部門賞「功績賞」「社会業績賞」および部門一般表彰「貢献表彰」は部門員からの推薦に基づき、優秀講演表彰及び日本機械学会若優秀講演フェロー賞は昨年 9 月より本年 8 月までに開催された講演会の座長、聴講者による評価結果に基づき、部門賞委員会にて慎重に審議を重ね、運営委員会での議を経て、今般下記の諸氏(敬称略)に贈賞の運びとなりました。ここにご報告申し上げます。なお、ご所属・役職は 2019 年 3 月時点のものとなります。
【部門賞「功績賞)】
■魚住弘人(株式会社日立製作所 原子力ビジネスユニット技監)
魚住弘人氏は 1975 年に株式会社日立製作所に入社後、原子力機器の開発・設計に長期にわたり携わり、その技術向上に大きく貢献された。また、原子力部門の技術・事業責任者として数々の原子力設備の完成、保全技術の開発・実機への適用、福島事故対策・廃炉プロジェクト推進、海外原子力プロジェクトの推進などに尽力してきた。更には、海外との様々な技術協力、日本機械学会、原子力安全推進協会、日本原子力産業協会、火力原子力発電技術協会など各種団体での活動を通じて原子力の技術向上、信頼性の向上、人材育成に多大に貢献した。
原子力機器設計の分野では、原子炉格納容器の構造設計に携わり流体・構造連成振動技術の開発、改良標準化計画の推進など多大な功績を挙げられた。また、改良型沸騰水型軽水炉(ABWR)の概念設計の段階から開発、実証試験評価、詳細設計、製作、建設にわたって携わった。特に、インターナルポンプ型原子炉炉内流動試験評価、インターナルポンプ溶接部等信頼性実証試験などを通じて機器の健全性及び非破壊検査の確認、実証を行い、一段の信頼性の向上に努めた。保全技術の分野では、非破壊検査技術の向上・実証、残留応力緩和技術の開発と実機への適用、大型原子炉機器の取替技術の開発・適用などで成果を挙げた。
福島事故関連においては、事故直後の収束、汚染水対策、デブリ取り出しを含む廃炉に向けた開発、実機調査などを取りまとめた。
以上の貢献は功績賞に値するものである。
■三巻利夫(株式会社電力テクノシステムズ 取締役)
三巻利夫氏は、1978 年に電力中央研究所に入所後、システム解析技術の専門家として、ムーンライト計画「高効率ガスタービンの研究開発」に参画し、基本設計・試運転・試験研究に取り組むことで、ガスタービン複合発電システムの高効率化に向けた貴重な成果の創出に貢献した。1985 年からは、国際プロジェクト「120MW 石炭ガス化複合発電(IGCC)実証計画/クールウォータプロジェクト」の試験研究に参画するとともに、当時の全電力会社が共同で進めた国家プロジェクト「空気吹き加圧 2 段噴流床 IGCC パイロットプラント(1986-1996 年)および実証プラントの開発(2002-2010 年)」の支援研究に取り組み、わが国における空気吹き IGCC システムの実用化に大きな貢献を果たした。
また、WE-NET 計画「水素燃焼タービン」、「CO2回収対応高効率クローズドガスタービン開発」、「蓄冷槽を用いた LNG 冷熱利用システム技術先導研究開発」、「アドバンスト高湿分空気燃焼ガスタービン(AHAT)研究開発」など、多くの国家プロジェクトのシステム解析について主導的役割を果たし、各種高効率新発電技術の実用化に向けた技術開発に大きく貢献した。これらの研究成果は、学会論文や専門誌に掲載されるとともに、システム解析技術の専門家として、火力発電技術の将来展望に関わる執筆・講演にも幅広い活動を展開している。
さらに、当部門の運営・企画に関しても、多くの委員長・委員を歴任し、部門活動の発展、並びに機械学会の社会的な使命遂行に貢献するとともに、大学での火力新発電技術に関する特別講義等を通じて、若手研究者の育成にも貢献してきた。
以上のように、同氏は我が国の動力エネルギー、特に高効率火力発電技術の進歩・発展、ならびに本部門活動に大きな貢献をされており、本功績賞に値するものである。
■森下正樹(日本原子力研究開発機構 特命嘱託)
森下正樹氏は 1982 年動力炉・核燃料開発事業団(当時)に入社以来、高速増殖炉の高温構造設計技術及び耐震設計技術の研究に 30 年の長きにわたって従事し、研究成果を精力的に論文として公開し、日本の第一人者としてこの分野の指導的役割を果たしてこられた。耐震設計の分野では、高速炉炉心の群振動解析手法の開発、3次元免震システムの開発、高速炉の地震 PSA 手法の開発など多岐にわたり世界的にもその成果は認知されている。2007 年に、日本原子力研究開発機構と日本原子力発電株式会社が連名で日本原子力学会から「発電用新型炉の高温構造設計手法と 3 次元免震技術の開発」について技術開発賞を受賞しているが、同氏は統括責任者として研究遂行を指導している。
同氏は本会発電用設備規格委員会に 1999 年の設立当初から参画し、原子力專門委員会委員長、規格委員会委員長を歴任するなど、原子力発電設備に関する本会の民間規格の策定活動に指導力を発揮された。原子力発電設備規格は、実際の原子力安全規制に活用されている。実際のプラントの設計及び検査に適用される規格を発行している点において、工業上の貢献の程度は極めて大きい。
同氏は米国機械学会(ASME)の原子力規格理事会及び原子力設計建設規格に委員として参画するとともに高温炉小委員会の委員長として活動し、ASME の新しい規格である高温炉規格の発行に指導的役割を果たした。また、ASME 圧力容器規格策定活動に貢献するとともに、本会規格委員会との協力関係の発展に尽力した。
OECD-NEA の多国間設計評価プログラム(MDEP)は原子力主要国の将来の原子力規制について各国共通のアプローチの実現を目指した活動であるが、代表各国の設計規格について詳細比較を行って相違点の将来の整合化に備えるプロジェクトが進められた。同氏は、本会規格委員会を代表してこのプロジェクトに参加し、日本機械学会の立場を主張して本会原子力規格の国際的な認知度の飛躍的な向上に貢献した。また、同氏は本会東日本大震災調査・提言分科会の WG6:「原子力規格基準の課題と今後の方向性」の主査として調査活動と議論を主導し、報告書を取りまとめた。福島事故の直接的原因及びその背景に関する洞察に基づき、原子力の安全向上のための提言を、リスク、規制、民間規格の役割、事業者の責任などの多方面に亘る提言を行っている。
以上のように, 長年にわたる規格基準をはじめとする動力エネルギーシステムに関する業績は大きく、功績賞に値する。
■島袋清人(沖縄電力株式会社 代表取締役副社長)
島袋清人氏は、1990 年沖縄電力株式会社に入社以来、沖縄本島および離島の発電所の計画・建設・運営に携わり、発電所の安定・安全運転や熱効率向上など発電技術の向上に尽力し、電力の安定供給、高効率化および環境負荷低減に貢献した。特に、当時、石油火力に依存していた同社において、エネルギーセキュリティの向上を目的に開発を進めた同社初の石炭火力発電所である具志川火力発電所の建設工事および運営に携わった。
設計炭が多炭種(約 30 種)におよぶため、炭種性状の傾向に合わせた燃焼調整方法を確立し、計画値以上のボイラ効率を実現させた。その後の低品位炭燃焼技術へと繋げ、エネルギーセキュリティとボイラ効率の向上に貢献した。離島の旺盛な電力需要の伸びへの対応を目的に、国内最大級となる 18,000kW のディーゼル発電設備を石垣第二発電所に 2 基導入し、電力システムの効率化ならびに電力の安定供給に貢献した。また、風力発電の分野では、台風の常襲地域である同社管内において、国内で初めて建築基準法を満足するように設計変更した海外製可倒式風車(245kW)を、日本最南端の有人離島である波照間島に 2 基導入した。その後も新たな導入毎にタワー部の軽量化や基礎形状の変更など改良を重ね、より建設時や保守メンテナンス時の運用性に優れた可倒式風車の導入拡大を図り、現在沖縄県内離島で7基運用している。本技術と知見を生かした可倒式風車は、大洋州島嶼国のサイクロンによる被害が多い地域へも、同社の技術協力のもと関連会社により 5 基納入予定である。
このように、長年の電力の安定供給、高効率化および環境負荷低減への取り組みで当分野の発展に寄与した功績は極めて大きく、功績賞に値すると考える。
【部門賞「社会業績賞」】
該当なし
【部門一般表彰「貢献表彰」】
■「液体金属炉の供用期間中検査に関わる基本論理の確立と規格化」
受賞者:浅山 泰(日本原子力研究開発機構)、フランク シャーフ(STERLING REFRIGERATION CORP)、屋 茂(日本原子力研究開発機構)、渡辺大剛(三菱重工業株式会社)、神島??郎(三菱 FBR システムズ株式会社)、町田秀夫(株式会社テプコシステムズ)
液体金属炉は軽水炉と比較し運転温度が高く内圧が低い等の特徴をもち冷却材の特性も軽水炉とは異なるため、その維持規格はこれらを十分に反映したものでなければならない。しかるに、液体金属炉用維持規格として世界で唯一存在した ASME Boiler and Pressure Vessel Code Section XI Division 3 は 1980 年代に米国の高速炉プロジェクトが中断した時以来未完成のままメンテナンスされておらず、近年の新型炉開発のニーズの高まりに応えられるものではなかった。受賞者らは、非軽水炉に対する PRA 評価法などの最新技術を活用することにより、プラントの安全目標から機器の供用期間中検査要求を導出する方法論を新たに独自に発案し、これを ASME Boiler and Pressure Vessel Code の Code Case 案として提案した。浅山氏は本文、高屋氏は Appendix を執筆、渡辺氏は実機適用性評価を行い、神島氏、町田氏はそれぞれ検査カテゴリ表、信頼性評価手順の技術的根拠を作成した。同案は ASME Code Committee に設置された JSME-ASME の共同タスクで 4 年間に渡って審議され 2017 年に Code Case N-875 として発刊されるに至った。浅山氏は同タスクの主査を、シャーフ氏は副主査を務めこの審議を主導した。本 Code Case の方法論はその汎用性ゆえ既存炉及び新型炉に広く適用可能であることが着目され、現在 ASME で炉型を問わずに原子力プラントに適用可能な維持規格として全面改訂中の Section XI Division 2(高温ガス炉用)にも採用された。同時に、JSME では本方法論を踏まえて発電用設備規格高速炉維持規格の策定が進んでいる。このように、本件は、液体金属炉の供用期間中検査に関する基本論理を確立したことに相当し、貢献表彰に値する。
■「福島復興に対する社会的貢献」
受賞者:西本由美子(特定非営利活動法人ハッピーロードネット 理事長)
西本由美子氏は、NPO 法人ハッピーロードネット理事長として、2011 年 3 月に発生した福島第一原発事故による被災地域で、できる限り速やかに生活基盤を回復し、子供を安心して育てられるようにするための、地域を取り戻す様々な活動を住民主体で取り組んでいる。特に、自分たちの故郷、福島県浜通り・双葉郡は原発事故により失われようとしていることに関して強い危機感を抱き、長い年月をかけ培った地域のキズナ、家族のキズナ、職場のキズナ、全てが無くなろうとしている非常に厳しい状況なかで、現状への不安、怒りからは明るい未来は生まれないとの基本的な考えから、子供たちに桜の花咲く明るい将来を拓くため、高校生や大学生のボランティア活動による浜街道の国道の清掃、全国からの募金(オーナー制度)による桜の苗木の植樹、毎年夏の全国高校生サミットによる福島の未来を語り合う活動を実施している。これらの活動により復興大臣からの感謝状を授与されている。
一方、2013 年 12 月に機械学会動力エネルギーシステム部門所属研究会が、チェルノブイリ事故があったウクライナにおいて、国立放射線医学センターでの被曝者の約 30 年にわたる治療実績、ニュータウンの建設などの調査活動を行った。その成果を、福島に展開する過程を通じて、日本機械学会研究会とハッピーロードネットとの連携が開始された。2014 年 9 月に西本氏は、日本機械学会メンバーとともに、福島の仮設住宅に住まわれている方々や、地元商工会議所の若手会員らも含め約 30 名がウクライナのスラブチッチ市の視察を行い、市長との懇談やチェルノブイリ事故被災者の NGO 法人との交流、国立放射線医学センターでの医師らと意見交換を行い、福島の復興に対して、双葉町長、地元の福島国際大学らと連携して、地域街づくりと復興を地元住民、高校生や大学生のボランティア活動を行っている。
さらに、これらの活動について、2018 年 9 月に関西大学での日本機械学会年次大会で講演を行い、学会員を始めとする参加者の方々との意見交換や、今後の展開に関する議論を進めるなど、動力エネルギーシステム部門への貢献も大きく、貢献表彰に値する。
【優秀講演表彰・日本機械学会若手優秀講演フェロー賞】
- 2018 年度年次大会 優秀講演表彰
梅津宏紀(電中研)「3t/日石炭ガス化研究炉を対象とした数値解析−水蒸気添加ガス化の特性評価−」
柏原政輝(関西大)「Ni 基超合金における高温疲労き裂先端の詳細観察」
山田祥徳(日揮)「配管合流部における熱疲労荷重の CFD 予測精度に対する流体・構造間の熱連成手法の影響の検討」
- 2018 年度年次大会 日本機械学会若手優秀講演フェロー賞
高井義博(関西大)「新規 LIB 電解液用化合物のスクリーニングを目指した分子動力学シミュレーション」
- 2019 年度動力エネルギーシンポジウム 優秀講演表彰
江村優軌(JAEA)「溶融ステンレス鋼のナトリウムプール中への浸入挙動」
鈴木崇弘(阪大)「フィルム積層型マイクロ流体デバイスを用いた PEFC 電極スラリーの凝集・沈降評価」
高山明正(三菱重工)「ボイラ火炉性能予測に向けた燃焼・伝熱解析技術の開発」
青柳光裕(JAEA)「PIRT 手法によるナトリウム火災時の重要現象評価」
- 2019 年度動力エネルギーシンポジウム 日本機械学会若手優秀講演フェロー賞
Sardini Sayidatun Nisa Sailellah(東工大)「水溶液中ソノルミネッセンスを用いた 元素分析システムの開発に関する パラメトリックスタディ」
荘司 成熙(東工大)「漏洩箇所調査に向けた超音波流速分布計測法における計測速度限界の拡張」
- ICONE27 優秀講演表彰
Kai Lu(JAEA)「Verification of a probabilistic fracture mechanics analysis code PASCAL4 for reactor pressure vessels」
山口義仁(JAEA)「Expansion of High Temperature Creep Test Data for Failure Evaluation of BWR Lower Head in Severe Accident」
田村明紀(日立)「Development of phase-change simulation method with diffuse-interface modelling」
- FDR2019 優秀講演表彰
Anton P. Pshenichnikov(JAEA)「The behavior of materials in case of solidified absorber melt-oxidized BWR channel box interaction revealed after CLADS-MADE-01 test」
大橋利正(日立)「Improvement of Sr removal performance of Cs-Sr simultaneous adsorbent by controlling
pH」
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