No.11-23 第21回設計工学・システム部門講演会 開催報告
2011年10月21日(金)~ 2011年10月23日(日) にかけて,山形大学工学部にて,第21回設計工学・システム部門講演会が開催されました.今年度の部門講演会では,2件の特別講演と128件の講演発表と6件のコンテストと盛りだくさんなプログラムとなっており,176名の参加者を集めました.特別講演で御講演いただきました講師と講演題目,御講演概要は次の通りです.
特別講演I:『お米はここまで美味しくなれる.日本の新しいお米「つや姫」の誕生』
講師 中場 勝 氏(山形県農業総合研究センター 水田農業試験場 水稲部長)
2010年に登場した新しい山形県産ブランド米「つや姫」についての講演がなされた.
「つや姫」の品種開発は平成10年に始まり,開発期間は実に13年もの歳月がかけられている.品種開発の目標を,優れたおいしさと多収量に設定し,人工交配で得られた最初の籾27粒を増やしながら選抜を重ねられた.開発期間中,平成12年8月のフェーン現象,平成15年夏の冷夏,平成16年の台風15号による潮風害と,3度の気象災害に遭遇したものの,それを乗り越えた運の強さも備えているとのことである.「つや姫」の品種系譜を辿ると,日本を代表するブランド「コシヒカリ」の血がかなり濃い品種である.「つや姫」は「コシヒカリ」に比べ,丈の長さが短いために倒れにくく多収量であること,いもち病に強いこと,炊飯米の味は極めて良好であるという特徴がある.食味試験では,炊飯米の白さを分光測色計で,味をキャピラリー電気泳動・質量分析計で測定したデータを用いているが,最終的には人間が実際に食べておいしさを検討しているそうだ.試食用の炊飯釜がずらりと並ぶスライド写真は壮観であった.
「つや姫」が全国の消費者の食卓にのぼるブランド米となることを目指し,本講演のタイトルでもある「お米はここまで美味しくなれる」をキャッチフレーズとして,生産,コミュニケーション,販売の3つの戦略でブランド化に取り組んでいるとのことである.具体的には厳しい基準を満足した高品位米を出荷すること,ブランド米にふさわしい評価と全国的知名度の確立のための売り切る販売,メディアを利用した話題づくりを行い,デビュー初年度にフード・アクション・ニッポン・アワード2010プロダクション部門最優秀賞を受賞,2011年注目の商品に選ばれるなど,高い評価を得た.
部門講演会開催地である山形県の農業生産物の「設計」という,新鮮な視点による大変興味深い講演で,講演後も活発な意見交換が行われた.懇親会で提供された「つや姫」を用いたおすしも大変好評だった.講演して頂いた中場氏に改めて感謝の意を表したい.
大町 竜哉(山形大学)
特別講演II:『触覚・触感に基づくQOLテクノロジーの創出』
講師 田中 真美 氏(東北大学大学院 医工学研究科 教授)
触運動を含む触覚・触感メカニズムの解明と体系化という視点から,田中氏がこれまでに取り組まれた,触覚情報取得用多機能センサシステムの研究についての講演がなされた.QOL(Quality of Life)の維持と向上にかかわる技術開発とは,病人,障害者,高齢者などの被介護者と世話をする介護者を対象に,可能な限り自立し豊かな生活を送ることを目指している.
人間の指先の触覚情報は,何かに触れたか否かというセンシングばかりでなく,柔らかさや粗さといった手触り感を含めたセンシングがなされている.人間の指先の触覚・触感実験を行い,感じた粗さの度合いや感じたものを表現する言葉で整理し,センサシステムの開発に結び付けている.画像中心の計測装置が多い中,患部に直接触れてその位置と感触を測定できる医療用触診センサの開発について,前立腺癌および前立腺肥大症触診における臨床試験の結果とともに紹介された.毛髪手触り感測定用センサは,毛髪の手触り感をセンシングし,シャンプーやコンディショナーの性能評価に適用されたそうだ.また,触覚の感度が低下した目の不自由な高齢者の補助を目標に,点字読み取り用センサの基礎研究もなされている.一枚のセンサ素子で点字を直接接触でスキャニングし,音声で出力するものだそうだ.さらに,紙オムツをセンシングの対象として,装着者の足の付け根に触れる部分の擦れや締め付け力を測定し,装着者に対する触刺激の定量化にも取り組まれている.
本講演では,柔らかいものを測定対象としたセンサシステムの開発事例を多く紹介され,講演後も活発な質疑討論が行われた.医療福祉機器の設計・開発にかかわる技術は今後ますます大きな需要が見込まれ,本部門講演会の参加者の多くが大変興味を持っている研究分野であったと思う.講演して頂いた田中氏に改めて感謝の意を表したい.
大町 竜哉(山形大学)
講演発表は12のオーガナイズドセッションと一般セッション,D&Sコンテストのカテゴリーで行われました.各セッションでの発表件数は次の通りです.
OS番号 | OS名 | 発表件数 |
---|---|---|
OS 1 | 製品設計開発のためのモデリング・方法論・マネジメント | 11 |
OS 3 | デジタルエンジニアリング | 9 |
OS 5 | モデル駆動型の製品システム開発 | 6 |
OS 6 | 設計と最適化 | 19 |
OS 7 | 近似最適化 | 8 |
OS 8 | 知識マネジメント・情報共有 | 7 |
OS 9 | ライフサイクル設計とサービス工学 | 29 |
OS 10 | 創発性と多様性の設計 | 8 |
OS 11 | 感性と設計 | 6 |
OS 12 | 感情と設計 | 4 |
OS 13 | ヒューマンインタフェース・ユーザビリティ | 8 |
OS 14 | 設計教育 | 5 |
GS 1 | 一般セッション | 8 |
D&Sコンテスト | 6 |
部門講演会2日目の夜には,懇親会が行われ,参加者は懇親を深めました.この懇親会の席上で,第89期部門賞・部門表彰が行われました.表彰者については部門関係受賞者のページをご覧下さい.
来年度の部門講演会(第22回設計工学・システム部門講演会)は2012年9月26日(水)~28日(金) にかけて,広島県東広島市広島大学工学部にて開催されます.本年度にも増して,様々なプログラムを予定しておりますので,発表者として,または聴講者として奮ってご参加下さい.