日本機械学会 動力エネルギーシステム部門

令和4年度部門賞・部門一般表彰

◇ 100期(令和4年度)部門賞及び部門一般表彰 ◇

 部門賞「功績賞」「社会業績賞」および部門一般表彰「貢献表彰」は部門員からの推薦に基づき、優秀講演表彰は2021年8月に開催されたICONE28、同年9月に開催された年次大会、同年10月に開催されたICOPE-2021、および2022年7月に開催された第26回動力・エネルギー技術シンポジウムの座長、聴講者等による評価結果に基づき、部門賞委員会にて慎重に審議を重ね、運営委員会での議を経て、今般下記の諸氏(敬称略)に贈賞の運びとなりました。ここにご報告申し上げます。なお、ご所属・役職は2022年10月時点のものとなります(優秀講演表彰については、ご講演時のご所属を記載(2022年10月時点のご所属を括弧書き)。

【部門賞「功績賞」】

■佐々木 隆(東芝エネルギーシステムズ株式会社 元統括技師長)
佐々木隆氏は、株式会社東芝入社後、京浜事業所においてガスタービンの開発及び蒸気タービンの開発・基本計画・設計に従事し、以来長きにわたり責任者・指導者として同社タービン技術の向上を通じて、発電分野の技術発展と社会の電力インフラの経済性・信頼性の向上に取り組んできた。

特に火力・原子力発電用蒸気タービンにおいては、600〜1000MW超級の超々臨界/亜臨界・大容量最新鋭機、300〜600MW級の亜臨界機、更には、地熱用蒸気タービン等の開発に従事し、多数の優れた製品を国内はもとより北米・東南アジアを中心に他全世界に提供した。さらに佐々木氏は、同社において火力・水力機器技師長、エネルギー部門の首席技監、統括技師長及び電力システム技術開発センター長を歴任、技術開発及びエンジニアの技術力の育成・向上に注力し、日本の発電事業発展への貢献は多大である。

また、日本機械学会をはじめ、日本電機工業会、日本ガスタービン学会などの学術協会等における活動を通じ、機械工学・工業発展に多大な貢献をした。以上の功績は功績賞に値するものである。

■齋藤 晋(北海道電力株式会社 取締役 常務執行役員)
齋藤晋氏は、1983年北海道電力株式会社に入社以来、火力発電所の運転、保守、材料の余寿命評価などの火力技術研究のほか、至近においては火力発電所長として保守技術高度化、定検工期短縮などを推進し、火力発電所の安定・安全運転や高効率・高稼働運用などの発電技術の向上に尽力した。

特に、苫東厚真発電所4号機への「ボイラー保守技術高度化システム」導入においては、プロジェクトを主導し、ICTの駆使によるボイラー運転監視と寿命評価の精度向上ならびに保守計画の最適化・省力化の観点で大きな評価を受け、国土交通省主催の第4回インフラメンテナンス大賞にて、「優秀賞」を受賞した。また、同社最大規模となる苫東厚真発電所在任時には、胆振東部地震および道内ブラックアウトが発生し、ボイラー管損傷やタービン出火などの重大かつ深刻な設備損傷や被災による物資不足に見舞われながらも、発電所長として昼夜を問わず陣頭指揮を執り早期復旧を果たすことで電力の安定供給に多大なる貢献をした。

このように長年の電力の安定供給、火力発電所の高効率・高稼働運用の取り組みにおいて、当分野の発展に寄与した功績は極めて大きく、功績賞に値する。

■小川 益郎(元 国立研究開発法人 日本原子力研究開発機構 原子力水素・熱利用研究センター長(現 高温ガス炉研究開発センター))
小川益郎氏は、1976年に大阪大学大学院工学研究科修士課程を修了後、旧日本原子力研究所に入所し、熱流体工学の専門家として高温ガス炉熱設計の課題であった層流化現象や黒鉛酸化現象等に関する多くの研究論文を公刊した。また、同氏は、核熱利用、原子力の安全性、原子力システムの構築・評価等に関し、高温ガス炉から供給される850℃の熱だけを用いて水から水素を製造する熱化学法の実験室規模・工学基礎・実用材料機器試験による段階的な技術確証を行った。さらには、高温ガス炉の固有の安全性の基本概念確立、放射性廃棄物有害度の根本的低減法の検証など、重要かつ高難度の課題を優れた独創性と洞察力で解決し、これらの業績により2006年に文部科学大臣賞を受賞した。

また、日・米・EU・カナダ・英国などの先進国が参加した第四世代原子力システム国際フォーラム(GEN-IV)で、高温ガス炉日本代表として同氏が提案した、旧高温ガス炉概念を脱した超高温ガス炉(VHTR)が次世代原子力システムに選ばれ、VHTR実証試験に向けた多国間研究協力が開始された。国内では、同氏らの尽力により、2014年のエネルギー基本計画に戦略的な技術開発を推進すべき技術課題として採択され、さらに、約50名の国会議員から成る高温ガス炉推進議員連盟が結成され、実用研究開発に向けた産官学協議会が設立された。

以上のような小川益郎氏のこれまでの活動実績、功績は功績賞に十分値するものである。

■山田 明(三菱重工業株式会社 顧問)
山田明氏は、発電所などを製造する企業の研究者として、伝熱や燃焼、熱力学などの研究に従事した。その内容は、管内・外の沸騰・凝縮、多孔質体、人工衛星、燃料電池に関する熱・物質移動の研究開発であり、それらの成果は特許等95件(登録特許40件)、 学術論文10件、総説・解説3件として公表されている。その成果を技術開発に応用することで、エネルギー変換機器やシステムの高効率化や環境負荷低減に多大な貢献をした。

また、それらの経験に基づいた後進の指導は企業内にとどまらず、九州大学など複数の大学院で熱エネルギー変換に関する講義を行うことで、実体験に基づき学生を指導した。学会においては、動力エネルギーシステム部門長、九州支部長などを歴任し、産業界の立場から学会の種種の活動を支援してきた。これらの功績は表彰に値する。

【部門一般表彰「貢献表彰」】

「湿り蒸気の流量計測ガイドライン作成と学会規格化に向けた取り組み」
受賞者:森田 良((一財)電力中央研究所 上席研究員)、内山 雄太((一財)電力中央研究所 主任研究員)、舩木 達也((国研)産業技術総合研究所 主任研究員)、梅沢 修一(東京電力ホールディングス(株) エグゼクティブリサーチャ)
産業分野の蒸気需要は112万TJ/年で電気に次ぐエネルギー量であり、蒸気は産業分野の熱エネルギー利用の約8割を占める。しかしながら、蒸気は輸送に伴う熱損失により湿り蒸気となり、この湿り分が蒸気流量計測に与える影響は明確となっていないため、この課題が残置されてきた。

これらの課題を解決すべく、受賞者らは蒸気を扱う産業分野、センサメーカ、大学・研究機関等、幅広く参加者を募り、「湿り蒸気流量計測研究会」(2012〜2017年)、「蒸気流計測の高度化に関する研究会」(2017〜2022年)を立上げ、運営してきた。その活動で、実ボイラを用いた実流評価を行い、産業界での蒸気や熱エネルギー利用に関する動向調査等を踏まえ、湿り蒸気の流量計測に関するガイドラインとして、流量計毎に湿り度に依存する流量計測指示値の補正法を研究会の成果報告書として整理した。その他、2021年8月に同内容を日本機械学会の学会基準作成へ新規申請し、審議を経て、その意義が認められ、学会基準としての公開に向けた審議が受理された。これらの成果は部門一般表彰に値する。

「勿来IGCC発電所・広野IGCC発電所 商用運転の開始」
受賞者:安藤 博文(三菱重工業(株) 主席技師)、岩橋 崇(三菱重工業(株) 主席技師)、石井 弘実(三菱重工業(株) プラント計画部 部長)、柴田 泰成(三菱重工業(株) 主席技師)、横濱 克彦(三菱重工業(株) 燃焼研究部部長)、小山 智規(三菱重工業(株))
三菱パワーを幹事会社とする共同企業体は、石炭ガス化複合発電(IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)設備を勿来IGCCパワー合同会社、および広野IGCCパワー合同会社に納入した。そして、福島県いわき市の勿来地点は2021年4月、広野地点は同年11月に商用運転を開始した。同設備は、世界最新鋭の石炭ガス化技術による高効率かつクリーンな商業発電所であり、三菱パワーは石炭ガス化炉をはじめ中核を担う空気吹きIGCC設備を担当した。本プロジェクトはIGCCの実証機である勿来10号機の約2倍のスケールアップを実現させたIGCCであり、国産技術で開発された空気吹きIGCCの初めての大型商用機である。さらにガスタービンの燃焼温度向上により発電効率48%を達成し、大幅に効率を改善している。環境性能についても石炭を燃料とする火力でありながらLNG火力と同等の環境性能(NOx=6ppm、SOx=19ppm)を達成するなど、日本で最も低い排ガス環境値レベルを達成。500MW級の空気吹IGCCの商用設備は世界初である。これらの成果は部門一般表彰に十分値するものである。

「日本での内燃機関工業振興における長年にわたる貢献」
受賞者:日本内燃機関連合会(代表者:会長 高畑 泰幸)
日本内燃機関連合会(以下、日内連)は、まもなく創立70周年を迎える、現在では原動機メーカーやエネルギー事業者、海運事業者など48の法人会員と21の賛助・学術会員(2021年7月時点)を有する連合会である。その活動は、@日内連が日本代表を派遣している国際燃焼機関会議(CIMAC)関連事業、AISO、JISなどの標準化事業、B普及・広報活動に大別され、各々の活動を通じて我が国の内燃機関工業の振興に寄与することを目的としている。日内連は、国際組織であるCIMACと日本の関連業界との橋渡し的役割を長年にわたり担ってきており、我が国の業界団体の窓口として、その国際化と発展に大きく貢献してきた。加えて、関連するISO規格の見直しに際し、我が国の業界としての意見を取りまとめて提案を行うなど、我が国関連業界の競争力や利益の確保に貢献してきた。これら日内連の我が国内燃機関工業振興への長期にわたる多大な貢献は、部門一般表彰に値するものである。

「六ケ所再処理施設アクティブ試験完遂とわが国の核燃料サイクル確立における貢献」
受賞者:イアン・ペグ(米国カソリック大学物理学部 教授/ガラス研究所 所長)
イアン・ペグ氏は、2000年にCUA-VSLに着任、以来ガラス固化分野でJNFL/IHIなどと技術情報交換を開始し協力関係を構築してきた。特に2007年に起きた六ケ所ガラス固化施設アクティブ試験のガラス溶融炉トラブルにおいて、いち早くVSLの試験炉を用いて原因究明試験を実施し、その原因がガラスの分離分相による影響であることを突き止め、対策を提案された。その対策を東海の実規模モックアップ炉で検証後、2013年5月にアクティブ試験を完遂することができた。その後も同氏は、ガラスの分離分相挙動の研究を継続され、貴重な知見を提供された。これらの知見は、2009年から始められた新型ガラス溶融炉の開発研究にも反映され、2015年新型モックアップ炉の運転試験により現行炉から大幅な性能向上が図られ、六ケ所再処理工場の安定操業に大きく貢献できることが確認された。以上より、同氏は六ケ所再処理プロジェクトの進展に注力され、わが国の核燃料サイクルの確立に貢献されており、部門一般表彰に値するものと考える。

「2050年温室効果ガス排出実質ゼロを達成するための提言の構築」
受賞者:小宮山 涼一(東京大学)、山野 秀将(日本原子力研究開発機構)、向井田 恭子(日本原子力研究開発機構)、福井 英博(東芝エネルギーシステムズ(株))、 松崎 隆久((株)日立製作所)、井手 章博(三菱重工業(株))、小竹 庄司(日本原子力発電(株))、松尾 雄司(立命館アジア太平洋大学)
表彰者らは、「原子力・再生可能エネルギー調和型エネルギーシステム研究会」(2019年4月〜2021年3月)を設置し、関連技術の実現可能性、事業性等にかかる科学的見地に基づいた望ましい2050年の電源構成や今後取り組むべき課題を検討し、2050年の脱炭素社会実現に向けて目指すべきエネルギーシステム、エネルギーシステムを支えるインフラと投資、2050年以降のあるべき姿について提言をまとめた。本件は、2050年温室効果ガス排出実質ゼロを達成するための提言を構築し、政府の政策検討に寄与したことに加えて、研究会成果を機械学会講習会、年次大会ワークショップ、原子力工学国際会議等で報告し、カーボンニュートラル実現に向けて機械学会の中で先駆けて検討しており、部門一般表彰に値する。

「世界最大規模10MW級のPower-to-Gas(P2G)の開発と実装」
受賞者:代表 山根 史之(東芝エネルギーシステムズ(株))、連名者21名(東芝エネルギーシステムズ(株)、東北電力(株)、東北電力ネットワーク(株)、岩谷産業(株)、旭化成(株))
世界的に脱炭素の実現に向けた取り組みが加速している中、電力を水素に転換することが出来るP2Gは、再生可能エネルギーの利用拡大と水素需要拡大に向けて大きく期待されている。そこで、再生可能エネルギーの導入拡大を見据え、電力系統需給バランス調整としての水素活用事業モデルと水素販売事業モデルの両立を目指した技術開発事業に2016年から取り組んだ。P2Gの規模は、20MWの太陽光発電設備を併設し、世界最大規模となる10MWの大型アルカリ水電解システムで水の電気分解を行い、毎時1,200Nm3(定格運転時)・毎時2,000Nm3(最大運転時)の水素を製造し、貯蔵・供給を実現する能力を有する。これらの業績は部門一般表彰に相応しいものであると考える。

【優秀講演表彰・日本機械学会若手優秀講演フェロー賞】
〇第15回動力エネルギー国際会議(ICOPE-2021 日本機械学会若手優秀講演フェロー賞

  • 福岡 儀剛(関西大学)「Unsteady measurements of film cooling effectiveness with fast-response PSP in a linear turbine vane cascade」

〇第15回動力エネルギー国際会議(ICOPE-2021 優秀講演表彰

  • 武塙 浩太郎(東京工業大学)「Impact of non-condensable gas on oxygen-hydrogen combustion power generation system」
  • 伊藤 慎太朗((株)IHI)「Demonstration of direct spray combustion of liquid ammonia in 2MW-class gas turbine」
  • 熊谷 理(三菱重工業(株))「Technique for shortening the term of periodic inspection of a steam turbine utilizing 3D shape measurement and FEA」
  • 大倉 悠生(九州工業大学)「Study on direct contact heat transfer during MEB in subcooled pool boiling」
  • 小林 穂高(東京理科大学)「Experimental study on vapor bubble oscillation and boiling sound in microbubble emission boiling (MEB)」

〇日本機械学会2021年度年次大会 優秀講演表彰

  • 柳田 航輝(東北大学)「酸化物型全固体電池の正極構成材料の開発を目的とした作製と評価」
  • 小野 奨太(東京都市大学)「リチウムイオン電池負極材のクリープ変形メカニズム」

〇第28回原子力工学国際会議(ICONE28 優秀講演表彰

  • 梅原 裕太郎(九州大学)「Microscopic Heat Transfer Characteristics During Cooling of High Temperature Surface by a Falling Liquid Film」
  • 佐々木 凌太郎(早稲田大学)「Design Study of SMR Class Super FR Core for In-Vessel Retention」
  • 浜瀬 枝里菜(日本原子力研究開発機構)「Core Thermal-Hydraulic Analysis During Dipped-Type Direct Heat Exchanger Operation in Natural Circulation Conditions」
  • 山本 泰功(北海道大学)「Spreading Behavior of Molten Metal on Flat Plate in a Shallow Water Pool」
  • 康 作夷(日本原子力研究開発機構)「Experimental and Analytical Investigation on Local Damage To Reinforced Concrete Panels Subjected to Projectile Impact:Part 1-Penetration Damage Mode due to Normal Impact」
  • 島 綾人(早稲田大学)「Analyses of Wet and Dry Cavity Strategies for BWR Severe Accident Management With MELCOR-2.2」

〇第26回動力・エネルギー技術シンポジウム 日本機械学会若手優秀講演フェロー賞

  • 岸 拓海(東北大学)「低温FACによる減肉速度に対する溶存酸素濃度と温度の影響」
  • 大島 光太郎(早稲田大学)「廃かん水を用いたCO2固定化におけるMgO生成と鉱物化プロセスのエネルギー評価」

〇第26回動力・エネルギー技術シンポジウム 優秀講演表彰

  • 山名 崇裕(三菱重工業(株))「再生可能エネルギーの余剰電力を活用する汽力発電所向け大規模蓄熱システムの概念設計」
  • 江村 優軌(日本原子力研究開発機構)「ナトリウム冷却高速炉の炉心崩壊事故における制御材と溶融ステンレス鋼の反応挙動に関する実験的研究」
  • 島 卓真(金沢大学)「S字翼を有するオルソプタ型風車の出力に関する風洞実験及び3次元数値流体解析」
  • 吉田 彬(早稲田大学)「デマンドレスポンスに対する需要家側エネルギー資源の最適運用モデル開発」
  • 田中 泰爾(北海道大学)「間欠的気泡注入による摩擦抵抗低減効果の長距離持続化」
  • 松崎 勝久(東京電力ホールディングス(株))「ALPS処理水の海洋放出に向けた進捗状況」