6. 機械材料・材料加工

6・1 機械材料

6・1・1 鉄鋼材料

a.生産

日本鉄鋼連盟によれば,国内経済は緩やかな回復基調にあり,建設活動が東京五輪関連施設整備の本格始動から好調に推移しており,製造業部門でも自動車に加えて,機械生産にも改善の動きがみられる.一方,一部の新興国の政情不安・成長鈍化に伴う鋼材需要の停滞,各地での通商問題の頻発など,日本鉄鋼業を取り巻く環境の先行きへの懸念は強まっている.そのため,国内の粗鋼生産量は年度で1億516万tonとなり,昨年同程度にとどまった.一方,世界の粗鋼生産量は昨年の16億1 500万tonから16億2 900万tonへと増加した.その中で,中国の粗鋼生産量は,さらに1 000万ton増え8億800万tonとなり,全世界生産量の50%を占める.また,インドの粗鋼生産量も8 900万tonから9 600万tonと7%の増加した.第2位の日本に続く世界第3位の生産量となっている.

b.新設備

上工程を中心に設備集約が行われ,新日鐵住金君津製鉄所において,第3高炉を休止し,また,小倉第2高炉も休止となり,集約化が進んでいる.神戸製鋼所では,神戸製鉄所の上工程設備を加古川製鉄所に集約するとともに,加古川第3高炉の改修を終え,生産性向上を図った.一方,コークス炉に関しては,新日鐵住金,JFEスチールで老朽化したコークス炉の改修が逐次進んでいる.

c.研究

2016年度も2015年度に引き続き,環境・エネルギー,プロセス,材料分野で公的資金による研究が多く行われている.環境調和製鉄プロセス技術開発(COURSE50)は,CO2排出の抑制とCO2の分離・回収により,CO2排出量を約30%削減する技術を開発に向けて,ステップ2(2013~2017年度)に取り組んでいる(www.jist.or.jp/course50).材料関係では,革新的構造用金属材料創製を目指したヘテロ構造制御に基づく新指導原理の構築が継続中である.強度,延性,じん性,加工性,耐環境性など,従来は両立が困難であった複数の機能を同時に向上させるような革新的な材料の確立を目指し引き続き研究が行われている(www.jst.or.jp/kyousou/theme/).2013年度からスタートした革新的構造材料技術開発ISMA(2013–2022)も3年目になり,輸送機器の高強度鋼板,非鉄金属,CFRP,それらの異種接合によるマルチマテリアル化に関して成果を上げている(http://isma.jp/pdf/isma_report_06.pdf).さらに,内閣府の戦略的イノベーション創造プログラム,SIPプロジェクトが2年目に入り,航空機産業を中心にすえた革新的構造材料の実現に向けたプロジェクトが3年目となり,鍛造シミュレータを用いたTi合金,Ni基合金鍛造材のデータベースを作成すると共に,信頼性の高い組織・特性予測ツールを構築しつつあるなど,成果が出てきている.(http://www.jst.go.jp/sip/k03/sm4i/project/index.html).

経済産業省では,2015年に「金属素材競争力強化プラン」をリリースし(http://www.meti.go.jp/press/2015/06/20150619002/20150619002.html),素材の高度化とマルチマテリアル化を実現するための材料設計技術,製造技術,分析・評価技術の開発,人材の育成や予防保全技術の開発に関しての官民での推進を示している,ISMAやSIPもこの方針に合致して進んでいる.

d.新技術・製品

JFEスチールは,1 470 MPa級冷延ハイテンを新たに開発し,バンパーレインフォースメントとして実用化した.常温で成形する冷間加工による自動車部品の強度としては,世界最高強度で,13回エコプロダクツ大賞経済産業大臣賞を受賞した.新日鐵住金では,排気ガスケット用高機能ステンレスばね鋼板を開発し,日本ばね学会賞「技術賞」を受賞した.従来材は400℃を超えると硬度が低下してしまうが,開発したばね鋼板は,600℃程度の環境まで使用可能である.神戸製鋼は,「世界最高磁場のNMR装置(1 020 MHz)」で平成28年度文部科学大臣表彰「科学技術賞」を受賞した.また,プレスの生産性に優れたホットスタンプ用冷延鋼板(焼入れ後強度1 470 MPa級)を開発し,トヨタ・プリウス向けのボディ骨格部品用に量産を開始した.

昨年に引き続き,構造材料関係の3つの大型国家プロジェクト,ヘテロプロジェクト,ISMA,SIPが平行して行われるという鉄鋼材料にとっては,大変よい環境を迎えている.産官学連携して革新構造材料の研究開発に取り組む体制を確固たるものになりつつあり,今後の成果を期待したい.

〔鳥塚 史郎 兵庫県立大学

6・1・2 非鉄金属材料

a.アルミニウム

アルミニウムの生産量は4年間横ばいの状況である.2016年の箔を除く展伸用アルミニウム合金の製品の生産量は2 020 743トンで前年比0.1%の増加であった.板製品の生産量は1 263 669トンで前年比の1.1%の減少,押出製品の生産量は757 074トンで前年比の2%の増加であった.板製品の増加は,パネルを含む乗用車へのアルミ需要増やトラック架台の生産増による.国産缶の出荷量は前年比1%増の216.4億缶であった.ビールや発泡酒は2%の減少であったが,それ以外は増加したため微増となった.ボトル缶の出荷量は,前年比15%増の29.5億缶の出荷であり伸びが著しい.押出材の生産量は,2%増の771 992トンであったが建設と自動車への需要が増したためである.ダイカストの生産量は957 872トンで前年比0.5%の増加,鋳物は423 657トンの前年比1.2%の増加であった.ダイカストは自動車用が857 745トンと前年比1%の増加となった.鋳物は自動車用が396 281トンで前年比1.3%の増加となった.鍛造品は,42 270トンで前年比2.8%の増加であるが,自動車用の需要増加が原因である.電線は27 594トンで前年比2.2%の増加であるが,電気機械の前年度比の増加が約50%と著しい.

b.マグネシウム

2016年のマグネシウムの生産量は詳細な報告がまだなされていなので示すことができないが,2015年と比較して2%程度の増加の42 200トンの見込みである.これは構造材向けの需要が増加したためである.また,国内の研究の報告も欧米と比較すると以前より少ないが,国プロ関係の難燃性マグネシウムの報告が昨年と同様に見受けられた.

c.銅

2016年の伸銅製品の生産量は782 418トンで前年比2%の増加でリーマンショック以来の低水準となった昨年を上回った.銅製品の404 707トンで2.7%の増加であった.銅製品では,管が前年比2.4%の増加であった.これは猛暑予想からルームエアコンの製造が増加したためである.黄銅製品は331 803トンで前年比3.4%の増加であった.これは自動車での需要が増加したためである.青銅の生産量は前年度比8.1%の減少で35 379トンであった.デジタル家電の市場縮小の影響を受けている.

d.チタン

2016年は展伸材およびスポンジチタンの生産量は前年比増加であった.展伸材の上半期の出荷量は,造水関連需要を反映し,前年度比18.3%増の8 606トン,通年では6.5%増の16 497トンであった.スポンジチタンの堅調には,チタン在庫の調整の効果や米国航空機向けが好調であることが影響した.大阪チタニウムテクノロジーズは,3Dプリンター向けのチタン粉末の技術を確立した.工作機メーカーのOKKは,チタンの加工に適したマシニングセンターを発売した.

〔羽賀 俊雄 大阪工業大学

6・1・3 無機材料(ファインセラミックス)

a.生産

(⼀社)日本ファインセラミックス協会(JFCA)が毎年実施している産業動向調査[1]によれば,2015年のファインセラミックス部材の総生産額は2兆4 260億円(前年比4.9%増)となり,過去最高の生産額を記録した.2016年も,伸び率は鈍化するものの,多くの製造品において生産額が増加する見通しである.内訳を見ると,圧倒的な割合を占めている「電磁気・光学用」部材が前年比4.9%増(1兆6 613億円),工具・耐摩耗部材などの「機械的」部材が前年比4.7%増(3 002億円),「熱的・半導体関連」部材が前年比3.2%増(2 399億円),「化学,生体・生物・他」部材が前年比6.5%増(2 224億円)と,それぞれ堅調な伸びを示しているのに対し,ターゲット部材や複合材料部材などで構成される「汎用及びその他」が,シェアは小さいが,前年比22.3%増(21億円)と急激な伸びを示した.「電磁気・光学用」部材はスマートフォンやタブレット端末に代表されるモバイルIT機器の市場に,また,「機械的」部材は自動車の市場に大きく影響されるが,2015年は,円安を背景としたコスト競争力の回復・維持に加えて,これらのマーケットがおおむね堅調だったことが生産額増加につながった.ファインセラミックス全体の市場おける各品目の構成比については,2010年度以降大幅な変化は見られず,「機械的」部材に関してはファインセラミック市場の約12%で推移している.

b.研究

2016年9月に九州大学で開催された年次大会において,「セラミックスおよびセラミックス系複合材料」と,「自己治癒材料システム」のオーガナイズドセッションが企画運営され,計24件の講演があり,講演件数は2015年に比して倍増した.また11月に早稲田大学で開催された機械材料・材料加工技術講演会では,セラミックスおよびセラミックス系複合材料のセッションにおいて13件の講演があった.講演内容を評価材料で分類すると,多孔質セラミックス,セラミックコーティング,熱電セラミックス,自己治癒セラミックス,繊維強化セラミックスなど多岐に及んでいる.特に,自己治癒セラミックスに関しては特別セッションも含めて多くの研究発表がなされており,近年における当該分野の活発さを反映している.いずれの講演会でも別のセッションにおいて,ファインセラミックスに関する講演が数件あった.これらの講演会に共通する傾向として,大学・公的研究機関からの講演が,依然多くの割合を占められていることがあげられる.

航空エンジンへの長繊維強化セラミック複合材料(CMC)への適用が米国および欧州で本格的に進みつつある現状を踏まえ,我が国でも多くのプロジェクト(内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP),NEDO次世代構造部材創製・加工技術開発プロジェクト,JAXAによるaFJRプロジェクトなど)において,CMCの実用化にむけた素材,プロセス,コーティング,設計などの研究開発が,官民をあげて進められている.今後,国内外の研究開発動向が注目される分野である.

〔赤津 隆 佐賀大学

6・1・4 高分子・複合材料

a.高分子材料[1]

2016年におけるわが国のプラスチック原材料の生産実績は前年比0.7%減の1 075万tである.2.1%増の2015年からは微減であるが,後述のように熱硬化性樹脂の増加が大きい.熱硬化性樹脂全体の生産量は89.5万t(3.2%増)である.主な内訳は,フェノール樹脂(28.9万t(4.0%増)),ユリア樹脂(6.7万t(4.7%増)),メラミン樹脂(8.2万t(3.8%増)),不飽和ポリエステル樹脂(9.6万t(1.0%減)),エポキシ樹脂(11.5万t(0.9%減))である.一方,熱可塑性樹脂全体の生産量は960.0万tで2015年比1.6%減となった.主な内容は,ポリエチレン(256.9万t(1.5%減)),ポリスチレン(75.4万t(増減なし)),AS樹脂(7.0万t(13.6%減)),ABS樹脂(36.0万t(4.3%減)),ポリプロピレン(246.6万t(1.4%減)),メタクリル樹脂(14.5万t(5.2%減)),ポリビニルアルコール(21.5万t(5.3%減)),塩化ビニル樹脂(165.1万t(0.3%増)),ポリカーボネート(29.3万t(0.3%減)),ポリエチレンテレフタレート(41.8万t(3.0%減)),ポリブチレンテレフタレート(17.1万t(9.5%減))などとなっている.

b.FRP生産[2]

2012年に見直しを受けた用途別FRP出荷数量統計について2015年分について示すと(カッコ内は前年比%),合計233千t(4.9%減)となった.その内訳は,建設資材32.4千t(3.0%減),住宅機材71.3千t(4.0%減),浄化槽27.9千t(増減なし),舟艇/船舶6.2千t(3.1%減),自動車/車両20.0千t(0.5%増),タンク/容器18.1千t(0.5%減),工業機材21.8千t(9.9%減)などとなっている.

c.複合材料研究

国内で開催された複合材料に関わる行事として,2017年3月に第8回日本複合材料会議(JCCM-8,日本複合材料学会,日本材料学会主催,東京)が行われた.この会議は「日本を代表する複合材料に関する会議」の設立を目的に2010年京都で第1回が行われ,第2回(2011年東京にて開催予定であった)が震災で講演中止となったものの,その後毎年東京と京都で交互に行われているものである.輸送機器への複合材料適用に伴う燃費向上への期待から,講演数,参加者数ともに増加傾向にあり,特に企業からの参加者の情報収集の場として注目を集めている.また,歴史ある国内会議として,2016年9月に第41回複合材料シンポジウム(日本複合材料学会主催,高知,第12回日中複合材料交流会も併催された),11月に第61回FRP総合講演会・展示会(FRP CON-EX)(強化プラスチック協会主催,広島)が開催された.これらの会議では,それぞれ学界,産業界がメインとなり特色ある会議となっており,最新の材料開発や応用研究が多く発表されているが,特に高速成形法など成形に関する研究成果の発表が目を引く.また,ナノコンポジット研究に関しては,分子シミュレーションを援用した研究が引き続き多くなされており,材料のミクロな構造からマクロな特性を理解する努力がなされている.さらに,国内会議としては,日本機械学会関連の会議(年次大会(9月(福岡)),機械材料・材料加工技術講演会(11月(東京)),材料力学カンファレンス(10月(神戸)))において高分子・高分子基複合材料のセッションが組まれ,成形から評価まで多くの研究成果が発表された.国際会議に目を向けると2016年はドイツ・ミュンヘンで第17回ヨーロッパ複合材料会議(ECCM-17)(6月)が開催された.

〔荻原 慎二 東京理科大学

6・2 材料加工

6・2・1 鋳造

生産量において,2016年における鋳鉄(銑鉄鋳物,鋳鉄管と可鍛鋳鉄),鋳鋼品,非鉄鋳造品(銅合金,アルミニウムとダイカスト)および精密鋳造品を合計した鋳物の総生産量は522万tであり,2015年の総生産量540万tに対して,若干の減少傾向を示した.総生産量が695万tとピークであった2007年と比較して,2016年は75%の数値まで落ち込んでいる.銑鉄鋳物は323万tで前年と比較して97%と減少し,2年連続してのマイナスとなり,リーマンショック依頼の7年ぶりに400万トン台を割り込んだ.用途別では,自動車を含む輸送機械用が228万tで前年比97%と減少し,産業機械器具用,金属工作・加工機械用を含む一般・電気機械用は80万tで前年比95%と減少した.鋳鉄管は31万tで,前年比77%と減少した.可鍛鋳鉄は4.0万tで前年比93%と減少した.鋳鋼品は船舶,土建鉱山機械,鋳鋼管,破砕機・摩砕機・選別機などを中心に合計15.0万tが生産され,前年比95%と減少している.非鉄鋳物では,銅合金鋳物が7.7万tで前年比と比較して横這い,アルミニウム鋳物は42.4万tの生産量で前年比101%と増加している.ダイカストは98万tで前年比101%と増加した.精密鋳造品は5 441 tで前年比93%と減少した.鋳造品に関して2015年から続き,2016年はアルミニウム鋳物,ダイカスト以外,全体的に減少傾向を示した.2011年からの過去6年間,鋳鉄鋳物全体の生産量は,1年毎に増加,減少と推移していたのに対し,2016年は2015年に引き続き減少している.2016年の生産金額は,1兆8 739億円となり前年比−4.0%であり,2年連続のマイナスとなった(表1).生産金額は,1990年,2008年のピーク時には,2.5兆円であったのに対して,現在は80%程度の水準である.しかし,非鉄金属鋳物の比率は年々増加し50.5%と初めて5割を超えた.鋳物生産工場は,この25年間で1 886箇所となり,55%減少している.日本での鋳造品生産量の減少傾向に対し,海外の生産量は年々増加傾向である.日本国内での県別生産量の1位は愛知県の126万tであり,次いで栃木県の21万t,島根県18万t,福島県17万tとなる[1].

表1 材料別の生産金額推移
表1 材料別の生産金額推移

研究開発の分野においては,2016年5月に第72回世界鋳造会議(WFC2016)が愛知県名古屋市で開催された.世界鋳造会議は,鋳造に関する国際会議であり,1923年にパリで第1回目が開かれて以来90年以上の伝統を誇る.日本での開催は,第35回大会(1968年)京都,第57回大会(1990年)大阪に続いて,3回目になる.世界35カ国からの962名の参加があった.講演内容から「鉄系鋳物製造とその金属学」,「非鉄金属鋳物製造とその金属学」,「鋳型と中子製造技術」と順に多く,また「シミュレーションとモデリング」「ロボティクスと自動化」などの講演も多く,現在の研究開発傾向が示された[2].(公社)日本鋳造工学会では,「3D化で補うモノづくり改善活動」や,「3Dカメラ活用による鋳鋼品の歪低減」,「3Dプリンターを使用した大型羽根車の精密鋳造技術の開発」など,近年のRP技術やIoT技術を活用した製法や品質評価など次世代型の鋳造工場を目指した研究開発が多く報告されている[3].

〔清水 一道 室蘭工業大学

6・2・2 塑性加工

2016年の圧延分野の研究発表数は少なく,熱間圧延時の酸化スケールのマイクロ及びマクロ組織に関する研究や,圧延材の機械的性質に関する調査が散見された.その他CFRP薄板の製造に圧延を利用する方法,金属光造形と圧延加工との複合プロセスによる高強度板材の製造法などが提案されている.

板材成形の分野では,素材として純チタンやチタン合金の深絞り加工やホットスタンピング,高張力鋼板やCFRPの加工について盛んに研究報告されている.材料試験にはマイクロ多軸試験などの多軸試験が多数見られ,またひずみ測定や形状測定にデジタル画像相関法を用いた報告が急増している.摩擦撹拌インクリメンタルフォーミング,レーザピーンフォーミング,スピニング加工などの逐次成形に関する報告も近年と同程度の数が発表されている.

鍛造・押出しの分野では,熱間鍛造に研究が多数報告され,熱間鍛造の材料特性,組織変化の調査や,潤滑剤や摩擦係数などのトライボロジー,材料モデルの提案,サーボプレスのモーションの影響,熱間での板鍛造などが報告されている.多軸鍛造による材料改質なども多数報告されている.また,金型内にセンサを埋込んで異常検出するものも報告されている.熱間,冷間を問わずに他の加工法と同様に純チタンやチタン合金,マグネシウム合金などの非鉄金属の加工も盛んに研究されている.押出しに関しては,報告数があまり多くはなかったが,ねじりを加えた押出し加工に関する報告がいくつか見られた.マグネシウム合金の押出しに関する報告も散見された.

塑性接合に関する研究が国内外において盛んで,メカニカルクリンチングやヘミング加工,リベットによる高張力鋼板やアルミニウム合金板の接合などが報告されている.また,摩擦撹拌接合や超音波接合に関する研究報告も多数見られた.異材接合が比較的多くなってきているが,金属とCFRPや樹脂を接合する研究報告が増加してきている.

そのほかの傾向としては,講演会ではCFRPの各種加工で独立したセッションが設定され,塑性加工の対象としてCFRPが確実に拡大している.3Dプリンタに関する報告数は一時期ほどは盛んではなくなったが,レーザ加工,マイクロ塑性加工に関する研究報告が増加している.マイクロ塑性加工では結晶粒径や再結晶,加工誘起変態などの材料微細組織が加工特性に及す影響に関する報告が多い.また,マイクロ塑性加工においてもサーボプレスや超音波を利用した加工法が多数報告されている.

〔大津 雅亮 福井大学

6・2・3 プラスチック加工

プラスチック業界では3Dプリンタが市場を賑わせている一方,既存のプラスチック成形プロセス技術の変革と改良が進んでいる.また,低炭素化を代表とした社会的ニーズに応えるべくものづくりが進められ,部材の樹脂化,高強度化,コスト低減化が一段と進められている.以下に代表的な成形加工技術である射出成形,押出し成形およびブロー成形の動向について紹介する.さらにプラスチック系複合材料やリサイクル分野の動向についても紹介する.

射出成形は,自動車,情報通信機器,家電機器を中心に薄肉軽量化のニーズに対応した成形技術開発が進められ,とくに大型部品の薄肉成形,軽量化,高強度化を対象とした成形技術が注目される.大型部品の薄肉成形では,多点ゲートによるウエルドの強化や離型性の改善が要求され,樹脂流動シミュレーションを活用した金型の最適化設計を検討している.ナノ・マイクロデバイスの量産法としては低コストでサブミクロンサイズの微細パターンを形成できるナノインプリント技術が注目される.パターンの加工寸法や精度向上を目指し,樹脂の微細加工特性,物性評価や成形加工条件の最適化に関する技術改良が図られている.高剛性・高強度化を目指す長繊維強化では,シリンダ内における繊維の破損を抑制できるスクリューや成形機の開発に力点が置かれている.他方で化粧品容器のデザイン性向上を目指した加飾成形の事例がある.

押出し成形は,二軸押出し機を中心に混練,分散および反応制御の精度向上を目指し,設備と材料の両面からの検討が続いている.吐出の高速化のための成形機やスクリュー形状の改良,シミュレーションによる最適化などがその計測技術と併せて行われている.また,成形品の高付加価値化や高機能化に向けたカーボン繊維やカーボンナノチューブなどとのコンポジット化に関する研究も多く報告されている.

ブロー成形は,環境調和とコスト低減化のニーズから,飲料ボトルをはじめ各種中空部材や容器の薄肉化および軽量化が図られている.中空で自由度の高い成形性を利用して高付加価値の製品や部材など,新分野への参入を図っている.

プラスチック系複合材料は,自動車や航空機などの輸送機器に関する環境負荷低減のニーズから,機材や機器の軽量化に大きく貢献し,さらなる利用拡大を狙って研究が進められている.従来は,強化繊維としてガラス繊維や炭素繊維の連続繊維を用いた,エポキシ樹脂や不飽和ポリエステル樹脂などの熱硬化性樹脂をマトリックスとした複合材料が主流で,高圧注型(HP-RTM)による成形サイクルの短縮が研究課題とされていた.近年は自動車における走行時の炭酸ガスの排出規制の強化を目的として,自動車分野での用途拡大が進んでいる.自動車分野においては,生産性の要求により不連続繊維と熱可塑性樹脂の複合材料が注目を浴びている.

熱可塑性樹脂複合材料では,熱硬化性樹脂を用いた複合材料よりも低い力学特性や射出成形などの流動成形で発生するウエルド部の低い強度が問題点として挙がっている.これらの解決のため,連続繊維シートとの組み合わせによるハイブリッド成形の研究や金型流路の最適化設計による繊維配向制御が実施されている.

また,金属材料と樹脂材料の組み合わせによるマルチマテリアル化が推進されている.この異種材料による複合化にあたって,金属材料の表面処理による極性の添加,物理処理や化学処理によるアンカー効果の発現,接着剤の研究など異種材料間の接合接着に関する研究も多く,自動車部品などへの実用化に向け今後の展開が期待される.

リサイクル分野では,廃プラスチックを利用した二次製品に再生するマテリアルリサイクルが全体の約40%を占め,昨年度と比べて若干減少したが,コークス炉化学原料化が40%に増加し,ガス化が10%,高炉還元剤が5%程度であった.研究成果としては熱硬化性であるポリウレタンを対象に,構造制御,自己修復性付与による長寿命化,植物原料由来のバイオポリウレタンの開発が検討されており,建設廃塩ビのリサイクルを目的とした粉砕・分離方法の検討,解体性接着剤によるリサイクル容易化の検討なども報告されている.実用的な検討として,上下水道の管路に関する塩ビパイプの更新方法に関した報告がなされている.さらに,東京オリンピックに向けた持続可能な資源循環の方向性についての意見交換が行われている.

〔高山 哲生 山形大学

6・2・4 溶接,接合

日本国内における研究開発動向は溶接学会全国大会で確認することができる[1].2016年度の溶接学会全国大会の一般講演における各溶接プロセスのセッションでの発表件数で比較するとレーザ接合47件,アーク溶接47件,摩擦攪拌接合(FSW)37件,抵抗溶接22件,固相接合(圧接や超音波接合を含む)21件となっている.特にレーザ接合ではアディティブ・マニュファクチャリングであるレーザ積層造形の発表が11件と注目が集まっている.また,シミュレーション技術についての発表も多くアーク物理・疲労・破壊・継手強度について30件ほどの発表がある.産学官連携による国家プロジェクトであるSIP/JST革新的構造材料プロジェクト[2]のなかの「溶接部性能保証のためのシミュレーション技術の開発」においてアーク溶接とレーザ溶接のシミュレーション技術が取り上げられており,溶接プロセス,溶接部組織,溶接部性能を統合的に予測するための取り組みがなされている.これらの取り組みは溶接学会における旺盛な研究発表につながっている.特に溶接熱源と溶融池のモデル化とシミュレーション技術の開発が精力的に進められている.

FSWでは,2015年に基本特許が失効したこともあり,様々な取り組みが広がることが期待されている[3].発明者であるTWI(The Welding Institute)は,11th International Symposium on Friction Stir Welding [4, 5]をイギリス ケンブリッジのTWIで開催し,様々な適用例の展示や装置の見学会を大規模に実施した.この会議の一般講演(86件)では,用途展開として鉄道や航空機に関する講演が多かった.その他にも注目すべき講演としては,温度制御プロセスやロボット化があった.また,高融点金属のFSWが9件,異材のFSWが8件と軽金属以外への適用も大きな注目を集めている.

抵抗溶接では,自動車車体の軽量化に対し,単ピッチ化による剛性の向上やプロセスの高速化による生産性の向上など取り組まれている[6, 7].特に,スポット溶接ロボットによる高速化を進めると共にネットワークを介して収集・蓄積したビッグデータを品質保証や設備保全などの管理に用いる情報化(IoT)が進められている[8].

アディティブ・マニュファクチャリングでは,レーザ積層造形の導入事例が多くなっている[9].これに対してアーク溶接を利用した新しい立体造形法が注目されている.ニアネットシェイプでの造形であるが造形速度や造形物の強度や装置価格などの面で従来の積層造形法に対してアドバンテージを持つと考えられている[10].

皮膜形成技術である溶射法について2016年度の日本溶射学会全国講演大会における発表件数で各溶射法を比較すると,一般講演全42件中で非溶融成膜技術であるコールドスプレー/ウォームプレー/エアロゾルデポジションが12件,微粒子を懸濁液として供給する溶射であるサスペンション溶射が7件であり,新しい溶射法に対する注目度が高い.また,溶射プロセスの信頼性向上のための可視化技術が注目されており,溶射プロセス中のAE計測により皮膜中のき裂発生を検出することが可能であることが報告されている[11].

〔安井 利明 豊橋技術科学大学

6・2・5 粉末冶金

日本粉末冶金工業会の統計[1]によると,日本の粉末冶金による機械部品の生産金額は,2008年のリーマンショックの影響で2009年に落ち込んだものの,2010年には回復し,その後,横ばいに推移している.後述する粉末冶金国際会議においての報告では[2],欧州では自動車や航空機産業の発展により生産量は2015年に前年より3%増加しており,アメリカでは同様に2.3%の増加が見られ,アジアでもタイやインドネシアなどが急激に成長しており,これらの傾向は続いていくとみられている.

学協会においては,2年に一度開催される粉末冶金国際会議(World PM2016 Congress and Exhibition)が,10月にドイツのハンブルクで開催された[3].世界各国からの参加者が見られたが,やはり欧州からの参加者が圧倒的に多いようであった.「Additive Manufacturing」「Core PM」「Hard Materials and Diamond Tools」「Hot Isostatic Pressing」「New Materials and Applications」「Powder Injection Moulding」「PM Structural Parts」といった特集が組まれ,この中で,「Additive Manufacturing」に関するセッションは,並行して2会場で同時にセッションが進行されるほど発表件数が多く,それぞれ広い会場にも関わらず聴講者に立ち見が出るほどの盛況であった.発表は,チタン合金などの軽金属,ステンレス鋼および特殊金属など材質に関するセッションや,粉末床システム,熱溶解積層技術についてのセッション,粉末の特性やリサイクルに関するセッションにまとめられていた.一方,アメリカ,ボストンでは6月にPOWDERMET 2016が開催されたが,2014年から,AMに関する発表はPOWDERMETと同時に開催されるAMPMという会議にまとめられており,世界各地で引き続き,Additive Manufacturing,3次元造形が注目されている.

国内では,本学会の2016年度年次大会[4]で,「次世代3Dプリンティング」および「粉末成形とその評価」のセッションがあり,「粉体加工プロセスの計算機援用設計と新材料開発」についての基調講演も行われた.第24回機械材料・材料加工技術講演会[5]においても「粉末成形とその評価」のセッションが組まれ,いずれも盛況であった.また,粉体粉末冶金協会の春季および秋季大会においては[6],「光機能材料」「機能性複合材料としての元素ブロックならびに元素ブロック高分子」「永久磁石材料の現状と将来」「粉末冶金プロセスによる製造技術とその材料評価の新展開」「各種粉末の焼結技術および焼結機構の新たな展開」「磁性材料・磁気デバイスにおけるナノ・マイクロ構造制御」「粉末成形・加工による特異組織構造形成と高次機能化」「磁性材料・磁気デバイスにおけるナノ・マイクロ構造制御」「切削工具あるいは耐摩耗工具等に用いられる硬質材料の新たな展開」「粉末積層3D造形技術における課題と最先端研究」「自動車焼結部品の現状と今後の展開」「粉末積層3D造形技術における課題と最先端研究」といった特集が組まれた.

〔長田 稔子 首都大学東京

6・2・6 特殊加工

2016年のノーベル化学賞は,分子機械の設計と合成の業績に対して,フランス ストラスブール大学のジャンピエール・ソバージュ名誉教授,アメリカ ノースウエスタン大学のフレーザー・ストダート教授(74),オランダのフローニンゲン大学のベルナルド・フェリンガ教授(65)の三氏に送られた.この分子機械は,精密に設計され,化学的に巧みに合成された有機分子を用いたものであるが,継ぎ手構造を有するカテナン(catenane),軸受構造を有するロタキサン(rotaxane)など,機械系研究者,技術者が見ても興味を持つ美しい構造を有している.

さらに,これら環状化合物の合成には,ソヴァージュ教授が開発した銅イオンの錯形成能を巧みに利用した鋳型合成法[1]が用いられている.その合成機序は機械的に美しく進行する.このように構造のみならず,分子機械の合成(製作)にも機械工学的概念が応用されたのは,非常に興味深い.

現在の分子機械は,修復をどうするか,エネルギー供給方法の問題など,実用化には多くの研究課題を有しているが,例えば修復は,自己修復や自己複製など,機械工学においてもホットな課題を内包している.また,分子機械を高分子ゲルに組み込むことで,その働きにより力学的物性の大幅な改善などに応用[2]できるなど,新材料への応用も成果を挙げており,スマート材料のブレークスルー技術になりうる.

機械工学分野での分子機械の研究は,年次大会の講演発表を見ても現時点では活発とは言えない状況であるが,鋳型合成法を見ても明らかなように機械工学の概念,知見は大いに活用可能であると考える.1990年代に特殊加工である半導体加工技術を応用し,微小機械が機械工学の一分野に発展した.特にMEMSは,電子工学が機械工学を取り込んで新たな産業を生み出した.分子機械も化学工学が機械工学を取り込んで発展していくだろう.機械工学も他分野の概念を積極的に取り込み,機械工学の観点からも分子機械の設計,製作の研究,開発が進むことが期待される.

〔秦 誠一 名古屋大学

6・1・3の文献

[ 1 ]
(一社)日本ファインセラミックス協会, 2016年日本ファインセラミックス産業動向調査.

6・1・4の文献

[ 1 ]
日本プラスチック工業連盟ホームページ, http:/​/​www.jpif.gr.jp.
[ 2 ]
市川鉄雄, 強化プラスチックの需要動向—2015年, 強化プラスチックス, 第63巻, 82–83, 2017.

6・2・1の文献

[ 1 ]
素形材工業生産実績, 一般財団法人素形材センター, https:/​/​www.sokeizai.or.jp/​japanese/​what/​statis.html (参照日2017年1月).
[ 2 ]
第168回全国講演大会講演概要集, 公益社団法人日本鋳造工学会,(2016).
[ 3 ]
第72回世界鋳造会議報告, WFC2016組織委員会, 鋳造工学, 第88巻, 9号,(2016), pp560–584.

6・2・4の文献

[ 1 ]
溶接学会全国大会講演概要, http:/​/​www.jstage.jst.go.jp/​browse/​jwstaikai/​-char/​ja.
[ 2 ]
溶接学会編集委員会編, 特集 SIP/JST 革新構造材料プロジェクトにおける溶接・接合技術の概要, 溶接学会誌 Vol.86, No.1(2017), pp.4–58.
[ 3 ]
藤井英俊, 革新プロセス開発への道しるべ -FSW-, 溶接学会誌 Vol.85, No.6(2016), pp.43–52.
[ 4 ]
深田慎太郎, 11th International Symposium on Friction Stir Welding 参加報告, 溶接学会誌 Vol.85, No.6(2016), pp.53–55.
[ 5 ]
TWI, http:/​/​www.fswsymposium.co.uk/​.
[ 6 ]
溶接学会編集委員会編, 特集 溶接・接合をめぐる最近の動向, 溶接学会誌 Vol.85, No.5(2016), pp.45–137.
[ 7 ]
年鑑(23)生産技術・生産システム, 自動車技術 Vol.70, No.8(2016), pp.150.
[ 8 ]
伊東輝樹, スポット溶接ロボット技術, 溶接学会誌 Vol.85, No.7(2016), pp.18–23.
[ 9 ]
池庄司敏孝, 3D積層造形と界面, 溶接学会誌 Vol.86, No.3(2017), pp.6–9.
[10]
村田秀和, MIG/MAG溶接を利用した高速・高強度・低コスト金属3Dプリンタの開発について, 溶接学会誌 Vol.86, No.6(2016), pp.8–11.
[11]
OS連動特集, 溶射 Vol.53, No.4(2016), pp.142–164.

6・2・5の文献

[ 1 ]
粉末冶金統計, 日本粉末冶金工業会 http:/​/​www.jpma.gr.jp/​statistics/​pdf/​statistics_j.pdf(参照日2017年4月21日).
[ 2 ]
Plenary Presentations, European Powder Metallurgy Association https:/​/​www.worldpm2016.com/​post-event/​presentations/​plenary-presentations(参照日2017年4月21日).
[ 3 ]
World PM2016 Congress and exhibition, European Powder Metallurgy Association https:/​/​www.worldpm2016.com/​(参照日2017年4月21日).
[ 4 ]
日本機械学会2016年度年次大会, 日本機械学会 https:/​/​www.jsme.or.jp/​conference/​nenji2016/​(参照日2017年4月21日).
[ 5 ]
日本機械学会 第24回機械材料・材料加工技術講演会(M&P2016), 日本機械学会 https:/​/​www.jsme.or.jp/​conference/​mpdconf16/​(参照日2017年4月21日).
[ 6 ]
粉体粉末冶金協会 平成28年度春季および秋季講演会, 粉体粉末冶金協会 http:/​/​www.jspm.or.jp/​(参照日2017年4月21日).

6・2・6の文献

[ 1 ]
Dr. Christiane O. Dietrich-Buchecker, Dr. Jean-Pierre Sauvage, A Synthetic Molecular Trefoil Knot, Angew. Chem. Int. Ed. Engl. 28 No. 2(1989), DOI: 10.1002/​anie.198901891.
[ 2 ]
大森香奈, Abu Bin Imran, 関隆広, 劉暢, 伊藤耕三, 竹岡敬和, Molecular Weight Dependency of Polyrotaxane-cross-linked Polymer Gel Extensibility, Chemical Communications, 52, 13757–13759(2016), DOI: 10.1039/​C6CC07641F.

 

上に戻る