◇ 2012年度部門賞・一般表彰 ◇

 部門賞「功績賞」「社会業績賞」および部門一般表彰「貢献表彰」は部門員からの推薦に基づき、優秀講演表彰及びフェロー賞は昨年9月より本年8月までに開催された講演会の座長、聴講者による評価結果に基づき、部門賞委員会にて慎重に審議を重ね、運営委員会での議を経て、今般下記の諸氏に贈賞の運びとなりました。ここにご報告申し上げます。

【部門賞 功績賞】

■伊藤 猛宏 氏(九州大学 名誉教授・東亜大学 客員教授)
 伊藤氏は動力エネルギーに関連する熱工学研究を中心に、基礎から応用にわたるまで、熱力学、伝熱工学、低温熱工学の発展に尽力し、多くの貢献をなした。同人が特に精力を傾注し、優れた業績を残したのは、超伝導体の熱安定性に関連する一連の実験的・理論的研究である。超伝導体の冷却材であるヘリウムにいち早く着目し、超臨界圧ヘリウムの強制対流熱伝達、液体ヘリウムのプール沸騰熱伝達、超流動ヘリウムの熱伝達などの特性を実験的に明らかにした。また、プール沸騰冷却超伝導体の熱安定性に対する理論的研究を実施し、熱擾乱に対する常電導転移の熱的限界を明らかにした。さらに、流体の熱物性値を機械計算する独創的な汎用プログラム・パッケージを開発し、広く世界の公的研究機関に供給してきた。このソフトウェアは動力サイクルの解析に非常に有用な熱物性ソフトウェアとして、現在国内約100、国外約100の研究機関で使用されており、国内外で高く評価されている。

■井上 晃 氏(東京工業大学 名誉教授)
 井上氏は、軽水炉の伝熱流動に関連する研究や蒸気爆発を中心とするシビアアクシデント研究などの熱工学的安全性研究、核融合炉第一壁の超高熱負荷面の冷却やブランケットの高磁場下の液体金属二相流による冷却をはじめ、沸騰伝熱や気液二相流に関する基礎研究で国際的な研究業績を挙げられるとともに、原子炉の安全審査や原子力工学試験センター(原子力発電技術機構)の最大熱負荷試験・燃料体熱水力試験・管群ボイド試験の委員として20年以上の長期にわたり、我国の原子力発電所の安全性向上や炉心伝熱に関する限界熱流束の評価式の信頼性確認に貢献された。部門長として当部門の発展に貢献されるとともに、当部門主催の原子炉工学国際会議(ICONE)の発展にも尽力された。以上のとおり、日本機械学会の動力エネルギー分野の学術的発展と原子力発電所の炉心熱水力安全余裕向上に関する功績が大である。

■福江 一郎 氏(三菱重工業株式会社 特別顧問)
 福江氏は1971年三菱重工業に入社以来、一貫して発電用ガスタービンの開発、設計に携わり、事業用大型コンバインドサイクル発電としては日本初となる東北電力東新潟3号1150℃ガスタービン(1982年運開)においても主導的役割を果たした。特に同発電所では世界初の予混合燃焼器を開発/採用し、世界トップレベルの低NOx燃焼技術を確立させた。その後、1350℃ガスタービンコンバインドサイクル(九州電力新大分発電所(1993年運開))、1500℃ガスタービンコンバインドサイクル(三菱重工実証運転設備:1997年運開)を次々に開発し、世界のガスタービン技術をリードする迄に至った。2008年副社長就任後も、世界最高温度最高効率の1600℃ガスタービンコンバインドサイクル(LHV効率:61%)の開発をリードし、日本におけるエネルギー技術の進歩発展に大きく貢献した。また、(社)日本ガスタービン学会にて、1999年に国際ガスタービン会議神戸大会の行事委員長、2007年に同会議東京大会での副組織委員長を歴任し、同学会活動に尽力した。一方、2005年の原動機事業本部長就任以降、再生可能エネルギーの利用普及にも奔走し、英国政府主導の大規模洋上風車発電計画にも取り組んだ。

【部門賞 社会業績賞】

■當眞 嗣吉 氏(沖縄電力株式会社 会長)
 島嶼県・沖縄は、需要規模(2007年最大150万kW)が小さい、本土との電力系統連系や大型ダム建設ができないなどから水力・原子力の開発が困難という制約の中で、主なエネルギー源を化石燃料に頼らざるを得ない状況にある。當眞氏は、1990〜1997年にNEDO委託宮古島風力発電実証事業における制御技術開発、1998年には沖縄地域に適した風力発電に向けて本島における形式・容量・製造メーカの異なる風車10基の設置・実証事業の実施、続く1999〜2001年には既設ディーゼル・風車・蓄電池の組合せシステムや、実用化に向けた新エネルギーハイブリッドシステムの導入など、技術開発を積極的に推進した。成果は離島マイクログリッド実証事業に繋がった。さらに、燃料多様化とCO<sub>2</sub>削減を目指した沖縄初のLNG火力発電(吉の浦火力発電所:250MW×4機)の計画建設を推進し、地球温暖化防止やエネルギーセキュリティ向上を図ってきた。また具志川石炭火力などの石炭灰を土砂代替材とした再資源化による環境負荷低減に努めてくるなど、厳しい事情の沖縄地域のエネルギーの安定供給に尽力した。また、本会関係では九州支部連絡委員会委員(第54期)を務め、火力電源中心の中でも低炭素化を進め、日本の離島電源の未来像を探る国プロジェクトの研究・実証に積極的に取り組んだ。

【部門一般表彰】

○貢献表彰(敬称略)

■「東日本大震災時の女川原子力発電所への避難住民受け入れと原子力発電所の信頼性の住民への理解促進」、受賞者:東北電力株式会社女川原子力発電所
 2011年(平成23年)3月11日14時46分、牡鹿半島の東南東三陸沖約130km付近、深さ約24kmを震源として発生したマグニチュード9.0の大地震は、東北地方太平洋湾岸を襲う大津波を伴い、各地に大きな被害をもたらした。東北電力女川原子力発電所の在る宮城県女川町も例外ではなく、死者数595人、行方不明者数327人(2012/4/30時点)の被害に加え、電気、水道やガスなどライフラインにも甚大な損害をもたらした。この未曾有の大地震下で女川原子力発電所は、通常運転中の1号機及び3号機、原子炉起動中の2号機のいずれも前例のない異常事態の中、同発電所の運転チームの高い運転技術力と不断の訓練により、全原子炉を冷温停止状態にまで早期に収束させた。さらに、避難先に窮していた地元住民を発電所構内に、約3ヶ月の長期にわたり受け入れた。これは、東北電力及び同社原子力発電所への地元住民の信頼性理解促進への貢献大であるとともに、同社及び同原子力発電所の大きな社会的貢献であると言える。

■「磁石を用いた風力発電のメンテナンス装置」、受賞者:櫻井 靖久(櫻井技研工業株式会社 代表取締役)
 櫻井技研工業の「磁石を用いた風力発電のメンテナンス装置」は、着脱可能な永久磁石式の吸着装置を用いることにより、賃貸料の高い大型クレーンを使用せずに、大型風車の点検及び修理作業を行うことを可能にした製品である。風車の維持管理費用の低減と共に稼働率の向上にもつながるため、日本の風力発電の経済性向上に大きく寄与する発明である。
最近、化石燃料を使わない再生可能エネルギー、特に経済的に大量導入が可能な風力発電に注目が集まっている。発電用の大型風車は2012年3月末で日本に2522MW・1840台あり、7月からの固定価格買取制度の運用開始により、今後さらに普及が進むと期待されている。一方で風車は、ロータ直径約100m、タワー高約80m、最高部約130mの大型回転機械であり、台風や落雷を受ける自然環境で20年間の運転がなされることになる。このため風車の健全な運転には、適切なメンテナンスと故障時の機敏な修理が重要である。しかしながら、ロータやナセル等の風車の主要機器は、地上から約80m上空のタワー上に設置されているため、台風や落雷で損傷を受けた際の点検や修理に大型クレーンが必要になり、費用と時間がかさむ事が課題であった。今回の発明はこの課題に対して実用的な解決策を提供したものであり、維持管理費用の低減と稼働率向上による風力発電の経済性向上は、日本のエネルギー問題の解決にも一助となる。

■「エネルギー問題への科学的知見の発信」、受賞者:竹内哲夫(原子力シニア会 前会長)、金子 熊夫(EEE会議 代表)、林勉(エネルギー問題に発言する会 前代表)
 竹内氏、金子氏、林氏は、エネルギー問題、特に原子力への正しい理解を得るために、科学的な知見を国民、マスコミ、政府、首相などに積極的に発信し、感情的になりがちな風潮に毅然とした意見を公表した。またNHK はじめ新聞記事の事実に反する報道に対しても、公開の場で事実を正すよう意見を発信し、エネルギー問題の正確な理解の促進に貢献した。竹内氏は、エネルギー問題に発言する会のシニア会員を中心とする原子力シニア会を結成され、初代会長に就任された。各地の大学生との討論会を定例的に行って、若い世代と真剣にエネルギー問題を討議し、日本の教育で欠けている原子力、放射能などの問題につき討論を重ねると共に、若者の理解向上に貢献されている。金子氏は、外交官として初代の原子力課長を務められて日米原子力協定の交渉などを担当され、退官後は東海大学教授となり、EEE会議を創設されて代表を務めている。EEE会議とは、エネルギー、環境、Eメール会議の略称で、E メールを通じてエネルギー問題、特に原子力の問題を会員同士で討論し、結果を政治家、マスコミに発信している。林氏は、日立の原子力事業部長を退任後、2005年にエネルギー問題に発言する会の発起人となり、初代の代表となった。この会には約250人の会員がおり、エネルギー問題とくに原子力の問題を討議し、重要案件に対しては、首相、大臣、マスコミに発信している。テレビの報道の間違いにも積極的に対応し、NHKに抗議するなどの活動を続けている。以上の3人は、お互いに連携も取りつつ、エネルギー特に原子力の問題につき、徹底討論を行って、首相はじめ政治家、マスコミに情報を発信しており、また若者との討論を通じて教育するなど、世間に影響力を持つようになっている。

○優秀講演表彰(敬称略)

<2011年次大会>
浅井 祥朋(日産自動車)、「部分空間同定法を用いたスタック状態計測」
西 美奈(産総研)、「SOFC燃料極過電圧一次元モデルの高精度化に関する研究」
松村 雄士(東北電力)、「ミスト噴霧装置による夏場を含めたガスタービンの更なる増出力対策」

<ICONE-19>
下村 祐介(JAEA)、「Effect of Gravityon Distribution Parameter and Drift Velocity in Vertical Upward Bubbly Two-phase Flow」
杉山 功晃(日立アプライアンス)、「Measurement of Mass Transfer Coefficient in Direct Contact Sulfuric Acid Concentration for IS Process」
鈴木 貴人(九大)、「Numerical Simulation of Effective Viscosity in Solid-Fluid Mixture Flows Using Finite Volume Particle Method」

<ICONE-20>
岩澤 譲(筑波大)、「Jet Breakup Behavior With Surface Solidification」
工藤 秀行(北大)、「Visualization on Inert Gas Jets Impinging to a Glass Tube Submerged in Liquid Sodium」

<第17回動力・エネルギー技術シンポジウム>
関 洋治(JAEA)、「核融合ブランケットにおける増殖材充填体内のガス流動に関する工学的研究」
芦田 友祐(東工大)、「エバネッセント波を利用したGaSb熱光起電力発電」

【若手優秀講演フェロー賞】(敬称略)

高橋 忠将(京大)、「Ni-YSZ電極の表面温度分布にメタン水蒸気改質が与える影響」(2011年度年次大会)
渡辺 瞬(電中研)、「Investigation of Flow Structure Transition in Lower Plenum of ABWR」(ICONE-19)
塚田 圭祐(東工大)、「A Study of Air-Coupled Ultrasonic Flowmeter」(ICONE-20)
三賀 丈詩(神戸大)、「気水分離器内旋回二相流に関する研究」(第17回動エネシンポ)