2009年10月28日(水)~30日(金)にかけて,沖縄県読谷村にて,第19回設計工学・システム部門講演会が開催されました.今年度の部門講演会では,3件の特別講演と151件の講演発表,7件のD&Sコンテストへの参加,3件のワークショップと盛りだくさんなプログラムとなっており,197名の参加者を集めました.また,特別講演とワークショップの一部は,No.09-46公開講座「ものづくりと教育と地域産業の活性化による新しい日本の創成」と連携して一般公開し,読谷高校の生徒を中心に一般参加者も加え700名超の参加者を集めました. 特別講演(JSME特別講演会も含む)で御講演いただきました講師と講演題目,御講演概要は次の通りです.
特別講演1:『読谷山焼の歴史』
講師 松田 米司 氏 (読谷山焼北窯 親方)
特別講演2:『科学技術創造立国を支える人材育成 ~国民全員が科学技術的素養を深め,同時に国を挙げてイノベーション創出を担う人材育成の強化を~』
講師 柘植 綾夫 氏 (芝浦工業大学学長)
沖縄県立読谷高等学校の生徒,約700名とD&S講演会参加者に対して特別講演がなされた.この講演では,高校生の占める割合が多いため,2つのポイント,「科学と技術が支えている社会」,「大人になったら社会で何を行いたいか」ということを念頭において講演がなされた.
21世紀の今は,科学技術創造の成果が,学術面にとどまらず社会経済価値として社会に深く浸透し,経済的価値だけでなく市民の心と生活を支える社会システムにまで及んでいる.そのため,その光と影の部分に対する理解力と自らの意思を持って実践できる力としての教養,すなわち「知識基盤社会を支える市民が持つべき新リベラルアーツ,科学技術リベラルアーツ」を持つ自由市民であることが重要であるということをまず,はじめに説明がなされた.
また,日本は天然資源貧乏国であり,「人材育成と科学技術創造と社会価値創造によって生きていく道しかない!」という観点から,科学者や技術者が科学や工学を科学的価値に変換し,社会経済的価値へ創造していくイノベーション(科学的発見・技術的発明を洞察力と融合・発展させ,新たな社会的価値・経済的価値を生み出す革新)を生み出していくことが求められていることが述べられた.そこで,科学と技術と社会との橋渡しの学問で,さらに,イノベーションのための実学である工学の工学教育を見直すことが必要であるという説明があった.この問題は,(1)認識科学(「あるものの探求」,生命,人間,社会,世界,宇宙等の「あるもの」を探求)としての工学教育の細分化,(2)設計科学(「あるべきものの探求」,社会や人間の生活に資するための社会的,経済的価値の創造)としての工学教育の停滞(学術の認識科学への傾斜が原因),(3)工学教育における「設計科学としての教育」と「認識科学としての教育」との「相互連携教育の弱体化」,また,(4)初等・中等教育における理数教育と社会を支える技術教育との乖離も問題であるとしている.例えば,「理科・科学が社会に関係していることを教えてくれている」と考える生徒の割合が世界と比較すると日本は極めて低い,子供が自然体験をしていない,全体と比較すると20代は,科学技術に対する関心が少ないなどのデータを示しながら説明がなされた. この問題の解決には,学部教育における一般教養教育と専門教育との間に広がりつつあるギャップを橋渡しする「21世紀型科学技術リベラルアーツ教育」の構築が必要であり,知識基盤社会を支える科学技術人材の裾野の充実・拡大が急務であることが述べられた.また,会場の生徒に対しては,体験を通じた「科学技術リベラルアーツ」が重要であることが説明された.また,求められる人材像として4つのタイプ,Type-B: 幅広い基礎技術と基盤技術・技能を有する人材「設計科学指向」,Type-E: Enabler技術創造人材「認識科学と設計科学の融合指向」,Type-D: Differentiator科学技術創造人材「認識科学指向」,Type-Σ: 知の結合による社会的経済的価値創造人材(イノベーション構造の縦・横統合能力)「認識科学に立脚した設計科学指向」を挙げ,個人の資質に対応した工学教育プログラムの整備と選択の自由度の向上が必要であることが述べられた.
最後に,「科学技術リベラルアーツ」の必要性,工学教育のあり方,求められる人材像に対して,大変有意義な講演をしていただいた柘植先生に,改めて感謝の意を表したい.
長谷川 浩志(芝浦工業大学)
JSME特別講演会:『 世界一を目指すプロジェクト 』
本講演では,「世界一」をキーワードに,宮田教授が率いる2つのプロジェクトが紹介された.講師 宮田 秀明 氏 (東京大学大学院工学系研究科 教授)
1つ目は,国際ヨットレース「America’s Cup」における,日本の挑戦についてであった.150年近くの歴史を持つこのレースに挑むこのプロジェクトは「ニッポン・チャレンジ」と呼ばれ,宮田教授をリーダーとして,この20年程に3回行われている.アメリカ,イギリス,カナダ,オーストラリア等の古参の強豪が集う中,新参の日本チームが好成績を挙げていること,そしてこの大健闘の背景に,「世界一を目指して徹底的にやり遂げる」という宮田教授の意気込みや,他国チームの真似をせず,科学と情報処理技術を駆使して創造的な設計を追求する姿勢,「真に良いものを創る」という熱意の下に活発に意見をぶつけ合うチームメンバーの姿勢,があったことが紹介された.
2つ目は,「グリーン・ニューディール沖縄」プロジェクトについてであった.深刻な環境問題を背景に各国が環境技術における優位的地位を狙っている中で,二次電池をキーテクノロジーとして,(1)プラグインHybrid VehicleおよびElectric Vehicleの普及率世界一,(2)世界最高水準の自然エネルギー発電,(3)温暖化ガス排出削減量世界一,(4)Super Smart Grid社会システムの構築等,環境技術の世界一を沖縄から目指そうとする,このプロジェクトの内容が紹介された.
本講演は一般公開となっており,学会員以外に,講演会場近隣の沖縄県立読谷高等学校から約700名の生徒が参加した.上記のプロジェクトの紹介を通して,確固とした目標・ビジョンを持ち,困難なことにでも果敢にチャレンジすること,そしてその成功に向けてひたすら努力することの重要性を説く本講演の内容に,各生徒は興味深く聞き入っており,質疑応答の際には多数の質問があった.引率の先生方からも大好評であった.
森永 英二(大阪大学)
講演発表は17のオーガナイズドセッションと一般セッション,D&Sコンテストのカテゴリーで行われました.各セッションでの発表件数は次の通りです.
OS番号 | OS名 | 発表件数 |
---|---|---|
OS1 | 製品開発と設計方法論 | 6 |
OS2 | 設計理論・方法論 | 6 |
OS3 | 設計・デザイン論 | 6 |
OS4 | デジタルエンジニアリング | 10 |
OS5 | メカトロ設計 | 4 |
OS6 | モデル駆動型の製品システム開発 | 5 |
OS7 | 設計と最適化 | 15 |
OS8 | 近似最適化 | 8 |
OS9 | システム最適化 | 5 |
OS10 | 設計における知識マネジメント・情報共有 | 11 |
OS11 | 設計プロセスのモデリングとマネジメント | 9 |
OS12 | ライフサイクル設計とサービス工学 | 20 |
OS13 | 創発性と多様性の設計 | 5 |
OS14 | 感性と設計 | 7 |
OS15 | 感情と設計 | 2 |
OS16 | ヒューマンインタフェース・ユーザビリティ | 7 |
OS17 | 設計教育 | 4 |
GS1 | 一般セッション | 14 |
DC0 | D&Sコンテスト | 7 |
各セッションにおいてどのようなテーマを取り扱い,どのような議論が行われてたかにつきましては,セッションの座長の方に概要をそれぞれおまとめいただきました.以下のページに掲載しておりますので,そちらをご覧下さい.
この他,パネルディスカッションと2件のワークショップが開催されました.
部門講演会2日目の夜には,懇親会が行われ,参加者は懇親を深めました.この懇親会の席上で,第87期部門賞・部門表彰が行われました.表彰者については部門関係受賞者のページをご覧下さい.
また,講演会全プログラム終了後の10月30日午後には,オプショナルツアーとして美ら海水族館と名護パイナップルパークの見学ツアーが開催されました.2010年度の部門講演会は2010年10月27日(水)~29日(金)にかけて,(独)産業技術総合研究所 臨海副都心センター(東京都江東区)にて開催されます.様々なプログラムを予定しておりますので,発表者として,または聴講者として奮ってご参加下さい.
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