◆セミナー&サロン 講演概要◆
「電気事業120年の歴史〜電気の史料館に見る物作りの重要性〜」


東京電力(株)取締役
技術開発本部副本部長 
岩科季治

 今日、電気は空気と同じように有って当たり前となった。しかし今日に至るまでには、120年にわたる多くの先人たちの苦労や努力の歴史がある。技術発展の履歴を示す貴重なモノも放っておくと、散逸したり破棄されてしまう。東京電力50周年記念事業として設立した「電気の史料館」では、これらの実物を技術史料として保存・展示し、技術・事業史の専門家に一つの産業史としてご覧頂くと同時に、広く一般の方々にご理解頂きたいと期待している。

 我が国では、沖縄を除く全国九つの電力会社の系統がつながっており、それぞれが別々の電力プールになっている。それぞれのプールの大きさや形は異なるが、緊急時などに備え九つのプールは電気の水路(連係送電線)によって接続されている。ただこの水路はもともとが緊急時用であり、プールの大きさに比べると狭くて細い。加えて東日本と西日本では水質(周波数)が異なるので長野県と静岡県には周波数変換所とよぶ特別な接続水路がある。つまり全国どこにでも、いつでも好きな量をやり取り(融通・託送)できると言うわけにはいかないのが現状である。

 発電所でできた電気は、それだけでは半製品である。いろいろな発電所の電気が一緒になって、電力系統という電力流通ネットワークを通り、お客さまの使いやすい電気に加工されてはじめて安心して使える「商品としての電気」になる。

 最近はオンサイト発電として自家用の発電機が話題になっているが、その多くは電力会社の電力でバックアップされて安定運転をしている。中には電気と熱を同時に利用するタイプのものもあり、便利この上ないもののように考えられがちであるが、軽負荷時に末端の電圧が上昇し適正電圧幅を逸脱ケースがあり、機器の寿命短縮・損傷など大変憂慮すべき問題となっている。

 今日の電力供給システムのはじまりは、エジソンがニューヨークとロンドンで直流による電力供給を始めた1882年からであるが、翌年、早くも東京電力の前身に当たる東京電燈が創設された。電気事業の創業は、世界の片隅の小さな農業国に過ぎなかった明治期の日本で、世界の最先端産業に取り組んだ先人たちの情熱、チャレンジ精神を示すものである。
このように日本の電気は世界でも最も安定していると言われているが一朝一夕にして出来上がったものではなく、120年におよぶ先人たちの懸命な努力が背後を支えているのである。