◇ 96期(平成30年度)部門賞及び部門一般表彰◇
部門賞「功績賞」「社会業績賞」および部門一般表彰「貢献表彰」は部門員からの推薦に基づき、優秀講演表彰及び日本機械学会若手優秀講演フェロー賞は昨年9月より本年8月までに開催された講演会の座長、聴講者による評価結果に基づき、部門賞委員会にて慎重に審議を重ね、運営委員会での議を経て、今般下記の諸氏に贈賞の運びとなりました。ここにご報告申し上げます。なお、ご所属・役職は2018年3月時点のものとなります。
【部門賞(功績賞)】(敬称略)
■芦谷 茂(中国電力株式会社 取締役常務執行役員)
芦谷茂氏は、1979年中国電力株式会社に入社以来、多数の火力発電所の計画・建設・運営に携わり、火力発電所の安定・安全運転に尽力し、火力発電所の熱効率向上など発電技術の向上に多大なる貢献をした。
特に、柳井発電所1号系列における全てのガスタービンと空気圧縮機を最新型に更新(熱効率は約43%から約47%に向上)する等、火力発電設備を経年対策に併せて計画的に更新することで熱効率向上に多大なる貢献をした。また、火力発電所建設については、三隅発電所2号機建設(USCで計画中)や、運転実績より得られた知見を適用した新規地点計画等、更なるエネルギー利用の効率化を図っている。さらに、石炭ガス化燃料電池複合発電(IGFC)と二酸化炭素分離・回収を組み合わせた革新的低炭素石炭火力発電の実現を目指す大崎クールジェンプロジェクトを計画当初から主導する等、更なる石炭火力発電の高効率化とクリーン化による低炭素化に向けて精力的に取り組んでいる。
■高橋忠男(元 動力炉・核燃料開発事業団 理事)
高橋忠男氏は1962年に東京工業大学大学院修士課程を修了され、大学で気液二相流の流動と伝熱の研究に従事された。同氏は、1971年に動力炉・核燃料開発事業団に入社後、熱工学をはじめとする原子炉工学分野の専門家として、ナトリウム沸騰現象の把握に関する研究開発に従事した後、米国ETEC(Energy Technology Engineering Center)やオランダヘンゲロ研究所での海外大型ナトリウム施設を用いた試験研究、大洗工学センターでの50MW蒸気発生器試験施設1号機を用いた試験研究にあたり、これらの研究開発成果の「もんじゅ」設計への反映に主導的役割を果たした。その後、1979年には同事業団高速増殖炉開発本部にて、実用化十課題を明確化し高速増殖炉研究開発の方向づけを行った。さらに1980年からは「もんじゅ」プロジェクトにて、初代機械課長・次長の職にあって1980〜1983年における安全審査での申請及び対応業務を指揮し、設置許可取得を実現した。
同氏は、その後本部にて「もんじゅ」設計および工事の認可に関わる申請、および建設工事作業を指揮していたが、1988年には同事業団高速増殖炉もんじゅ建設所にて副所長・所長として、建設工事を完了させ、初臨界・初送電を実現する性能試験を指揮した。この間の1992年には同事業団理事に就任し、高速増殖炉と新型転換炉の研究開発、高速増殖炉燃料の製造を統括した。ナショナルプロジェクトとして国内外の関係研究開発機関や関係事業者の協力体制を構築・維持し、設計・建設を経て初送電に至るまでの成果に結実させたことは、我が国の動力エネルギー、原子力開発利用技術の進歩・発展の視点から誇るべき成果であり、同氏は上述のようにそのプロジェクトにおいて主導的任務を果たしており、本功績賞に値する。なお、同氏は長年にわたり習得した新型炉の開発技術の継承を図るべく、2003年から東京大学で非常勤講師として講義と演習を担当している。
■風尾幸彦(元 株式会社 東芝 執行役上席常務)
風尾幸彦氏は1980年に東京芝浦電気鰍ノ入社後、主に重電機器の開発部門にて火力発電機器のロータダイナミクスを中心に発電機器の大容量化、高効率化に取り組み、火力・水力発電プラントを始めとするエネルギー部門の技術統括責任者として、数々の発電設備を完成させ、発電機器開発に貢献してきた。また、2011年11月2日実施の日本機械学会動力エネルギーシステム部門第28回セミナー&サロンでは「火力・水力・再生◇96期部門賞及び部門一般表彰報告◇部門賞委員会委員長岡本孝司(東京大)同幹事近藤雅裕(産総研)6可能エネルギー分野の技術動向」に関する講演も実施し、さらに学会活動を通じて国内の技術レベルの向上並びに日本の発電分野の事業発展に多大に貢献した。
主な成果として、技術リーダとして当時の世界最大容量機となる中部電力(株)碧南火力発電所4号機1000MWタービン発電機(2001年運開)、住友金属工業(株)鹿島発電所向け発電機(2007年運開)、関西電力(株)舞鶴発電所2号機(2010年運開)を初めとして世界最高レベルとなる99.1%を超える高効率タービン発電機を完成させ、発電機器の大容量化、高効率化により発電分野の技術発展に貢献してきた。
また、火力・水力機器技師長、電力・社会システム技術開発センター長に続いて、エネルギー部門全体の統括技師長として、技術開発及びエンジニアの技術力の育成・向上に注力したことは、日本の発電事業発展への多大な貢献である。更に、日本機械学会においては、関東支部神奈川ブロック商議員をはじめ、動エネ部門委員、理事、副会長の役職を歴任、学会活動を通じ、機械工学・工業発展にも寄与した。以上の功績は功績賞に値するものである。
【部門賞(社会業績賞)】(敬称略)
■堀尾正靱(東京農工大学 名誉教授)
堀尾正靱氏は26年間在職された東京農工大学を中心に、環境・エネルギー関連研究を継続的に行ってきた。 特に流動層技術では世界的に著名で、「流動層の反応工学(1984」、「Circulating Fluidized Bed (1997)」、「流動層ハンドブック(1999)」など関連著書や論文も多く、当部門の研究会においても中心的な役割を果たした。また地域再生も含めた種々エネルギー・環境問題に関して造詣が深く、多数の著書や論文を公表するなどきわめて活発な研究活動を展開し、中央環境審議会専門委員会委員、JST・RISTEX・環境領域総括を務めるなど環境・エネルギー政策、地域政策にも深く関与してきた。これらの業績は、日本エネルギー学会賞(1993)、ASME流動層国際会議賞(1994)、化学工学会研究賞(2001)、AIChE粒子工学フォーラム賞(2001)、生活と環境全国大会環境大臣表彰(2010)などの多数の受賞からも明らかである。以上、同氏のわが国の動力エネルギー技術の進歩・発展、エネルギー・環境・社会を取り巻く諸問題に関する教育研究と理解促進、本部門活動への多大な貢献は、本部門の社会業績賞に値する。
【部門一般表彰】 ○貢献表彰(敬称略)
■「エジェクタサイクルの開発・実用化における社会的貢献」
受賞者:中川勝文(豊橋技術科学大学未来ビークルシティリサーチセンター特定教授)
勝文氏は、混相流工学の分野において長年にわたり高速二相流の熱・流体力学の研究に従事されている。単成分二相流の先細末広ノズル内で生ずる非平衡過程を明らかにして加速性能を改善する種々の方法を提案され、また最近小型化・集積化された電子機器の冷却への適用に着目し超音波の印加による伝熱促進の効果とキャビテーション強さとの関係を明らかにして熱伝達を向上させる伝熱面の構成を提唱された。さらに地熱エネルギーや工場排熱のような低温度エネルギーを利用した発電システムにおいて、減圧沸騰時に二相媒体の持つエネルギーの有効利用を目的として高落差水車であるペルトン水車の応用を提案し、システムの性能を明らかにするなど、本分野において数々の功績を残されている。
特に、超音速二相流ノズル内に発生する衝撃波の新理論を提案され、これを冷凍機に用いられるエジェクタや、低温度差発電に使われる二相流ノズルの開発へと展開し、民間企業との共同研究によってエジェクタサイクルという高性能の冷凍機を世界で初めて開発・実用化された。このエジェクタサイクル冷凍機は、二相流にすると大幅に効率の落ちるエジェクタを独自の二段膨張式可変ノズル構造として大幅な効率向上を図り、冷凍サイクルとして50%のCOP向上を達成した。今後車載用冷凍機などへの搭載が進めば、大幅な省エネルギーとCO2排出量削減に繋がり、地球温暖化抑制に大きく貢献するものと期待される。このような将来性が高く評価され、同氏の研究成果は、全国発明表彰「21世紀発明奨励賞」、資源エネルギー庁長官賞、ものづくり日本大賞「内閣総理大臣賞」など民間企業の数々の受賞にも繋がっている。このように同氏は数々の研究実績と、それに基づく応用研究の分野で社会に多大な貢献されており、贈賞に値するものである。
■「先進超々臨界圧火力発電(A-USC)実用化要素技術開発プロジェクトの完遂」
受賞者:A-USC開発推進委7員会(中部電力(株)、電源開発(株)、(株)IHI、ABB日本ベーレー(株)、、岡野バルブ製造(株)、新日鐵住金(株)、東亜バルブエンジニアリング(株)、(株)東芝、富士電機(株)、(三菱重工業(株)、三菱日立パワーシステムズ(株)(一財)電力中央研究所、(国研)物質・材料研究機構、(一社)高効率発電システム研究所)(代表:福田雅文)
A-USC(先進超々臨界圧火力発電技術)は石炭火力発電の熱効率を向上させて二酸化炭素排出の削減を目指した技術であり、熱効率を大幅に向上するために蒸気タービン入口における蒸気温度を従来よりも100℃程度高い700℃まで高めようとしている。現状最新技術に対し10%の二酸化炭素削減を可能とする。その技術開発のために2008年〜2016年に経済産業省、NEDOからの補助、助成を受けて、タービン、ボイラ、弁の製造技術に関わるシステム、材料、設計、製造等の技術分野を網羅した「実用化要素技術開発プロジェクト」が推進され、実用化技術を当初目標通りに確立した。プロジェクト遂行には多数のユーザ、メーカ、研究所が競合関係を乗り越え、組織的、効率的に共通のコア技術開発を推進した。これにより、人材、費用が嵩む大規模機械システム開発の一つの在り方を示すことができた。具体的には
・目標である石炭火力発電の送電端熱効率46%(HHV)を達成する見通しを得た。
・ボイラ・タービン・弁それぞれの要素に適用する700℃級Ni基合金等の材料開発、選定を行い、長時間クリープ破断試験、水蒸気酸化試験等により10万時間の材料信頼性を確認した。
・700℃級Ni基合金でボイラ用大径管/小径管、タービン用大型鍛造ロータ/大型鋳造ケーシング、弁用大型鋳造ケーシング等の大型素材の製作に成功した。
・700℃級Ni基合金でボイラ用管溶接技術/管曲げ技術等、タービン用大型ロータ溶接技術等の製造技術を確立した。
・700℃級Ni基合金を適用した高温弁について弁棒摺動試験、弁座肉盛試験、ねじ部焼付試験、シール材耐熱試験等を行い、700℃条件下での弁構成部信頼性を確認した。
・13,000時間に及ぶボイラ実缶試験により、以下の技術検証に成功した。
−700℃級蒸気を発生させる伝熱管・管寄・連絡管の設計・製造
−700℃蒸気を送気する大径管の設計・製造
−700℃蒸気温度下での高温弁、タービンケーシングの設計・製造
・実径、実速度、実温度によるタービンロータ回転試験により、700℃級タービンロータの信頼性を確認した。これらの業績は動力エネルギーシステム部門の貢献表彰に相応しいものであると考える。
■「湿り蒸気流量計測ガイドラインへの基盤技術確立」、
受賞者:寺尾吉哉(産業技術総合研究所 総括研究主幹)、梅沢修一(東京電力ホールディングス株式会社)、森田良、内山雄太(電力中央研究所)、舩木達也(産業技術総合研究所)、佐々木宏(アズビル)
産業分野において、蒸気は、殺菌、洗浄、乾燥、蒸留等など主要プロセスに幅広く使用され、熱供給の主力媒体となっている。省エネのためにその流量計測が望まれているが、蒸気は供給配管内で湿りになっていることが多く、測定精度の確保が課題となっていた。また、実工場では、従来のオリフィス、渦、超音波式蒸気流量計は、蒸気配管を抜管し計器を取付けるため、稼働停止が必要となる。そこで管外式蒸気流量計の開発が望まれているが、世界的にも実用的な製品はほとんど存在しない。
今回、対象者らは、この課題を解決すべく、蒸気を扱う産業分野、センサメーカ、大学・研究機関等、幅広く参加者を募り、「湿り蒸気流量計測研究会」立ち上げた。そして、年2回の研究会、そして学会で動エネ部門のセッション企画を5年間継続実施した。そこで、集約された蒸気流量計測に関するニーズ、知見を基に、蒸気流量の管外計測が可能な、クランプオン式超音波流量計とリング・ヒータ式蒸気流量計が開発された。
また、研究会では、上記の新開発の流量計の他、従来のオリフィス、渦、超音波式蒸気流量計つまり、合計5種類のセンサに対して、実ボイラを用いた試験装置を用いて、不確かさ解析を実施した結果、乾き蒸気、並びに低湿り度蒸気ではいずれも、基準流量計と数%内での一致が確認された。また、高湿り度蒸気では、センサによって、湿り度の影響傾向が異なることがわかった。各センサに関し補正式を作成し、湿り蒸気流量計測に適用できることを示した。ここでは、二相流の流動パターンが計測に与える影響にも言及しており、学術的にもレベルが高い。
このように、今まで知見の乏しかった、湿り度が計測に及ぼす影響、現場レベルでの問題点の調査、新計測法の開発・適用など多岐に渡る内容を題材として取り上げ、議論・知見収集を行った。そして、これらの活動内容8に基づき、蒸気流量計測に関するガイドライン整備や標準化を見据えたとりまとめの活動を推進し、5年間の活動成果をガイドライン設定の基盤技術として編著の報告書冊子として取りまとめている。
上記のように、「湿り蒸気流量測定」という新しい学術分野を立ち上げることに成功したこと、そして、開発した2種類の蒸気流量計は既に工場において省エネのためのエネルギーソリューションに活用されており、実用面での成果も大変顕著であることから、動力エネルギー部門一般表彰に値する。
【優秀講演表彰・日本機械学会若手優秀講演フェロー賞】
- 2017 年度年次大会 優秀講演表彰(敬称略) 篠崎陽介(東京大学)「風車後流エネルギ回復の翼端渦放出周期依存特性の解析」 植田翔多(東京大学)「B4C 制御棒材料の溶融移行挙動可視化実験」 安養寺正之(九州大学)「蛍光油膜法による車体周りの流れ場の可視化計測」
- 第 23 回動力エネルギー部門シンポジウム 優秀講演表彰 志村敬彬(東京大学)「固体酸化物形燃料電池の La0.6Sr0.4Co0.2Fe0.8O3-δ空気極の電気化学特性変化と微細 構造変化に関する研究」 佐々大輔(東京電力ホールディングス株式会社)「孔径・孔数の異なるスクラバノズルのエアロゾル除染係数お よび圧力損失計測試験」 木村剛生(東京電力ホールディングス株式会社)「原子炉格納容器フィルタベント用有機ヨウ素フィルタの過渡 性能」 市村修平(神戸大学)「クランプオン式超音波流量計による湿り蒸気流量計測の検討」
- 第 23 回動力エネルギー部門シンポジウム 日本機械学会若手優秀講演フェロー賞 高安真弘(大阪大学)「翼列実験によるタービンブレードのエロ―ジョンが流れ場に及ぼす影響の検討」 竹本匡志(京都大学)「メタン-アンモニア混合燃料の Ni-YSZ 多孔質触媒における反応特性」
- ICONE26 優秀講演表彰 孫 昊旻(日本原子力研究開発機構)「Experimental Investigation on Dependence of Decontamination Factor on Aerosol Number Concentration in Pool Scrubbing under Normal Temperature and Pressure」 長嶋一史(関西電力/福井大学)「Study on Description of Plant Status at Fukushima Accident by Emergency Action Level」 斉藤優太(北海道大学)「Two-Phase Flow Regime Identification Using Fluctuating Force Signals Under Machine Learning Techniques」
- ICONE26 日本機械学会若手優秀講演フェロー賞 対象者なし
|