2010年10月27日(水)~29日(金)にかけて,産業技術総合研究所臨海副都心センター バイオ・IT融合研究棟にて,第20回設計工学・システム部門講演会が開催されました.今年度の部門講演会では,2件の特別講演と111件の講演発表の他,2件のワークショップと盛りだくさんなプログラムとなっており,176名の参加者を集めました.
特別講演で御講演いただきました講師と講演題目,御講演概要は次の通りです.
特別講演1:「核融合の成否を分ける設計製作技術」
講師 中島尚正氏(海陽学園海陽中等教育学校長,核融合エネルギーフォーラム議長)
国際熱核融合実験炉(ITER; International Thermonuclear Experimental Reactor)についての講演がなされた.
核融合炉は,従来の核分裂による原子力発電と同様に二酸化炭素の放出がない上に,原子炉の暴走や高レベル放射性廃棄物の問題が比較的小さく,その燃料となるリチウムや水素の確保がウランやプルトニウムに比べてはるかに容易である,といった利点がある. ITER計画は,50万キロワットの出力に必要な超高温,超高密度のプラズマを核融合炉内で長時間実現することを目標として,日本,欧州連合(EU),ロシア,米国,韓国,中国,インドの7ヶ国・機関により進められているものである.その実現にあたっては超伝導コイルなどいろいろな新しい工学技術が必要で,かつ,核融合の安全性を確保するものでなければならない.1988年から1990年まで概念設計活動が,1992年から2001年まで工学設計活動が実施され,現在はその設計活動の成果に基づいて,フランスのカダラッシュで試験設備の建設活動が実施されている.建設費は約5000億円で,2016年頃の完成をめざしており,発電実証を21世紀中頃までに行う予定である.開発プロセスが長期にわたるため,技術の伝承を円滑に行うことが課題となっている.
ITERは核融合反応が起こる条件を作り出し維持するためにドーナツ形状をしたトカマク型の設計が採用されている.ドーナツ型真空容器の周りに配置された超伝導コイルによる磁場とプラズマ中に流れる電流との作用により,ブランケット内に1~5億℃のプラズマを閉じ込める.ブランケットでは,核融合反応により発生した中性子を吸収し,内部のリチウムを反応させて新しい三重水素をつくりだす.この三重水素と海水から取り出した重水素が核融合炉の燃料になる. ITERでは,核融合炉のブランケットを想定したテストブランケットモジュールを真空容器の窓部に挿入して,トリチウムの生産と冷却水などによる熱の取り出しの試験を行う予定である.
大変夢のある興味深い講演で,講演後も活発な意見交換が行われた.講演して頂いた中島先生に改めて感謝の意を表したい.
野間口 大(大阪大学)
特別講演2:「ロボット時代の創造」
講師 高橋智隆氏(株式会社ロボ・ガレージ代表取締役社長,東京大学先端科学技術研究センター特任准教授
ロボットクリエーターの高橋智隆氏から,自身が制作したロボットについての紹介と,来たるべきロボット時代についての講演がなされた.
高橋氏が手がけたロボットは,グランドキャニオンの断崖登頂を行ったCMでもお馴染みのEVOLTAや,二足歩行ロボット・クロイノ,ロボカップサッカーに出場したヒューマノイドロボットVISION ,簡単な会話を行うことができるRAPITOなど,多彩である.いずれのロボットも流線型で親しみやすい外観の可愛らしいものである.歩行の際に,まず膝を伸ばして直立し,そこから膝を曲げて移動するという,人間に似た自然な動作を行う点も特徴的である.高橋氏はこの歩行動作をSHIN-Walkと呼んでいる.学術的な成果を追及するというよりも,親しみやすく,格好よく,普通の人が欲しがるロボットを作ることを目指しているとのことである.
ロボットはすべて手作りである.ボディはモノコック構造であり,木型にカセットコンロで熱したプラスチックを押しつけて,裏から掃除機で空気を抜いて制作する.一体につき数十点の木型を用いる.制作の過程では設計図は用いないのだという.一人で制作しているので他の技術者などに設計情報を伝達する必要がないという理由もあるが, CADや製図版を使うとどうしても「四角い」ロボットになってしまうためだそうだ.
近い将来,ロボットが一家に一台という時代がくるといわれている.しかし,高橋氏はロボットへの誤った期待をしてはいけない,という.人間が楽をしよう,奴隷として使おうと考える限り,ロボットが家庭に入るのは難しい.大切なのは,人間との精神的なつながり,すなわち,人間とロボットが共に育ち,仲良くなることである.そのためには,ロボットが人間に似た自然な動きをし,人間とのインタラクションを行い,愛嬌のある外観を持っていることが必要なのだ,という.
実機によるデモンストレーションも交え,分かりやすくて大変興味深い講演であった.会場からも多くの質問,コメントが寄せられ,活発な意見交換が行われた.
野間口 大(大阪大学)
講演発表は15のオーガナイズドセッションと一般セッション,産総研セッションのカテゴリーで行われました.各オーガナイズドセッションでの発表件数は次の通りです.
OS番号 | OS名 | 発表件数 |
---|---|---|
OS1 | 製品開発プロセスのための方法論 | 8 |
OS2 | Design 理論・方法論 | 2 |
OS3 | 設計・デザイン論 | 6 |
OS4 | デジタルエンジニアリング | 8 |
OS5 | メカトロ設計 | 2 |
OS6 | モデル駆動型の製品システム開発 | 5 |
OS7 | 設計と最適化 | 18 |
OS8 | 近似最適化 | 9 |
OS10 | 設計における知識マネジメント・情報共有 | 5 |
OS12 | ライフサイクル設計とサービス工学 | 18 |
OS13 | 創発性と多様性の設計 | 6 |
OS14 | 感性と設計 | 6 |
OS15 | 感情と設計 | 5 |
OS16 | ヒューマンインタフェース・ユーザビリティ | 4 |
OS17 | 設計教育 | 2 |
GS1 | 一般セッション | 4 |
GS2 | 産総研セッション | 3 |
各セッションにおいてどのようなテーマを取り扱い,どのような議論が行われてたかにつきましては,セッションの座長の方に概要をそれぞれおまとめいただきました.以下のページに掲載しておりますので,そちらをご覧下さい.
セッション議論概要報告
この他,2件のワークショップが開催されました. 部門講演会2日目の夜には,懇親会が行われ,参加者は懇親を深めました.この懇親会の席上で,第88期部門賞・部門表彰が行われました.表彰者については部門関係受賞者のページをご覧下さい. また,講演会全プログラム終了後の10月29日午後には,オプショナルツアーとしてAISTの見学ツアーが開催されました.
来年度の部門講演会は2011年10月21日(水)~23日(金)にかけて,米沢市山形大学にて開催されます.本年度にも増して,様々なプログラムを予定しておりますので,発表者として,または聴講者として奮ってご参加下さい.