▲野々下 知泰
(上智大学)
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昨年10月から1年間,上智大学の在外研究制度を利用して,ア メリカ・テキサス州ヒューストンにあるライス大学(Rice
University)に客員研究員として滞在してきましたので,ご報告 いたします.
テキサス州はメキシコと国境を接し,メキシコ湾に面したアメ リカ南西部の州で,その面積はアラスカ州に次いで全米第2位,
人口はカリフォルニア州に次いで,こちらも第2位です.大統領 候補(このニューズレターが発行される頃には選挙は終わってい るはずですが)のブッシュ氏(共和党)が州知事をしている,あの州です.ヒューストンはそのテキサス州最大の都市であり,全米でみても第4位の人口(約200万人)を有しています.ちなみ
に第1位はニューヨーク,第2位ロサンゼルス,第3位シカゴで す.また,大気汚染も最近ロサンゼルスが改善されたことによっ て,全米一になってしまっています.しかし生活してみると,そ
れほど空気が汚れているという印象はありませんでした.北緯約 30度,日本でいうと種子島あたりに位置しているため,東京近辺 に比べるととても暑く,真夏の最高気温は華氏110度(約4
3℃)にも達します.日射しも強烈で,肌が痛みを覚えるほどです.し かし一歩建物に入ると,72度(22℃)程度まで冷房で冷やされて
おり,天国のような心地よさを一瞬味わった後,今度は肌寒さに 耐えなくてはならなくなります.一方,冬は実に過ごしやすく, 外出時のコートも,室内の暖房も,ほとんど必要ありません.
ライス大学は1891年にW.M.Rice氏の寄付金により創設された 私立大学で,南部のハーバードとも呼ばれている名門大学です.
ダウンタウンにほど近い115万m2余りのキャンパスに,外観を 統一した低層の地中海様式の建物群と約4千本の樹木を配した美 しい大学です.最も古い建物の一つであるLovett
Hall(1912年竣工)は,1990年のサミット会場ともなった堂々たるものです(写真1).キャンパスの芝生は手入れが行き届いており,数多くのリ
スや小鳥たちが戯れています.フットボール用の立派なスタジア ムや野球場,テニスコートなど,スポーツ関連の施設も整ってお り,広いキャンパス内には無料の循環バスが走っています(写真
2).少人数教育が大きな特徴の一つであり,学部生は約2,700名, 大学院生は約1,500名と,6学部を抱える総合大学としては学生数
が少なく,それに対して常勤の教員は約500名となっています.工学部には土木工学,機械工学,材料科学,電気・計算機工学, 計算・応用数学,計算科学,化学工学,生物工学,環境科学工学,
統計学の9学科があり,全学の約四分の一の学生が所属していま す.
私がお世話になっていたのは,機械工学・材料科 学科のTayfun E. Tezduyar教授の研究室で,有限要素法を用いた数値流体力学に
関する研究を行っている研究室です.ここでは有限要素法におけ る流体計算安定化手法などの基礎的研究から,陸軍との共同研究 であるパラシュートなどの空中投下物まわりの流れ,NASAとの
共同研究であるX38(国際宇宙ステーションの緊急避難用宇宙船) の空力特性解析などの実践的な研究に至るまで,いずれも大型の
並列計算機を駆使しての研究がなされています.計算機は AHPCRC(Army High Performance Computing
Research Center)のCRAY T3E-1200(1088CPU, 1.3Tflops)が主に用いられており,計算結果の可視化などには研究室のSGI
Onyx2が活躍しています.また,学生の机の上には一人一台ずつ高性能パソコンが置かれて おり,大学院生にはパソコンの他にSGIのワークステーションも
一台ずつ与えられています.ソフトウエアも充実しており,大変 すばらしい計算環境が整えられているのに驚きました.私はここ で,パラシュート・クラスター(複数のパラシュートを用いて重
量物を投下するシステム)まわりの流れ解析や,2つのパラ シュートが互いに接近した時の干渉,パラシュート変形時の空力 特性,計算領域の大きさが計算結果に及ぼす影響などについて研
究させていただきました.
また,この研究室は,流体解析および構造一流体連成解析のコ ンピュータシミュレーションを発展させるべく結成されたチー
ム,Team for Advanced F1ow Simulation and Mode1ing(略称:T・・*AFSM)の本部ともなっており,リーダーのTezduyar教授の
他,ライス大学のAkin教授,Behr助教授,さらに他大学や陸軍, 民間の研究所の研究者数名,ならびに各先生方の大学院生がチー
ムメンバーとして参加しています.私が訪問する直前までライス 大学に半年間滞在されていた中央大学理工学部土木工学科 の樫山教授もチームメンバーの一人です.また,夏休み期間中には学部
の学生,および他大学や陸軍士官学校の学生がインターンシップ で3週間から3ヶ月間程度チームに加わります.その他,私の滞 在中には,信州大学工学部機械システム工学料の松田教授や,ス
ロバキア共和国Zilina大学のKompish教授がお見えになり,それ ぞれ短期間ではありましたが,チームに加わっておられました.
それでは最後に,夏休み中の最も研究室が込み合っていた時期 に撮影した記念写真(写真3)をご覧ください.
▲写真1
1990年のサミットの会場となったライス大学のLovett Hall
学長室などがあり大学のメイン・ビルディング的な存在
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▲写真2
緑の多いキャンパス内を走る無料循環バス
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▲写真3
夏休み中の研究室のメンバー
中列右端がTezduyar教授,後列左端が著者
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