部門賞「功績賞」「社会業績賞」および部門一般表彰「貢献表彰」は部門員からの推薦に基づき、優秀講演表彰は 2019 年 9 月に開催された年次大会、および 10 月に開催された ICOPE-19 の座長、聴講者等による評価結果に基づき、部門賞委員会にて慎重に審議を重ね、運営委員会での議を経て、今般下記の諸氏(敬称略)に贈賞の運びとなりました。ここにご報告申し上げます。なお、ご所属・役職は 2020 年 10 月時点のものとなります(優秀講演表彰については、ご講演時のご所属を記載(2020 年 10 月時点のご所属を括弧書き))。
【部門賞「功績賞」】
■和仁 正文(三菱重工業株式会社 元特別顧問)
和仁正文氏は三菱重工業株式会社入社以来本社原動機事業本部及び長崎造船所において、蒸気タービンの基本計画・設計に従事し、中国大連・福州向けタービンを皮切りに、チュニジアラデス向けタービン等、数々の蒸気タービン納入に貢献、現在の車室設計技術の基礎を築いた。また、プロジェクトマネージャーとして、香港ラマ発電所向けボイラタービン引渡しに貢献し、中国電力向け三隅1号(1,000MW)では、当時最高水準となる24.5MPa×600/600℃級のボイラ/蒸気タービン納入を実現し国内外へ日本の技術力を知らしめた。
早くからPJ管理、安全管理手法を導入し高い管理能力を有するプロジェクト(設計・調達・建設)事業の実力向上に貢献した。
また、大型洋上風車の開発を指導するとともに洋上風車の事業化に尽力、デンマーク・ヴェスタス社との合弁会社の初代会長にも就任、風車の大型化の技術発展に貢献した。本学会の九州支部長他要職を務めて、原動機業界の進歩・発展に取り組んで来た。
以上の功績は本功績賞に値するものである。
■小野田 聡(株式会社 JERA 代表取締役社長)
小野田聡氏は 1980 年中部電力株式会社に入社以来、多数の火力発電所の計画・建設・運営に携わり、火力発電所の安定・安全運転に尽力した。
特に、世界初の超々臨界圧プラント(USC)である川越火力発電所 1・2 号機およびエネルギーのセキュリティ確保と総合的な供給コスト低減を目的とした国内最大の石炭火力である碧南火力発電所(総出力 410 万 kW)の計画・建設に携わり、2018 年度火力発電設備の総合熱効率 50.11%(LHV)を達成するなど発電技術の向上に多大なる貢献をした。また、2018 年からは発電カンパニー社長として、電源ポートフォリオの最適化のため、安価で安定的なベースロード電源となる、高効率石炭火力発電設備(BAT)である武豊火力発電所 5 号機(107 万 kW、熱効率 46%LHV)の建設や、CO2排出量削減に向けた再生可能エネルギーの拡大のために、設備改修による既設水力発電所の発電電力量増加やバイオマス燃料専焼設備である四日市バイオマス発電設備(4.9 万 kW、CO2削減効果 16 万トン/年)の建設等を主導した。
以上のように長年の電力安定供給、火力発電所高効率化、環境負荷低減の取り組みにおいて、当分野の発展に寄与した功績は極めて大きく、功績賞に値するものである。
■奈良林 直(東京工業大学 特任教授)
奈良林直氏は、原子力発電所の安全性向上に関して、株式会社東芝、北海道大学、東京工業大学と 3 つの組織で、原子力発電所の安全性研究、ABWR や SBWR などの次世代炉開発、そして保全工学などを通じて、原子力発電所の安全性向上や不適合事象の解決などに貢献した。例えば、浜岡原子力発電所 1 号機で発生した水素爆発に関する原因究明と対策に関して、非凝縮性ガスの蓄積と爆轟現象の解明に大きく貢献した。また、オンラインメンテナンスを含めた保全の最適化に関する活動を推進した。
福島第一原子力発電所の事故後は、経済産業省原子力安全保安院の福島第一原子力発電所の事故の技 術的知見および安全性総合評価の意見聴取会委員、原子力規制委員会福島第一原子力発電所の事故の分析検討チームの外部有識者として、原因の究明を行い、より安全な原子力発電所を目的としたさまざまな研究開発、提言を行った。特に、日本機械学会動力エネルギーシステム部門所属の原子力規制の最適化研究会副主査として、フィルタベントワーキンググループを立ち上げ、わが国の原子力発電所へ世界初の放射性有機ヨウ素フィルタの設置を推進し、その成果報告書を日本機械学会より出版するなど、福島事故後の原子力安全に多大な貢献をした。この功績は、IAEA と OECD-NEA が共同で運営する職業被曝情報システム(ISOE)で表彰され、海外でも高く評価された。また、マスコミを通じて原子力安全性向上に関する情報発信を続けるとともに、教員として、文部科学省公募事業「スーパーエンジニアの育成研修」など学生教育にも貢献した。
以上、我が国の動力エネルギーシステム分野の発展に多大な貢献があり、功績賞に値する。
【部門賞「社会業績賞」】
■西口 磯春(神奈川工科大学 教授)
西口磯春氏は、日本原子力研究所に入所後、高温ガス炉(HTTR)の高温構造設計技術研究に従事し、成果を精力的に論文として公開するとともに、高温ガス炉高温構造設計指針の策定に大きく貢献した。
神奈川工科大学工学部に転職後は、構造力学、有限要素法、計算機シミュレーション等の広い領域で精力的に研究を行い、「変形に依存する外荷重を考慮した有限要素法理論とその電磁構造問題への応用」を始め多くの先駆的研究成果を上げた。
さらに、本会発電用設備規格委員会傘下の火力専門委員会構造分科会、配管減肉管理改善に向けた基盤技術研究分科会、及び、配管減肉分科会の主査、火力専門委員会の委員長を務め、規格策定、改定に当り指導力を発揮された.また、この他多数の発電設備規格関係の委員会委員を歴任した。共同作業者達と共に、本会の発電用火力設備規格(JSME S TA1-2002, TA1-2003, TA1-2005, TA2-2005, TA-1-2008, TA2-2008)、発電用火力設備規格 基本規定(JSME S TA0-2008)、火力設備配管減肉管理技術規格(JSME S TB1-2006〜2009)、設計・建設規格 事務規格 弾塑性有限要素解析を用いたクラス 1 容器に対する強度評価の代替規定(JSME S NC-CC-005)他 18 個の規格の策定、改訂に大きく貢献された。
本会発電用設備規格は実際の火力、原子力発電所の設計、建設、検査等に広く活用されている点において、工業上の貢献は極めて大きい。
同氏は、産業界における技術指導にも熱心で、高圧ガス保安協会の 3 次元有限要素法(3D/FEM)応力評価委員会を長年指導してきた。この成果は、当会圧力容器の構造−特定規格 JIS B 8266:2003、圧力容器の構造共通用語 JIS B0190:2009 の策定に生かされている。また、経済産業省原子力安全・保安院編「解説 電気設備の技術基準」の発行にも貢献し、技術の社会への定着役割を果たしている。
以上の学術研究に加え、実産業分野、社会で大切な技術規格策定、改訂、技術の社会への定着に関する活動実績、功績は、社会業績賞に値するものである。
【部門一般表彰「貢献表彰」】
■「蒸気タービンの技術開発・発展における社会的貢献」
受賞者:原口 元成(三菱パワー株式会社 サービス本部 サービス計画部 主幹技師)
原口元就氏は、1981 年に日立製作所に入社後、蒸気タービンの熱性能計算に従事したのち、本体開発設計を担当、さらに米国留学を経て、輸出用蒸気タービンのプロジェクト関連業務に従事してきた。
日立製作所の輸出向け大型原子力タービンの初号機となる、中国秦山第三原子力発電所 1、2 号機蒸気タービン設備(728MW×2 台)では、大容量・コンパクト化を目指した 1,500rpm 用 52 インチ最終段長翼が開発・採用、タービン熱効率を向上させる湿分分離再熱器の改良等、当時の最新鋭技術が導入するプロジェクトを取り纏めた。
さらに、日立製作所の北米向け石炭火力 EPC 初案件となった、カナダ・アルバータ州ジェネシー火力発電所(超臨界 495MW、運転開始 2005 年)では、プロジェクトマネージャーとして尽力し、また、東京電力柏崎刈羽原子力発電所 6 号機(ABWR:改良型沸騰水型軽水炉、135.6 万 kW)の建設プロジェク
トにも参画し、蒸気タービン技術の発展のみならず、実プロジェクトでも数々の実績を残した。
これらの経験に基づく知見は「蒸気タービン新改訂版(日本工業出版)」、「Advances in Steam Turbines for Modern Power Plants (Elsevier)」等を通して、動力エネルギー技術の進展に大きく貢献した。学会活動においても、当部門の第 88 期部門長(2010 年度)、同第 89 期学会賞委員会委員長(2011 年度)、ICOPE-2017 日本側実行委員長を務め、ICONE では Track Leader として BOP(Balance of Plant)の立ち上げに永年尽力した。また、本会の学会賞委員会委員(2013 年度)、評議員(2012、2014、2015、 2017、2018 の各年度)も務めるなど、その他多くの学協会でも精力的に活動した。
以上の活動は、動力エネルギー技術の発展に大きく寄与しており、貢献表彰に値するものである。
■「国内初の大規模一貫 CCS 実証事業における地下貯留 30 万トン達成」
受賞者:日本 CCS 調査株式会社(代表者:中島 俊朗(代表取締役社長)、石井 正一(顧問))
日本 CCS 調査株式会社は、経済産業省「二酸化炭素削減技術実証試験事業」の委託先として、2012 年度より北海道苫小牧市において日本初となる分離回収から圧入貯留およびモニタリングまでの一貫 CCS の大規模実証試験を開始し、2018 年 9 月の北海道胆振東部地震と全道停電など幾多の困難を乗越え、以下にその成果を列挙する通り、2019 年 11 月 22 日に無事故で 30 万トン圧入を達成した。
・ CCS としては世界に類を見ない、陸域から直接海底下に至る地下 1,000〜3,000m の 2 本の高傾斜坑井について、経済的に優位な方法を模索され可能性を実証した。
・ フラッシュによるリッチアミンの CO2 解離・溶液再生を含む二段吸収法によって 1.22GJ/t-CO2 の分離回収エネルギーを実現し、3 年 8 か月の累積運転 645 日にわたり分離回収・圧入貯留の全ての安定操業を無事故で継続した。
・ 2018 年に発生した M6.7 の本震(158 ガルを記録)時にも、地上設備に損傷等はなく耐震性が実証された。地震前後に漏洩を疑う兆候は観測されず、貯留層の圧力変動から地下の構造にも影響がないことを示し、地震大国である日本でも安全に CCS が可能であることを立証した。
・ 圧入データを苫小牧市役所、Web上で公開して、徹底した情報公開による事業の透明性確保に努めた。また、各種展示会、学会、地元でのイベントに加え、海外から 1300 名以上を含む累積 10,000 名以上にも及ぶ積極的な見学受け入れによって、CCS の理解促進に向けた活動を数多く実施した。また、同社は CSLF 認定プロジェクトの事業者としてアジア・太平洋地域における CCS 事業の普及を主導する Regional Champion に任命された。
以上の業績は、貢献表彰に値するものである。
■「日仏原子力立地県間の柔道を通じたスポーツ交流による原子力 PA への貢献」
受賞者:パトリック・ベロ(仏オラノ社 ラアーグ再処理工場 国際業務支援技術者)、 松木 美刈(日本原燃株式会社 顧問)
パトリック・ベロ氏は、1999 年に仏旧コジェマ社(現オラノ社)の、ラマンシュ県に立地するラアーグ再処理工場の運転技術者時代に、同社柔道クラブ OHS AS COGEMA のコーチを務めていた。同氏は、原子力立地県として類似した環境を有する青森県とラマンシュ県の柔道を通じたスポーツ交流による原子力 PA 活動について、当時のコジェマ・ジャパン社のアシスタント(仏語通訳)である松木美刈氏とともに、日仏関係者への説明、調整に尽力した。その結果、同計画は実現され、以来、青森県内の各柔道クラブとの交流を拡大して、毎年交互に日仏間で開催場所を変えて原子力施設を相互訪問しながら、2019 年には青森県にて盛大に 20 周年記念式典を開催した。青森県と仏ラマンシュ県の間での、柔道を通じたスポーツ交流と原子力 PA 活動を 20 年にわたり継続しており、今後も盛大に展開されようとしている。この間、ベロ氏は全てのプログラムに参加し、松木氏も仏語通訳として地元との交流に大きな役割を果たしてきた。
以上の活動が、長期に渡り社会的理解を得る必要がある原子力 PA に果たした貢献は大きく、貢献表彰に値するものである。
■「166MW 酸素吹石炭ガス化複合発電(IGCC)システムの実証」
受賞者:大崎クールジェン株式会社(代表者:木田 一哉(代表取締役社長))
大崎クールジェン株式会社(中国電力株式会社/電源開発株式会社にて 2009 年設立)が実施する、大崎クールジェンプロジェクト(当初は経済産業省資源エネルギー庁石炭課の補助事業、2016 年度以降は国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の助成事業)では、166MW 酸素吹石炭ガス化複合発電(酸素吹 IGCC:Integrated coal Gasification Combined Cycle)実証試験発電所を建設、 2017 年 3 月に実証試験が開始された。この実証試験発電所は、石炭ガス化設備(酸素吹一室二段旋回型噴流床ガス化炉)、ガス精製設備、並びにガスタービン(型式 H-100(1300℃級、100MW 級 2 軸型))、蒸気タービン、発電機及び排熱回収ボイラからなる複合発電設備等で構成される。
この実証試験では、以下に示す通り、基本性能、設備信頼性、多炭種適用性およびプラント制御性・運用性等が確認され、所期の目標を全て達成した。・ 送電端効率 40.8%(高位発熱量基準)を達成し、商用規模の発電所では送電端効率が 46%程度になる見通しを得た。
・ 日本で最も厳しい排ガス規制に対する目標をクリアし、LNG 火力と同等の環境性能が達成した。
・ 累積 5,119 時間の運転、最大連続運転時間 2,168 時間を達成し、商用機に求められる年利用率 70%以上の見通しを得た。
・ 瀝青炭・亜瀝青炭を含む 4 炭種を試験し、幅広い炭種適合性を実証した。
・ 従来の微粉炭火力の負荷変化率 3%/min 程度を大幅に上回る最大負荷変化率 16%/min を達成し、LNG コンバインドサイクルと同等の運用性を確認した。
166MW 級の酸素吹 IGCC の実証試験は、国内初であり、また、従来型石炭火力発電と比較して大幅なCO2の排出量低減を可能とする技術であるとともに、学界や産業界等社会に対する貢献度と将来性が高く貢献表彰に値するものである。
【優秀講演表彰】
- 2019 年度年次大会
熊田 圭悟(東北大学(現 岐阜工業高等専門学校 機械工学科))「Cosα 法を用いた燃料極支持型固体酸化物燃料電池の電解質薄膜内残留応力の評価」
川内 進司(日立 GE ニュークリア・エナジー)「金属キャスクバスケット用ボロン添加ステンレス鋼(B-SUS304P-1)の強度特性評価」
金子 敏宏(東京大学)「固体高分子形燃料電池カソード触媒層における液水生成と酸素拡散の連成解析」
津村 貴文(早稲田大学)「PWR 復水器への深層水利用による熱効率向上に関する研究」
- 第 14 回動力エネルギー国際会議(ICOPE-19)
緒方 康二(三菱パワー株式会社)「Application of Steam Turbine 50-inch and 60-inch Titanium Blades for Large Capacity Plants」
松成 祥平(株式会社 IHI)「Sampling Method for Woody Biomass Particles Conveyed by Air in the Fuel Pipe of a Pulverized Coal Firing Boiler」
善財 秀貴(神戸大学(現 三菱重工業株式会社))「Boiling Heat Transfer Characteristics in Horizontal In-line Tube Bundle with Partially Inserted Heat Transfer Enhanced Tube by Thermal Spray Coating」
上村 晃弘(東北大学(現 日本海事協会))「Simulation of Unsteady Flows through Three-stage Middle Pressure Steam Turbine in Operation
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