の中心である.2016年度の同講演会D&D2016は,総合テーマ「交わりは解を導く」のもと,2016年8月23日~26日の4日間にわたり,山口大学常盤キャンパスで開催された.発表件数は300件,参加者累計470名であった.D&D期間中,例年通り振動工学データベースフォーラム(v_BASE)も併催された.
その他,2016年度,本部門が主催あるいは中心となって,以下の4つの国内講演会が開催された.2016年5月18日~20日,「第28回電磁力関連のダイナミクスシンポジウム」が慶應義塾大学日吉キャンパスで開催され,発表件数154件,参加者242名であった.2016年11月10日~12日,「第59回自動制御連合講演会」が北九州国際会議場において開催された.自動制御関連分野の伝統ある講演会であり,発表314件,参加者516人に上った.2016年12月6日~7日,「第12回最適化シンポジウム」が,北海道大学において開催された.発表件数53件,参加者104名であった.また,2016年12月15日~16日,「第15回評価・診断に関するシンポジウム」が,京都工芸繊維大学において開催された.発表件数は33件,参加者107名であった.何れも10年以上の歴史をもつ充実した講演会となっている.
2016年は,本部門が中心となり,さらに以下の2つの国際会議が国内開催された.2016年8月3日~6日,「The 15th International Symposium on Magnetic Bearings」が,北九州市門司港ホテルにおいて開催された.この分野では世界で最も権威ある国際会議の1つであり,122件の発表,182名の参加があった.2016年8月7日~10日,「The 8th Asian Conference on Multibody Dynamics」が,金沢市金沢都ホテルにおいて開催され,114件の発表,188名の参加があり,充実した国際会議となった.
部門主催の講習会として,5月30日,31日に本会において「振動モード解析実用入門」(受講者58名),7月7日に東京大学生産技術研究所において「マルチボディシステム運動学の基礎」(受講者37名),8日に「マルチボディシステム動力学の基礎」(受講者31名),10月15日に東京工業大学,30日に愛知工業大学において「計算力学技術者2級認定試験対策講習会」(関東地区:受講者21名,東海地区:受講者15名),2016年12月22日に本会において「納得のロータ振動解析:講義+HIL実験」(受講者17名),10月11日~12日にIMV大阪本社,10月13日~14日にRCC文化センター,翌年2017年1月23日~24日には本会において「回転機械の振動」(関西地区:受講者19名,中国地区:受講者8名,関東地区:受講者34名)が行われた.これらの講習会は継続的に毎年開催されているが,いずれも一定の受講者数を集めており,本部門主催の講習会として重要な役割を果たしている.
本会論文集においてダンピングに関連した論文は14件,うち制振,耐震が9件,エネルギー吸収が2件,音関連が3件であった[1].当分野の特集号としてVol. 82,No. 837に22件が掲載され,うち防振,除振,吸音などの論文があった.本会英文誌MEJにおいてダンピングに関連した論文は音関連も含めて3件で,減少傾向にある[2].本部門の研究発表講演会については,2016年8月に開催されたD&D2016(山口大学)では,領域2の耐震・免振・制振・ダンピングにおいて50件の講演申込があり,そのうちダンピングは19件で例年並みであった.また,その中で耐震・免震・制振と関連の深い講演に関しては領域内でジョイントセッションとし,振動制御,動吸振器,ダンパ,昇降機,材料の5つのトピックを設け,12件の講演を頂いた[3].一方,2016年9月に開催された年次大会(九州大学)では,耐震・免震・制振において発表は24件であった.耐震,免震のほか,各種ダンパ,座屈はり防振装置,新材料などの発表があった[4].部門のダンピング研究会(A-TS10-19)は,主査の芝浦工業大学,佐伯暢人氏のもと,年に3回開催された.第60回は2016年3月29日に芝浦工業大学豊洲キャンパスにおいて防振,パンタグラフ,慣性質量ダンパについての講演,第61回は2016年6月8日に北九州市立大学小倉サテライトキャンパスにおいて配管の流体騒音,座屈はり防振装置,粒状体ダンパについての講演および八幡製鐵所を見学,第62回は2016年10月7日に明治大学駿河台キャンパスにおいて回転体のダンピング,高分子粘弾性材,転動振り子動吸振器についての講演がそれぞれ行われ,毎回ダンピングに関わる講演を用意した甲斐もあって,20~40人が参加して盛況であった.2016年8月に開催された(一社)日本建築学会における大会学術講演会(福岡大学)では,ダンパ関連では摩擦型,粘弾性,弾塑性,MR,履歴,回転慣性,高減衰ゴム,連結制振,TMD,振動制御など続編を含めて約100件,家具などの転倒防止器具2件,減衰評価など約10件であった.同学会構造系論文集では積層ゴム,弾塑性ダンパ,オイルダンパ,慣性ダンパなど16件が掲載されている[5].海外の動向としては,Transactions of ASME,Journal of Vibration and Acousticsにおいてはダンピングが6件,エネルギー吸収が5件,振動制御3件を含むダンピング関連が14件,Journal of Sound and Vibrationにおいては減衰について3件,ダンパ関連は9件で粒状体や材料を扱ったものが多い傾向にある[6].また,国際会議については2016年7月のアメリカ機械学会ASME,PVP2016(カナダ,バンクーバー)ではSeismic Engineeringセッションにおいて全33件中ダンピング関連は5件であった.2016年7月に開催された第13回Motion and Vibration Control国際会議(英国,サウサンプトン)ではRASDと合併開催して,ダンパに加え振動制御,免震,TMDなどダンピング関連でポスターを含めて26件の発表があった.ダンピング技術は昨今では機械的な仕組みから新材料に至るまで様々な分野に進出している.技術や解析の発達によってこれまで解明が困難であった材料のマクロからミクロ的な振る舞いや構造が分かるようになってきており,分野を越えた[7]ダンピング技術のさらなる解明,発展とその応用が期待される.
機械力学・計測制御部門は,文字通り,主に力学,計測,制御の3分野から構成されており,計測はその1つを担っている.D&D2016では主に領域6「スマート構造・評価診断・動的計測」の3つのセッション,OS6-1システムのモニタリングと診断,OS6-2スマート構造システム,OS6-3動的計測で研究成果が発表されており,故障診断・状態監視を目的としたものが多い.振動発電を用いた温度モニタリング[1],動作データを用いた診断・監視[2],超音波による診断[3],圧電素子の電気特性の変化を利用した診断[4],動特性変化を用いた診断[5],可変剛性材料(磁気粘弾性エラストマ)を用いたもの[6],アクティブセンシング[7],MEMS加速度センサ[8],多軸慣性センサ[9],フィードバック制御を用いた絶対変位計の計測帯域の拡大[10],独立成分分析法を用いた路面変位推定[11],ロボット・ドローンを活用する診断[12]などが発表されている.
それ以外のセッションで発表されたものとしては,ニューラルネットワークを用いた構造ヘルスモニタリング[13],オブザーバとマルチボディダイナミクスを用いた路面入力推定[14],レーザレンジセンサによる歩行計測[15],ニューラルネットワークによる音源分離[16],レーザープラズマを利用した構造ヘルスモニタリング[17],音による転倒識別[18],3分力測定装置[19],NOXセンサに関するもの[20],音響固有振動の計測[21]などが存在する.伝統的な手法を用いたものから,レーザレンジセンサやドローンなどの新しい技術を取り入れたものまで様々な研究の成果が発表されている.成果が目に見える制御技術と比較すると,計測は地味に見えるところもあるが,老朽化するインフラ対策,また,自律ロボットや自動車の自動運転など今後実現が期待される技術分野では,計測技術の進化が求められている.当該分野の研究は,今後も重要でありつづけるであろう.
ロータダイナミクス分野では回転機械および回転体の力学,回転軸を支える軸受などに関連する2016年に発表された論文および研究発表を中心に研究動向を紹介する.
国内では日本機械学会論文集において,全397件の投稿論文に対して,機械力学および流体分野から回転体および回転機械関連の研究は4件であり,例年より少ない論文数であった.それぞれ,磁気軸受を用いたすべり軸受の安定性診断[1],タービン翼の減衰比測定[2],蒸気タービンの不安定流体力[3],遠心圧縮機の流体[4]に関する研究である.
2016年8月に山口大学で開催されたDynamic and Design Conferenceではロータダイナミクス関連で4つのセッションが企画され計12件の投稿・発表があった.軸受・シールに関する研究は6件あり,特に海外でも盛んに研究されている空気軸受に関する研究が増えている[5].その他,軸振動に関する研究3件,翼振動に関する研究3件の報告があった.
2016年10月に九州大学で開催された年次大会では4日目に「回転機械のダイナミクスと最適設計・システム設計」として3つのセッションが企画され計15件の投稿・発表があった.ターボポンプに関する研究が6件報告され,特にロケットエンジンの設計に関する多数の報告があった[6].また,回転機械の動特性5件,回転機械の騒音2件,軸受に関する研究1件,その他1件の報告があった.
2016年12月にはロータ・ダイナミクス・セミナー研究会(A-ST10-04)のセミナーが開催され,2016年に開催された国際会議の論文から35件を選び,解説が行われた.
海外ではASME, Journal of Engineering for Gas Turbines and Powerで2016年に掲載された全論文250件中ロータダイナミクス関係の論文は75件であった.風車,圧縮機など回転機械そのもの(20件)[8]を扱ったものが多く,次いで,回転機械を構成する部品である軸受(12件)[9],シール(13件)[10],翼(13件)を扱った研究が多い.
2016年6月に開催されたTurbo Expo 2016は年1回開催されるASME(米国機械学会)主催ガスタービン関連の国際会議である.2016年は韓国のソウルで開催され,Structures and Dynamics: Rotordynamics(回転体の力学)およびStructures and Dynamics: Bearing and Seal Dynamics(軸受とシールの力学)のセッションで回転機械に関連した論文が多数報告された.いくつか例を挙げると,ロータと軸受の接触時の挙動に関する研究[11],オイルを用いた軸受とガス軸受の信頼性比較に関する研究[12]などがある.
2016年9月にはVibrations in rotating machinery(VIRM11)が開催された.本国際会議は4年に1度IMechE(英国機械学会)が主催で開催され,回転機械に関する研究が多数報告される.VIRM11においては72件の発表が行われた.軸受(13件)や状態監視(13件)が活発であり,軸受分野ではすべり軸受および空気軸受の論文[13]が多く,状態監視の分野では電磁加振を利用した故障診断やモータ,軸受,歯車の故障検出に関する論文[14]が発表された.2018年にはもう一つの回転機械の国際会議であるIFToMM主催の国際会議がブラジルのリオで開催される予定である.
2016年8月23日~26日に山口大学で開催されたD&D2016での領域7ダイナミクスと制御 OS7-1運動と振動の制御においては,24件の発表があった.
多岐にわたる動的システムを前提とした運動と振動の制御に関する技術を確立する研究が数多く見受けられた.エンジンのNOX抑制を目的として高度化された観測器を用いた研究[1],自動車の振動低減を目的として発砲ウレタン封入エアセルを用いることで自動車用シートの力学特性を動的に制御する研究[2],数値モデルと実機を連成させるハイブリッドシミュレーションを用いた研究[3, 4]等が実用性を重視した研究が数多く発表された.
「運動と振動の制御」シンポジウム(MOVIC: Motion and Vibration Control)は,Twelfth International Conference on Recent Advances in Structural Dynamics(RASD)と共同開催という形で2016年7月3日~6日にイギリスのサウサンプトン大学で開催された.5件の特別講演と250件以上の講演発表があった.MOVICとRASDの講演が融合した形でセッションが構成されており,講演内容や聴講者が国内会議のときと異なっていたこともあり,より活発な議論がなされていた印象を受けた.また,国内開催のMOVICとは異なるオーガナイズドセッション編成であったため,一部を取り入れながら再編成することで異分野融合や新たな交流が生まれ,運動と振動の制御分野がより活性化するのではないかと考える.
以上のように「運動と振動の制御」が包含する分野は広く,その応用分野も多岐に渡り,実用化を目指した研究も多数報告されるようになってきた.また,運動と振動の制御を内包する動的システム設計において,それを利用するユーザーやオペレータにとって利用しやすく,かつ周辺環境に対して安全を確保することを積極的に考慮する方策が益々重要となってくる.
機械力学・計測制御部門における『最適化』に関する2016年の研究動向について概説させて頂きたい.まず始めにDynamics and Design Conference 2016部門講演会のプログラムを見てみると,まず同講演会では最適化手法・最適設計に関するOS自体が企画されていないことが注目される.以前は,例えば広く最適化事例を募集するOSと進化型最適化手法等の計算手法に特化したOSがそれぞれ企画されていたことを考えると,この分野の研究の動向が,以前に比べて大きく変わってきていることは否めないことである.
そこで,同講演会における講演発表から「最適化」,「最適設計」,「パラメータ同定」などのキーワードで発表されたものをピックアップしてみると,2016年はわずか5件程度しか見つけることができなかった.そして,これらの研究内容をみると,大型ロボットアームの応力緩和のための最適軌道を求めるアルゴリズムを提案している研究[1]や,天井走行クレーンの高速移動によって生じる吊り荷の振動低減のため,台車軌道の最適化手法を検討・検証している研究[2]がある.また,これまでも研究発表されている減衰性能の設計に関するものとしては,西原[3]が動吸振器を並列あるいは直列に用いる二重動吸振器の同調比と減衰比を求める設計問題の最適化を試みており,15層免震積層ゴムの設計問題において,地震波が与えられたときの挙動が最小になる免震積層ゴムの履歴復元力を遺伝的アルゴリズムを用いて最適化した高橋らの研究[4]もある.一方,医療介護機器関連の研究として,マルチボディダイナミクスを用いて介護リフトの機構解析と最適設計問題を取り上げ,その成果をアンケート実施や筋電図測定による実験から検証しているもの[5]もある.
いずれにしても,以前は最適化手法に関するOSが組まれていたことを考えると,部門における最適化関連の研究は以前に比べて,より実用技術の領域に移ってきているのではないかと考えられる.
一方,最適化の研究分野に関する講演会・シンポジウムとしては,バイオ部門,機械力学・計測制御部門,設計工学・システム部門,計算力学部門の4部門合同で2年に1度『最適化シンポジウム』が開催されており,2016年は12月に札幌(北海道大学)にて開催されている.そこで,同シンポジウムのプログラムからもこの研究分野の傾向を知ることができ,今回は講演件数53件のうち大学・研究機関関係の方の発表が37件,企業の方の発表が16件であった.一方,同シンポジウムにおけるそれぞれのセッション名と講演件数は
となっており,ベンチマーク的な問題に対する新手法の提案や統計的最適化手法,進化型計算手法などの最適化手法自体の研究は少なくなってきており,むしろ実際の製品開発・設計に関わる研究発表が増えてきているように感じている.
さらに,製品開発・設計に関する研究においても,これまでの機械システム・機械部品の最適化,振動・制御に関する最適設計に関する研究だけでなく,機械生産システムにおけるサプライチェーンの再設計問題における分岐探索アルゴリズムに関する研究[6]や,プレス加工[7],深絞り加工[8]などの機械加工に関する最適化問題,そして定常非圧縮粘性流れのトポロジー最適化[9]や準三次元流れ場[10]などの流体現象においても最適化手法の応用が試みられている.
なお,同シンポジウムにおいては全参加登録者の約1/3が企業からの参加者であり,以前に比べれば企業の方の参加が格段に増えている.また,講演発表無しの会員外の登録者も1割強ということで,企業の方の関心度の高さから,実際の設計現場においても最適化技術が実用的なものになってきていると考えられる.
耐震・免震・制振分野では,2011年3月に発生した東日本大震災による機械/建築/土木系構造物の被害を踏まえた規格基準の改定,あるいは,改定に向けた関連研究が鋭意行われている.また,2016年4月に発生した熊本地震では,改定された規格基準により設計された構造物の耐震安全性の検証や被害を受けた施設の被害調査アンケート及び現地調査などからさらなる安全性向上に向けた検討が行われている.ここでは,D&D,年次大会,及び,関連国際会議からの研究動向をまとめるとともに熊本地震による機械系構造物の被害状況をまとめる.
まず,当該分野の研究動向をまとめる.山口大学において2016年8月に開催されたD&D Conferenceでは耐震・免震・制振分野で31件の報告があった.本会議では,原子力配管の弾性設計から弾塑性設計への規格基準の改定に向けた関連研究[1]や風力発電機,火力発電施設など我が国のエネルギー問題に関わる機械構造物の自然災害時の機能維持を目的とした技術開発状況[2, 3]が報告された.また,ここでは,小林信之氏(青山学院大学名誉教授)を主査とした耐震問題研究会(A-TS10-41)WGの活動報告として「高圧ガス施設の大規模地震対応と性能規定化」と題する特別セッションが企画・実施され,建築,土木分野から盛川仁氏(東京工業大学),糸井達哉氏(東京大学),大嶽公康氏(株式会社NJS)に出席いただき機械系耐震分野の研究者/技術者と有益な意見交換が行われた.次に,九州大学で2016年9月に開催された年次大会では,発電用設備規格委員会原子力専門委員会耐震許容応力検討タスクフェーズ2「配管系の耐震安全性評価に対する弾塑性評価導入の検討」の活動に関連した報告[4, 5, 6]があり,また,新たな振動制御技術の検討[7, 8]もある.関連国際会議としては,米国機械学会Pressure Vessels and Piping Conferenceが当該分野では大きな国際会議の一つとして位置付けられる.特に,Seismic Engineering部門は,多くの耐震技術とともに免震・制振についても活発に報告がなされている.2016年7月にバンクーバーで開催された会議の本セッションでは46件のうち22件が日本からの報告となっており当該分野への我が国の高い貢献率が示された.報告内容の動向としては,国内では原子力分野を中心に積極的な適用が進められてる確率論を用いた応答や安全性評価手法の報告が近年増えている.
次に,2016年4月に発生した熊本地震における機械系構造物の被害についてまとめる.本地震の特徴は,5日間に渡り震度7を2回含む4度の大地震が発生し,前震から1か月の間に震度4以上の地震が合計128回群発した点である.強地震動は,防災科学技術研究所地震観測網の観測結果より,4月16日01時25分の本震時に大津町観測地点(KMM005)で1 791 Galの最大加速度が観測されている.また,多分野ではあまり重要視されていないが鉛直方向地震動の強さも機械構造物においては特徴的な被害に繋がった.日本機械学会熊本地震被害調査WG(主査:藤田聡(東京電機大学),古屋治(東京電機大学),中村いずみ(防災科学技術研究所),鎌田崇義(東京農工大学),皆川佳祐(埼玉工業大学))において実施されたアンケート調査及び現地調査からは,機器固定アンカーと設置床の耐力不足やクリーンルームなどの特殊構造物等の耐震基準制定の遅れなどの課題が明らかとなった.また,強地震動の群発から余震を考慮した復旧対策の在り方や,危機管理の観点から従業員の安否確認方法,本社と工場との連絡方法,避難経路の遮断による2次的被害対策などの検討も急務であることが明確となった.さらに,機器・配管等機械構造物の支持構造物との接合部の被害対策は,これまでの大地震でも指摘されているように重要であるにも関わらず異なる分野の耐震基準が干渉する領域のため合理的な耐震基準の策定が遅れており,建築/土木など他分野とのより積極的な連携が必要となっている.機械構造物は,多種多様であり安全余裕の考え方や安全性や機能維持上での統一尺度の確立も今後の大きな課題の一つである.
一般に,機械系構造物の地震被害は,建築/土木分野と比較して施設内の公開に繋がることから被害の全容をつかむことが困難となっている.アンケート調査の回答率も低く,今後の耐震安全技術のさらなる向上のため可能な範囲での被害調査への協力をお願いするとともに,末筆ながら,被災復興のなかで日本機械学会被害調査アンケートにご協力いただいた事業場の皆様に感謝の意を表します.
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