◇ 99期(令和3年度)部門賞及び部門一般表彰◇

 部門賞「功績賞」「社会業績賞」および部門一般表彰「貢献表彰」は部門員からの推薦に基づき、優秀講演表彰は 2020 年 8 月に開催された ASME’s Nuclear Engineering Conference powered by ICONE (ICONE2020)、同年 9 月に開催された年次大会、および 2021 年 7 月に開催された第 25 回動力・エネルギー技術シンポジウムの座長、聴講者等による評価結果に基づき、部門賞委員会にて慎重に審議を重ね、運営委員会での議を経て、今般下記の諸氏(敬称略)に贈賞の運びとなりました。ここにご報告申し上げます。なお、ご所属・役職は 2021 年 10 月時点のものとなります(優秀講演表彰については、ご講演時のご所属を記載(2021 年 10 月時点のご所属を括弧書き))。

【部門賞「功績賞」】

■浅野 誠一(富士電機株式会社 技師長)
浅野誠一氏は富士電機株式会社入社後、蒸気タービンの開発・基本計画・設計に従事し、長きにわたり責任者としてタービン技術の向上に取り組んできた。特に地熱分野では、国内はもとより北中米、フィリピン、インドネシア、ニュージーランド、アイスランド等、地熱資源保有国に向けて計 80 台超、3GW 超の地熱タービンの納入に携わり、世界の地熱発電分野における日本メーカの技術優位性の確立に貢献した。技術的には、構造評価と腐食の知見を活用して、腐食性地熱蒸気に耐え得る地熱用高強度長大低圧翼を開発し、単機容量で世界最大となったニュージーランド Nga Awa Purua 向け 147MW 地熱タービンを納入した。同プロジェクトは、同国で Project of the Year Award を受賞、また我が国でもエンジニアリング協会よりエンジニアリング功労賞(国際貢献の部)を受賞し、国内外ともに高い評価を受けた。

火力分野では、2002 年に同氏のリードで、改良 12%Cr 高温強度材の採用による主蒸気温度 600℃、再熱蒸気温度 610℃と当時世界最高レベルの USC 石炭火力となる 600MW 磯子火力発電所新1号機向け蒸気タービンを納入し、同分野の世界的な発展に貢献した。また、中容量の再熱タービンのコンパクト化に取り組み、導入・保守補修の容易さ等が評価され、再生可能エネルギーのニーズにより注目が高まるバイオマスプラント向けに、国内の多くの発電事業者に納入し、発電産業基盤の拡大に貢献した。

以上の功績は本功績賞に値するものである。

■村山 均(電源開発株式会社 会長)
村山均氏は 1980 年電源開発株式会社に入社以来、竹原火力発電所の保守、環境アセスメント、火力技術の開発(乾式脱硫技術)、磯子火力発電所リプレースの設計、橘湾火力発電所の建設などに携わり、火力発電所の高効率化、環境への配慮に尽力した。

特に、当時最新鋭の石炭火力である磯子火力発電所リプレース(53 万 kW から 120 万 kW へ)の基本及び詳細設計に携わり、多大なる貢献をした。同プロジェクトは、横浜という大都市の狭い敷地に、既設備の約 2 倍の出力を持ち、さらにエネルギー効率を世界最高水準まで向上(発電端効率 43%HHV)させた発電所にリニューアルするものであり、とりわけ環境面と敷地面で大きな制約がある中、国内発電所初の乾式脱硫技術導入による硫黄酸化物 95%以上除去の達成、石炭サイロやタワー型ボイラ等の導入など多くの新技術を取り入れて、都市型発電所として完成させた。

さらに、石炭火力発電所の安定運転に加え、CO2排出量の削減に向けて、大崎クールジェンプロジェクトをはじめとして、石炭ガス化関連の技術開発等を主導してきた。このように当分野の発展に寄与した功績は極めて大きく、功績賞に値する。

■坂井 彰(日本原燃株式会社 顧問)
坂井彰氏は 1976 年に石川島播磨重工業株式会社(現株式会社 IHI)に入社後、核燃料サイクル施設の設計・建設・運転に従事し、特に高レベル放射性廃棄物(HLW)ガラス固化技術の開発・実用化に貢献した。旧日本原子力研究所及び日本原子力研究開発機構の高レベル放射性物質研究施設、ガラス固化技術開発施設、燃料サイクル安全工学研究施設、日本原燃株式会社(JNFL)の高レベル放射性廃棄物貯蔵管理センター、高レベル廃液ガラス固化・貯蔵施設(K 施設)の竣工・運開に尽力された。特に、2007 年の K 施設におけるアクティブ試験でのガラス溶融炉トラブルでは、建設責任者として原因究明・対策立案・検証に取り組み、2013 年に竣工させた。

株式会社 IHI 退職後は JNFL 顧問として、新型ガラス溶融炉の開発、ガラス組成とガラス溶融炉の最適化研究など人材育成と研究基盤の維持に注力されている。また、過去 30 年以上に渡り、同分野の米独英など海外大学・研究機関に対する窓口として、施設訪問・技術交流を主導し、若手への啓発活動も継続している。

当学会においては、当部門第 90 期部門長をはじめ要職を歴任され、日本セラミックス協会 ガラス部会放射性廃棄物分科会や『ガラス工学ハンドブック改訂版』の執筆等を通じても、技術者の育成に多大なる貢献をされてきた。

以上のように動力エネルギーシステム部門の技術領域における貢献は極めて大きく、功績賞に値する。

■刑部 真弘(一般社団法人 日本ボイラ協会 会長)
刑部真弘氏は 1980 年に旧日本原子力研究所に入所、その後、茨城大学、東京商船大学(現東京海洋大学大学院)、日本ボイラ協会に在職し、一貫して動力エネルギー技術分野で活動されている。

旧日本原子力研究所では、軽水炉の熱工学的安全性確保に関して、当時、世界的な最優先研究課題であった大破断冷却材喪失事故時の炉心再冠水について、日米独 3 カ国共同による実証研究の中心となり活躍した。同研究では熱水力解析コード TRAC の開発にも携わり、解析技術開発にも大きく貢献している。

大学では、非平衡フラッシング流や排ガス中の水蒸気凝縮等の熱流体工学に関する基礎研究の他、動力機器で欠かせない安全弁の研究を行い、基準改定に大きく寄与した。また、二相状態にある管寄せ部の気液配分に関して性能を改善する方式の提案を行った。さらに、世界初となる低圧密閉タービンを用いた水バイナリー温泉発電装置を試作し、運転に成功するとともに効率向上の提案を行った。加えて、蒸気インジェクターの熱交換器としての性能評価法を提案するなど、動力エネルギーの基礎技術に大きく貢献した。

当部門では、第 81 期部門長をはじめ、動力・エネルギー技術シンポジウムや ICOPE-2015 の実行委員長、また、当学会の標準事業委員会委員も務め、学会の発展、活性化に寄与した。ボイラ協会およびバルブ工業会では ISO および JIS 規格等の作成にも尽力された。さらに、横須賀市環境審議会温暖化対策部会長や、日本ボイラ協会をはじめとする学協会の理事、会長等の要職を歴任され、関連分野に大きく貢献した。

以上の動力エネルギー技術の研究、学会活動、更には同分野の発展と普及に対する多大な貢献は、功績賞に値する。

【部門一般表彰「貢献表彰」】

■「原子力発電所安全性向上の国際的な貢献」受賞者:齊藤 健彦
齊藤健彦氏は株式会社東芝にて、改良型沸騰水型原子炉の安全性や炉心の制御特性を改良する技術開発を主導した後、国際原子力機関(IAEA)や我が国の原子力安全委員会において規制当局職員として原子炉の安全性向上に貢献した。

これらの経験を活かして、2009 年から 9 年間、当時、原子力の経験が無く、IAEA の推奨で原子力規制庁と原子力公社が設立された、アラブ首長国連邦(UAE)において原子力発電所の安全性向上に尽力した。齊藤氏は、UAE の原子力規制庁で、唯一の日本人職員として、IAEA の安全規制を基に UAE の原子炉に適用する原子力規制のドキュメント類をまとめ、原子炉プラント全体と原子炉のマネージに貢献した。また、2009 年 12 月には、韓国電力コンソーシアムによる同国国産の加圧水型炉 4 機を建設することが決定され、齊藤氏は、UAE の審査体系を整備しつつ、これらの建設許可申請書のレビューを実施して、原子炉系安全評価報告書をまとめ、安全性向上と建設進捗に大きく寄与した。さらに、初号機の建設完了後には、運転許可申請書をレビューし、初号機の運転指導にも貢献した。一連の審査作業は IAEA のレビューを受け、その対応にも的確に対応した。

以上、齊藤氏の原子力発電所安全性向上に対する国際的な貢献は大きく、貢献表彰に値するものである。

■「世界最高効率の火力発電システムで CO2排出量を削減」
受賞者:東芝エネルギーシステムズ株式会社(代表者:パワーシステム事業部 ビジネスユニットマネジャー 松下 丈彦)
東芝エネルギーシステムズ株式会社は、2017 年 9 月に営業運転を開始した中部電力株式会社(現株式会社 JERA)西名古屋火力発電所 7 号系列 1 号機において、コンバインドサイクル発電設備として世界最高効率 63.08%LHV(2018 年 3 月時点)を達成した。

同 7 号系列は、ガスタービン 3 台と蒸気タービン 1 台にそれぞれ発電機を連結した、多軸式のコンバインドサイクル発電方式を採用している。ガスタービンでは、燃焼ガス温度として世界最高水準の 1600℃級を達成しながら、低 NOx 性能を向上させた。主蒸気および再熱蒸気温度は、従来よりも高い 590℃級の設計として、プラントサイクル効率の向上を図り、また、排熱回収ボイラの最適設計により収熱性を向上させた。同社製蒸気タービンでは、高圧蒸気通路部での最適反動度翼と、低圧部での世界最大級の 48 インチ Ti 製最終段翼を採用し、これによる世界最大級の排気面積を以て、一軸式に比べて蒸気量が増加する多軸式コンバインドサイクル発電設備におけるシステム全体の効率向上と最適化を達成した。このほか、高効率化のために、低圧タービンからの抽気蒸気を熱源とする排熱回収ボイラの給水加温やガスタービン燃料加温システムを適用した。

以上の、最新の高性能化技術を搭載した主要機器と、システム全体の高効率化と最適化設計により、従来設備と比較して年間約 140 万 t の CO2排出を抑制する環境性能の高い発電設備を実現した。これらの業績は、貢献表彰に値するものである。

■「遠隔ロボット技術を駆使した福島第一廃炉作業の進展」
受賞者:遠隔ロボット技術を駆使した福島第一廃炉作業チーム(代表者:株式会社エイブル ゼネラルマネージャー 中馬 真理子、東芝エネルギーシステムズ株式会社 パワーシステム事業部 原子力福島復旧・サイクル技術部・プロジェクト第三担当 村越将貴、東京電力ホールディングス株式会社 福島第一廃炉推進カンパニー バイスプレジデント 田南 達也)
「遠隔ロボット技術を駆使した福島第一廃炉作業チーム」は、福島第一原子力発電所の廃炉作業を困難にしている高線量環境下において、遠隔ロボット技術を駆使して以下 2 つの廃炉作業を、事故から 10 年を経た 2020 年度に完了させた。これらの成果は、マスメディアによる報道でも評価が高い。
(1)クレーンで吊り下げた遠隔操作ロボットで、高さ 120m の 1 号機・2 号機共用排気筒の切断・解体・撤去を繰り返して、高線量・高所での作業を完遂した。このロボットは、福島の地元企業である株式会社エイブルがモックアップ試験を積み重ねて、独自開発した専用機であり、排気筒本体や 4 本の支柱を取り囲み、グラインダーなどの切断工具を遠隔操作して、確実な解体工事の遂行を可能にした。
(2)3 号機の水素爆発のために、使用済み燃料プール上に落下したコンクリート片や著しく変形した鋼材を、クレーンで吊った重機で切断・撤去して、使用済み燃料プールに蒲鉾状のアーチでカバーを設置した。次いで、ワイヤー操作で移動する 2 腕ロボットを駆使して、500m 離れた遠隔から燃料上部のコンクリート片を取り除き、566 体の使用済み燃料を全数取り出し、共用プールに移動、安定な冷却を達成した。

同チームは、これら廃炉作業の成果を ICONE2020 における Post Fukushima-Daiichi Nuclear Safety and Plant Decommissioning Panel や IAEA/OECD-NEA が共同運営する職業被ばく情報システム(ISOE)の北米シンポジウム(2021 年 1 月)で紹介し、高い評価を得た。

上記のように、本件の遠隔ロボット技術を駆使した廃炉作業の進展は、国際的に高い評価を得ており、
貢献表彰に値する。

【優秀講演表彰・日本機械学会若手優秀講演フェロー賞】

  • 2020 年次大会 優秀講演表彰
    長村 篤(大阪府立大学大学院(現 関西電力株式会社))「風速と波高の予見に基づく浮体式洋上風力発電システムのモデル予測制御(制御性能に対する風況および海況の影響分析)
    中村 浩太郎(早稲田大学大学院)「シビアアクシデント時の水素処理システム用酸化銅の還元反応過程における表面構造の変化」
    松林 晃平(三重大学)「フィールド実験による直線翼垂直軸風車の後流挙動に関する研究」
    江連 俊樹(日本原子力研究開発機構)「ナトリウム冷却高速炉の温度成層化現象に関する数値解析(共役熱伝達を伴う矩形容器ナトリウム試験を対象とした解析手法の適用性検討)」
  • ASME’s Nuclear Engineering Conference powered by ICONE(ICONE2020) 優秀講演表彰
    斎藤 海希(電力中央研究所)「Influence of Gas Properties on Gas-Liquid Two-Phase Flow」
    松原 健斗(早稲田大学)「Preliminary Investigation on Improvement of FP Management During BWR Severe Accident with MELCOR-2.2」
    陳 実(東京大学)「A Novel System for Automated Proper Use Identification of Personal Protective Equipment in Decommissioning Site of Fukushima Daiichi Nuclear Power Station」
  • 第 25 回動力・エネルギー技術シンポジウム 優秀講演表彰
    湯淺 朋久(電力中央研究所)「フラッシング噴流の流動解析手法の構築」
    冨永 幸洋(三菱重工業株式会社)「ボイラ低負荷運転時の排ガス NOx 生成を抑制する微粉炭バーナの開発」
    能登 大輔(北海道大学)「円筒容器内の不混和二層対流における三次元結合構造」
    渡邉 泰(電力中央研究所)「高湿分空気利用ガスタービンシステムを用いた水素エネルギー利用システムの基礎検討」
    小坂 亘(日本原子力研究開発機構)「工学的近似を用いたナトリウム−水反応ジェット挙動評価用粒子法コードの研究」
    李 俊諺(日本原子力研究開発機構)「数値計算による密度成層化を伴うデブリの冷却と再臨界に関する考察」
  • 第 25 回動力・エネルギー技術シンポジウム 日本機械学会若手優秀講演フェロー賞
    山崎 皓平(京都大学)「SOFC 燃料極における二峰性空隙構造の定量化と透過率への影響」