第29期[2022年度]関東支部・支部長挨拶

関東支部の今期の方針

第29期関東支部・支部長 早稲田大学 天野嘉春


写真:天野嘉春 支部長  2019年末から新型コロナウィルス禍に見舞われ、この原稿を執筆している2022年4月現在でも、第6波の余波が継続しています。いわゆる「新しい生活様式」の継続を余儀なくされている一方で、グローバルには気候変動対策は待った無しの状況となり、温室効果ガスの削減に向けた世界全体で脱炭素化の動きが本格的に進行しています。2022年2月24日に始まるウクライナへのロシアによる軍事侵攻は、エネルギー資源価格の高騰とサプライチェーンの混乱を加速しています。次々と報道される戦争犯罪の悲惨さは目も当てられず狼狽するばかりですが、社会の先行きに対する不安を一層高めています。私たちの社会がいかに高度に連携して動作する複雑なシステムであるか、平時にはその複雑さおよび重要性には気づきませんが、いざ綻びが表面化すると、次から次へと思いもよらない事態を招き、先行きへの不透明感をかえって増大させているようにも思えます。また、国家の最高意志決定者の暴走を誰も止められない組織の仕組みを観るにつけ、マネジメントの失敗は、組織が大きく強大であるほど重大なカタストロフィーを招くことをまざまざと見せつけられました。
 一方で、国内ではSociety 5.0のかけ声のもと、昨今はどんな組織にもDigital Transformationがこだましています。土木、電気、機械工学といった、実体的なハードウエアを対象として、古くから存在してきた理工学系の分野への進学を希望する学生数は、先進国では顕著に減少し、情報系への注目と志向は著しいものがあります。機械工学は実体を持つシステムを設計し、現実化する(製造する)ための工学です。対象の理解には科学的な合理性は必要不可欠ではあっても、科学だけでは実体を設計し産み出すことはできません。未だ科学的には厳密に解明されていなくとも、なんとか現実とのギャップを埋めるノウハウを体系化し、設計・製造する工学的な知的営為が、いわばart workとして実体化させるのです。要求機能を客観的に、かつ、十分正確に記述することが、理論と実在とのギャップを埋めることになるのですが、ノウハウは属人的な部分も多くあり、文書などの記録方式にもなじまないため、多くが技能として扱われてきました。このため、属人的な技能を伝承することは非常に困難です。そこで、それらを客観的な技術として昇華する必要があります。対象のセンシングによるデータ化、その後の機械学習などによるモデリング・分析、そして最適化技術を基にした意志決定まで、全ての領域でデジタル技術は強力な武器となっています。すなわち機械工学分野においても、デジタル技術は単なるデータ処理を超えた世界の記述形式を提供し、データからの現象の解釈、最適化による意志決定の支援ツールとして積極的に活用すべき技術です。
 支部運営やブロックの活動にもデジタル化を積極的に取り込み、より効果的に活動する工夫を推し進めて行きたいと思います。皆様には積極的なご参加とご協力を賜りますよう、お願い申し上げます。

歴代支部長挨拶