吉田敬介(九州大学)
本見学会は,去る2002年10月19日に京都市の京都大学京大会館で行われた当部門の一連の企画「技術と社会の関連を巡って:過去から未来を訪ねる」講演会,および翌20日に同場所で行われた当部門主催の「経営と技術移転に関する国際会議」のそれぞれの付帯行事として計画されました.
京都が国内外にその名前が知れわたっている都市であるが故に,初めて訪れた外国人,何度も訪れた日本人,という全く相反する条件を持つ参加者を相手に,しかも当部門の見学会に相応しい見学コースを限られた予算と日程(日帰り)で企画しなければならないという,企画者には恐るべき見学会であったことは,参加者の一人として想像に難くありませんでした.
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21日朝9:00に京大会館前に集合.生憎雨でしたが「雨の京都もまた乙なもの」,と思い直し,貸切バスで出発しました.バスの中では,本ツアーを企画された柴田俊忍 京都大学名誉教授や,下間頼一 関西大学名誉教授の案内で京都の町並みの簡単な紹介をして頂きました.
賀茂川をさかのぼりながら40分ほどで第一の見学先である川島織物(株)の本社(左京区静市市原町)に到着しました.「織物」「京都」「伝統」という言葉から事前にイメージしていた本社工場(市原事業所)は,ショールームでの事前紹介でまず驚き,敷地内にある川島織物文化館を見て二度驚き,工場案内で三度驚く,というほど,驚きの連続でした.確かに作っているものは織物であり,伝統工芸の緞帳(どんちょう)や祭礼品などの製造技術に関して最高レベルのものを有しているとの説明もありましたが,ハイテク化,低コスト化,高品質化を常に追求した製品開発が行われ,カーテン,自動車シート,壁材などの製造を勢力的に行っているとのことでした.そこには,のんびりした家内制手工業的な雰囲気とは全く雰囲気があると同じに,新しいものへの挑戦に対する抵抗の少なさが感じ取れました.伝統を守るとは,古い道の続きに新たな道を作り続けていくことである,と改めて思いました.
当工場見学後に平安神宮近くの食堂で昼食をとり,次の見学先に向かうまでのわずかな時間を利用して(約10分)平安神宮の鳥居をくぐり,散歩をしました.雨も上がり,参加者のほとんどはこの「行幸」に参加したようです.
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写真1:川島織物(株)の見学 (フルサイズ40KB)
写真2:参加者で記念撮影 (フルサイズ40KB,フラッシュの光量不足ですが…)
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午後からは東本願寺の飛び地にある庭園「渉成苑(しょうせいえん)」を尋ねました.ここでは,庭園の景色が本来,東山を取り入れて成り立つ,いわゆる借景であるはずであったものが,都市化に伴い,高層ビル(とは言っても6,7階建て)が東山の景色を遮ってしまった様子を見学しました.確かに,景観は崩れましたが,借景を守るための公的な規制がどの程度まで許されるのか(例えば途中の敷地を「借景者」が全て買えば済む問題という考え方もできる),文化と社会生活の関係の複雑さを感じさせる場所でした.
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写真3:渉成苑での見学風景 (フルサイズ40KB)
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それに続いて訪れたのは,西本願寺の御影堂(ごえいどう)でした.御影堂は平成10年から10年間の計画で大屋根の瓦を葺き替えるなど大修理を行っており,現在は建物を覆うように高さ38m,南北75m,東西97mの仮設屋根が作られ,その下で修理作業が行われています.今回は京都府教育委員会のご協力により,これらの修理現場を見学させて頂きました.側壁や屋根の修復工事の説明を受けながら,この大建築物が工学と匠たちの技の調和によって作られ,そして守りつづけられていることに感銘を覚えました.
ところで,今回の参加者は日本人と外国人がほぼ半々で外国人のほとんどはキリスト教国からの参加でしたが,日本人が修理作業を行う職人の「巧」を見て感動し,ある種の興奮を覚えていたのに対し,外国人は一応興味を示してはいるものの非常に冷静であったことは大変興味深いものでした.彼らにとってこれは宗教建築物ではなく,単なる大建築物としてしか映っておらず,その修理方法や職人の作業を見てかなりの違和感を抱いていたようです.屋根の覆板を釘で止めていく作業を見て,ある外国人が冗談を言っていました.日本人からすれば少し失礼な内容でしたが,これも当部門の国際会議ならではの体験であったと思います.
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写真4:御影堂の屋根補修見学) (フルサイズ43KB)
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最後は伏見区にある黄桜酒造で,伝統的な酒造りを見学することになっていたのですが,否,私達数人を除く他の参加者は見学したはずですが,御影堂の見学時間が予定より長引き,帰りの交通機関の都合で残念ながら「戦線離脱」せざるを得ませんでした.どなたかに「酒の試飲」結果を含めてご報告頂きたいところです.なお,一行は最後の見学地の見学を終え,無事京都駅で解散となったとのことです.
このように,限られた条件の下にもかかわらず,大変有意義でかつ楽しい見学会を企画して頂いたことに,参加者の一人として感謝せずには要られません.柴田京大名誉教授を始め,本見学会を企画された方々には,京都への真の思い入れがおありだったからこそ可能な企画であったことと拝察致しました,ここに記します.
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なお,当日の模様を撮影したスナップ写真がこちらのページにあります.
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