10. 動   力

10・1 日本のエネルギー事情

日本エネルギー経済研究所によると,2015年度の一次エネルギー国内供給(消費)は前年度比1.5%減となる石油換算470百万tであった.これは約四半世紀前の水準までエネルギー消費が減少したことになる.1.3%の経済成長や2014年度半ば以降の原油価格下落があったものの,2014年度以上の冷夏・暖冬に加えエネルギー多消費な製造業の生産活動低迷がエネルギー消費の押し下げに効いた.2014年度に導入後初めてゼロとなった原子力は,2015年8月に川内原子力発電所が再稼動した.太陽光などの再生可能エネルギー発電は,固定価格買取制度の強力な追い風を受け大幅に増加した.さらに電力需要の落ち込みもあり,2011年の東日本大震災後増加が続いていたLNG火力発電が初めて減少に転じた.石油等火力も引き続き減少,石炭火力も2014年度並みにとどまり,また最終消費も落ち込んだことで,化石燃料の一次消費はいずれも減少した(石炭:前年度比−0.6%,石油:−2.6%,天然ガス:−5.0%).これにより,エネルギー起源の二酸化炭素排出は1 156百万tとなり,大震災後で初めて減少した2014年度に続き2年連続で減少した(−2.8%).

2016年度は,一次エネルギー消費は,緩やかな景気回復や気温影響などにより,2月までの累計で前年同期比0.8%増となった.石油,石炭は2015年度に続き減少したが,天然ガスが増加に転じ,再生可能エネルギー,原子力は引き続いて増加した.原油輸入価格は,2016年2月の1バレル30ドルを底に反転上昇傾向にあり,OPECなどによる減産もあり2017年2月には$55/bblに達した.原油価格に3か月ほど遅れて連動するLNG価格も上昇に転じ,石炭は中国の生産抑制に起因する需給インバランスのあおりで乱高下するなど,価格の不安定性が再認識される年であった.国内では2016年4月の電力小売り全面自由化に続き,2017年4月からは都市ガスの小売り全面自由化が始まった.自由化・競争で先を行く石油では巨大元売り企業が誕生し,日本のエネルギー市場は新たな段階に入った.

〔栁澤 明 (一財)日本エネルギー経済研究所

10・2 火力発電

10・2・1 日本の火力発電の動向

a.電気事業者の発電設備

2016年12月末現在の電気事業者の発電設備は合計27 375万kWで,その内訳は火力17 419万kW(構成比63.6%),原子力4 148万kW(15.2%),水力4 952万kW(18.1%)などである(表1).2016年および2016年度中に完成した主な火力発電設備は5地点となっている(表2).

表1 電気事業者の発電設備(出力単位:MW)
表1 電気事業者の発電設備(出力単位:MW)
表2 2016年および2016年度中に完成した主な火力発電設備
表2 2016年および2016年度中に完成した主な火力発電設備

b.自家用発電設備

2016年9月末現在の自家用発電設備は合計2 401万kWで,その内訳は火力1 986万kW(構成比82.7%),水力55万kW(2.3%),新エネルギー等(風力・太陽光など)360万kW(15.0%)などである(表3).

表3 自家用発電設備(出力単位:MW)
表3 自家用発電設備(出力単位:MW)

c.計画中の主な火力発電設備

今後計画されている火力発電設備(環境アセスメント手続き実施中・実施済のものなど,2016年度末時点で公表されているもの)のうち主なものは34地点,3 439万kWである(表4).そのうち,燃料別出力割合はLNG(Liquefied Natural Gas)・都市ガスが約56%,石炭が約43%,その他が約1%となっている.

表4 計画中の主な火力発電設備
表4 計画中の主な火力発電設備

発電設備においては長期的な電力の安定供給,エネルギーセキュリティーの確保,地球温暖化防止など環境負荷低減の観点から火力,水力,原子力を中心とした電源のベストミックスが進められてきた.このような中,LNGを燃料とする発電設備ではコンバインドサイクル発電(CC)が,石炭を燃料とする発電設備では超々臨界圧汽力発電(USC)が導入されており,現在,CC,USC,石炭ガス化複合発電(IGCC)の建設が計画されている.

d.火力発電の新技術

LNGを燃料とする発電設備では,コンバインドサイクル発電においてさらなる高効率化が図られ,1 600℃級ガスタービンによる熱効率約61%(低位発熱量基準)を達成する発電設備が運転を開始した.また,次世代の高効率ガスタービンの実用化を目指し,国家プロジェクトとして1 700℃級ガスタービンの要素技術開発も進められている.

一方,石炭を燃料とする発電設備では,超々臨界圧プラントの蒸気条件を700℃級まで高温化させた先進超々臨界圧プラント(A-USC: Advanced Ultra Super Critical)の実用化要素技術開発が国家プロジェクトとして進められている.また,石炭ガス化複合発電では,海外で運転されている酸素吹き方式よりも送電端効率の良い空気吹き方式の開発が進められており,商用化に至る最終段階である25万kW級プラント(1 700トン/日級)の実証試験が2013年3月に終了,2014年度から商用プラントとして運用を開始し,54万kW級プラントの実証も計画されている.また,酸素吹き方式においても16.6万kW級プラント(1 180トン/日級)の実証試験が2017年3月に開始した.

〔川上 龍太 東京電力フュエル&パワー(株)

10・2・2 海外の火力発電の動向

国連エネルギー統計2013によると,2013年における世界の火力発電設備容量/発電電力量は,39.0億kW/16.2兆kWhであり,それぞれ2012年比で2.5%/2.7%増加した.

米国における2016年の新設火力は,ガス火力が739万kW,石炭火力が4.5万kWであり,ガス火力中心となっている.その理由として,2015年8月に発表されたクリーン・パワー・プラン(CPP)や炭素汚染基準(CPS)等の規制により,石炭火力の環境基準が非常に厳しくなっていることが挙げられる.しかし,2017年3月にトランプ大統領は「Energy Independence」の大統領令に署名.国内化石燃料保護政策としてこうした規制の見直しや,国有地での石炭採掘制限撤廃を宣言した.同大統領令は石炭業界にとって追い風と見られているが,シェールガス革命により米国内の天然ガス価格が大幅に低下しており,規制撤廃後も新設火力はガス火力が中心になると考えられている.

欧州では,再エネ大量導入を積極的に進める国が多く,火力発電所の稼働率低迷により経営が困難となるケースが見られる.特に天然ガス火力は燃料費が石炭より割高なため運転ができない傾向にある.しかし,低稼働率の発電所の廃止を進めてしまうと電力不足に陥るため,各国とも予備力の確保に苦慮している.英国は2014年から容量市場を開設しており,発電設備の保有に対して対価が支払われる.ドイツは容量リザーブを導入.リザーブに入った発電所は卸市場には参入できないが,設備に対価が支払われる.更にCO2削減のため,褐炭火力に対する予備力への移管制度を導入した.容量リザーブに似た制度であるが,予備力とされたプラントは4年後に廃止する必要がある.

〔濱﨑 崇志 (一社)海外電力調査会

10・3 原子力発電

10・3・1 日本の原子力発電の動向

a.軽水炉

わが国の原子力発電は,2016年12月現在,改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)を含む沸騰水型軽水炉(BWR)が22基,加圧水型軽水炉(PWR)が20基の計42基が稼動している.また,3基が建設中であり,6基が計画中である.表5に,最近5年間の原子力発電所の基数,合計出力および年平均の設備利用率の推移を示す.2016年は,関西電力の高浜原発3号機,四国電力の伊方原発3号機が営業運転を再開し,平均設備利用率は5.0%となった.他の原子炉の運転再開についても,各電力会社からの申請に基づき,新規制基準に基づく安全性審査が進められている.一方,四国電力の伊方原発1号機(PWR)が廃止された.

表5 最近5年間の原子力発電の推移
表5 最近5年間の原子力発電の推移

b.新型炉

高温ガス炉は,(国研)日本原子力研究開発機構(原子力機構)の高温工学試験研究炉(HTTR)の再稼働に向け,新規制基準への適合性確認のための審査が進められている.また,国,大学,原子力メーカー,ユーザー等で構成される高温ガス炉産学官協議会において,高温ガス炉の開発について検討された.国際熱核融合実験炉(ITER)計画では,日本が担当する機器の調達活動などによりITER建設が進展し,幅広いアプローチ(BA)活動も,(国研)量子科学技術研究開発機構においてJT-60SAの建設が順調に進展するなど着実に進められている.

〔竹上 弘彰 (国研)日本原子力研究開発機構

第5回原子力関係閣僚会議(平成28年9月21日)において年末にかけて今後の高速炉開発に関する方針を議論することが決まり,この決定に基づき国内の高速炉開発の司令塔機能を担うものとして「高速炉開発会議」が設置された.この会議での議論を踏まえて第6回原子力関係閣僚会議(平成28年12月21日)にて「もんじゅ」の取扱いおよび今後の我が国の「高速炉開発の方針」が以下のように決定された.

「もんじゅ」は,これまでに実証炉以降の高速炉開発に資する様々な技術的成果が獲得されるとともに,その過程で涵養された研究人材の厚みも相まって,我が国は世界でも高速炉開発の先進国としての地位を築いてきた.こうした技術や人材を今後とも最大限に有効活用し,我が国の高速炉研究開発を進めることが必要とされる一方で,近年の「もんじゅ」を取り巻く情勢の変化により,再開に要する時間的・経済的コストの増大,新たな運営主体の特定を含む再開に向けた不確実性等が明らかになった.また,「もんじゅ」再開で得られる知見については,取りまとめられた「高速炉開発の方針」において,新たな方策で獲得していく方針が示された.このような状況を勘案し,「もんじゅ」においてこれまでに培われてきた人材や様々な知見・技術等を,将来の高速炉研究開発において最大限有効に活かす観点からも,これまでの「もんじゅ」の位置付けを見直し,「もんじゅ」については様々な不確実性の伴う原子炉としての運転再開はせず,今後,廃止措置に移行することを決定した.

今後の高速炉開発は,決定された「高速炉開発の方針」に基づき,将来の高速炉の実現に向け,戦略の策定,体制の整備等を一体的に進めことになり,当面のアクションとして,「高速炉開発会議」の下に実務レベルの「戦略ワーキンググループ」を設置し,今後10年程度の開発作業を特定する「戦略ロードマップ」を2018年目途に策定することとなった.

高速実験炉「常陽」は,損傷した炉心上部機構の交換等の復旧作業が2014年に完了し,2015年6月に燃料交換機能等が全て正常に復帰した.また,2013年12月に施行された新規制基準への着実な対応が進められ2017年3月30日に新規制基準に適合させた変更申請を行った.

〔中村 博文 日本原子力研究開発機構

c.核燃料サイクル

日本原燃(株)が事業展開を進めている六ヶ所再処理施設では,主工程が完成し,ガラス固化体を製造するガラス溶融炉の社内試験も終了した.また,2014年1月より新規制基準への適合性確認を受けており,竣工に向けた対応を進めている.ウラン濃縮工場では,新型遠心機を導入し,2012年3月に生産運転を開始しており,順次生産能力を拡大していく予定である.MOX燃料工場は,建設工事中である.

原子力機構の東海再処理施設では,廃止措置計画の認可申請に向けた準備を進めるとともに,プルトニウム溶液と高放射性廃液をより安定な形で貯蔵するため,これらの溶液の固化・安定化にかかる取り組みを進めている.2014年4月に開始したプルトニウム溶液の混合転換処理については2016年7月に終了し,高放射性廃液のガラス固化処理については2016年1月から開始している.また,高放射性廃液のガラス固化技術の高度化に関する技術開発等を実施している.プルトニウム燃料技術開発施設では,MOX燃料に関する研究開発,核燃料施設の廃止措置やプルトニウム系廃棄物の処理に関する技術開発等を実施している.

〔田中 秀樹 (国研)日本原子力研究開発機構

10・3・2 海外の原子力発電開発の動向

世界原子力協会(WNA)の集計によると,世界の原子力発電設備容量は2017年1月1日現在で運転中が447基,3億9 138.6万kWとなり,前年実績から8基,883.9万kW分増加した.また,建設中は60基,6 450万kW,計画中は164基,1億7 084.4万kWとなっている.

2016年に世界では10基,947.9万kW分が新たに送電開始しており,このうち5基が中国の原子炉.米国で20年ぶりの新規原子炉としてワッツバー2号機が送電開始したほか,韓国,インド,パキスタンおよびロシアでも1基ずつという結果である.また,新たに4基の原子炉が本格着工したが,3基までが中国のものであり,これには出力6万kWの海上浮揚式実証炉1基が含まれている.残る1基はパキスタンの原子炉だが,設計は中国が知的財産権を有する輸出用第三世代の「華龍一号」.中国はさらに,独自設計の高速実証炉を建設する計画も進めており,2015年に世界第4位に躍進した原子力設備容量を背景に,中央政府が目標とする「原子力強国」への道を突き進んでいる.

このように,世界の原子力発電開発は引き続き,中国やインドなどのアジア地域を中心に容量が拡大中.国際原子力機関(IAEA)が2016年9月に公表した2050年までの長期見通しでも,この傾向は顕著となっている.同見通しでは,世界の原子力発電設備は増加率が次第に鈍化しつつあるものの,2015年に3億8 290万kWだった容量は,2030年までに低ケースで1.9%増の3億9 020万kW,高ケースでは56%増の5億9 820万kWに増加すると予測.長期的に見れば,原子力は世界のエネルギー・ミックスにおいて重要な役割を果たし得るとの結論を明らかにしている.

〔石井 明子 (一社)日本原子力産業協会

10・4 新エネルギー技術

10・4・1 燃料電池

家庭用燃料電池エネファームの2016年度の販売台数は約4.7万台と2015年度の4.0万台よりも7千台増加した.エネファームへの国からの導入支援補助金は固体高分子形が2018年度まで,固体酸化物形が2020年度まで支給される.固体酸化物形では,マイクロガスタービンと組み合わせた加圧ハイブリッド型250 kW級システムの実証運転が新たに4カ所で開始される予定であり,本システムの2017年度市場投入に向けた技術開発も進められている.りん酸形,溶融炭酸形もそれぞれ数百kW級,数MW級定置用システムが内外で着実に導入された.燃料電池自動車に関しては2015年にトヨタMIRAIの販売が700台規模で開始され,2016年にホンダCLARITYのリースが200台規模で開始された.水素ステーションの2015年度末の設置数は88カ所である.経済産業省を中心に取り纏められた「水素・燃料電池戦略ロードマップ改訂版」では水素ステーションを2020年度までに160カ所,2025年度までに320カ所整備する計画である.

〔麦倉 良啓 (一財)電力中央研究所

10・4・2 太陽電池

太陽光発電協会(JPEA)によると,日本における2016年の太陽電池出荷量は9 609 MW(2015年比78%)であった.このうち,国内向け出荷量は8 124 MW(前年比80%)と,全体の85%であった.全出荷量は,2014年をピークとして依然減少傾向にある.

種類別としては,シリコン結晶系太陽電池が8 815 MWと出荷量全体の92%を占め,シリコン単結晶太陽電池は2015年比66%,シリコン多結晶太陽電池は2015年比83%と,どちらも減少した.CIS薄膜太陽電池では,30 cm角サブモジュールにおいて世界最高の変換効率19.2%を達成した.

用途別では産業・事業用等の非住宅用モジュールが5 176 MWとモジュール国内出荷量の84%を占めたが,2016年度の太陽光発電による電力の買取価格が,10 kW以上においてkWhあたり2015年度の27円から24円(税抜)へと,さらに引き下げられた影響もあり,2015年比84%と,2年連続で減少した.

〔岡島 敬一 筑波大学

10・4・3 バイオマス・廃棄物発電

環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課資料「一般廃棄物の排出および処理状況等(平成27年度)について」[1]によると国内ごみ排出量は4 398万t(前年度4 432万tに対して0.8%減)で,平成12年度をピークに減少傾向にある.直接焼却量は3 342万t(直接焼却率は80.1%)で,平成15年度以降減少傾向である.ごみ焼却施設数は1 141施設で,このうち発電設備を有する施設数は342,全ごみ焼却施設の30.5%を占め,発電能力合計は1 934 MW,平均発電効率は12.59%で,高効率化傾向が続いている.

さらに平成23年7月に施行された「再生可能エネルギーの固定価格買取制度」により,バイオマス発電の導入が順調に進展中で,平成28年11月末の時点で制度開始後から新たに認定を受けた設備の導入容量は76万kW(認定時のバイオマス比率を乗じて得た推計値)となっている[2].

〔田熊 昌夫 三菱重工環境・化学エンジニアリング株式会社

10・4・4 水素利用技術

2015年12月に締結されたパリ協定に対する我が国政府の対応方針が2016年3月に取りまとめられ,その中で,水素は地球温暖化問題解決に貢献しうる技術として位置づけられた.例えば,内閣府総合科学技術・イノベーション会議の策定した「エネルギー・環境イノベーション戦略」においては,有望な革新技術として水素等製造・貯蔵・利用が取上げられ,また経済産業省の「エネルギー革新戦略」においては,「ポスト2030年に向けた水素社会戦略の構築」という項目が記載された.

一方,経済産業省資源エネルギー庁は2014年に「水素・燃料電池戦略ロードマップ」を策定したが,2016年3月にその改訂版を公開した(図1)[1].

図1 水素社会実現に向けた対応の方向性
図1 水素社会実現に向けた対応の方向性

フェーズ3において2040年頃の項に,「CCSや国内外の再エネの活用との組み合わせによるCO2フリー水素の製造・輸送・貯蔵の本格化」が記載されているが,これを受ける形で,経済産業省資源エネルギー庁に,「CO2フリー水素ワーキンググループ」が2016年5月に設置され,再生可能エネルギーの導入拡大に向けた課題と今後の取り組み等につき議論を開始した.

図1のフェーズ1においてFCVの販売台数は,2025年までに20万台と水素ステーション320箇所,また2030年までにFCV80万台程度の普及を目標として掲げている.水素ステーションの現状は,2016年12月現在で80箇所が運用している状況である[2].

再生可能エネルギー由来の電力を用いて水素を製造・利用する取り組み(Power-to-Gas,P2Gと略記される)がドイツで活発に検討され,2016年に実証事業の実施中が17件,建設中1件,計画中2件と報告されている[3].我が国でも,環境省やNEDO等により取り組みが行われている.

〔坂田 興 (一財)エネルギー総合工学研究所

10・4・5 風力発電

世界全体の風力発電の累積導入量はGWEC(Global Wind Energy Council)の統計によると2016年末で4億8 679万kW(2015年末4億3 288万kW)に達した.これは日本国内の原子力・火力を含む発電設備の合計2億9 776万kWよりも多い.2016年の新規導入は5 464(6 347)万kWで年成長率は前年比12(17)%増[1],新規投資額は1 125(1 096)億ドルであった[2].2016年に世界の年間電力需要の4(4)%を風力発電が供給した.

風力発電は気象条件で出力が変動するが,送電線の広域連系で変動を相殺することで,EUでは年間電力供給の10.4%(2016年は風況が悪く,2015年の11.4%から低下)を担っている.デンマーク,アイルランド,ポルトガルの3国では20%以上,キプロス,スペイン,ドイツ,ルーマニア,英国,スウェーデン,リトアニア,オーストリア,コスタリカの9国では10%以上を供給している[3].

国別では累計・新規ともに,1位中国,2位米国,3位ドイツである.特に中国は累計で35%,新規は43%の世界シェアを持つ.環境保護に熱心とは言えない中国と米国が世界1を争い,原子力依存のフランス,島国の英国とアイルランドも,風力発電を大量導入している(表6).風力発電は安価に短期間に大量導入できる「国産エネルギー源」として多くの国々で活用されている.最近の新規建設は中南米(ブラジル他)やアフリカが増えてきている.更に欧州を中心に洋上風力開発(商用案件は全て着床式)も進みつつある(写真1).

表6 世界の風力発電の導入状況[1, 3]
表6 世界の風力発電の導入状況[1, 3]
写真1 オランダのEneco Luchterduinen洋上風力発電所(三菱商事も出資,2015年運開,3MW×43基=129MW,写真提供:MVOW)
写真1 オランダのEneco Luchterduinen洋上風力発電所(三菱商事も出資,2015年運開,3 MW×43基=129 MW,写真提供:MVOW)

日本の風力発電は2017年3月末時点で,累計で338万kW・2 245台(317万kW・2 143台),2016年度の新規で30万kW・147台(25万kW・118台)/年である(写真2).残念ながら世界の約2%に過ぎない.年間電力供給に占める風力発電の比率も0.5%に過ぎず,10%以上が並ぶ先進諸国には大きく後れを取っている(表6).2012年7月から固定価格買取制度(FIT:Feed in Tariff,大型風力は22円/kWh)が始まったが,同年10月から1万kW以上の風力発電所には法規に基づく環境アセスメント(手続きに4~5年必要)が適用されたため,FITによる導入促進効果が顕在化するのは2017年以降になる.現在,1 250万kW(内,約300万kWが洋上風力)の開発計画が手続中もしくは完了している.洋上風力開発では,港湾部への導入促進のために国土交通省が2016年5月に港湾法を改訂した.さらに一般海域に対しても,政府は2017年度内にルール化する方針を示している[4].

写真2 日本の大型ウインドファームの例(宮崎県の中九州大仁田山風力発電所2016年運開,2MW風車×8台,写真提供:Japan Renewable Energy社)
写真2 日本の大型ウインドファームの例(宮崎県の中九州大仁田山風力発電所2016年運開,2 MW風車×8台,写真提供:Japan Renewable Energy社)

風力発電機は大型化が進んでおり,陸上設置用で定格出力3 MW以上(注:1 MW=1 000 kW),ロータ直径110 m以上,タワー高さ100 m以上,洋上用では定格出力6~9 MW,ロータ直径約160 mの風車が商用化されている.ここ1年間の大きな変化としては,風力発電(陸上と洋上の両方)の急激な価格低下と,洋上風力のグローバル化が挙げられる.陸上風力発電は,太陽光発電や安価なシェールガスによる火力発電と経済性で競争している.好風況,低人件費,良連系条件,低事業リスクの地域に大型風車を大量導入することで,10円/kWh以下を達成した事例が複数ある(図2)[5].2016年時点の再安値はモロッコの30ドル/MWh(3.3円/kWh)である.

図2 世界の太陽光・風力発電の低コスト事例[5]
図2 世界の太陽光・風力発電の低コスト事例[5]

洋上風力発電でも,環境アセスメントと系統接続が政府に保証され,洋上変電所と陸上までの海底送電線のコストが送電会社負担になっているオランダやデンマークの案件では,事業リスクが小さくなり,驚異的に入札価格が低下した(図3)[6].8~9 MW級超大型風車による台数(建設工数)低減,それに応じたSEP船と港湾インフラの整備,SCADAとCMS(機器寿命監視)による稼働率向上,輸送建設工法の最適化(日に2台のペースで据付),大手事業者が自らEPC取纏めて中間マージン排除する,等の工夫が実を結んでいる.

図3 欧州洋上風力市場 事業入札動向(MVOWまとめ)[6]
図3 欧州洋上風力市場 事業入札動向(MVOWまとめ)[6]

立地拡大に向けて,陸上では寒冷地(−40℃以下)や高山(標高3 000 m以上)向け特別仕様の普及,洋上風力開発の本格化,空中風車(AWT: Airborne Wind Turbine)の研究,等が進んでいる.浮体式洋上風力発電は,ノルウェー,ポルトガル,日本(写真3)の3国で実証研究が行われており,英国,フランス,米国,ドイツでも実証計画が進みつつある.

写真3 福島県楢葉沖の浮体式洋上風車(手前が2017年運開の5MW風車.奥が2016年運開の7MW風車 写真提供:FukushimaFORWARD)
写真3 福島県楢葉沖の浮体式洋上風車(手前が2017年運開の5 MW風車.奥が2016年運開の7 MW風車 写真提供:FukushimaFORWARD)

〔上田 悦紀 (一社)日本風力発電協会

10・4・6 地熱発電

2011年の東日本大震災以降,再生可能エネルギー導入拡大が望まれる中,ベース電源として活用可能な地熱発電が大きな注目を集めている.

経済産業省では,2016年4月に「エネルギー革新戦略」を決定し,エネルギー投資の促進,エネルギー効率の大幅改善を目指している.

過去にNEDOが地熱開発促進調査を実施した八幡平市安比地域(岩手県八幡平市)では,2018年の地熱発電所(出力14 900 kW)建設工事開始を目指して,2016年3月から環境影響評価手続中である[2].

また,2018年の運転開始を目指して,2016年8月に山川発電所(鹿児島県指宿市)の構内に地熱バイナリー発電(出力4 990 kW)の建設工事を開始した.

NEDOでは,2017年度(事業最終年度)も引き続き,地熱発電の導入拡大を目的として,地熱の技術開発プロジェクト(地熱発電技術研究開発)を遂行しており,①低温域の地熱資源有効活用のための小型バイナリー発電システムの開発,②発電所の環境保全対策等技術開発,③地熱発電の導入拡大に資する革新的技術開発,を主とした技術開発に取り組んでいる[3].

〔和田 圭介 (国研)新エネルギー・産業技術総合開発機構

10・4・7 電力貯蔵

電力系統を安定化させる蓄電システムは蓄電池の他にも技術開発が進んでいる.早稲田大学,(一財)エネルギー総合工学研究所,(株)神戸製鋼所は共同で断熱圧縮空気蓄電システムを開発している(NEDO電力系統出力変動対応技術研究開発事業,2014~2018年度).風力発電や太陽光発電電力で空気をエアコンプレッサーで断熱圧縮し,低温圧縮空気と圧縮熱に分離し,このうち低温圧縮空気はタンクに貯蔵し,圧縮熱は蓄熱槽に貯蔵する.電力需要に対してはタンクから空気を取り出して圧縮熱で高温に戻し,エアタービンを回して発電機を稼働させ放電する.発電用のエアタービンは回転速度を毎秒10%制御できるため,変動する発電電力に追随可能である.2017年4月からは静岡県河津町で実証試験を開始している.また蓄電システムの導入拡大に対応して,国際標準化活動も活発化している.2012年に立ち上がったIEC TC120では,電力系統に接続されるすべての電力貯蔵システムを適用範囲(スコープ)として,「用語」,「試験方法」,「設計・設置」,「環境」,「安全」のIEC62933シリーズとして規格化される計画である.2017年中には日本が国際主査を務めるIEC62933-2(電力貯蔵システムの試験方法)などが発行される見込みである.

〔三田 裕一 (一財)電力中央研究所

10・4・3の文献

[ 1 ]
環境省大臣官房廃棄物・リサイクル対策部廃棄物対策課資料 一般廃棄物の排出及び処理状況等(平成27年度)について http:/​/​www.env.go.jp/​press/​files/​jp/​105331.pdf(参照日2017年4月6日).
[ 2 ]
固定価格買取制度 情報公表用ウェブサイト http:/​/​www.enecho.meti.go.jp/​category/​saving_and_new/​saiene/​statistics/​index.html(参照日2017年4月6日).

10・4・4の文献

[ 1 ]
水素・燃料電池戦略ロードマップ, 経済産業省 http:/​/​www.meti.go.jp/​press/​2015/​03/​20160322009/​20160322009-c.pdf.
[ 2 ]
水素ステーション普及状況, 一般社団法人 次世代自動車振興センター http:/​/​www.cev-pc.or.jp/​suiso_station/​index.html.
[ 3 ]
Power to Gasに関する取り組み状況, NEDO http:/​/​www.meti.go.jp/​committee/​kenkyukai/​energy/​suiso_nenryodenchi/​co2free/​001_haifu.html.

10・4・5の文献

[ 1 ]
Global Wind Report 2016, 2017年4月25日, GWEC, http:/​/​www.gwec.net/​publications/​global-wind-report-2/​global-wind-report-2016/​.
[ 2 ]
RENEWABLES 2017 LOBAL STATUS REPORT,2017年6月,REN21 http:/​/​www.ren21.net/​gsr-2017/​.
[ 3 ]
Wind in Power 2016 European statistics,2017年2月,WindEurope https:/​/​windeurope.org/​about-wind/​statistics/​european/​wind-in-power-2016/​.
[ 4 ]
再生可能エネルギー導入拡大に向けた関係府省庁連携アクションプラン 2017年4月11日,再生可能エネルギー・水素等関係閣僚会議 http:/​/​www.cas.go.jp/​jp/​seisaku/​saisei_energy/​pdf/​h290411_actionplan.pdf.
[ 5 ]
再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会(第1回)2017年5月25日 資料3 http:/​/​www.meti.go.jp/​committee/​kenkyukai/​energy_environment/​saisei_dounyu/​001_haifu.html.
[ 6 ]
再生可能エネルギーの大量導入時代における政策課題に関する研究会(第3回)2017年6月14日 資料2 http:/​/​www.meti.go.jp/​committee/​kenkyukai/​energy_environment/​saisei_dounyu/​003_haifu.html.

10・4・6の文献

[ 1 ]
エネルギー革新戦略を決定 (平成28年4月)経済産業省 http:/​/​www.meti.go.jp/​press/​2016/​04/​20160419002/​20160419002.html.
[ 2 ]
安比地熱発電所(仮称)設置計画 環境影響評価方法書(平成28年8月)経済産業省 http:/​/​www.meti.go.jp/​committee/​kenkyukai/​safety_security/​kankyo_chinetsu/​h28_02_haifu.html.
[ 3 ]
地熱発電技術研究開発 (平成29年6月)国立研究法人新エネルギー・産業技術総合開発機構 http:/​/​www.nedo.go.jp/​activities/​ZZJP_100066.html.

 

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