◇ 92期(平成26年度)部門賞及び部門一般表彰◇

 部門賞「功績賞」「社会業績賞」および部門一般表彰「貢献表彰」は部門員からの推薦に基づき、優秀講演表彰及びフェロー賞は2013年9月より2014年8月までに開催された講演会の座長、聴講者による評価結果に基づき、部門賞委員会にて慎重に審議を重ね、運営委員会での議を経て、今般下記の諸氏に贈賞の運びとなりました。ここにご報告申し上げます。

【部門賞(功績賞)】(敬称略)

■有冨 正憲(東京工業大学 名誉教授)
有冨正憲氏は沸騰二相流の熱流動特性やその計測手法の研究を数多く手掛けられている。特に原子力機器で問題となるパラレル沸騰チャンネルにおける不安定熱流動や自然循環沸騰二相流の過渡的な不安定熱流動などの現象に対して、数多くの実験データの積上げ、多次元数値解析等に基づく考察をされた。さらには先端技術を駆使した気泡流動特性の可視化・計測技術の開発によって精緻な検討を可能とし、その多大な成果と実績は国内外で高く評価されている。また、同氏は放射性物質の輸送と貯蔵の分野では、核燃料物質等の安全輸送のための輸送キャスクの密封性計測・評価手法を確立するとともに、使用済核燃料の乾式キャスク貯蔵システムの開発においても指導的役割を果たした。これらの分野での国際交流を図るため「放射性物質の輸送に関する国際会議(PATRAM)」を主導し組織委員長等も務めた。さらに同氏は上述の研究に留まらず、中小企業の持つ優れた技術を連携・融合させ、社会のニーズに応える新たなシステムの創生に尽力するとの立場から関連各社を指導し、アスベスト廃棄物の無害化システム、アスファルト舗装路切断水処理システム、凝集沈殿法による汚染水除染システムなど数々の技術開発に多大な貢献をされた。同氏は動力エネルギーシステム部門立上げ時、広報委員長を務め部門の基盤確立に貢献するとともに、長年にわたり国際企画委員長を務めICONE、ICOPE、ICEMなどの国際会議継続開催に尽力されてきた。また副部門長・部門長・学会評議員も歴任されるなど、本部門運営に深く関わり、常に中心的な役割を果たしてこられた。日本原子力学会理事、日本混相流学会会長、日本伝熱学会監事などの要職も務められ、わが国の動力エネルギー技術の進歩・発展および本部門活動に多大な貢献をされた。

■野本 秀雄(株式会社 東芝 首席技監)
野本秀雄氏はわが国初の超々臨界圧火力プラントとして1989年に運転開始した中部電力川越火力700MWのタービンの主設計者である。川越火力は主蒸気圧力31MPa、蒸気温度566℃の2段再熱サイクルを採用し、従来の超臨界圧プラントに比べ相対値で5%の効率向上を達成した。同氏は開発初期から営業運転開始まで、材料開発、タービン開発などを一貫して牽引し、1991年には、英国機械学会(IMechE)Arthur Charles Main 賞を受賞している。さらにこの技術を発展させ、自らの設計・開発チームに指導力を発揮し、その後のわが国における蒸気温度600℃級高温化大容量プラントの実現と量産に大きな貢献を果たした。また、在来翼より20%翼長を延長した40インチチタン翼の開発を牽引し、自らが設計者の一人である700MW機にこれを始めて適用した。これにより、低圧タービンの排気損失を低減させ大幅な効率向上を達成した。 またこの翼は後に世界初の60Hz用1000MWタンデム大容量機に適用されている。さらには、1990年代後半からのコンバインドサイクルプラントのニーズの高まりに対し、多様化する燃料源にも適用可能な高性能の燃焼器などガスタービン機器を開発し、機動力のある優れた蒸気タービンシステムを作り上げ、国内のみならず世界に対しわが国の技術力の高さを知らしめるに至った。現在も、鞄月ナにおいて、純酸素と燃料を燃焼させ、それから発生する超臨界のCO2を循環させ、発電効率を高め、かつCO2の回収を可能とする地球環境保護に適合したサイクルの開発など高度な技術開発とその実現に向け強力な牽引力を発揮しており、わが国の電力エネルギー技術の進歩・発展に大きく貢献された。

■小澤 守(関西大学 教授)
小澤守氏は、動力エネルギー機器で重要となる気液二相流に関する研究を数多く手掛けられてきており、特に実プラントで問題となる動的な流動不安定問題や伝熱・熱流動問題に関しては、数多くの実験データと精緻な検討をもとに多くの成果をあげ、国内外で高く評価されている。また、同氏はいわゆる熱流動研究だけにとどまらず、社会安全の立場から、歴史的経緯に見られる産業技術の発展過程の評価考察、さらには複雑化する現代技術のあり方を深く考察されて社会に発信されている。東日本大震災を経た現在、氏の示す指針は、動力エネルギーシステム部門の方向性にも強く影響する重要なものと位置づけられる。これまで本部門の運営に関して、部門長やICOPE09-Kobe実行委員会委員長等を歴任され大きな貢献をされている。また、動力・エネルギー技術シンポジウムにも深くかかわってこられており、現在の地方開催等の運営方法決定に中心的な役割を果たしてこられた。さらに、同氏は次世代教育にも積極的に取り組まれ、本部門の親子見学会(現「JSMEジュニア会友向け機械の日企画親子見学会」)の企画立ち上げ・実践などに従事され、わが国の動力エネルギー技術の進歩・発展及び本部門活動に大きく貢献された。

【部門賞(社会業績賞)】(敬称略)

■大和 愛司(日本原燃株式会社 元技術最高顧問)
大和愛司氏は、1968年動力炉・核燃料開発事業団に入社後、同事業団東海事業所において放射線管理業務を主導し、1990年からは高レベル放射性廃棄物地層処分技術開発の立上げに尽力するとともに、1996年同事業団企画部長に就任後は経営改革の実施の推進にあたり中心的な役割を果たした。1998年核燃料サイクル機構理事に就任され、さらなる経営改革を推進するともに「わが国における高レベル放射性廃棄物地層処分の技術的信頼性−地層処分技術開発第2次取りまとめ−」(2000年レポート)の集大成において全体の総指揮に当たった。さらに、同氏は2004年日本原燃株式会社常務取締役に就任し、濃縮事業部と埋設事業の担当として、国産金属胴遠心分離機の安定操業に尽力するとともに複合材料胴による新型遠心機の開発・導入に大きく貢献した。また低レベル廃棄物の一号埋設、二号埋設各施設の安定操業を確立するとともに余裕深度処分に向けた次期埋設施設の調査・開発を指揮した。そして2009年同社再処理事業部特命担当、代表取締役副社長に就任後も、国産の高レベル放射性廃液ガラス固化技術の課題解決等再処理プロセスおよび周辺技術の指導において中心的な役割を果たした。2013年同社技術最高顧問に就任後も、引き続き国家的なプロジェクトとして進めている高レベル廃液ガラス固化高度化技術開発などの指導を続けており、わが国の動力エネルギー技術の進歩・発展に多大な貢献をされている。

【部門一般表彰】

○貢献表彰(敬称略)

■「高レベル廃液ガラス固化技術開発における長年にわたる貢献」、受賞者:Dr. Günther Roth, Dr. Siegfried Weisenburger, Mr. Wolfgang Grünewald, Mr. Winfried Tobie, Mr. Karlheinz Weiß (Karlsruhe Institute of Technology, Institute for Nuclear Waste Disposal  HLLW Vitrification Technology)
ドイツのKIT(Karlsruhe Institute of Technology,旧FzK : Forschungs-zentrum Karlsruhe)は長年にわたり、使用済核燃料の再処理によって発生する高レベル廃液のガラス固化に関する基礎的研究から工学規模試験、さらには実廃液のガラス固化施設の設計・運転において世界のトップレベルの実績を有している。KITの核廃棄物処分研究所ガラス固化技術部は、わが国と1980年代よりこの分野での技術協力協定を締結し、日本原子力研究開発機構の東海におけるLFCM法に基づく工学規模試験、実規模モックアップ試験、実証施設の設計・建設・運転などに対して有益な援助・協力を行い、わが国の国家的なプロジェクトとして進められたガラス固化技術の開発に多大な貢献をした。特に日本原燃株式会社の六ヶ所再処理工場ガラス固化施設の最重要機器であるガラス溶融炉の操炉上致命的な問題になった白金族元素の炉底堆積事象の原因究明と解決策の検討において、KITにおけるガラス化学的な基礎的アプローチから実廃液固化処理の経験に基づく豊富な助言等は大変貴重なものであり、対策に反映された。長年にわたるKITの貢献は2013年5月の六ヶ所ガラス固化施設におけるアクティブ試験完遂に大きな役割を果たした。

■「低NOx燃焼技術開発における長年にわたる貢献」、受賞者:徳田君代(九州工業大学)、坂井正康(長崎総合科学大学)、村上信明(長崎総合科学大学)、久松健一(長崎ダイヤモンドスタッフ梶j、橋本貴雄(三菱日立パワーシステムズ梶j、月野隆(三菱日立パワーシステムズ梶j、松田政彦(三菱日立パワーシステムズ梶j
上記7氏は火力発電所における窒素酸化物排出規制に対して、研究者および設計者として徳田君代氏を中心に低NOx燃焼法の開発、実機適用を行い、且つ多くの海外企業への技術移転により世界的な規模での窒素酸化物低減に貢献した。具体的には、それまでの火力発電所のバーナは拡散炎燃焼が採用されていたが、窒素酸化物の発生量の少ない予混合炎と着火安定性に優れた拡散炎燃焼を組合せ、オフセット燃焼させることで窒素酸化物の発生量を半減させることに世界に先駆け成功した。さらに、燃料で窒素酸化物を還元する炉内脱硝法を開発し、低NOxバーナで半減した窒素酸化物を更に半減させることにも成功した。これらの技術は天然ガス、石油、石炭の各燃料で開発され、国内外の多くの産業用、事業用発電プラントに採用された。この様に、このチームで開発された低NOxバーナおよび炉内脱硝法は日本と世界の環境保全に貢献している。

○優秀講演表彰(敬称略)

<2013年度年次大会>
遠藤孝浩(岐阜大)、「側面設置型多指ハプティックインターフェイスによる力提示」
石川慶拓(東芝)、「流体温度変動による配管熱疲労に関する研究−閉塞分岐管滞留部で起こる熱成層化現象のCFD解析−」

<ICOPE2013>
菅野晋(鉄道総研)、「Thermodynamic Simulations of Rankine, Trilateral and Supercritical Cycles for Hot Water and Exhaust Gas Heat Recovery」
阿部一幾(三菱日立パワーシステムズ)、「Combustion Characteristics of Cluster Nozzle Burners for a 40MW Class Advanced Humid Air Turbine System」
岡島芳史(三菱重工)、「Development of Mitsubishi New Large Frame Gas Turbine J-series for Power Generation」

<第19回動力・エネルギー技術シンポジウム>
上野聡一(東芝)、「局所レーザー過熱による金属構造材の新しい補修技術の開発」
歌野原陽一(原子力安全システム研究所)、「液膜挙動を考慮した液膜厚さの液滴衝撃エロージョン評価モデルへの導入」

<ICONE22>
山下晋(JAEA)、「Development of Numerical Simulation Method for Relocation Behavior of Molten Materials in Nuclear Reactors: Analysis of Relocation Behavior for Molten Materials with a Simulated Decay Heat Model」
Songbai Cheng(JAEA)、「Characteristics of Pressure Buildup from Local Fuel-Coolant Interactions in a Simulated Molten Fuel Pool」
小野綾子(JAEA)、「Characteristics in Piping with a Short-Elbow at High Reynolds Number Condition」
齋藤慎平(筑波大)、「Influence of Hydrodynamic Interaction on Jet Breakup and Fragmentation Behavior」
Ari Hamdani(東工大)、「Two-Phase Flow Studies in Boiling Single Channel Flow Using Wire Mesh Tomography (WMT) and Ultrasound Velocity Profile (UVP)」

【フェロー賞】(敬称略)

水谷崇人(東大)、「流体温度変動による配管熱疲労に関する研究‐温度成層界面ゆらぎに対する円筒の熱応力応答に関する研究‐」(2013年度年次大会)
飯野光政(東大)、「空力弾性解析による小形風車翼の確率論的疲労評価法の検討」(2013年度年次大会)
河原田賢(京大)、「界面活性剤水溶液の低レイノルズ数流れにおける伝熱特性の光制御」(第19回動エネシンポ)
加藤由幹(筑波大)、「Development of Prediction Technology of Two-Phase Flow Dynamics Under Earthquake Acceleration:(12) Bubble Motion along the Flow in Structure Vibration」(ICONE22)