8.5 特定地域へ電気自動車の導入について

現在,日本の観光地で自動車の乗り入れを規制している地域がある.たとえば,尾瀬,乗鞍スカイライン,秋田県駒ケ岳,岩手早池峰山などである.これらの地域では自然保護のため,主にマイカーの乗り入れを規制している.
海外でも,スイスにある標高1620mの観光都市ツェルマットでは環境保護のため,内燃機関を用いた自動車の乗り入れを禁止している.この町はスキーリゾートとして有名で,海外からも多くのスキー客が訪れる.町中の主な移動手段は電気自動車である.タクシー,バス,各ホテルで使用する自動車もすべて電気自動車である.自動車でこの町にやってきた観光客は,ツェルマット駅の一つ前の駅,タッシュ駅にある駐車場に車を止め,電車に乗ってツェルマットに向かう.これを「パーク&ライド」システムと呼ぶ.
このような観光地における自動車の乗り入れ規制に対して,都心への自動車の乗り入れを規制しようとする動きもある.たとえば,東京都は都市の道路渋滞緩和や環境保護のため,都心への車の乗り入れを制限するナンバー規制や負担金制度導入などを検討している.特にディーゼル車による排ガスが問題となっていることから,ディーゼル車の乗り入れ規制に対する論議が盛んである.
このような都心への車乗り入れ規制に賛成する人が四割を超えていることが総理府による「都市交通に関する世論調査」で明らかになっている.調査は平成11年7月,人口三十万人以上の都市に住む20歳以上の3000人を対象に行われた.回答率は68.9パーセントであった.それによると,都市交通の問題点として道路渋滞をあげた人が45.4パーセントとトップで,駐輪場の不足(20.8パーセント),公共交通機関の利便性が悪い(18.4パーセント)などの順であった。都心への車の乗り入れを規制するため,負担金を課す制度導入については42パーセントが賛成で、平成2年の前回調査の賛成者(29パーセント)を大きく上回った.反対・慎重派もほぼ同数の41.1パーセントであった.反対理由は「道路整備が先決」「負担増は困る」をあげている。ナンバープレートの末尾番号で乗り入れを規制する制度については、賛成(4.08パーセント)が反対(38.6パーセント)を上回った.
政府の検討委員会でも特定地域への自動車の乗り入れ規制が検討されている.環境庁の低公害車大量普及方策検討会(座長,猿田勝美・神奈川大名誉教授)は窒素酸化物などによる大気汚染を防止するため,電気自動車や天然ガス車などの低公害車の普及策を盛り込んだ中間報告書をまとめている.低公害車の導入促進策はこれまで,購入費用の補助や自動車取得税の軽減が実施されてきたが,あまり普及は進んでいない.検討会は
・ 運送業者などが使用する自動車の一定割合を低公害車に転換すること
・ 自動車メーカーは一定割合の低公害車を製造,販売すること
を義務付けるよう提言した.また,自動車ユーザーの購入意欲を高めるため
・ 電気自動車の充電を無料で行う駐車場の設置
・ 電気自動車の有料道路料金の減額や免除
とともに,低公害車以外の道路への乗り入れ規制措置などの検討を求めた.
特定地域への乗り入れ規制の理由は,都市部においては渋滞の緩和と排ガス等の環境問題の緩和,観光地では自然環境の保護が第一に考えられる.電気自動車の特定地域への導入は,渋滞緩和の効果は期待できないが,排ガス問題を解決し,自然環境の保護という観点からは効果的である.特に今回調査した屋久島では,水力発電によって電力の大部分が供給されているため,電気自動車の導入によって交通・物流に化石燃料を全く使用せずに済むことになる.このように電力の供給に恵まれた地域では,電気自動車の導入は自然環境の保護の対して非常に効果的であると考えられる.

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last update 2001.02.08 Copyright(C) JSME TLD