山口大学大学院理工学研究科博士前期課程機械工学専攻(大坂研)
本多 宏昭
流体力学(あるいは流体工学)を学ぶ面白さの理由として,流体の運動が「非線形」のため乱流の運動の「答え」をどうにかして見出そうと,自ら考えた実験的な工夫を多様に行なっていくことであると思う.それは流れの定性的な理解のための可視化法や定量的な理解のための熱線流速計やLDVを用いた計測法などなどである.さらに,乱流の研究はこれまで多くの研究者によって研究が行われ続けられているにもかかわらずいまだよく分かっていない研究価値の高い学問であると思う.
私自身感じている流体の魅力は,ゴルフボールのディンプルによる流れの制御のように「流れを操れる可能性が無限大にあるかもしれない.」ということである.その他の流れの制御は,翼面上に設置されているボルテックスジェネレータ,競泳水着あるいはスピードスケートのウェアー等の表面加工による方法が挙げられる.これらの流れの制御は,流れによって生じる抵抗を増加あるいは減少させることである.流体によって生じる抵抗は圧力抵抗と摩擦抵抗に分類され,どちらの抵抗を制御するのかによってその制御方法は異なってくる.圧力抵抗の場合,物体表面を粗くして流れの状態を層流から乱流へ移行させ,物体表面上からの流れのはく離を抑制させる.摩擦抵抗の場合には,ボルテックスジェネレータによって流れ場に縦渦を導入して壁面近くに運動量を輸送して摩擦抵抗を増加,あるいはリブレットを用いて壁近くの流れの不安定性を抑制して摩擦抵抗を低減させる方法等がある.これらのことは,物(自動車,新幹線,航空機など流れにかかわる製品の全て)の設計(デザイン)において極めて重要なことであると思う.
図1 風洞装置
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図2 翼振動装置
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これら流体の制御に関することを初めて耳にしたのは,学部での講義の中である.そのときに聞いた制御は,ゴルフボールのディンプル,あるいは翼面上に設置されているボルテックスジェネレータによる方法で,驚きを持って話を聞いたのを今でも覚えている.私がそれまで思っていたことは粗さや突起を導入すれば流れをさらに複雑にし流れの制御など出来るわけがないと思っていた.しかし実際には,粗さや突起を導入して作り出した乱れを利用して流れを制御しているということが分かった.このときから流れの制御に興味を持ち始め,その更なる知識を増やし将来社会で知識を知恵として有効に使うために,流体工学研究室を選んだといっても差し支えない.
現在,私がおこなっている研究のタイトルは「横方向擾乱を加えた縦渦対と乱流境界層との干渉過程」である.この研究で使用している実験風洞を図1に示す.この風洞は全長12.5mの押し込み式エッフェル型低乱流境界層用風洞で,測定部は全長4000mm×幅1000mm×高さ500mmであり私の研究室では最も大きな風洞である.この研究の簡単な概要を述べておくと,主流中に設置したデルタ翼を横方向に周期的に振動させてデルタ翼によって形成される縦渦に擾乱を与え,滑面乱流境界層に干渉させるものである.図2にデルタ翼を横方向に周期的に振動させる翼振動装置を示す.この装置には往復スライダクランク機構を用い,擾乱の振幅は10mm,擾乱周波数は0.5Hz,1.0Hzでデルタ翼を横方向に振動させる装置である.この研究の工学的応用範囲は,はく離防止,熱伝達の促進および混合拡散などと関係しており,その制御の応用範囲が広いと思われる.この研究の特徴は,縦渦に特定の周波数の揺らぎを与えて,その揺らぎより境界層に不安定性を生じさせようとしていることである.これによって,揺らぎによる乱流場の励起に対する効果および縦渦による乱流境界層の制御の可能性を見出すことを期待している.揺らぎが与える影響を調べるためには,計測の際に注意しなければならないことがある.それは,平均・揺らぎ・変動(ランダム成分)の三成分に分けた調査を必要とする.これを実現するために,計測装置の改良,計測プログラムの作成,長時間のデータ計測等々さまざまなことを行ってきた.また,現在も悪戦苦闘の毎日である.私の行っている研究が,将来どれくらい乱流研究の発展に役立つか分からない.しかし,この研究を通して自分自身が成長していくことができれば非常に嬉しいことである.最後に,面白い結果が得られることを期待して研究を続けていこうと思う.