◇ 94期(平成28年度)部門賞及び部門一般表彰◇

 部門賞「功績賞」「社会業績賞」および部門一般表彰「貢献表彰」は部門員からの推薦に基づき、優秀講演表彰及び日本機械学会若優秀講演フェロー賞は昨年9月より本年8月までに開催された講演会の座長、聴講者による評価結果に基づき、部門賞委員会にて慎重に審議を重ね、運営委員会での議を経て、今般下記の諸氏に贈賞の運びとなりました。ここにご報告申し上げます。なお、ご所属・役職は2016年3月時点のものとなります。

【部門賞(功績賞)】(敬称略)

■佃 嘉章(三菱重工業株式会社 特別顧問)
佃嘉章氏は三菱重工業入社以来、高砂製作所および本社原動機事業本部において、一貫して大型事業用高温高効率ガスタービンの設計・開発に従事、特に1500℃級G型ガスタービンの開発設計を推進、タービン翼の高温化・天然ガス予混合燃焼器の実用化で世界最高の熱効率60%を越える天然ガス焚き事業用ガスタービンコンバインド発電の実用化に貢献された。引き続き、更なる高効率化1600℃級J型ガスタービンの開発計画もリードして来られた。これらの天然ガス焚き高効率ガスタービンコンバインド発電は、国内主要電力はじめ世界各地に納入され、環境に優しい発電設備としてCO2排出削減に貢献している。また、低カロリー高炉ガス焚きガスタービンの開発実用化設計を進め、1200-1300℃級大型ガスタービン(低カロリー700kcal/Nm3燃焼器、CO主成分の高炉ガスの安全利用システム)の開発を推進・実用化された。この低カロリー高炉ガス焚きガスタービン発電設備は、日本・中国・韓国の大型一貫製鉄所に納入され、製鉄所の環境改善・CO2削減に大きく貢献している。さらに日本機械学会フェローを務めるとともに、日本ガスタービン学会会長他要職を務め、ガスタービン業界の進歩・発展に大きく貢献された。

■相澤 善吾((一社)海外電力調査会 会長)
相澤善吾氏は、1975年東京電力株式会社に入社以来、多数の火力発電所の計画・建設・運営に携わり、火力発電所の安定・安全運転に尽力し、火力発電所の熱効率向上をはじめ発電技術の向上に多大なる貢献を果たされた。また、東日本大震災後は被害にあった火力発電設備の早期復旧、火力設備の緊急設置を強力に指導し、震災後の電力安定供給に貢献されたのち、福島第一原子力発電所の廃炉に向け、精力的に取り組まれた。特に、火力発電所の計画では、汽力発電からコンバインドサイクル発電への移行を積極的に進められ、1100℃級ガスタービン14台の導入と乾式低NOx燃焼器の開発・導入を図り、熱効率向上と環境性能向上に貢献された。その後、ガスタービンの高温化を更に進め、1300℃級ガスタービン26台、1500℃級ガスタービン10台を導入。現在、建設中の1600℃級ガスタービン2台を含めた計52台の開発・導入を図り、火力発電の熱効率向上に多大なる貢献を果たされた。また、東京電力在職中には火力原子力発電技術協会会長を務められ、東京電力退職後の現在は、海外電力調査会の会長を務められている。このように、長年の電力安定供給と火力発電所高効率化の取り組みで当分野の発展に大きく貢献された。

【部門賞(社会業績賞)】(敬称略)

■久角 喜徳(元 大阪ガス株式会社)
久角喜徳氏は1973年大阪ガス株式会社に入社後、同社エンジニアリング部門で数多くのガス製造設備の開発に携わってこられ、日本のLNG冷熱利用技術分野にエクセルギー評価を導入し、省エネルギー化に大きな貢献を果たしてこられた。中でも世界初のLNG冷熱発電の商業設備の開発、軽質油原料代替天然ガス製造設備において果たされた功績は非常に顕著であり、前者は機械工学便覧応用システム編にもまとめられている。また、若手技術者の育成にも熱心で、プロセスシミュレーターを用いた社内外での研究会を実施、さらに神戸大学、大阪電気通信大学、大阪大学、関西大学などで学生の教育にも携わられた。大阪ガス退職後は、大阪大学にてエクセルギーデザイン共同研究講座を開設、エクセルギー評価の深化を目指した研究に加え、クラウドコンピューター技術を活用してエクセルギーデザインを体験できるHPの公開、関連専門書の監修執筆、関連シンポジウムの実施と、エクセルギー学の普及に取り組まれてきた。エクセルギー学は今後より厳しくなるエネルギー問題を考える上で不可欠なものであり、社会的にも重要度はますます高まるものである。このように、実プラントでの業績に加え、エクセルギー学の普及への積極的取り組みで当分野に大きく貢献された。

■山地 憲治((公財)地球環境産業技術研究機構 理事・研究所長)
山地憲治氏は、原子力・核燃料サイクルを対象とする技術政策評価、電力負荷管理など需要側も含めたエネルギーシステム全般を対象とする政策評価に関して多くの研究成果を上げるとともに、地球温暖化対策など地球環境問題にも取り組み、エネルギー・環境・経済の複合領域で発生する課題の解決に繋がる顕著な業績を挙げられた。原子力政策に関しては、核燃料サイクルを中心とした研究を展開し、我が国政府が使用済み燃料の中間貯蔵政策を採用する際の学術的根拠を提供された。エネルギー政策に関しては、バイオマスのエネルギー利用政策に関する研究成果により、バイオマスが我が国の新エネルギー政策に初めて明確に位置付けられた。地球温暖化対策に関しては、1980年代末から炭素税とCO2排出権市場に関する研究を先駆的に進め、わが国の温暖化対策の効率的推進に大きく貢献された。また、1995年の世界エネルギー会議東京大会のプログラム委員会ディレクターなど、エネルギー環境分野で多数の国際会議の企画運営に貢献されたほか、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)総合報告書の執筆等においても大きな国際貢献を果たされた。さらに、総合資源エネルギー調査会の総合部会、新エネルギー部会、原子力部会、原子力委員会の新計画策定会議等の審議会委員として、我が国のエネルギー政策立案に貢献されてきた。最近では、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会の発電コスト検証ワーキンググループ座長、再生可能エネルギー導入促進関連制度改革小委員会委員長を歴任し、我が国のエネルギー政策に係わる重要な役割を第一線で担われている。このように、山地氏はエネルギー環境分野の政策研究において、学術的に多くの貴重な成果を上げるとともに、我が国の本分野におけるオピニオンリーダーとして現実の政策課題の解決においても多大なる貢献を果たされている。

【部門一般表彰】

○貢献表彰(敬称略)

■「内燃力機関を原動機としたエネルギー供給における長年に亘る貢献」、受賞者:本山 和彦(新潟原動機株式会社 代表取締役社長)

新潟原動機株式会社(旧(株)新潟鐵工所の原動機部門を継承)は、1920年に陸用ディーゼル機関第1号機として300馬力の発電用設備を京都山科の紡績工場向に納入して以降、陸用ディーゼル発電設備の供給を開始した。戦後の1951年頃の産業復興期には、各企業の電力不足解消対策としてディーゼル機関による自家発電設備の需要急増に応じてきた。昭和40年代に入ると、低質油使用の単機5,000kW級ディーゼル発電機に排気ボイラを備えた総合効率の高いコジェネレーション発電設備を化学工業等のエネルギー多消費産業界に供給するようになった。1986年、高効率分散型発電方式の促進によるエネルギー有効利用を目的とした「系統連系技術要件ガイドライン」が制定されたことにより、産業向けを主体とした1〜6MWのコジェネレーションプラントを多数建設し、業界への先駆的役割を果たしてきた。また同時に、ディーゼル機関のみならず、ガス燃料を使用した、ガス機関およびガスタービンによるコジェネレーションプラントの納入が増加するようになった。2000年代に入ると、地球環境問題の高揚から排出ガスがクリーンで高効率な希薄燃焼ガス機関を使用した1〜3MWクラスのガスコジェネレーションの需要増大に応じてきた。一方、1951年、全国を9ブロックに分割した発送配電一貫の電力会社9社が誕生し、本格的な電力送配電整備が実施されることとなり、離島の電力整備の第1号として、佐渡火力ディーゼル発電設備が決定され翌年末に納入された。これが契機となり、九州、中国、東京、東北、北海道各電力会社の離島電力整備の需要を喚起し、その後日本に復帰した沖縄電力を含め1000kW以上の発電設備に関しては新潟原動機製が圧倒的多数納入・運用されており、そのシェアは台数・容量とも50%以上を占め、離島の電力安定供給に大きな役割を果たしている。このように、新潟原動機株式会社は長年に亘り国内の産業発展および離島の生活向上に欠かせないエネルギー供給で大きな役割を担ってきた。

■「再処理設備規格の策定に関する長年にわたる貢献」、受賞者:山本暁男(三菱重工業株式会社)、太田正和(東芝原子力エンジニアリングサービス株式会社)、矢野倉幸夫(日立GE ニュークリア・エナジー株式会社)、加納洋一(日本原燃株式会社)、高坂充(日本原燃株式会社)
再処理設備に関する規格・基準類は、放射性物質を硝酸などの化学物質と共に取り扱うと言う設備の特殊性から、他産業の規格・基準をそのまま適用できない場合が多く、発電用原子力設備と比較すると整備が進んでいなかった。このため、再処理設備の安全で安定した運転を維持し、操業後に計画されている新増設工事等を円滑に進めるには、これらに適用可能な民間の規格・基準類を日本機械学会として整備する必要があると考え、2007年に同学会の標準規格センター発電用設備規格委員会の傘下に再処理設備分科会を設置し、再処理設備規格の整備を進めた。「設計規格」に関しては、発電用原子力設備規格の「設計・建設規格」を参考に、再処理設備の特有事項である材料設計の考え方を加え、2010年に材料・構造強度に関する規格をまとめた初版を発行した(2012年に改訂版を発行)。「溶接規格」に関しては、発電用原子力設備規格の「溶接規格」および「加工施設、再処理施設及び特定廃棄物施設の溶接の技術基準(総理府令)」、「加工施設及び再処理施設の溶接の方法の認可について(通知)」を参考とし、再処理設備の特有事項である材料や腐食試験の要求を加え、2012年に溶接設計や溶接施工法に関する規格をまとめた初版を発行した。「維持規格」に関しては、再処理設備での使用期間中検査に関する規格を新たに作成し、2012年に初版を発行した。上記5氏は、再処理設備分科会の委員として、各規格案の作成から、各委員会での意見対応までを精力的に進め、再処理設備規格の策定や改訂に大きく貢献された。

■「日本機械学会における原子力発電所シビアアクシデント時の構造健全性評価および対策設備設計に係るガイドラインの整備」、受賞者:宮口治衛(株式会社IHI)、永田徹也(日立GEニュークリア・エナジー株式会社)、瀬良健彦(関西電力株式会社)、Bryan Erler(American Society of Mechanical Engineers)、Wes Rowley(American Society of Mechanical Engineers)
日本機械学会の標準規格センター発電用設備規格委員会では、福島第一原子力発電所事故以降、標記ガイドライン類を制定整備している。一連のガイドラインは、BWRに対する外部事象が発生した際に、シビアアクシデント(SA)の発生をできる限り防止し、また、万一SAが発生した場合でも、その影響を緩和できるような設備設計法を定めるとともに、BWRおよびPWRの格納容器のSA時における要求機能、想定破損モードに基づく構造健全性評価方法について定めている。これらのガイドライン制定にあたっては、事故直後の2011年5月以降4回の準備会の後、2011年10月以降、原案作成のための担当タスクを順次設置し、以降、各々数十回のタスク会議を実施するなど精力的な活動を行った。さらに4半期に1回開催されるASME Code Meetingにおいて2012年以降ASME-JSME合同のSAMタスクを設置し、十数回の意見交換を行ない、ASME側専門家のレビューを受けるとともに、ASME側での当該分野の知見拡充にも反映している。同ガイドラインは、国内における新安全規制文書で要求される内容について、技術的に理解するために、全事業者がガイドとして活用するものである。上記5氏は、これらのガイドライン制定においてタスク主査を担当するなどの主体的役割を果たし、日本機械学会における同分野ガイドライン整備の端緒を築かれた。

○優秀講演表彰 (敬称略)

<2015年度年次大会>

小林 大輔(中部電力)、「EBSD 法による疲労き裂進展速度評価」
馬渕 拓哉(東北大学)、「分子動力学法を用いた高分子電解質膜内におけるプロトン輸送現象の解析」
<2015 年度動力エネルギー国際会議(ICOPE-15)>
小澤 裕二(東北大学)、「Dependence of crack growth rate on cyclic loading period of alloy 625 in high temperature steam and dry gas environments」
尾関 高行(電力中央研究所)、「Development of nondestructive testing method for TBC delamination of gas turbine」
丹野 賢二(電力中央研究所)、「Numerical simulation of two stage entrained flow coal gasifier with recycled CO2 injection」
<第24回原子力工学国際会議(ICONE24)>
Antonin Povolny(東京工業大学)、「Ultrasound Reflector Recognition and Tracking Technique for Two-Phase Flow」
Suazlan Mt Aznam(横浜国立大学)、「Critical Heat Flux Enhancement in Water-Based Nano-fluid with Honeycomb Porous Plate on Large Heated Surface」
宮崎 彬史(筑波大学)、「Development of Prediction Technology of Two-Phase Flow Dynamics under Earthquake Acceleration (17) Influence of Structure Vibration on a Rising Single Bubble」
<第21回動力・エネルギー技術シンポジウム>
伊藤 大介(京都大学原子炉実験所)、「気泡微細化沸騰における流れ場のPIV 計測」
和田 守弘(産業技術総合研究所)、「半逆位相パルスを用いた超音波時間領域相関法による流速分布計測高度化に関する研究」

【日本機械学会若手優秀講演フェロー賞】(敬称略)

大須賀 侑(北海道大学)、「ツイストサボニウス風車後流における三次元流れの可視化」(2015年度年次大会)
山田 遼(川崎重工業)「10MW 超級風車を対象としたCFD とBEM の比較」(2015年度年次大会)
海保 和宏(電気通信大学)、「Accurate Estimation of Vaporization Rate in Subcooled Flow Boiling Based on the Results of Visualization Experiment」(第24回原子力工学国際会議(ICONE24))
村松 瑛(神戸大学)、「伝播時間差式超音波流量計の精度に及ぼす速度分布の影響」(第21回動力・エネルギー技術シンポジウム)